第六十二話 大地の錬金術師
アウェインが作り出したゴーレムは、ギリアム達をギルドの敷地から運び出していく。
全員、ゴーレムにもみくちゃにされてズタボロである。
流石にあんな目にあえば、もう都のギルドに喧嘩を売ることはないだろう。
「たく、時々跳ね上がりの小僧共がああやって腕試しにやってくるんだが、AランクとSランクは全く別物だってことが分かってねえ」
フユがアウェインの傍にいる一体のゴーレムの頭にぴょんと飛び乗って、アウェインに言う。
「フユ~、おじちゃん強いです。『黄色いゴーレムのおじちゃん』です!」
(おい、せめておじちゃんをやめてやれ)
通り名をつけるのがフユのマイブームなのだろう。
バロの言葉じゃないがダサい。
フユがまだ物足りなさそうにこちらを見たので、俺はサッと目をそらした。
俺に通り名をつける時は、フユには遠慮してもらうとしよう。
アウェインはリルカの面影があるフユの言葉に、少し嬉しそうに頭を掻いた。
「そうか! おじちゃん強いか! よし、今日から『黄色いゴーレムのアウェイン』って名乗るかな、俺も」
ミレースがフユを見ながら頷いた。
「いいですね、支部長! 格好いいです!」
「は……ははは。やめた方が良いですよ、ここの支部長なんですからアウェインさんは」
このうさ耳娘のセンスも相当ヤバい様だ。
威厳も何もあったものではない。
俺の言葉にフユは不満顔である。
「フユ~」
アウェインはフユの頭を撫でる。
「どうやら、エルリット君の使い魔になったようだな。良かったな、フユ」
「フユちゃん頑張るです!」
フユはそう言って嬉しそうにクルクルと回る。
にしてもこいつは中々素質がある。
俺の魔力を疑いもなく受け入れてくれるからやりやすい。
キースを治療した時も、水系の魔法陣を発動させた時もフユを通して見事に力が増幅された。
自由の塊のような奴だが、俺のことは信じてくれているらしい。
フユはすっかりゴーレムが気に入ったようで、頭に乗って歩き回らせていた。
「フユ~、いくです!」
「ゴモ~」
(ゴーレムか、いわゆる疑似生命体って奴だな)
ゴーレムのサイズはまちまちで、子供みたいなものからデカいものは2mぐらいある。
「凄いですねこれだけの数のゴーレムを操るなんて。俺も土系の魔法は知っていますけど精霊を媒体にした疑似生命体をこれだけ同時に操ることは難しいですよね?」
「ああ、普通の魔法と言うよりもこれは錬金術に近いからな。冒険者にとっては色々便利なんだぜゴーレムは。例えばダンジョンに入れば荷物を運んでくれるポーターは必須だ、こいつらが居ればそれを代わりにやってくれるからな」
ああ、確かにそうだな。
せっかく素材を集めたのに持って帰れませんじゃあ意味がない。
それに自分で持ち運んで戦闘の時に壊れでもしたら金にならないだろう。
(俺も少し、錬金術系の魔法を勉強するかな)
基礎は知っているが、じい様の書庫にはあまりそっち方面の本はなかったからな。
ゴーレムやキメラのような疑似生命体は、使い魔とはまた別物で厨二心をくすぐる存在だ。
四大勇者のタイアスさんが大地の錬金術師と呼ばれていたのは、ただの魔導士というよりもそっちの方面に優れていたのだろう。
「「「ゴモ~」」」
気が付くと、ゴーレム達がギルドハウスの壊れた扉の周りに集まって形を変えていく。
少し周りの色とは違うが、自らの体で穴を塞ぎそれが簡易的な扉を作り上げていくのが見えた。
どうやらこういう使い方もあるらしい。
「へえ、便利なものですね」
「まあな。ミレティ先生なら完全に元に戻しちまうが俺にはそこまでは出来ねえ。あの人は錬金術に関しても別格だからな」
確かに俺とラセアルの試合でぶっ壊れた闘舞台の石畳を、モグラ型の土の精霊を使って修復してたな。
高度な錬金術だ。
フユはそれを聞いて思い出したように言った。
「フユ~、モギュちゃん凄かったです。全部直したです」
「ああ、確かにな」
ミレティ先生に関して言えば常識で考えること自体無意味だろう。
そもそも、70代の美少女魔法使いという時点でもう普通ではない。
ちょっと待てよ?
もしかして、こと錬金術に関して言えば大地の錬金術師って呼ばれてたタイアスさんならもっと凄いってことか?
俺は少し興味が出たのでアウェインに聞いた。
「タイアスさんていう人も相当やばい人なんでしょうね? 大地の錬金術師なんて言われるぐらいですからね」
「ああ、タイアス様の錬金術は見事だった。あの方なら人間そっくりの疑似生命体に魂まで宿らせることが出来た、なんて噂もあるぐらいだ」
「凄いですね、それは」
疑似生命体への魂の固着か、究極の錬金術だって聞いたことがあるが成功した例は無いらしい。
ある意味、神の領域である。
そもそもそんなことが出来るなら死んだ人間でも蘇らせそうだ。
(大地の錬金術師……か)
まあ噂は噂だからな、そんなことが出来るなら人生苦労はないだろう。
そんなことを思いながら俺はふと肝心なことを思い出した。
「そうだ、アウェインさん。俺、冒険者ギルドに登録がしたくて来たんですよ、昼までには士官学校に戻らなくちゃいけないんでこれからすぐ登録してもらってもいいですかね?」
ランチに遅れて、エリーゼの頬が膨らむのを見るのは辛い。
アウェインは頷くとリスティを見る。
「リスティ、さっきも話したが……どうだ? エルリット君の力は見ただろうお前も。俺は今更テストは不要だと思うが。例の杖の探索の件もあるからな、彼がメンバーに入ってくれるのはお前も助かるだろう?」
「支部長、私は構いませんけど。彼らがどう思うか」
テストが不要ってどういうことだ?
それに彼らって……。
リスティの視線の先には階段の上で、こちらを見下ろしている数名の人影がいた。
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