第五十七話 Sランク
特別な冒険者というのはどういう冒険者なのだろう。
俺の疑問にミレースは口を開く。
「規格外と呼ばれる人達です」
「規格外?」
俺の問いにミレースが頷く。
「さっきエルリット君に説明したAからFランクまでは細かい能力の規定があるんですけど、中にはそんな物差しでは測れないような突出した能力を持った冒険者がいるんです」
何だか凄そうだな。
ミレースは説明を続けた。
「この都の冒険者ギルドの中でも数名しかいないんですけど、他の冒険者ではとてもかなわないような魔物の討伐や、お忍びで出かける要人の警護まで任されるような超一流の冒険者です。一応正式な呼び名はSランクと呼ばれてますけど、その能力は様々で冒険者達は彼らに恐れにも似た憧れを持って規格外と呼んでいます」
規格外。
いずれのランクにもあて嵌らないスペシャルランクって訳か。
(やべえ……規格外とか厨二病過ぎるだろ!)
依頼先で綺麗なお姉さんを助けて「ふふ、こんな依頼軽いものさ、お嬢さん。俺は規格外の男だぜ」とか言ったら「あら素敵な坊や(ハート)」とか言われて人には言えないご褒美が貰えそうだ。
ミレースの頭の上でうさ耳を触りながらフユが俺を見ている。
「フユ~、どうしたですか、エルリット?」
「だから、紳士をそんな目で見るのはやめたまえ、君」
男なら妄想ぐらいは自由したいものである。
俺が咳ばらいをすると、ミレースが言った。
「Sランクになるとその実績に応じて称号がつきます。最上位がプラチナ、その次がゴールドそして最後がシルバーです。プラチナの称号を持つ冒険者が全ての冒険者の憧れなんですよ!」
なるほどな、Sランクになると称号っていうのが貰えるわけだ。
そこまでくると、能力もさることながら実績が重視されるんだな。
称号持ちの冒険者とか憧れるのも無理はない。
「へえ! 楽しみですねそのSランクの人達に会えるのは」
俺の言葉を聞いて、ミレースはニッコリと笑う。
さっき都の冒険者ギルドにも数名いるって言ってたからな。
どんな冒険者なのか見てみたいものである。
それから5分ほどすると、馬車の窓から白くて大きな屋敷が見えてくる。
屋敷もデカいがその前に広がる庭がまた広い。
ミレースが俺に教えてくれた。
「あれが都の冒険者ギルドです」
「ああ、確かにあんなデカい屋敷を他に探そうとしたら大変ですね」
ミレースが頷いた。
「ランク決めの試験で、ちょっとした模擬戦もしますからね。ある程度広い敷地がないと困るんです」
確かに規格外とやらもいるとしたら、小さな敷地の屋敷では隣の家に迷惑だろう。
良く見るとテニスコートのようなものが、ギルドの建物の前に作られている。
俺がそれを見ていることに気が付いてミレースが説明してくれた。
「あれが模擬戦用のコートですね。エルリット君もこの後あそこで試験をしてもらうことになりますよ」
「分かりました、ミレースさん」
冒険者登録とかやっぱりワクワクするもんだな。
俺達が乗る馬車がギルドハウスの正面にとまった。
馬車を降りて俺達はその入口に向かう。
入り口には冒険者ギルドの紋章らしきものが描かれており、その横には『ファルルアン王国冒険者ギルド エルアン支部』と書かれてあった。
「フユ~、大きいです」
確かにデカい、マシャリアがここで俺と暮らそうとしたのは庭の試験会場が剣の修練に役立つからかもしれないな。
まあ、公爵家はここよりもさらに敷地が広いから問題はないだろう。
元が伯爵家の邸宅だけあって豪華で、でかい玄関のドアを開けて俺が中に入ろうとした。
その時──。
(ん? これは!)
俺が開こうとした扉が、粉々に砕けて飛び散っていく。
ものすごい突風が俺の頬を撫でた。
もしこれがここの玄関の正常な開閉方法なら、なかなか派手な自動ドアだ。
……だが、どうやらそうではないらしい。
「ぐぅううあああ!!」
俺のすぐそばには、服を黒焦げにされた男が叫び声をあげながら地面を転がっている。
ドアごと中からこちらにふっ飛ばされたようだ。
どうやらギルドホールの中から、ど派手に火炎魔法をぶっ放した奴がいるらしい。
ギルドの入口の扉があった場所にぽっかりと大穴が空いて、破壊された扉の残骸も炎で燻っている。
「なあ、エルリット。どうやらドアを開ける手間は省けたみたいだぜ?」
ギルドホールの中から強い魔力を感じた瞬間召喚したバロが、火トカゲの姿でそう言った。
他の火トカゲ達は、エリザベスさんとミレースを守っている。
「ああ……ってそうじゃねえだろ!」
俺は一応バロにそう突っ込みながら、酷い火傷を負って目の前に倒れている男を眺めた。
ミレースが言っていた模擬戦とやらならば、やる場所が間違っている。
先ほどの爆発にびっくりして身をかがめていたミレースが、顔を上げるとその男を見て叫んだ。
「キースさん! 一体どうしたんですか!?」
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