11月中旬 ルート分岐
本当は昨日更新するはずだったのですが、遅れました。
「助けて下さい」
今まで見たことがないほど真剣な顔をして、悠斗は私たちに向かって頭を下げた。
――――文化祭は大盛況のまま幕を閉じた。
夜遅くまでてんてこ舞いだったが、特に問題もなく全てのプログラムは無事終了した。
ヴィンスと別れてから私は生徒会室に戻り、後はずっと雑務に追われ続けていた。
戻った時、鬼のような形相で仕事をする蓮と兄さんを見て、ものすごく申し訳ない気持ちになった事は追記しておく。
多少の責任を感じないでもなかった私は、ずるずると結局最後まで付き合う事になり、帰ってきたのはつい先ほど。時間はもう夜中に近い。
よろよろしながらなんとかシャワーを浴びて、ベッドにダイブした。
もうこのまま眠ってしまいたい。
気力ももはや尽きているが、明日も午後から登校しなければならない。
明日は一般の生徒は代休で休みなのだが、生徒会役員は全員後処理の為登校することになっているのだ。
文化祭で色々ともやもやした気持ちを抱えてしまった私としては、1日中ピアノ三昧といきたかったところだがそうもいかない。
生徒会役員としては最後の仕事だ。きちんと全うしなければ。
それでも気が重いと部屋でだらけていた私に、悠斗から連絡が入ったのはその時だった。
「もしもし、悠斗?」
半分ぼけたような声で電話をとる。
「伊織、夜分に悪い。今、いいか?」
どこか切羽詰まった声で聞いてくる悠斗に眠気は吹き飛んだ。要件を尋ねる。
「あのさ、明日なんだけど、大事な話があるから会長と一緒に予定より1時間ほど早く来てくれないか」
妙に切実な様子に私は首をひねった。
「いいけど、蓮も連れて行くの?」
「ああ、頼む。会長とあんたにどうしても頼みたいことがあるんだ」
えらく大げさにいう悠斗に、なら蓮に予定を聞いてみると答え一旦電話をきった。
蓮の番号を携帯に表示させながら思う。
悠斗の頼みというのはゲームや前世絡みの事だろうか。
彼の頼みとやらが何なのか気にならないでもないが、どうせ明日になればわかることだと、気分を切り替えた。
そうして蓮に了承を取り付けた私は、折り返し悠斗にオーケーの返事を伝えたのだった。
次の日の朝、眠い目をこすりながら生徒会室へいくと、すでに蓮と兄さんは仕事を始めていた。
昨日蓮と連絡をとってみて分かったのだが、蓮や兄さんは元々もっと早い午前中から登校する予定だったようだ。
それならば手伝おうと思って早起きしてみたものの、すでに兄さんは登校した後、慌てて追いかけてきたというわけだ。
「おはよう。二人とも早いね」
声を掛けると、二人は顔をあげた。
挨拶だけを軽く返すと蓮はそのまま仕事に戻ってしまった。どうやらかなりいそがしいらしい。
兄さんが苦笑しながら書類を置いて、こちらへやってきた。
「おはよう。伊織。何もこんな時間からこなくても、昨日だって夜遅くまで頑張ってくれたんだから、ゆっくり寝ていればよかったのに」
「そうなんだけど、昨日早く来るって誠司くんに聞いちゃったからね。私も手伝えるだけは手伝うよ」
「そう?助かるな」
じゃ、これお願いねとどんと渡された書類の束に眩暈がしそうになる。
こういうところ、兄さんは本当に容赦ない。
でも自分が言いだしたことだ。覚悟を決めて書類にとりかかえる。
そうやっているうちに、あっという間に午前中は過ぎ去ってしまった。
早めの昼を三人で済ませ、悠斗との待ち合わせ時間が近くなってくると、蓮は兄さんにここぞとばかりに外回りの面倒くさそうな仕事を押し付けた。
「こういう仕事はお前の方が適任だろう。いってきてくれ」
「……別にいいけどね。二人きりだからって、私の可愛い妹に妙な事はしないでくれよ」
「約束はできないが、善処しよう」
