表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/109

伊織特別イベント2 想いの行方

こんばんは。

お待たせいたしました。では、引き続き宜しくお願いします。

 久しぶりの再会だというのに随分と格好悪いものになってしまった。全然思っていたのと違う。もっとスマートな感じで決められると信じていたのに、実際はこんなものだ。

 蓮の腕の中で鼻をすすりつつ、とんとんと胸をたたいた。


「はなして、蓮」

「いやだ」


 より強く抱きしめられる。ふわっと彼の髪の毛が顔にかかった。なんだか無性に照れくさくなる。


「あの時以来なんだ。もう少し堪能させてくれ」

「あう」


 そう言われると、それ以上強く出ることもできずに大人しくなってしまう。久しぶりなのは私だって同じだ。こうされるのは嫌じゃない……というかどちらかと言えば嬉しい。だから、しばらく蓮の腕の中でじっとして好きなようにさせた。そうするとある程度満足したのかその後は割とあっさり解放してもらえた。昔からそうだ。蓮には変に抗わないのが結局一番早い。


「で?」

「ん?」


 腰に手を当て、尋問するような口調でいう蓮に首をかしげる。


「何?」

「お前は、俺を思い出すのに何でこんなに時間をかけたんだ?」

「いや、あのその……」


 思わず視線を逸らしてしまう。待たせた自覚はあるだけに何ともいいようがなかった。


「お前、前世のこと覚えていたよな?」

「……ハイ」


 法廷に立たされた被告人の気分だ。しかも有罪確定の。

 蓮に隠し事ができたためしはない。諦めておとなしくうなずいた。


「それで? なんで俺だとわからなかった?」


 詰問は続く。正直に答えるより逃れるすべはない。私は、居心地の悪いおもいをしながら答えた。


「あの、ね。確かに昔から前世の事は覚えていたんだけど、蓮の事をきちんと思い出したのって今年の5月になってからで……」

「5月?」


 訝しげにする蓮に、はっきりとうなずく。ここ、大事。きちんと言っておかないと後で私が怖い。


「うん。丁度中間考査前くらいだったと思う。……あの、私、結構衝撃的な死に方したでしょ? やっぱりかなりショックだったみたいで蓮のことも含めて、その辺りのことすべて忘れていたんだよね。だから、それを思い出したタイミングで一緒に蓮の事も……」


 思い出したのだと、事実を述べる。蓮の方をちらりと伺った。難しい顔をしているけれど、まあ納得してくれた、かな?


「ふうん。……それならまあ仕方ないか。それで? 俺だと気が付いたのはいつだ?」

「その直後。……すぐわかったよ。だって蓮ってば私を呼ぶ時、たまにイントネーションが違うんだもの」


 私の名前は鏑木伊織だが、前世の名前は朝比奈依緒里だった。そう、漢字が違うだけで、名前は同じだったのだ。

 これは本当に全くの偶然なのだが、ゲームを始めた時にはそれは喜んだものだ。

 デフォ名には音声があったので、そのまま始めれば自分の名前を呼んでもらえる。……なんのご褒美かと思った。

 その『伊織』と、彼の呼ぶ前世の名前の『依緒里』は、実は微妙にイントネーションが違う。誠司くんはこの4月以降、時たまそのイントネーションで私を呼ぶことがあった。偶然だと思っていたのだが、前世をはっきり思い出して確信した。これは蓮の呼び方だ。

 他にもわかった要因はあったのだが、このことが一番のポイントだった事は間違いない。


「直後に名前で、ね。ぎりぎり合格だな」


 にやりと笑った蓮に肝が冷える。……危なかった。


「蓮は? 蓮はいつ気が付いたの?」

「俺は、お前がドイツ留学したあたりだな。あるきっかけがあって思い出した。でもお前がいないからもう一回死のうと思って……そのとき丁度帰国していた里織に話しかけられて、ここがゲームの世界だって気が付いた。あのキャラに嫌というほど見覚えがあったからな。まあ、自分の顔をみてかなり絶望したが……だが多分お前も来てるだろうと思って思い直した。探してみれば、あっけないくらい簡単に見つかった。それも原作とは違って俺の婚約者としてな。……そんなところだな」


