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第六十五話 リスティの相棒

「フユ~、エルリット!」


 フユがそう言って俺の首の後ろに隠れて、顔だけ出しながらそいつを見上げている。


(おい……なんだこりゃあ。でけえな)


 リスティの傍にはどでかい青い狼が立っている。

 軽く全長5mぐらいはあるだろう。

 そのデカい顔が俺の傍に迫った。


「フユ~! 食べるですか! フユちゃんを食べるんですか!?」


 フユが怯えたように出していた顔を隠す。

 バロたちは念のために警戒態勢に入っている。


『リスティ、いきなりよぶなと言っておるだろう。怯えられるとワシも傷つくではないか』


(ん? ああ、そうか)


 白竜の時と一緒だな、あの女神のお陰で俺に分からない言語はない。

 このどでかい狼が何なのかは知らないが、言葉は通じるらしい。

 どうやら見た目によらず、傷つきやすいハートの持ち主のようだ。


『え、えっとですね。どなたですか?』


 俺はリスティの相棒にそう尋ねた。

 俺の言葉にリスティとその相棒の狼が驚いた顔をする。


『何! 小僧! ワシの言葉が分かるのか?』


『そんな、まさか。聖獣と話せるのは獣人族でもごく一部の者だけよ?』


 俺は肩をすくめた。

 どうやら、このバカでかい狼は聖獣という存在らしい。

 俺がいた世界でもよく物語に出てきたりしてたが、あれはあくまでも架空の存在だからな。

 こっちは今目の前に存在している。

 精霊とは明らかに違う力を宿しているのが分かった。


『ええ、理由はうまく説明できないんですけど俺には大抵の言葉は分かるので、安心してください』


『まあいいではないかリスティ、面倒が省ける。我が名は青狼王ガルオン。よろしく頼むぞ少年』


 フランクな聖獣である。

 もうどんな厨二病な相手が出てきても驚かないとは思ったが、聖獣とかヤバすぎる。

 俺はガルオンと名乗った狼に挨拶を返した。


『これはご丁寧に。俺はエルリット・ロイエールスっていいます』


『ロイエールス? その名とその顔、お主もしかしてガレス・ロイエールスの血族か?』


 どうやら、じい様のことを知っているらしい。

 まあ、魔王をぶっ倒した一人だからな当たり前なのかもしれないが。


『ええ、一応孫です。五男坊の息子ですけどね』


『ふはは、一応孫か。面白い小僧だ』


 隣で見ているハヅキが俺の肩を叩いた。


「おい、エルリット。お前何をしている? 妙な声を出して……まさかお前ガルオンと話せるのか!?」


「え? ああ、そうですね。今少し話をしてました」


 それを聞いてハヅキは呆れた顔をしている。

 フユが俺の髪の中に隠れながら、恐る恐る顔だけ出すとガルオンを見上げる。


「フユ~、大きなワンワン怖くないですか?」


「ああ、安心しろフユ。お前に怯えられて傷ついてたぞ」


 俺の言葉に、フユがそっと俺の肩の上に乗るとガルオンに呼びかける。


「フユちゃんです。エルリットがワンワンのこと怖くないって言ったです」


『ガルオンさん、こいつが挨拶してますけど』


 俺の言葉にガルオンが満面の笑みを浮かべた。

 デカい狼なだけに笑顔にも迫力がある。


『こりゃうれしいのう。また可愛い精霊花じゃな』

 

「おい、フユ。ガルオンさんが嬉しいってよ」


 それを聞いてフユも嬉しそうに言った。


「フユ~、友達になるですか?」


 そう言ってこちらを見るフユに俺は頷いた。

 ガルオンが俺の前にぐっと顔を近づけると、フユは少し迷っていたがぴょんとその鼻面に飛び乗った。


『ほほ、こりゃまたくすぐったいのう』


「フユ~、大きいです!」


 ぐっと頭を上げたガルオンの顔の上でフユがはしゃいでいる。 


「それにしてもリスティさん。精霊とは違うようですね?」


 リスティが俺に説明する。


「ええ、獣人には人間やエルフの魔力に似た力、獣気という力があるの。普通はそれを薄く身にまとって戦うだけなんだけど、生まれつき獣気が強くて、それを形にすることが出来るほどの修行を重ねれば、完全に具現化できるわ。私の場合はそれが青い狼の形をとっているの」


 リスティの言葉にハヅキが続けた。


「形を成すほどの獣気を持っている獣人は殆どいないからな。そこまでの獣気を持つ者の中には、ごく稀に己の獣気に聖獣と呼ばれる存在を宿らせることが出来る者がいる。最高位の獣人戦士のみに可能な技だ、そして彼らは『聖獣使い』と呼ばれるのだ」


