第百四十四話 青い髪のメイド
「はい! 都に立つ前に、ぜひ一度エルリット君のご両親にお会いしたいんです」
ガレスにそう答えるリスティ。
恩師である風の魔女ミレティの使いで、ガレスを都へと迎えに来たリスティだが、ここまで来たらやはりエルリットの両親にも会ってみたい。
聖獣ガルオンがそんなリスティの言葉に頷く。
「確かにな。あの小僧を育てた親には興味があるというものだ。何をしたらあんな規格外の小僧になるのか、聞いてみたいものよ」
「でしょ? ガルオン」
ガレスは立ち上がると、机の上の鈴を鳴らして部屋の外で待っているリリナを呼んだ。
騎士らしい返事をして入ってくるリリナにガレスは命じる。
「リリナ、客人をアレンとシャルロットのところに案内せよ」
「はい! ガレス様」
リスティはビシッと敬礼するリリナを見てへぇと感心する。
(学生時代は私の事、番長番長って追い回してたけど、流石に炎の槍の勇者に仕えると変わるわね)
ガレスはリスティに言う。
「その間にワシも都に行く準備をしよう。話が終わったらここにまた戻ってくるがいい」
「はい! ガレス様」
リスティはそう答えるとガレスに頭を下げてリリナと部屋を出る。
リリナはうっとりしたようにリスティに言った。
「素敵だと思いませんかガレス様って! 渋いっていうか、流石伝説の勇者っていうか。並みの男とは貫禄が違いますよね」
「確かにね。エルリット君はじじいなんて言ってたけど、素敵なおじさまって感じね」
「そうなんですよ! 惚れちゃいますよね」
「ふふ、まあね」
(でも、大人モードのエルリット君の方が少し素敵かな)
試合が終わった時に落下したリスティが、怪我をしないようにお姫様だっこしていたエルリットを思い出して少し笑みを浮かべた。
そんなことを考えているとリリナがリスティの顔を覗き込む。
「どうしたんですか? 番長」
「番長ってリリナ……その呼び方、エルリット君の両親の前で言ったら殺すわよ」
そう言ってリスティが凄むと、喜ぶリリナ。
「それですよ! やっぱり番長は、殺し屋のようなその目つきじゃないと」
「殺し屋ってあんた……もう! ほんとにやめて」
リスティは大きく尻尾を立てて抗議する。
(初めてエルリット君のご両親にお会いするんだから。ほら、やっぱり清楚で御淑やかな大人のレディとして……)
リスティは耳をぴんと立てて身だしなみを整える。
そんな中、大きな胸をした青い髪のメイドがこちらに向かって歩いてくる。
そして、リスティにお辞儀をするとリリナに尋ねた。
「リリナさん。こちらのお方は?」
「ええ、ばんちょ……いた!! 都から尋ねてこられたリスティさんです」
リスティはリリナの足を踏みつけながら笑顔を作る。
「リスティです。四大勇者であられる風の魔女ミレティ様とエルリット君の使いで、都からガレス様にお会いしに参りました」
それを聞いてそのメイドは目を輝かせた。
「まあ! エルリット坊ちゃまの! 坊ちゃまは、お元気ですか?」
「坊ちゃま?」
リスティの問いにそのメイドは答えた。
「あ、すみません。私、ミュアと申します。エルリット様のことは、とても小さい頃からお世話をしていて。ですから坊ちゃまが都に行ってからはやっぱり寂しくて。お知り合いだと伺ってつい興奮しちゃって」
「まあ、エルリット君の?」
「はい。それで、どうしてこちらに? ガレス様のお部屋なら、今いらしたほうですのに」
ミュアの言葉にリスティは頷いた。
「ええ、実はガレス様とはもうお話が終わって、この後一緒に都へ発つことになったんですけど、その前にエルリット君のご両親にお会いしたくて」
「そうだったんですね! それならよろしければ私がご案内いたします。私はアレンさまとシャルロット様にお仕えしてるメイドですから」