 さらっともう一回死のうと思ったという言葉が入ったことに恐怖を覚える。何か一つでも間違えていたら、彼はここにいなかったかもしれないのだ。


「……すぐに私だって分かった?」

「当たり前だろう? 俺がお前を見失うなんてことありえない。お前だってそれくらいわかっているだろうに」

「……そうだよね」


 そうだとは思っていたよ。


「でもさ、私蓮に気が付いた時思ったけど、蓮もらしくなかったよ。蓮なら正体を隠してくると思っていたから」


 気が付いてしまえば、蓮は全然自分を隠していなかったように思う。所々で誠司くんのふりをしながらも、基本的には蓮のままだった。蓮は私に見つけてほしいと思いつつも、絶対にばれないようにしているはずだと勝手に思い込んでいたので、実は結構驚いたのだ。


「ああ、あまりにもお前がにぶいからな。前世の事を覚えている割には一向に俺の事を言い出さない。まさか俺の事を忘れているとは思っていなかったから、最初はお前が言った通り隠そうと思っていた。だが、全然気が付く様子のないお前をみていたら、演じているのも馬鹿らしくなってな。ここまでさらしてもわからないのかと、怒るのを通り越して最近は呆れていた」

「……さようですか」


 ゲームの神鳥 誠司とは全くの別キャラだものね。気が付く前は、てっきり私がフラグ折りしたせいで性格変わったのだと思っていたのだけど、思い出してからは普通に大学の時の蓮に近い性格なのだという事がわかり脱力した。

 出不精とかね、外堀の埋め方とかね……もう蓮そのままなのだ。……後、キスの仕方も。


「それでも一応、神鳥誠司を演じていたつもりではあったぞ。外面は完璧だっただろう?」

「あれは確かに、ゲームのキャラそのままだったね……」


 でも、身内には素とかいう設定を足したのは蓮だけど。きっとそこまで演じるのが面倒だったのだろう。ドイツから帰ってきて何が一番驚いたかって誠司くんのキャラが二重人格に変わっていたことだ。何がどうなってそうなったのかは、後で蓮に話を聞かないとわからないが、私たちがドイツにいっていた間に何かあったのかもしれない。蓮が思い出したタイミングとも被るし。


「猫を被るのは前世から得意だからな。誠司をやること自体は特に問題なかった。でもお前、あまり誠司のキャラを好きではなかっただろう? だから俺としてはかなり複雑な気分だったな」


 ですます調の王子キャラとか苦手だったからね。その辺りの嗜好もすべて知られているので、なんとなく恥ずかしい。


「でも今世では幼馴染だし、普段はですます調でもなかったし、私の中の好感度は結構高かったよ」

「お前、ばきばきにフラグ折りまくってたからな。記憶戻ってから、それまでの事思い出して、あまりの原作ぶち壊しぶりに随分笑わせてもらったぞ。お蔭でこちらも、あまり原作を気にせずやれて助かったが。……だが、お前にとって誠司は恋愛対象にはならなかっただろう?」

「……家族として好きだった、じゃだめかな」


 そう言うと蓮は頷く。


「いや、正解だ。さすが依緒里。相変わらず的確に正解をついてくるな」

「え?」

「俺に気が付かず、誠司を受け入れたら、仕置きするところだった」


 何かを企んでいたであろう蓮の言葉に、背筋が冷える。そうか、やっぱりか。

 きっとそう言うと思ったのだ。

 『しおき』などと言う蓮だが、誠司くんやってた時、私を落とすとかいっていたよね。これで本当に私が落ちていたら、どうなっていたのだろうか。少し考え、慌てて首をふった。

 ……駄目だ、心の平穏の為にも深く考えないでおこう。


「……どうせ、私が蓮だと認識していない時の誠司くんを、自分ではない別の男扱いしていたんでしょう?」


 気を取り直して思っていたことをいえば、いい子いい子と頭を撫でられた。付き合いが長いのだ。屈折した蓮の考え位わかっている。だから、蓮と話すと決めたとき、まず今までの誠司くんをきちんと振らないといけないと思った。それからでないと、多分蓮は話をしてくれないし、蓮だと認めないはずだから。

