11月中旬 恋愛エンドへの到達方法
お待たせしました。解答編です。
「は?」
生徒会室に間抜けな声が響き渡った。勿論発言者は悠斗。
彼は意味が分からないという顔をして、私と蓮の顔をみつめた。
「恋愛エンド確定って……なにそれ」
「悠斗には意味わからないよね」
偉そうに言っておきながら、自分でもうまく説明できる自信はない。
「いや、うん。本当に意味不明なんだけど、どういうことだ?」
「私も、大体は分かったけどできたら説明してほしい。時が来たら説明してくれるって言ってたよね?」
何度も蓮にそう言われ、引き下がった経緯を思い出す。
「分かっている。順を追って説明してやるから」
とりあえず座れと言われたので、手近なところから椅子を引き寄せた。
悠斗も同じようにする。
全員が座った事を確認してから、蓮は話し始めた。
「じゃあ、まずはそうだな。マスターが今里に言った『死について』。ここから話そうか。これは嘘ではない。……俺も同じ結論を出していた」
「悠斗が死ぬかもって言ってたもんね」
思い出しながらそう言うと、悠斗がまじかよとつぶやいた。
「あんた達、知ってたのか?」
「ごめん、悠斗を助けたいなら黙ってろって蓮に口止めされてた」
自分でも黙っていたのは申し訳ないと思っていたので、さっと右手を挙げ素直に謝った。
悠斗は勢いをそがれてしまったようで、それなら仕方ないけどと黙り込んだ。
それをみた蓮は溜息をつき、黙っていた理由を語りだす。
「依緒里の言ったことは事実だ。変にこいつに動かれて計画を崩されても困る。それにお前が知ったところでどうしようもないだろう。むしろ動揺して使い物にならなくなると踏んだ」
先にマスターに手を打たれていたみたいだけどな。と悔しそうに舌打ちをする。
「お前が死ぬかもしれないと思ったのは、まず一つに死の回避を記述したものが恋愛エンド以外にはなかったこと。お前達は気づいていなかったかもしれないが、今里悠斗ルート以外でも、手術の時期をこえると奴は全く姿をみせなくなるんだ」
蓮の言葉にゲームをざっと思い返してみる。
確かに1月以降、今里悠斗がでてくるシーンは1つもなかった。でもそれが死んでしまっていたからだなんて思いもしなかった。
「乙女ゲーだからな。個別ルートに入れば、それ以外のキャラがでてこなくなることなんてよくあることだ。だから盲点だった。……それともう一つ気になったのは、今里の倒れた回数とタイミングだ」
「回数とタイミング?」
悠斗が聞けば、蓮は私の方をみて言った。
「お前は気づいていたか?今里のルートは他の攻略キャラと違い、厳密な判定基準があちらこちらに散りばめられていたということを」
「判定基準?私は、一定以上の好感度が必要だということくらいしか知らないけど」
その好感度の値で悠斗の手術の成否が決まるのだ。エンド分岐だからさすがに覚えているが、これ以上のことは知らない。
大体私はディアスのルート以外興味なかったのだから、細かい設定まで覚えているはずがない。
蓮はそうだと思ったといい、次に悠斗の方を見た。悠斗も慌ててかぶりをふる。
「いえ。俺も知りません。というか、そもそも今里悠斗ルートは俺、やってないので」
「それは分かっている。やっていたならそもそも今回うまくいくはずがないからな」
俺はやっとけばよかったって何度も後悔しましたけどねと、自嘲気味に話す悠斗に何と言っていいのかわからなくなる。蓮はそんな悠斗を無視し、話を続けた。
「今里悠斗のルートは、個別ルートに入る前から好感度チェックがひと月ごとに入る」
「ひと月ごと?」
「そうだ、4月からカウントはすでに始まっている」
4月からとか、それはあまりに酷い。
他のキャラは最後のルート分岐の所でしか好感度チェックは入らないはずなのに。
「ボーダーラインは今里悠斗の主人公に対する好感度『35』。これを下回っている場合、ルートにはいっていてもいなくても、今里が倒れるイベントが起こる」
