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第十一話 2人目の勇者

 馬車の中がガタンと大きく揺れて、石畳で舗装された路に入ったのが分かる。

 城下町ということもあり、大きな城壁に作られた跳ね橋の上を馬車は走っていく。


 さすがに公爵とあって、警護の兵士もこちらに向かってお辞儀をするだけで顔パスである。

 都のエルアンに入り暫く馬車を走らせると、白い大きな屋敷が目に飛び込んでくる。


 まるで映画で良く見る貴族の豪邸そのままの雰囲気が、公爵家の地位の高さ証明している。

 ラティウス公爵は、俺を横目で見るとにんまりとした。


「分かったかねエルリット君、これが私の力と言うものだよ」


 すっかりエリザベスさんに気に入られた俺を牽制するように、政治的なプレッシャーを与えてくる。

 これだから男の嫉妬は怖い。


「何言ってるんですか。陛下のお力でしょう?」

 

 エリザベスさんにそう叱られて公爵は小さくなっている。

 偉そうな事を言うからだ。

 

 エリーゼは久しぶりの都なのか目が輝いている。


 屋敷の前にはもう、召使い達がずらりと並んでいた。

 壮観な光景だ。



 俺達が馬車を降りると、黒い服を着た白い髭のじいさんが近づいてくる。

 いかにも、ザ・執事と言った感じのじいさんだ。


「おかえりなさいませ旦那様、奥様、エリーゼ様……そして、このお方はどなたですかな?」


 俺に代わって、エリーゼが嬉しそうに答える。


「今日からエリーゼの弟になったエルリットですわ、セバスチャン!」


 じいさんは、俺を上から下まで眺めて首を傾げる。

 そしてそっと公爵に耳打ちした。


「まさか、旦那様の隠し子でございますか? そういえば、どこか凛々しくていらっしゃる」


「ば! 馬鹿な……確かに私も若い頃はやんちゃだったが、今はエリザベス一筋だ!」


 まあエリザベスさんは美人だし、それに完全に尻に敷かれてるもんな公爵は。

 隠し子なんて作ったら、即離婚だろう。

 エリザベスさんが、手に持った白い羽の付いた扇をパンッと鳴らして公爵を睨む。


「若い頃? あなた、後でゆっくりと話を聞かせてもらいましょうか」


 口は災いの元である。


 エリザベスさんは、公爵に代わって執事のセバスチャンに事情を説明する。

 セバスチャンの目がみるみる大きく見開かれて、俺の両手を握り締める。


「なんと、それでは旦那様や奥様そしてエリーゼ様の命の恩人ではありませんか! エルリット様、なんと感謝を申し上げればよいのやら!!」


 感激するセバスチャンの長い礼の言葉はこれから暫く続いたのだが、それは割愛しよう。


 さてその後、俺は客間に通されて『これからはここで生活していいのよ』とエリザベスさんに頭を撫でられた。

 そしてエリザベスさんが、俺のほっぺたにキスをするのを見てエリーゼも真似をして俺のほっぺにキスをする。


 その姿は微笑ましい限りだ。

 ついでに、駄目もとで言ってみる。


「あ、あのさ、お兄ちゃん大好きって言いながらほっぺに……」


「駄目です! 生意気です、エルリットはエリーゼの弟です」


 若干食い気味に否定されて少し落ち込んだが、これ以上は贅沢と言うものだろう。



 公爵家の命の恩人だと言う事で、この家のメイド長からも礼と言う名の長話をされた後、でっかい浴室で綺麗にこの旅の垢を落とす。


 公爵達はこの後、王宮に向かって王様に挨拶をするらしいのだが、俺はゆっくりと羽を伸ばす事にした。

 風呂から上がると、客間に用意されたベッドにダイビングする。


「いやふぅううううううう!!」


 何しろ公爵家に来る客用のベッドだ、デカイ上にフカフカである。

 その瞬間、俺の体から7人の小人が飛び出した。


「すげえぜ! フカフカだぜ!」


「おお! それにふわふわするぜ!」


「「「「「イヤッホー!」」」」」


 面倒な連中が、俺の隣ではしゃいでいる。

 俺はため息をついて、そいつらに注意した。


「おい、人の家なんだからな焦がしたりするなよ! 追い出されちまう」


 7人の火炎の精霊は、一斉に振り返って胸を張る。


「舐めてんのかよエルリット! 俺達を誰だと思ってやがるんだ!」


 こう見えても上級精霊だからなこいつらは、温度調節ぐらいお手の物だろう。


(まあいいか、火トカゲの姿じゃなければ大した力も使えないからな。)