どこかの悪徳政治家のような回答をする蓮に、兄さんは嘆息すると私の方に向き直った。
「身の危険を感じたら、すぐ私に連絡しなさい」
「う、うん」
うわあ、蓮ってば信用ない。
口の端をひきつらせながら返事をすると、兄さんはくすっと笑って部屋を出て行った。
どうやらからかわれたらしいと分かるが、妙に疲れた。
ため息をつくと、一部始終を見ていた蓮がのどの奥で笑っていた
むかつく。睨むと蓮は肩をすくめ、黙って仕事を再開させた。
蓮が首尾よく兄さんを外出させたおかげで、約束の時間に悠斗がやってきたときには問題なく話し合いができる体制が整っていた。
もう来月には座ることのない会長の机に腰かけ、書類を片付けていた蓮は悠斗が来たことに気付き顔をあげる。
私はなんとなく蓮の隣に立っていた。
蓮の正面に相対した悠斗は真剣な表情で私たちを見て、そして話は冒頭へと戻るわけである。
「助けてほしい、とはどういうことだ?」
頭を下げたまま動かない悠斗を見、ゆっくりと肘をついた蓮はそう言った。
私は横目で蓮を伺う。
悠斗には見えないよう黙って首をふった蓮に、小さくうなずきを返した。
私は話すなと、そういうことらしい。
悠斗は下を向いたまま動かない。そのまま話し始めた。
「……今から2か月前、俺はマスターに会いました」
「え?」
黙っておこうと思ったにもかかわらず声が出た。
予想外の状況に、どうだったのかと詳しく聞こうと大きく身を乗り出したのだが、蓮が私を制して代わりに話す。
「続けろ」
冷たい蓮の声に、びくっと震えながらも悠斗は頷いた。
「……はい。マスターは俺に言いました。俺は死ぬって。どうやったって死からは逃れられないって」
「……!!」
蓮に睨まれているので、声こそ出さなかったが内心はかなり驚いていた。
蓮が以前私に話してくれたこと。
確率は高いが確信はないと言いながらも、悠斗の死の可能性について教えてくれた。
助けるように動くからおとなしくしていろと蓮に言われた通り、私から悠斗に何も話はしなかったが、時期からしてあの後すぐに知ってしまったということなのだろう。
それも最悪な事にマスターによって。
何も言えない私が一人悶々とする中、二人の会話は続いていく。
「で?」
「どうにかして、その運命を変えたいんです。協力してください」
さらに勢いよく頭を深く下げる悠斗をみて蓮は頬杖をついて尋ねた。
「……話は分かった。だが、なぜすぐ言わなかった?2か月という月日が過ぎたのはどうしてだ」
悠斗は見るからに動揺した。
だが、すぐにそんな自分を恥じたかのように身震いを一つすると、蓮にまっすぐ答え始める。
「……マスターに色々吹き込まれ、自分でもどうすればいいのかわかりませんでした。情けない話ですが、答えの出ないままずるずると今に至ってしまったのです」
「何か脅されでもしたか?」
「……いえ、脅されたというよりは、どちらかというとループを推奨されました」
「ループを?」
眉を顰める蓮に悠斗は頷いた。
マスターとのやりとりを詳細に報告する悠斗。言いたくなかっただろうが、その時の自らの心情までもきっちり語った上でもう一度蓮を見た。
「自分が最低だってことは理解しています。今更助けを求めるなんて図々しいことだって事も。でも、俺はどうしても死にたくない。生きていたいんです」
「……今更だってことは理解しているんだな。なら何故今になって言おうとした?」
「それは……」
「答えろ」
躊躇する悠斗だったが、蓮に強く促され、諦めたように口を開いた。
答えにくい質問だったのだろうか。よくみると彼の頬がうっすらと頬が赤い。
「……実はリザと付き合う事になって。……彼女をみていたらこのままじゃ駄目だって思ったんです。だから……」
「そうなの!!?」
黙っていられなくて叫んだ。叫んだついでに、つい蓮の机に思い切り手を叩きつけてしまった。
