第六十一話 Sランクの実力
リスティと呼ばれた女が階段を下りてくる。
ギリアムがそれを見て叫んだ。
「リスティだと? プラチナの称号を持つ冒険者『青い閃光のリスティ』か!?」
どうやら冒険者界隈では有名人のようだ。
当然と言えば当然か、Sランク最高位のプラチナとか冒険者の中の四大勇者みたいなものだろうからな。
(やべえ、プラチナの称号を持つ冒険者で『青い閃光のリスティ』とか厨二病の極みだろ!)
まさにそこに痺れる、何とやらだ。
俺も冒険者になったら、こういう格好がいい二つ名が欲しいものである。
フユが俺の肩の上に立つと興奮したように言った。
「格好いいです! フユちゃんも今日から『青い癒しの女神フユちゃん』って名乗るです!」
それを聞いてバロが腹を抱えて笑っている。
「ぎゃははは! ダセえ!」
(バロ……お前本当にモテないタイプだな)
たしかにダサいが、一言余計な男は嫌われるものである。
フユの鞭がしなる。
ビシッと音がして飛ばされていくバロを、俺は見なかったことにした。
俺は改めてリスティを眺める。
年齢は20代前半ぐらいだろう。
種族は獣人族である。
出るところが出たクール系の美女だ。
整った顔立ちに切れ長の瞳が印象的である。
階段からこちらに降りて来るリスティを見て、キースが駆け寄った。
「リスティの姉御! こいつらがSランクの姉御達が逃げたなんてふざけたこと言いやがるから、俺!」
リスティはキースを見ると、その頬を平手打ちした。
「情けない。相手の力量も考えずに喧嘩を買って、キース、そんなに死にたいの?」
ミレースがリスティの言葉を聞いて頷いた。
「そうですよキースさん。キースさんは弱くもないですけど強くもないですから。その性格を何とかしないと長生きできないですよ」
どうやらキースは喧嘩っ早いことで有名なようだ。
しかし、弱くもないけど強くもないとか……流石、天然系ドエスのうさ耳少女である。
事実であっても、美少女には言われたくないことが男にはあるものだ。
「ミレースお前……そ、そりゃあないぜ、確かに俺はまだB級だけどよ。次はA級になれる自信はあるんだ!」
(次はって、うちの自称『青き癒しの女神フユちゃん』が居なかったら、あんた多分死んでたけどな)
アウェインが入り口にぽっかりと空いた大穴を見て溜め息をつきながら、俺に話しかける。
「すまんな、ギルドの会議でS級の連中は二階にいたんでな。A級の連中は仕事で出払っちまってるし、面倒をかけたな」
「いえ、大したことはないですよ」
俺はギルドの中を見渡した。
どうやら、A級の冒険者は丁度留守だったようだ。
それがキースにとっては不幸の始まりだったのだろう。
アウェインはギリアムの手から例のロッドを奪い取ると言った。
「悪いがこれは扉の修理代として貰っておくぜ。ミレース、もし釣りが出たらこいつの商用カードに振り込んどけ」
そう言ってアウェインはロッドをミレースに向かって投げた。
ギルドの経理担当であるうさ耳少女はそれをキャッチする。
「はい! 支部長、助かります。予想外の出費は本当に困るんですから」
ギリアムはその会話を聞いて青筋を立てる。
「て、てめえらさっきから何を勝手なことを言ってやがる!」
アウェインがギリアムを振り返ると凄みを聞かせた声で言った。
「あ? 都のギルドに喧嘩を売りに来たらしいが、五体満足で帰れることに感謝しろよ。お前ごときじゃあリスティどころか、この俺にも勝てやしねえよ」
「何だと! く、くそが。体が動かねえ、どうなってやがる!!」
ギリアムがそう言って自分の体を見まわしている。
やけに素直にロッドを渡したと思ったら、アウェインがこいつの自由を奪っているようだ。
(ああ、確かにリルルアさんがアウェインさんのこと、昔は冒険者としてかなり有名だったって言ってたな)
当然か、普通の実力ならリルルアとの夫婦喧嘩で昇天しかねない。
第一、都のギルドを任される支部長だからな。
厨二病の俺としては、プラチナの称号を持つリスティの実力が見たかったが、どうやらアウェインが片をつけそうだ。
小さな土の精霊が、いつの間にかギリアムの全身にまとわりついている。
それも尋常な数じゃない。
まるで蟻に体中這われているように見える。
身動きが出来ないのはそのせいだろうが、ギリアムはようやくそれに気が付いたようだ。
他の連中の体にもそれはへばりついている。
「こ、こいつは! いつの間に!!」
「手加減しているうちに帰りな、坊主!」
アウェインの手に嵌められた指輪の一つが輝きを増す。
そこからは土属性の力を感じた。
(ゴーレムか! でも、すげえなこの数は)
ギリアムとその仲間の周りに、数十体のゴーレムが現れる。
どうやら先ほどの土の精霊を媒体にして作り上げたようだ。
「く、くそ! 放しやがれ!!」
「どうなってる、斬ってもすぐ元に戻りやがる!」
「や、やめろ! うわぁああ!」
「ひぃいいいい!!」
黒ずくめの連中は、巨大なゴーレムの群れに飲み込まれていく。
そして暫くするとボロボロの姿になってゴーレムたちに運ばれていった。
完全に気を失っている。
(強ぇええええ!!)
そういえばアウェインとリルルアの娘のリルカは、あの四大勇者の一人である大地の錬金術師、タイアスに才能を見出されたっていってたもんな。
土属性の魔法の才能を父親から受け継いだのだろう。
アウェインは俺を見て肩をすくめると言った。
「まあ俺も称号はシルバーだったが、昔は一応Sランクの端くれだったからな」
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