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12月上旬 新生生徒会

お待たせしました。

久しぶりの日常編。

 



 怒涛の文化祭が終わって、早くも12月に入った。

 先日生徒会長選挙も無事終わり、次の生徒会長が選出された。

 これで私も、生徒会役員のお勤めは終了だ。


 この学園の生徒会選挙は、生徒会長だけが投票で選出される。後の役職は全て、会長の独自指名。

 誰を指名してもいいのだが、主に成績優秀者と1年2年の前役員が指名されることが多い。


 2年連続で生徒会長を務めあげたカリスマ会長の後に、誰がくるのかという不安もあったが、ふたを開けてみれば次期会長に選ばれたのは、なんと悠斗だった。

 何を考えていたのかさっぱりわからないが、ある日突然立候補を表明し、あれよあれよという間に当選を果たしてしまった。

 成績優秀で家柄もよく、すでに生徒会役員であるという強みもあったが、2年にろくな候補者がいなかったというのが大きいだろう。

 そうして蓮から引き継ぎを済ませ、今悠斗はつい先日まで蓮の指定席だった椅子に座っている。


「悠斗が生徒会長とか、信じられない」


 居心地悪そうに、会長席に腰掛ける悠斗に正直な気持ちを告げる。

 私は自分の私物を引き取りに来ていた。


「……俺も信じられないけどさ、この場合は素直におめでとうでいいんじゃねえ?」


 何が起こるか分からないねと言えば、悠斗は、俺もそう思うと真顔で答えた。


「正直、会長選なんて興味なかったし」

「だよね、文化祭の時には二度と役員なんてするか!!って言ってたもの」

「あれも嘘じゃないんだけどな。なんていうか、あれから色々あったじゃないか、それで俺も色々考えてさ」

「何を?」


 少し遠い目をして悠斗は語る。


「俺、今までずっと目標が『生き残る』だったんだよな。来月の手術の成功。それだけがすべての目的でさ。でも神鳥先輩やあんたのおかげでそれが達成されて……そしたら、急に何をしたらいいのかわからなくなったんだ」


 贅沢な話だろと自嘲気味に悠斗は語る。


「で、色々考えて、俺も何かできることを他人ひとに返していきたいって思ったんだよ。それで、とりあえず目の前にあった会長選にのっかってみたってわけ」

「……それってほとんどノリじゃ……」

「俺にできることがあれば、なんでもやりたいと思ったのは本当だぜ?ま、手段として一番手っ取り早かったんだ」

「……なるほどね」

「この一年俺なりにやってみるよ」


 吹っ切れたように笑う悠斗に、頑張れと笑い返した。

 彼ならきっといい学園を作ってくれるだろう。

 

「応援してる」


 そう言って、部屋を出ようとした。

 だが悠斗は扉に向かって歩き出す私を見ると、焦った様子で立ち上がった。


「おい、伊織?」

「ん?まだ何か用?私、帰るんだけど」

「つーかなんで私物持ち帰るわけ?移動ならわかるけど必要ないだろ?」

「へ?何言ってんの。私はもう生徒会役員じゃないんだから、私物を持ち帰るのは当然でしょ?」


 訳の分からない事をいう悠斗に首をかしげ、今度こそその場を立ち去ろうとする。


「ちょ、伊織待てって!!」

「だから何!!」

「手伝ってくんねーのかよ!!」

「はあ!!?」


 突然大声をだす悠斗に、足を止めて振り返る。今妙なこと言わなかったか。


「あんたは当然手伝ってくれるもんだと思って、とっくに数に入れてたんだけど。……会長は、他の役員を指名できるんだろ?……俺はあんたを指名するつもりだ」

「……は?……ええええ!!?」

「拒否権はないからな。つーか俺も春にそう言われたんだから、あんたにだってないはずだ。頼むよ、伊織。手伝ってくれ!!」


 ぱんと目の前で拝むように手を合わせる悠斗。

 そんな彼に、私は見るからに動揺した。


「こ、困るよ、そんなこと言われても!!そうだ!!総ちゃんは!!?」


 彼の親友の存在を思い出し、人身御供に差し出した。


「……とっくの昔に声かけた。あいつには会計をやってもらうことで話はついてる」

「……まじですか」


 すでに、巻き込んでいたらしい。

 珍しくも迅速な悠斗に絶句する。


「あんたには副会長をやってもらいたいんだけど……」

「勘弁して……」

「なあ、駄目か?伊織」


 すがるような目で見つめられて、うっと言葉に詰まる。

 助けてあげたい気持ちがないわけじゃない。色々縛られて面倒だけど、悠斗や総ちゃんが一緒なら、まあいいかなと思わないでもない。でも、駄目なのだ。


「……ごめん、悠斗。私、来年にはドイツに戻るんだよ……ここにはいないの」


 悠斗に、ただ嫌で断っているだけと思われたくない。

 だから私は蓮にもまだ言っていない、本当の理由を悠斗告げた。

 