 そういえば、依緒里は賢いなとさらに撫でられる。……すごく馬鹿にされている気がする。


「当たり前だ。誠司は確かに俺だが、お前が誠司だと認識しているうちは別の男だ。別の男に口説かれて、受け入れるお前を俺が許す道理がない」

「蓮ならそういうと思ったよ……」


 蓮は嬉しそうにうなずくと、今度は真剣な顔になって私に答えを求めてきた。


「で、そこまでわかった上で俺を呼んだということは、覚悟はできたんだな?」


 貫くような視線で蓮が問う。彼が言っていることは勿論分かっている。だからこそ、5月から、ずっと黙っていたのだから。


「えっと、その、うん……でもあの、さっきも言ったように、私……」


 結論的には、蓮が好きだと思うけど今はまだ確証がもてないから、もう少しだけ待ってほしい。そう言おうとしたのだが、それは蓮によってさえぎられた。


「依緒里、明確な言葉は口にしない方がいい」

「え?」

「確認をとっただけだ。お前が覚悟を決めたのであれば、続きは来年4月以降でいい。……下手なことを言えば、最悪どこかでループするぞ」

「あ」


 咄嗟に口を押えた。


「蓮、ループって……気づいていたの?」


 言えば、眉を顰められる。


「当たり前だろう。あれだけ情報があれば、少し考えれば誰にでもわかる。何か対策を講じないと、不本意だがディアスエンドに行く以外は、恐らく問答無用でループする」


 お前だって知っていただろうと言われ、ちょっとへこむ。

 私はマスターから指摘されるまで、おかしいとすら思わなかった。


「むかつくことに、これはディアス一本道のゲームだったからな。……お前は嬉しそうにやっていたが」

「あううう」


 じろっと睨まれ小さくなる。それも知っていたか。なんだかいたたまれなくなってきた。


「お前はディアスが好きだったからな。今世でも誠司オレの前で散々ディアスにみとれやがって」

「いや、あの……ごめんなさい……でも2次元的な憧れだから……」


 好きとかじゃないと、もごもご言い訳する。なんで私こんなに必死になって蓮に言い訳してるんだろう。蓮の方が余裕だ。


「それは分かっている。お前の態度は、前世でゲームをやっていたときと、まるで同じものだからな。そこは心配していない。問題はディアスの方だ。あいつ、俺の依緒里に手をだそうとしやがって、……絶対潰す」


 すでに一度ぶつかってるものね……。相手が人外だとわかっているのに喧嘩を売る気満々な、蓮の顔が怖い。


「……そこでだ。依緒里。お前、多分俺の知らない情報を持っているだろう。それをよこせ。対策を考える」

「……助けてくれるの?」


 聞けば、頭にぽんと手を置かれた。


「当たり前だ。お前を助けるのは、昔から俺以外いないだろう?」

「……うん」


 嬉しくなって頷いた。それと同時に、悠斗との約束を思い出した。そうだ丁度良い。どうせなら二人同時に話してしまおう。


「あのさ、蓮。実はもう一人転生者がいてね」

「今里だろう?」

「……知ってた?」


 勿論と頷かれた。


「最初の頃の挙動不審や、お前とこそこそ話していた様子からしてもそうだろう。あいつこそ性格が全然違うしな。外部要因が加わった様子もないのに性格が違うということは転生者の可能性が高い。しかも今里の性格を理解してないという事は個別ルートをクリアしていないと考えられる」