大きな音が響き渡ったが、構ってはいられなかった。
「いつの間に?いつの間にリザと付き合う事になったわけ?私全然話聞いてないんだけど」
畳み掛けるように尋ねると、悠斗は若干引きながらも答えてくれた。
「……いや、だって付き合うことになったのは昨日からだし」
「それだったら昨日、連絡ついでにでも教えてくれたらよかったのに!!」
「今日、会うんならそのときでいいかなと思って……それになんかこういうことをわざわざ言うのって……恥ずかしいじゃないか」
「悠斗ってそんなキャラだったっけ?可愛いこというなあ!!うわー嬉しい!!良かった!!良かったねえ」
自分の親友の想いが叶った事に興奮し、思い切りはしゃいでしまう。
さらにもっと情報を得ようとしたところで、隣から強力な規制が入った。
「……依緒里、話の途中だ」
蓮の低い声が響き、私は続けようとした言葉を反射的に飲み込んだ。
「……ご、ごめん」
盛り上がっていた気持ちが一瞬にしてしゅんと萎れ、ずいっと前に乗り出していた体勢を元の位置に戻す。
興奮しすぎて随分と体が前に出ていた。
「全く、お前は。嬉しいのは分かったから、もう少しおとなしくしていろ。……で、お前がこうやって俺たちに洗いざらい告白する気になったのは、リザのおかげと、そういうわけだな?」
私のせいで曲がりに曲がってしまった話を何とか本筋に戻した。
蓮に確認され、悠斗も表情を引き締め直す。
「その通りです。……格好悪い話ですが俺には勇気がなかった。ループさせてしまえと誘惑にのる勇気も、いらないとはねのける勇気もどちらもなかったんです。……でも、リザをみていて、ようやくそれじゃいけないと思ったから」
悠斗は顔を上げて、蓮と私を見つめた。
「もう俺は、ループさせたいなんて2度と思わない。ちらりとも考えたりしない。前へ進むって決めたんだ」
白くなるほどこぶしを握り締め、悠斗は訴える。
「俺は絶対に死なない。死んでたまるか。――――あいつを、泣かせたくないから」
だから、助けてください。
もう一度勢いよく頭をさげた悠斗の『言葉』に私の中の何かが反応した。
この、言葉は――――。
私の頭の中で何かがつながった気がした。
ぱちぱちと目を瞬かせながら目の前の悠斗を見つめ、蓮を見つめる。
蓮は口元を緩ませ、小さく呟いた。
聞こえはしなかったが、私には蓮が何といったのかはっきりとわかった。
思った通りに事が運んだ時の、前世からの彼の口癖。
――――チェックメイト。
「あ!!!!」
思わず口を押さえ、声をあげた私に蓮がにやりと笑う。
「ようやく気がついたか」
「蓮、これってもしかして……」
そうだと肯定する蓮に、信じられないと首をふる私。
まさか蓮は、あの時からこれを狙っていたということなのだろうか。
全部が全部そのための布石だった?
驚愕のあまり固まってしまった私の背中を、蓮は立ち上がりぽんと軽く叩く。
そして、小声でそっと耳元に囁いた。
「だから、俺に任せておけと言っただろう?」
……どうしよう。蓮が、物凄く格好よくみえる。
思わず目が潤みそうになるのを必死でこらえ、ただただ蓮を見つめた。
悠斗は私たちが何をいっているのかまるでわからないといった様子でぽかんとしている。
それはそうだろう。彼がそれを理解できていたなら、今回の蓮の策はありえなかった。
訳が分からず立ち尽くす悠斗を尻目に、蓮は実に楽しそうに笑う。
上手くいったと、非常に満足そうな笑みだ。
「さて、仕上げだ」
私から離れ、蓮は困惑する悠斗に向き直った。
右手を銃の形にして、悠斗に向ける。
そして、ミッションコンプリートを高らかに彼へと告げた。
「今里悠斗ルート、条件クリア。『恋愛エンド』確定だ」
きりがいいのでここまで。次回は蓮のネタばらしの回
ありがとうございました。




