第百四十話 伯爵領へ
エルリットが窓の外を眺めていた丁度その頃。
聖獣ガルオンに乗ったリスティは、ロイエールス伯爵領に向かって急いでいた。
その肩の上には白いフクロウがとまっている。
ミレティからガレスに向けての手紙が、姿を変えたあのフクロウだ。
その視線の先は、真っすぐに伯爵領の方を向いている。
「どうやらロイエールス伯爵は伯爵領にいるみたいね、流石ミレティ先生だわ」
都を出る前に、ミレティが言っていた。
もしも、ガレスが出かけていたとしてもこの白いフクロウがリスティを導いてくれると。
日も傾き、夜の闇が落ち始めている。
ガルオンがリスティに語り掛けた。
「リスティ、このままなら夜更けには伯爵領に入れそうだな。かつて『魔王』を倒した炎の槍の勇者か、その孫だと思えばあの小僧の強さも頷けるわい」
「ふふ、そうね。まさかあんな坊やに負けるとは思わなかったけれど」
まだ少し悔しそうなリスティの様子にガルオンは愉快そうに笑う。
「まったくだわい。番長モードのリスティに勝つとはな」
「ちょっとガルオン! その言い方は、やめて頂戴」
「事実ではないか、舎弟も山ほどおったでな」
リスティはエルリットとの試合の前、ハヅキから見せられたかつての自分の写真を思い出す。
「まだあんな写真があったなんて、ハヅキもミレティ先生もどこから見つけてきたのかしら?」
ハヅキから取り上げた魔写真取り出して、少し懐かしそうに見つめるリスティ。
それでもミス士官学校に選ばれたのだからよっぽどだろう。
「しかし、まさかあの小僧程の新入生が現れるとはな。ファルーガを呼び出した時は心底驚いたぞ」
「まったくだわ。あの状態の私とやり合える新入生だなんて」
ガルオンは豪快に笑ながら大きく頷く。
「がはは! 何しろあの歳で四大勇者の欠員を埋める程の小僧だからな。良かったではないかリスティ、お前をお姫様抱っこしてくれる男が現れて。これでワシも肩の荷がおりたわい」
「は? な、何言ってるのよガルオン! え、エルリット君はまだ子供じゃない!」
「どうだかのう。満更でもない顔をしておったぞリスティ。あの小僧とていつまでも子供では無かろう、いずれ大人になるというものよ」
ガルオンの言葉にコホンと咳ばらいをするリスティ。
青く美しい髪を整えると前を見つめる。
「そういえば、エルリット君のお母様やお父様にも会えるかもしれないわね」
「おお、それもそうだな。少しぐらい挨拶をするのも悪くなかろう。小僧の様子も知りたかろうからな」
目の前は森になっているが、構わずにその中を駆け抜けるガルオン。
大きな谷を飛び越えて前に進む。
「そうね、機密事項は話せないけどエルリット君の近況ぐらいなら」
「時が時だけにあまり長くは滞在は出来んが、世間話ぐらいよかろうて」
頷くリスティ。
しばらく走るとロイエールス伯爵領に入る。
すっかり周りは暗くなっているが、獣人族であるリスティと聖獣ガルオンにとっては問題はない。
更に走ると、伯爵領の中心街の明かりが見えてくる。
ミレティから預かった白いフクロウが、夜空に向かってホウと鳴く。
「どうやら、ガレス様はあそこにいるようね」
「そのようだな、リスティ。もう少しだ急ぐとしよう!」
「ええ、お願いガルオン!」
リスティの言葉にガルオンは頷くと、月下の丘を大きくジャンプした。
猛烈な勢いで後ろへと飛び去って行く夜の光景。
「街に入るぞ、リスティ」
街に入り家々の屋根の上を軽やかに駆けていくガルオン。
そのあまりの速さに、人々も気が付くことも無い。
すると視線の先に白く大きな屋敷が見えてくる。
白いフクロウがリスティの肩から飛び立ち、まるで彼らを導くように目の前を飛んでいく。
ガルオンはそれを見て頷く。
「あの屋敷じゃな!」
「ええ、そうねガルオン」
ガルオンはその屋敷の庭に音もなく舞い降りる。
リスティはガルオンに礼を言うと地に降り立つ。
「ここがロイエールス伯爵家ね」
そう言うと、目の前にある屋敷に向かって歩いて行く。
リスティは、フクロウが消えた二階の部屋を見上げた。
恐らくそこがガレスの書斎だろう。
「ふふ、エルリット君のおじい様。炎の槍の勇者、ガレス・ロイエールスか。楽しみだわ、一度会ってみたい相手だったもの!」
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