 違うかと言われ、その通りですとしか言えなかった。

 分かっていたけどやっぱり蓮ってスペック高い。

 誠司くんという猫をかぶっていた時は、その無駄に高い能力もゲームの設定に合わせて多少押さえていたみたいだけど、兄とひと悶着あってからは割と本気だしていたし。

 前世では同じレベルの友人がいなかったから、一人でいることが多かったけど、今は兄がいる。

 ゲームでは二人が仲の良い記述はなかったけど、今二人が親友なのは誠司くんが蓮だったからだろう。種類は違えど同じ天才型だから、互いが互いの理解者になれたのだと思う。


「それでね、新事実が分かった時は、いつも情報共有しているの。丁度今日その話しようと思っていたから、蓮も一緒にどうかなって」

「……俺の事は?」

「蓮の話はした。誠司くんが蓮だとは知らない」

「……わかった。丁度いい機会だ、あいつにも一応釘をさしておこう」


 楽しそうに言う蓮にそんなの必要ないけどと言って、悠斗にこれから会えるかを問うINELを送る。しばらくして了承のスタンプが返ってきた。


「大丈夫だって。私の行きつけの喫茶店があるから、そこに行こう」

「アフィリアか?」

「あ、誠司くんと何度か行ったね。そう、そこ」


 そう言えば、数度一緒にお茶を飲んだ。

 行くぞと促されて、私も足を進める。ふと蓮が言った。


「依緒里」

「ん?」


 立ち止まって、尋ねる。蓮は少し考えた後こういった。


「お前がはっきりと言葉にするのはまずい。だが、約束はしろ」

「何を?」


 意味が分からず首をひねる。だが、次のセリフに体が固まった。


「俺は、昔と変わらずお前を愛している。だから婚約は、解消しない」


 射抜くような視線に、絡め取られる。自然と首を縦にふっていた。


「……うん」


 まだ、はっきりと好きだと言えないけれど、それでも私の気持ちが確実に蓮へと向いているのは分かっている。多分後は、時間の問題。だから、うなずいた。


「ねえ、蓮。私も一つだけどうしても聞きたいことがある」

「なんだ」


 息を詰めて蓮を見つめる。


「……なんであの時、私の後を追ったの?」


 これだけはどうしても聞いておきたかった。


「私はそんなことしてほしくなかったのに」

「それは俺が決めることだ」


 口を出すなと蓮の目が言っている。


「蓮」

「俺は言ったはずだ。お前のいない世界に意味はないと。お前が死ぬときはその先まで追いかけて、捕まえに行くといっただろう?」

「でも、本当にやるなんて」

「お前の事に関して俺は嘘は言わない。お前がいないのなら、死ぬ以外の選択肢はなかった。それだけの事だ」


 悠斗から聞いた時、思い出したとき、本当につらかった。生きて、幸せになってほしかったのに。


「二度としないで」

「約束はできない」


 強く希望を込めて訴える。だが、蓮は頷かない。


「昔も言ったはずだ。それが嫌なら、俺より長生きしろとな」


 お前が先に逝かなければ俺もそんなことはしない、と蓮はいう。


「もうあんなことはさせない。お前が俺の手の届かない所へ行ってしまうのを、何もできずにただ見ているだけというのは二度とごめんだ」


 蓮の悲痛な声に胸をうたれる。彼の気持ちが痛いくらい突き刺さる。

 それでも私は、彼に言わずにはおれなかった。


「……ごめん。でも、私は蓮に生きて幸せになってほしかった」

「俺の幸せは、お前がいることでしか成り立たない。お前がいない時点ですでに破綻している」

「蓮」


 泣きそうな顔をした蓮が、手を伸ばしてくる。そのまま引き寄せられて、私は逆らわず彼の腕の中に納まった。蓮の全身が震えていた。その震えを押さえるように、ゆっくりと背中に手を回し抱きしめる。蓮が、耳元で呟く。


「愛している。本当に、狂いそうなくらい愛しているんだ、依緒里。……お前がこの世界にいてくれてよかった。俺を思い出してくれて本当に良かった……それだけで、このバカげた世界に生まれ変わった意味があった」

「うん……私ももう一度蓮に会えてうれしい」


 強く抱きしめられて、また泣きそうになる。

 蓮の想いに応えたいと私もさらにぎゅっと抱きしめ返した。蓮が今、生きてここにいてくれたことが本当に嬉しいと、幸せだと素直に思えた。

 蓮の唇がおりてくる気配を感じて、私は少し上を向き目を閉じる。蓮じゃないのに蓮のなじんだ感触に、自然と笑みがこぼれた。


 ……ああ、やっぱり今世でもつかまってしまうのか。


 今は言えないし、言いたくないけれど、結局そう遠くない未来、私は彼とともにいることを選択するのだろう、そう思った。

 公務員計画、フツメンと家庭を築く計画は、はかなくも夢と散りそうだ。確かに理想と現実が違うということを知らしめられたよ、誠司くん。

 だけど、そうなるのもまあ仕方ないかと思う自分が確かにいることに気付き、彼の腕の中、小さく笑った。


 うん、そうだった。結局のところ、私の場合はいつも……好きになったら負けなのだ。





ありがとうございました。次回は2~3日以内に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