「??ドイツ?」

「ピアノ留学。もう一度するの。でも多分、次は何らかの結果がでるまでは戻らない。師匠にも言われてるし、もう決めたから……」


 申し訳ない気持ちでうつむきながら悠斗にそう告げると、彼は不思議そうな顔をした。言っている意味が分からない、という顔だった。


「……なあ、伊織の師匠って、リザの母親じゃなかったか?」

「うん、そうだけど」


 だよな、と悠斗は頷き私にさらりと爆弾発言をかました。


「その人、来年も日本にいるぞ」

「はあ???」


 何を言ってるんだと思わず顔を上げ、悠斗をガン見した。


「だって、リザも日本にいるし。娘が残りたいっていうなら私も勿論日本にいるわーって、前に挨拶に会った時に言われた」

「……嘘」

「んなことで嘘ついてどうするんだよ。どこで弾いていても私は私だって、そう言ってた」

「……」


 うん、確かに師匠ならいいそうな言葉だ。

 だけど驚愕のあまり声にならない。なぜそんな大事なことを私に黙っているのだ、あの師匠ひとは。


「……ごめん、ちょっと確認する」


 悠斗に断りを入れ、震える手で携帯を操作した。師匠の番号を押す。

 コール音が数回鳴り響き、すぐに通話状態になった。


『ハーイ、イオリどうしたの?』


 のんきな師匠の声が、今日ばかりは癇に障って仕方ない。


『……師匠、今悠斗から来年も日本にいるって話を聞いたのですが……』


 何の要件か師匠はわかっていたのだろう。そのことねと朗らかに返してきた。

 そうですか。私の怒りの声は無視ですか。


『あら、ようやく?そうよ、せっかく娘に初彼氏ができたんですもの。帰国なんて野暮は言わないわー。演奏活動なんてどの国からでもできるしね』


 しばらくは日本を拠点にするわ。

 あっさりと肯定され、眩暈で倒れそうになる。

 

『……あの、私以前師匠に言われた通り、来年からドイツに戻るつもりだったのですが……』

『やっと覚悟を決めたのね。でも、私たちはこちらにいるから向こうに戻る意味はないわよー』


 そうだろうとも。いろいろ手続きに入っていたものを全部キャンセルしないといけない。転校手続きの取り消しとか、諸々。


 ……殴りたい。

 相変わらずのこの人に、ふつふつと怒りが込み上げてくる。言っても無駄だ。

 そんなことはわかっているのに、拳を握りしめてしまった。


『……そうですか。わかりました』


 渾身の力を振り絞り、それだけを言った。

 電話をきる直前、『黙っていてごめんねー、あなたの反応が見たかったの』という師匠に、本気でキれそうになりながら電話を切った。

 どうしてこの人はいつもそうやって、私を振り回すんだ。


「……どうだった?」


 電話を切った私の常ならぬ様子に、悠斗がうかがうように聞いてくる。

 私は溜息をつきながら答えた。


「……転校する必要はないみたい……」

「そう、よかったな。……で?」

「??」

「いや、だからさっきからその話をしてんじゃねえか。来年もここにいるんだろ?なら、副会長引き受けてくれるよな?」


 ……その話か。正直、今の気力を根こそぎ持って行かれた状態で、そんなことを聞かれても、正常な判断が下せるとはとても思えない。

 だけど、不安そうにこちらを見る悠斗に、駄目だと素気無くする気にもなれなかった。


「……いいよ」


 多少投げやりな気持ちになったことは否めない。


「本当か!!」

「うん。友人の頼み位引き受けるよ」

「サンキュー!!助かった!!」


 嬉しそうに笑う悠斗に私もつられて笑う。

 これだけ喜んでくれるのなら、引き受けてよかったかもしれない。

 ああ、そういえば残りのあと二人、どうするのだろう。


「書記と庶務はどうするの?」


 気になったので、ついでに聞いてみた。

 悠斗はもう考えてある、と続けた。


「書記は、峯村先輩が引き続き引き受けてくれた。庶務は来年の一年から選ぼうと思ってる。だから3月までは4人だ」

 