「そうなのね。助かるわミュアさん!」
(このままリリナを連れて行ったら、絶対ぼろを出しそうだもの)
リスティは大きく頷くとリリナに言う。
「リリナ、助かったわ。後はミュアさんにお願いするから仕事に戻って頂戴」
その言葉にリリナは満面の笑みで答える。
「え~、番長水臭い。すぐそこですから案内しますよ」
「番長?」
ミュアが不思議そうに首を傾げる中で、リスティがリリナの口を塞いでいる。
そして耳元で囁いた。
「ふふ、リリナ。あ・り・が・と・う!」
殺気が漲るリスティの眼差しにリリナはコクコクを頷いて、大きく手を振るとその場を立ち去った。
落ち込んだ様子は皆無である。
「ふぅ。あの子には負けるわ」
ミュアは不思議そうにリスティを眺めながら促す。
「さあ、こちらですわ。リスティ様」
「ええ、ありがとうミュアさん」
リスティはミュアと歩きながらそっとその横顔を見つめる。
(可愛い子ね。エルリット君のお世話係だった子なんだ。小さい頃のエルリット君のことを良く知ってそうね)
リスティは軽く咳ばらいをするとミュアに尋ねる。
「ミュアさん。エルリット君って小さい頃はどんな子だったの? ほら、あの子凄い魔法使いでしょ? どんな風に育ったのか興味があって」
ミュアは昔を思い出すように少し立ち止まって考える。
「そうですね。よく私の胸を触ってぐふぐふ言ってましたけど。それがとっても可愛かったですよ。母性本能をくすぐるっていうのか」
「あ、あはは……そうなんだ」
ドン引きしながらリスティが再び歩き始めると、ミュアが思い出したように言う。
「そういえば、這い這いする頃にはもう本を読めてたみたいなんですよね」
「そんな小さい頃から?」
「ガレス様のお孫様といっても普通なら考えられないと思いますし。私の気のせいかもしれませんけど」
そんなことを話していると、アレンやシャルロットが住む部屋の前まで二人はやってくる。
「奥様。ミュアでございます。お客様がおみえになりました。驚かれますよ、坊ちゃまのお知り合いだそうです!」
ミュアが扉の前でノックをすると、中から女性が部屋を開けた。
「まあ! エルリットの?」
清楚でとても美しいブロンドの女性だ。
リスティは緊張して軽く咳ばらいをすると頭を下げる。
「は、初めましてお母様。私リスティといいます! エルリット君とは仲良くさせてもらっています!」
ガルオンがジト目でリスティを眺める。
「何言っとるんじゃ、リスティ。相手の実家に結婚を申し込みに来た恋人でもあるまいし」
「が、ガルロン!」
突然現れた青狼族の美女を驚いたように見つめながら、シャルロットは微笑んだ。
「いらっしゃい、リスティさん。都から長旅で大変だったでしょう? エルリットのことご存じなのね! どうか聞かせて頂戴、あの子のことを」
包み込むようなその笑顔に、リスティは安心したように笑みを返した。
(この人がエルリット君のお母さん。素敵な人ね)
「はい。この後すぐに都に戻らないといけませんから。その前にエルリット君のお母様たちにもご挨拶がしたくて」
「まあ、そうなんですか? 嬉しいわ、尋ねて下さって。さあ、とにかく中に入って。それに丁度良かったわ、エルリットに伝言があって手紙を書いていたんです。あの子と親しいのなら、リスティさんから伝えてもらおうかしら」
(伝言? 何かしら)
リスティは小首を傾げると、シャルロットに促されながら部屋に入っていった。
ご無沙汰しています。
ここ暫く忙しくて、更新が出来なくてほんとにすみません。
少し時間ができ始めたのでまた連載を再開していきたいと思います。
今後ともエルリットたちをよろしくお願いしますね!
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