「「あ」」
思い当たる節があり、思わず悠斗と顔を見合わせた。
確かに当初から毎月のように悠斗は倒れていたように思う。
そしてゲームでも、共通パートで今里悠斗はよく倒れていた。気にもしなかったが、あれは好感度が足らなかったからか。
だけどここで疑問がわいた。
「……でもさ、ここは現実だよ?好感度なんて言っても目に見えないし、ゲームだからこそわかりやすく、そういう言葉にしていただけでしょう?」
実際は『好感度』なんていうものは存在しないのだ。
「勿論そうだ。確かに数値は見えない。だが、相手に対する感情を数値化しただけなのだとしたら無視するわけにもいかない。事実ゲームではそれを元にルート分岐が行われていたわけだしな。見えなくても参考程度にはなるだろう」
「……そっか」
「好感度『35』という数値がどれくらいのものか俺には分からない。だが、大事なのはその『35』という数値の状態が、心身に何らかの影響を実際に与えているのではないかということだ。それが『50』になったり、『70』になればもっと色々なものに影響を与えるかもしれない。人は恋をすれば、変わるだろう?好きになればなるほど、いい意味でも悪い意味でも変わっていくだろう?」
そう言われれば、確かに納得できる。どれくらい自分が相手を好きなのかを数値化したものと言われれば成程と思えた。
「話が脱線したな。現実の今里の倒れる頻度と時期をみて、俺は改めてゲームを思い出した。この倒れ方は、今里の現在の好感度が低いことを示している。固有ルートに入ってすらいないのに好感度『35』などという制約がもうけられているという事実。これはやはり今里悠斗のルート以外では助からないということではないのかと思い始めた。言い換えるなら、恋愛エンドのルートのみが今里悠斗の救済ルートなのだと、そう思った。今里の好感度が『35』を越えると確かに倒れなくはなるが、その場合は強制で今里悠斗ルートに入るからな。以上から、おそらく今里は今のままでは死を避けられないと判断したわけだ」
「な、なるほど……」
全然気が付かなかった。
そして思ったのは悠斗の私への好感度。『35』以下ってどんだけ低いんだ。
どうやらそれが思い切り顔に出たのだろう。蓮が宥めるように言った。
「そんな顔をするな。……好感度は、恋愛対象としての数値だぞ?今里がお前に対して高いわけがない」
「あ、そっか」
確かに私も悠斗に対しては友情しか抱いていない。
「……で、どうやって俺を助けようとしてくれたんです?」
まだ、いまいちぴんとこない様子で悠斗が尋ねる。
「簡単な事だ。この世界は確かにゲームではない。だが、俺たちは知っているだろう?形を変え、いわゆるイベントというものが発生することを。条件を整えてやれば、驚くほど高確率で発生することはもう分かっているはずだ」
なぜなら、ここでいうゲームとはすなわち未来視ですでに確定されている内容だから。
「未来視は絶対なのだろう?それならば全ての条件が整えば、イベントは確実に発生するということだ。あの段階では、悠斗のヒロインは依緒里だと認定されていた。だから倒れるイベントが毎月発生し続けたんだ」
はあ、とただ聞き入るしかできなかった。
「そういうことなら話は早い。別に悠斗のヒロインを用意してやればいい。条件さえ整えばいいのだから、ヒロインが依緒里である必要性はない。ようは同様の行動をとってくれる存在であればいいのだから」
「それで、リザ?」
「そうだ。だが、当然今里の好感度が重要視されるのだから、こちらから強制させることはできない。どうにか今里が惹かれる女性が現れないか、それか不自然にならない程度に好みそうな女を何人かあてがうか、そう思っていた。その矢先に現れたのがリザだ」
「強烈な一目ぼれ宣言だったものね」
