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第百十六話 戦いを制するもの

「ふふ、貴方は本当に面白い子です。この期に及んでまだ何か考えているようなその目。いいでしょう、今度はこちらからいきます。今のが限界であれば、とても受け止められませんよ」


(ちっ! 自信はないがやるしかねえ)


「ファルーガさん、剣に宿っている力を全てに俺に下さい!」


「小僧! 何をしようというのだ!」


 理由を説明している暇はない。

 目の前の風の魔女から感じる魔力は、徐々に高まっている。

 恐らく次で決めるつもりだ。

 ファルーガもそれを感じたのだろう。


「ぐぬぅ! やむを得ぬ、だが小僧。この火炎の王たるワシが、成すすべなく風の王に破れることなど許さぬ! 何をするかは知らぬが、次の一撃、命を賭けよ!!」


「ええ、言われなくても! このままぶっ殺されるのは御免ですからね」


 俺は火竜剣を背中の鞘にしまう。

 その瞬間、俺の輪郭が激しく揺れる。

 ファルーガの力がより強く、俺の肉体に宿っているのを感じた。

 長くはもちそうもない。

 俺は両手を目の前に突き出して構える。


(イメージしろ。より正確で精密な魔方陣)


 構えた俺の両手の中に強力な魔力が凝縮されていく。

 ミレティが少しがっかりしたように言う。


「何のつもりですエルリット? 魔力を凝縮させて、強力な超魔撃でも作り上げようとしているようですが、ありきたりですね」


 確かにな。

 それでは勝てない。

 理由は簡単だ。

 精霊との同調率が俺よりも高い相手、しかも魔力の純度が違う。


「ふふ、エルリット貴方にも分かっているようですね。属性分魔術が出来ない貴方と、私の魔力は純度が違う。同じ密度まで圧縮したのであれば、どちらが勝つかは答えが出ています」


「ええ、分かってますよ先生」


 俺には属性分魔術が使えない。

 今の時点で、これ以上火属性の魔力の純度を上げることは不可能だ。


(なら、答えは一つしかない)


 両手の手のひらで囲んだ空間に、凝縮されていく俺の魔力。

 サイズは、ソフトボール大ぐらいはあるだろう。

 その中には膨大な魔力が込められている。

 ミレティ先生はそれを見て杖を構えると、体の前に同じサイズの魔力の塊を作り出す。

 向こうから仕掛けるとは言っていたが、俺の様子を見て敢えてこちらの攻撃に合わせるつもりのようだ。


(舐められたもんだぜ! 見せてやるぜ、俺にも先生が知らない技が使えるってことをな)


「おぉおおおおおおお!!」


 俺は叫んだ!

 手のひらの中に、無数に描かれていく魔法陣。

 それは、先程俺が読んだあの銀色の光を放つ本に描かれていたものに似ている。


(もしあれが賢者の石と呼ばれるものならば……)


 俺は思う。

 封じ込めた膨大な魔力を、半永久的に維持する循環術式。

 そこはまだ理解できない。

 だが、膨大な魔力を封じる為の外壁。

 それを作り出す術式は完ぺきではないものの俺にも読み取れた。

 複数の言語で書かれた術式。


 魔力を封じる、あの石の内側に描かれているはずの魔法陣。

 それは錬金術で作られた強固な殻であり、今まで俺たちが凝縮させることが出来た限界を超えて魔力を圧縮する。


「エルリット……貴方は」


 ミレティ先生が目を大きく見開いている。

 その後ろには風の王が姿を現し、先生に警告を発していた。


「ミレティ! 何じゃ、あの小僧の技は!!」


 突き出した俺の両手、その手のひらに覆われた空間にある魔力のサイズは、ソフトボール大からピンポン玉ほどになっている。


(純度では勝てない。なら、それに勝る程の密度を持たせればいい!)


 俺が作り出したのはある意味、賢者の石だ。

 アーミアの額にあったような精密なものではない。

 それに長く保たれるものでもない。


 一瞬の輝きを放つ魔力の結晶!


 いつの間にか俺の目の前に作り出されていたそれは、弾丸ほどに小さくなっていた。

 凄まじいほどの魔力が凝縮された弾丸バレット


「うぉおおおお、行くぜ!! ドラゴニックバレット!!」


 俺が、たった今思いついたばかりの中二病な技名を叫んだ瞬間。

 その魔力の弾丸は、凄まじいスピードで風の魔女に向かって放たれていた。

いつもお読み頂きましてありがとうございます!

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