第百三十三話 大空で
「来い、エルリット! 恐れることは無い」
「はい! マシャリアさん!!」
次の瞬間──
アルサが大きく羽ばたくと俺は大空に舞い上がっていた。
すると、聞きなれた声が聞こえてくる。
「フユ~! 凄いです、フユちゃん飛んでるです」
「お、おい、フユ! 何でお前がここにいるんだよ!?」
俺の髪の毛にしがみつくようにして、肩の上に乗っているフユ。
どうしてこいつがここにいるんだ?
「フユちゃん、一緒に空を飛びたかったです!」
「お前なぁ」
さっきまでキュイの頭の上に乗っていたから、油断をしていた。
振り落とされたらどうするつもりだ。
フユの頭の薔薇が小さくしぼむ。
「エルリット怒ったですか? ……フユちゃん、エルリットと一緒に冒険したかったです」
「たく、しょうがねえな。いいか、お前の蔓をしっかり手綱に絡めとけ!」
俺がそう言うと、フユは嬉しそうに頷いて薔薇の蔓を手綱に絡める。
そして、頭の薔薇を大きく広げた。
「行くぞ、フユ!」
「はいです! エリルット!!」
アルサが、前を飛ぶマシャリアを乗せたラセルを追って大きく羽ばたいた。
凄え……
まるで風の中を切り裂くように俺たちは飛んでいく。
何といったらいいのか、この感覚は他では味わえない。
「いやぁああふぅううう!!」
「ふゆぅううううう!!」
俺たちは、アルサの上で思わずそう叫んだ。
アルサがチラリとこちらを振り返ると。
『ふふ、どうかしら? 乗り心地は』
『最高ですよ、アルサさん!』
この間のように、マシャリアの後ろに乗っているのとはわけが違う。
手綱を操ることでアルサは俺の意思を素早く感じ取って、左右に素早く飛んだり急上昇をする。
マシャリアに教わった手綱操作だ。
ラセルに乗っているマシャリアが、俺の隣にやってくると言う。
「ついてこい、エルリット! 天空宮で行われる飛竜レースのコースを教えてやろう」
「へえ、飛竜レースの! お願いします、マシャリアさん!」
飛竜乗りのレース。
それもこの天空宮で行われるそうだからな。
マシャリアは頷くと、ラセルを大きく羽ばたかせた。
『行きましょう! アルサさん』
『ええ、エリルットくん!!』
一気に加速するラセルを追うアルサ。
障害物となる塔が幾つも見える。
その間を見事に飛んでいくマシャリア、俺は必死になってその後を追った。
「フユ~! マシャリア速いです!!」
「確かにな」
フユは薔薇のつるを手綱に絡めながら、その二本で結び目を作っている。
こいつなり考えているようだ。
アルサの見事な飛行のお蔭でなんとか振り落とされずに、後を追った。
だが、マシャリアとの差は広がっていく。
「この体だと限界があるからな、そろそろいけるだろ」
俺は全身に魔力を込める。
子供モードから大人モードに変化する俺の体。
瞳の色も黄金へと変わっていく。
ファルーガとの血と魂の盟約が発動した証拠だ。
俺はフユとアルサに言う。
「フユ! 飛ばすぞ!!」
「フユ~!!」
『アルサさん、遠慮は無用です! 思い切り飛んでください!』
『了解よ! エルリットくん。ふふ、それにその姿、中々素敵よ』
『はは、ありがとうございます!』
大人モードになれば、騎乗も遥かに楽だ。
アルサは見事な動きで、障害物を左右にかわしていく。
その無駄のない動きのお蔭で、前方を飛ぶラセルを追い上げていった。
ゴールとなる闘技場が見えてくる。
俺はその時、マシャリアと並んでいた。
少し速度を落とし、俺を待っていたのだろう。
「ふっ、中々やるなエルリット。これだけ乗りこなせれば、問題はあるまい」
「へへ、アルサさんのお蔭ですよ!」
俺たちは同時に闘技場に入ると、そこに舞い降りた。
そこでは、エリザベスさんやエリーゼが待っている。
アルサに礼を言ってその背から降りると、エリーゼがキュイを抱いたまま駆けてきた。
そして、俺の肩の上にいるフユを見ると目を輝かせる。
「やっぱり、フユちゃんエルリットと一緒だったんですね! お空はどうでしたか?」
「フユ~、凄かったです! エリーゼお姉ちゃん!!」
エリーゼの肩の上に乗って、空でのことを報告するフユ。
頷きながら、それを聞いているエリーゼ。
フユが羨ましくなったのか、エリーゼは俺の手をギュッと握ると。
「今度は、エリーゼとキュイちゃんも一緒に乗せて欲しいです! 駄目ですか? エルリット」
俺はマシャリアを見る。
すると、マシャリアは頷いて答えた。
「ゆっくりと飛ぶなら問題はあるまい。キュイは私が抱いて乗せてやろう」
「キュキュ!!」
そう言って、キュイを抱くマシャリア。
そして、その後俺はエリーゼを乗せて大空を飛ぶことになった。
俺の前に乗って目を輝かせるエリーゼ。
「凄いいです! エルリット、エリーゼお空を飛んでます」
「はは、凄いだろ?」
俺の言葉にコクンと頷くエリーゼは可愛らしい。
羽ばたくアルサ。
俺はエリーゼと一緒に暫くの間、時を忘れて大空を堪能していた。
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