 7人揃って、ベッドの上を飛び跳ねてやがる。



「何なんですか、その子達!?」


 気が付くと、部屋の入口にエリーゼが立ってこちらを見つめている。

 大きな瞳がキラキラと輝いて、可愛らしくこちらに走ってくる。


「すごいです! 可愛いです! お人形さんなのに動いてます!!」


 まあそうか、エリーゼから見たら人形みたいな連中だよな。

 俺は笑いながら、7人の精霊達を見る。


「何だと! 人形扱いしやがって!」


「俺達を誰だと思ってやがるんだ!!」


「オレ~は~火炎の王の息子ぉ~」


「オレ~も~火炎の王の息子ぉ~」


「オレ~も~火炎の、はうぅうう!!」


 エリーゼは小さな手で火炎の王の息子の一人を無造作に掴む。


「この子達、可愛いです。エリーゼも一人欲しいです!」


「へっ、何言ってやがるんだ。俺達が忠誠を誓うのは、相応しい魔力を持った奴にだけだぜ!」


 エリーゼがそれを聞いてさらに目を輝かす。


「生意気でエルリットみたいです! 可愛いです」


 そう言ってエリーゼは、ちゅっと手に持った俺の使い魔にキスをした。


「はひゅ!!!?」


 何とも情けない声を出して、そいつは腑抜けた顔になった。


「エルリット? 何だか元気無くなっちゃいましたこの子」


 エリーゼはそう言って、手に持っていた俺の使い魔の一人をベッドの上に置いた。

 そして心配そうに覗き込んでいる。


「おい、バロ!!」


「しっかりしろ!!」


「畜生! バロを一撃で!」


「すげえぜ!」


「エルリットよりもすげえ!」


「撤退しろ~」


 6人の小人達は、エリーゼのキスでノックアウトされた一人を引っ張りながら、俺の体の中に戻っていく。

 本当に騒がしい連中だ。


(しかし、あいつら一応名前があるんだな……)


 俺が妙な事に感心をしていると

 エリーゼが、少し悲しそうな顔をしてこちらを見ている。


「……あの子達いなくなっちゃいました……悲しいです」


 俺はその言葉に苦笑すると、エリーゼにたずねた。


「どうしたんだいエリーゼ? 王様の所に挨拶に行くんだろ」


 するとエリーゼの顔に笑顔が戻って、俺の手をギュッと握り締める。


「エリーゼ、大伯父様にエルリットの事紹介したいです! だからエルリットも一緒です」


「ごめんなさいね、エルリット君。エリーゼがどうしてもエルリット君も連れて行きたいって言うものだから」


 公爵とエリザベスさんが、俺の部屋の前に立っている。

 エリーゼは、パタパタとエリザベスさんの方に走っていって抱きついた。


「エリーゼもこう言っているし、私も命の恩人である君をこの機会に陛下に紹介したくてね。君さえ良ければ一緒にどうかね?」


(国王か……どうするかな……)


 俺としては、別に王様には興味がないからどうでもいいんだが。


 先ほどの盗賊の件がある。

 国王からエリーゼの警護の為に遣わされた騎士達が、誰に殺されたのか。


 事と次第によっては、これからも危険はあると言えるだろう。

 これからここにお世話になる訳だし、公爵家の人はみんないい人だ。

 危険な目に合わせたくはない。


 俺は公爵に向かって歩いていく。

 そして、エリーゼやエリザベスさんに余計な心配をかけないように小声で伝える。


「実は俺も盗賊の件で気になる事があるので、ご一緒させて頂いてもいいですか?」


 その言葉に、公爵も真顔になると頷く


「君がそうしてくれると助かる。私も気になっているんだ、伯父上がエリーゼに遣わす騎士があのように簡単に……普通では考えられないからな」



 俺は簡単に身支度を済ますと、早速公爵達と一緒にファルルアン王国の王宮に向かった。

 例の件もあるので、一緒に死体を調べた俺の護衛騎士達も連れていく。

 公爵家の紋章が入った馬車ということもあって、手続きもスムーズに王宮の前に到着した。


(でけえ……まるでその手の映画に出てくる宮殿そのものだな、これは)


 結構でかい国だけあって、やっぱり王宮ともなると半端無い豪華さだ。

 馬車を降りると、二人の騎士が迎えとしてやってくる。


 一人は若い男だ、公爵の護衛にあたった騎士がしていた紋章と、同じ紋章を鎧につけている。

 そしてもう一人は女だ、美しい黄金の髪を靡かせてこちらに歩いてくる。

 特徴的なのはその耳だ。


(おお? あの耳ってもしかして……エルフってやつか?)


 少し冷たいと思えるほど整った美貌と、その髪の間からのぞく長い耳。

 護衛騎士の一人が俺にそっと耳打ちをした。


「エルフの騎士、マシャリア様。ガレス様と同じ『四大勇者』の一人です。エルリット様、お気を付け下さい。伯爵様とマシャリア様は犬猿の仲ですから」


 どうやら、いきなり面倒な事になりそうだ……

 俺はそう思ってため息をついた。

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