あれは見事に全員が引いた。
「ああ。だが、当初今里はリザにあまりいい印象はもたなかっただろう?彼女への負の感情が強すぎるようなら、短期決戦が求められる現状ではリザという選択肢はよくない。そう思って様子をみていたんだが……」
どうやらこれならいけるかも、と蓮は判断したらしい。
「ヒロインがリザに変更されたなら、今里悠斗ルートへ入るためのイベントが起こるはずだ。条件は先ほども言った通り好感度『35』以上。それと放課後二人きりで校内を歩く事。このイベントが発生するかどうかを確認するため、巡回と称して二人を一緒にでかけさせた」
「あ、あれってそうだったんだ」
文化祭準備の時の巡回。二人でこっそり後をつけたが、色々とやけに準備がいいと思っていた。
悠斗が倒れることを予測して、事前に蓮は救護班を待機させていたとそういうわけか。
「確か、二人で話している時に今里悠斗が倒れてしまい、病に侵されていることが主人公にばれてしまうっていうイベントだよね?」
そんなイベントあったのかと悠斗が目をむいた。
思い返してみれば、あのときの2人の様子はイベントスチルに近かったかもしれない。
倒れる今里悠斗に駆け寄る主人公のスチル。確かにあった。
「あのイベントが発生した事により、今里のヒロインがリザに変更されたことが確認できた。好感度はすでに『35』を超えている。今里、あれ以降倒れたことはないよな?」
「あ、ありません」
本当だと、呆然としながら答える悠斗。
確かに私もあれ以来悠斗が倒れたという話を聞いていない。
そうか、好感度が一定以上を越えたから悠斗は倒れなくなったのか。
「リザが今里のルートに入った事は確認できた。次に必要になるのが恋愛エンドに入るための好感度だ。両想いになるのは好感度『80』以上。生存フラグが立つのが好感度『90』」
「数値まで意識してなかったけど、結構シビアだね」
両想いになっているのに死亡するデッドエンドはつまり好感度『80』~『90』の間ってことか。
「ゲームでの好感度最終判定は12月のクリスマスイベントだ。だからそれまでが勝負だと思っていた。それまでにリザが今里を落としてくれればと思っていたのだが」
「その前にリザが引きこもっちゃったと……」
「そうだ。このままではまずい。今更ヒロインの変更はできない。せめてなんとか登校させて、会う機会を設けなければと思っていたのだが……」
蓮が悠斗をリザの家に連れて行けといったのはそのせいか。
「今考えれば、あの時すでに悠斗はリザにほれてたんだよね」
「……な!!」
悠斗はかっと顔を赤くするが、否定はしなかった。
「俺の予想以上に早く事は進んだようだが、終わりよければすべてよしだ」
「こうやって説明されると、結構ぎりぎりの橋を渡っていたんだね」
蓮がそうまとめる。私も納得したので、のんびりと感想を言っていると悠斗があのーと口を挟んできた。
「説明はわかったけど、なんで恋愛エンド確定だってわかったんだ?さっきも説明してもらったけど好感度なんて数値で見れるものじゃないだろ?」
その数値に達したかなんてわからないじゃないかという悠斗にぽんと手を打つ。
「ああ、そっか。悠斗は知らないもんね」
「……依緒里、説明してやれ」
いい加減説明するのが面倒になってきた様子の蓮に、一つ頷いた。
これくらいは私でも説明できる。
「あのね、恋愛エンドが確定するとイベントが起こるの。そこで、今里悠斗はあるセリフを言う。それが最後の生存フラグ」
「セリフ?」
「さっき言ったじゃない。悠斗自身が。彼のセリフ自体は『僕は絶対に死なない。死んでたまるか。――――君を、泣かせたくないから』だけど。『君』の部分を『あいつ』に変えて、一人称を『俺』にしたら、さっきの悠斗のセリフそのままになるでしょ?」
「は?」
思ってもみなかったのだろう。ぴしっと悠斗が固まった。