「へえ! 知りませんでした」


 獣気か、じい様の蔵書は魔法に関するものばかりだったからな。

 ハヅキはリスティを見ながら言った。


「この国には獣人は少ないからな。獣気を具現化して戦える者と言えば、王妃陛下の薔薇の騎士団の武闘侍女ぐらいか。中でもミロルミオの母親は聖獣使いだと聞いたが」


 武闘侍女か、なるほどなそれがあの人たちの秘密か。

 あの王妃の警護をするぐらいだから普通ではないとは思ってが。

 それに『静かなる狼』の生き残りって噂のエマリエっていう黒髪の武闘侍女、あの人もリスティと同じ聖獣使いか。

 にしても、ハヅキさん詳しいな。


「ハヅキさん、ミロルミオ先輩の事知ってるんですか?」


 ハヅキは当然だろうと言う顔で答えた。


「当たり前だろう? ミロルミオは私の士官学校の後輩だからな、獣人族ではリスティ以来の天才と呼ばれていたな。ミレティ先生だからこそ教えられるのだろうが、私とランキング戦を戦った時は、もう黒い狼の形をした強力な獣気を具現化し操ることが出来た。結局、戦いの最中に闘舞台が完全に破壊されたので勝負は付かなかったがな。もしあいつが己の獣気に聖獣を宿せば、私でも敵わぬだろう」


(ラセアル先輩が言っていた「奴の黒い狼に気を付けろ」っていうはそれのことか)


 すげえな、闘舞台を完全にぶっ壊すような闘いとか。

 でもハヅキの言葉だと、まだミロルミオ先輩は聖獣使いではないってことか。

 それにしては御前試合に関しては自信満々だったな。

 俺はともかく、あのエルーク王子にも勝つって言い切ったぐらいだから他に秘策でもあるのか?

 何しろ相手は四大勇者クラスの敵だ、普通に戦って勝てるとは思えないが。

 

(実際戦ってみないと分からないな)


 秘策があるなら、戦えば分かるはずだ。


「それにしても、ハヅキさんって士官学校に通ってたんですね?」


 古流武術の流派の娘とか聞いたから、貴族じゃないのかと思ったがそうでもないらしい。

 ハヅキが小さな胸を張って言った。


「ふふ、ミロルミオとの決着がつかなかったが、あいつよりも先にトップになっていたからな。学内のランキングは一位だったぞ」


「首席ってやつですか?」


 ハヅキは誇らしげに答える。


「そうだ、国王陛下から爵位も頂いている。一代限りの男爵だがな」


「へえ! 凄いですね」


 そういえば、首席になると爵位が貰えるんだったな。

 マシャリアの時もそうだったが、女性でも優れた人間には爵位が与えられるのはこの国のいいところだろう。

 女男爵でSランクの冒険者とか格好いい。

 ハヅキは軽く咳払いをすると言った。


「しかしエルリットの強さも中々のモノだ。あの炎の槍の勇者の孫で、ミレティ先生の秘蔵っ子だと聞いたが。ランキングは何位だ」


「ああ、昨日ラセアル先輩に勝ちましたから今は四位ですね。二日後の御前試合でトーナメント戦があるんですけど、そこでロイジェル先輩やミロルミオ先輩にもし勝てればとは思うんですけどね。出るからにはやっぱり勝ちたいですし」


(勝たないとエルークとは戦えないからな。王妃が持っている情報とやらも気になるし)


 それに金も貰っちまったからな、せめて金額分の仕事はする為の努力はすべきだろう。

 ハヅキは関心を示したようで。


「ほう、御前試合だと? そんなものがあるのなら、こんなところで油を売っていてもいいのか?」


「ええ、今更何かしても大して変わりませんし。寧ろここにきたお陰で、フユの使い魔としての力も試せましたから」


 意外な収穫である。

 それに、ハヅキのお陰でミロルミオ先輩の情報が手に入ったからな。

 黒い狼の正体が分かったのはかなり大きなプラスだ。

 ミロルミオがハヅキさんクラスの相手だとしたら、情報が無ければ危険だ。

 向こうは、俺とラセアル先輩の試合を見てるわけだからな。

 リスティが俺に言った。


「もし良ければ、私が少し相手をしてあげましょうか? エルリット君。模擬戦のコートも空いているし、午後から少しぐらいなら構わないわよ。私も教育係として君の力をもっと知っておきたいし、王宮からの仕事を手伝ってもらうかどうかはそれ次第ね」


「本当ですか、リスティさん。俺、獣人とは戦ったことが無くて、助かります!」


『青い閃光のリスティ』聖獣使いか、こりゃ楽しみだな。

 実は御前試合に向けて、一つ試したいこともある。

 対ミロルミオ先輩用にと考えていたが、同じ獣人族のリスティなら試すのに絶好の相手だろう。

 俺はそう思いながら、とりあえず冒険者ギルドへの登録をすることにした。

いつもご覧いただきまして、ありがとうございます!

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