 妥当な線だ。新学期に優秀な新人を庶務に入れると。

 とりあえず4月までは知っている人だけですむのはありがたい。


「了解。でもなんで私が副会長なの?」

「……俺が手術とかでいないとき、あんたに代わりに立ってほしいって思ったんだよ」


 真摯な顔でそう告げる悠斗に胸が詰まった。


「……引き受けましょう」


 そこまで言われては断れない。

 偶然だが、今年もまた『鏑木副会長』になるわけだ。

 なんとなく感慨深い気持ちになった私は、手に持っていた私物を副会長席へ置いた。兄さんが2年間座っていた副会長席の机をさらりとなでる。


「兄さんの席、か」


 聞きつけた悠斗が苦笑する。


「それをいうなら、俺は神鳥先輩の席だぜ?滅茶苦茶プレッシャーなんだけど」

「……蓮の後は大変だと思うけど、ここは頑張れと言っておくね」

「他人事かよ」


 そこへタイミングよく扉がノックされ、総ちゃんがひょいと顔を出した。


「こんにちは。悠斗、そろそろ伊織ちゃんの説得は終わった?」


 私に視線を向けるとにこやかに手を振ってくる。

 

「なんとかな」

「よかったねえ。でも、リザも高校生だったら一緒に生徒会活動できたのにね。残念だったね、悠斗」

「うるせえ」


 言い返す悠斗で遊びながら、総ちゃんはこちらにやってきた。

 二人のテンポの良い会話にくすくすと笑う。

 ちょっとしたことで赤くなる悠斗は、からかい甲斐があって非常に楽しいと総ちゃんが前に言っていた。

 ……ものすごくわかる気がする。

 

「悠斗、リザとは上手くいってるの?」


 つい昨日も彼女からのろけ話を聞かされたばかりなので、答えはわかっているが、私も悠斗の反応が見たくてつい尋ねてしまう。

 思った通り、悠斗はすぐに反応してきた。


「当たり前だ」

「伊織ちゃん。こいつさ、俺の前でのろけまくるんだよ。いつもの悠斗とのギャップがすごくて、俺もうおかしくってさ」

「あー、私のところも一緒。リザがすっごい勢いでのろけてくる」


 総ちゃんの台詞に同意すると、悠斗がさらに赤くなった。


「うるさい、黙っててくれ!!……たく」

「はいはい。ごめんね。えーと、じゃあ改めて総ちゃんにも」


 言って姿勢を正す。同時に悠斗と総ちゃんも顔を引き締めた。

 大きく一度深呼吸をしてから私は言った。


「このたび会長から副会長就任の要請を受け、これを承引しました。鏑木 伊織です。これから一年間、宜しくお願いします」

「こちらこそ。会計の由良 総太朗です。お手柔らかにお願いします」


 総ちゃんも同じように挨拶する、と生徒会室の扉が開いて奏さんが入ってきた。

 就任あいさつをしていることに気付いた奏さんは、空気を読んでさっと自分も話に参加する。


「あらあら?遅れてしまいましたか?引き続き書記を担当いたします。峯村 奏ですわ。私のこともお忘れなく」


 奏さんが来るとは思っていなかったので目をぱちくりさせていると、総ちゃんが「先輩も後でくるって言うの忘れてた」と舌をだす。

 奇しくも全員が勢ぞろいしたところで悠斗に視線が集まった。


 悠斗は全員の視線を受け、誤魔化すように一つ咳払いをする。

 どうも照れるらしい。


「……会長の今里 悠斗。……皆、引き受けてくれてありがとう。これから一年間、一緒に頑張っていこう」


 全員が大きくうなずく。

 こうして新生生徒会は始動した。


 結局、あんなに嫌がっていたにも関わらず、なぜか生徒会役員を続ける羽目になってしまった。しかも副会長とか。

 後悔はしていないが、来年こそは逃れたい……そう切に願う。





ありがとうございました。

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