「悠斗も知っているでしょう?このゲームは分岐点でよく、特徴的なセリフが使われることが多いのを。今里悠斗の場合はこれ。あまり生に必死にならなかった今里悠斗が、彼女の為にも生きていこうと諦めないことを決意するイベントなんだけどね。まあ、ゲームの今里悠斗とはキャラも違うし、想像もしなかったんだけど。いやー。本当にそのままのセリフでびっくりした」
そのセリフを聞いて、初めて蓮のやっていたことに気付いたんだよ、と付け足した。
「まさか蓮が現実で乙女ゲーやってるとは思わなかったけど」
「……それしか手がなかっただけだ」
そんな趣味はないと嫌そうな顔をする蓮。そのわりに『ドラプリ』だってコンプしてたし、各ルート全てにおいて私より詳しい。
「……じゃあ俺、知らずに今里悠斗のイベントを地でやってたってこと?」
悠斗が確認するように尋ねる。
「かなり変則的ではあるけど、そうなるね」
そうなるように蓮が仕向けた。
でも本当に随分ゲームとは違っている。
最後のセリフだって、ヒロインのリザに言ったわけではなく私たちに言った。
でも間違いない。あのセリフこそが、最後の生存フラグ。
「お前が知っていたら絶対にできなかったというのはそういうことだ」
知っていたら、嘘が混じってしまう。それでは多分駄目なのだ。
がたんと音を立てて、悠斗が立ち上がった。
「……じゃあ、俺、死ななくて済むの?」
震えた声を出しながらうつむく。
「ああ、おめでとう。恋愛エンドは、つまりは手術成功ルートでもある。年明けの手術はうまくいくだろう」
蓮は事実だけを淡々と述べる。
「ほん……とに……?」
「大船にのったつもりで手術をうけてこい」
蓮がもう一度太鼓判を押してやると悠斗は肩を震わせた。
「……っうっ……うう……」
「悠斗……」
うつむいたまま、静かに悠斗は泣き出した。
声を掛けようとしたが、蓮に止められ口を噤む。
しばらく、その場には悠斗の押し殺したすすり泣きだけが響いた。
「……すみません。みっともないところをみせてしまいました」
ようやく落ち着いたのか、悠斗は目を真っ赤にさせたまま顔を上げた。
涙の跡が残っている。
「俺がずっと自分の事しか考えてなかった間も、二人は俺を助けようとしてくれてたんですね」
「依緒里がそう望んだからな。それに俺は場を整えただけ。後はお前自身の行動の結果だ」
蓮はそっけない。
それでも悠斗が不安にならないように、彼自身の意思で動いていたのだという事をきちんと伝えてくれた。
「そうそう、気にしなくていいよ。結局私だって何もできていないし。それにいつも悠斗にお世話になってるのは私の方だもの」
お互い助けあおうって言ったでしょ?
そう言えば、ぎこちなくではあるがようやく笑ってくれた。
「……どうみても俺の方が助けられすぎてるけどな」
「なら、また何かあったら協力してよ。それでいいでしょ」
「わかった。できることがあれば何でも言ってくれ。俺、絶対にあんたたちを裏切らない。誓うよ」
「そんなのはいらないから」
重々しくうなずく悠斗にあわてて断りをいれる。
そんな為に蓮にお願いしたわけじゃない。
「いや、言わせてくれ。まさかこんな風に助けてもらえるなんて思ってもいなかったんだ。あんた達にはいくら感謝してもし足りない」
姿勢を正し、悠斗は私たちに深々と礼をした。
「俺の為に骨を折ってくれて、本当にありがとう」
真摯に頭を下げる悠斗に、なんだか胸のあたりがあたたかくなる。
悠斗が助かってよかった。本当にそう思う。
……頑張ったのは悠斗だよ。
そんな想いを込めて、私は彼に今できる最上級の笑みをおくった。
************************************
「今里悠斗、恋愛エンド確定……か。まさかそんな手を使ってくるとはね。……ああ、ほんっとイライラするなあ、あの男」
ありがとうございました。




