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伊織特別イベント1 告白の行方

昨日の更新分と今日の分を合併させました。

なので昨日の更新分は消しています。これで一つのお話です。昨日は中途半端なところできってしまってすみませんでした。以後気を付けます。

 放課後。ホームルームが終わり、皆が帰り支度を始める。全員が立ち去るまで、私は自分の席から動かなかった。


 誰もいなくなった教室でぼんやりと過ごす。帰る際、悠斗は妙に心配そうな表情でこちらをみていた。何をするかは言っていないのだが、何となく察しがついているのかなと思う。心配性だなと思い、くすっと笑った。待ち合わせの時間が近い。そろそろ向かおうと思った。


 呼び出した場所は屋上だ。見晴らしがいいので、誰かに見られていればすぐわかる。誰が聞いているかもわからないのでできるだけ、人目につかない場所が良いと思った。

 それでもきっと今も、マスターだけは見ているんだろうけど。あいつだけは、こちらから情報をカットしようがないのでどうしようもない。今日の所は、ヴィンスにさえ見つからなければいいかと思う。待ち合わせ場所を学園外にするというのも考えたが、却下した。灯台下暗しだ。意外にこの方が気が付かれないものだろう。


 ぼんやりと考え事をしながら、屋上の扉を握る。ここにきて急に心配になってきた。来て、くれるだろうか。


 ゆっくりドアをくぐる。視線を前に向けると、後ろを向いた生徒が一人、風に吹かれてたたずんでいた。その後ろ姿だけで、もうそれが誰だか分かってしまう。来てくれたことに安心して、屋上の扉をしめた。そして、ゆっくりと近づく。


「誠司くん」


 少し声が震えたかもしれない。それでも彼には聞こえたようで、ゆっくりと振り返った。

 相変わらずの、綺麗な容姿。物語の中から飛び出してきた王子様のようなその姿に笑いがこぼれる。でも私はいつだって、彼の容姿には興味がなかった。2次元でも、そして3次元となった今でも。


「伊織」


 振り返った誠司くんは、いつもどおりの表情を私に向ける。私は誠司くんに向かって歩き出した。


「どうした? 呼び出しなんて、珍しい。話したいことがあるなら生徒会室に来てくれればよかったのに」


 そうだね。と答えた。でも、いつもの場所でなんて話せなかった。だから、なんとなくもっともらしい理由をつけてみる。


「たまには気分を変えたいと思って。こんな時間を指定してしまっておいてなんだけど、予定とか大丈夫だった?」

「ああ、特に重要な案件があったわけでもないしな。時間までの間、生徒会室で仕事をしていたからあっという間だった」


 どうやら仕事をしていたらしい。こういうところ本当真面目だ。


「言ってくれたら、手伝ったのに」

「そんな大層な量でもなかったからな。さっさと終わらせてきた。後は明日からの分ばかりだ。文化祭の準備とかな。それが終われば俺たち3年は引退。ようやくお役御免だ」

「文化祭か。私経験ないけど、聞けば聞くほど面倒くさそう……」

「確かに、仕事に忙殺されるな」


 うわあと顔を顰めて、そういえばもうそんな季節なのかと思う。文化祭が終われば、次年度の生徒会選挙が始まる。そうしたら、今の生徒会は解散。誠司くんと兄は引退する。生徒会室で今のメンバーが集まることもなくなるのだ。


「……生徒会選挙も面倒そうだね。二人がいないなら、私も役員を辞めたいな。……多分来年はできないと思うから」

「お前たちは優秀だからな。先生たちが許さないんじゃないか?」

「ディアス先生とか?」


 さらっと真実を織り交ぜてから、誤魔化すように名前を挙げてみた。ぴくっと誠司くんが反応する。分かり易すぎる。


「冗談だよ。それにもし引きとめられても、ディアス先生に言われたからなんて理由でとどまったりしないから」

「……だといいがな」


 大丈夫だよ、ともう一度言い誠司くんに向き合った。二人の距離は丁度2メートルほど離れている。それ以上は近づかなかった。深呼吸をし、誠司くんに視線を合わせた。ここは逃げてはいけないところだ。


「誠司くん」

「……なんだ」


 私の様子から、通常の話ではないことがわかったのだろう。心なしか、彼も緊張しているように思える。


「私、5月に誠司くんから言われた事ずっと考えてきた。私なりに真剣に向き合ったつもりだよ」

「っ……」


 目を見開く彼を無視して話を続ける。視線は逸らさない。


「あれから4か月が経ったね。誠司くんは3月まで待ってくれるって言っていたけど、私もそれでいいかなって思ってきたけど、それじゃ駄目だって分かった。ずるずる引き伸ばしてしまえって、思っていた事に気が付いてしまったから。……だから、ちゃんと考えたよ。結論を、だした」

「伊織」


 誠司くんの出した声は、少し上ずって、かすれていた。激しい緊張に、体が震える。でも、言わなければだめなのだ。


「ごめんなさい。私、誠司くんとは結婚できません」


 私たちの他に動くもののない屋上に、その声はいやになるほど良く響いた。自分で言っておきながら、泣きそうになる。

 

「……どうしても。か?」


 短くない沈黙が流れた後、ぽつりと誠司くんは呟いた。私はそれに黙って頷く。


「……結論を急ぐ必要はないと言ったのは俺だ。まだ期限の3月までは半年ある。……今結論をだす必要がどうしてある?」


 その通りだ。私もそう思っていた。でも、違うから。そして、逃げてはいけないと気が付いてしまったから。分かってしまえば、もう無理なのだ。きっと私が、そこまで待てない。


「本当だよね。私だってこうなるとは思っていなかった。……知ってた? 私当初の予定では、全てぶっちぎって大学卒業したら家を出ようと思っていたんだよ」


 公務員になって、家庭を築いて……。計画だってばっちり立てたよ。そういえば誠司くんは少し辛そうに目を伏せた。


「だから、本当に式を挙げるとか、そういう話になるまでは婚約関係を続行していても全然かまわなかった。逃げるつもりだったし、誠司くんの事は幼馴染として、友人として大好きだったからね。ぎりぎりまではこの状態でもいいか、なんて甘いこと考えていたんだ」

「俺はそれでもよかった……」


 ぎりっと奥歯を噛みしめて、それでも誠司くんは言う。


「最終的に流されてくれるなら、それでもよかった。俺は、それくらいお前が欲しかった」

「いや、流される気はなかったけどね」


 一応釘を打っておく。


「ごめんなさい。私、誠司くんではない別の人が気になる。……好きかどうかはまだ自信がないけれど、私はその人といたいから」

「……」


 はっきり言葉にした。私がここまで言うとは思っていなかったのだろう。誠司くんはショックを受けたように固まった。

 私は、黙って彼の答えを待つ。


「……それはディアス先生か?」


 しばらくして諦めたようなため息が聞こえた後、そう誠司くんが聞いてきた。私は首を横に振った。


「違うよ。彼は、違う……」


 今の私にとって、ヴィンスは憧れのキャラでしかない。たとえここがゲームの世界ではなくて現実なのだと、彼らも私も皆きちんと生きているのだと理解していても。

 多分、そういう風に見ることができるようになるにはもっと時間がかかるのだろう。


「……そうか。そうなると俺には予想がつかないが、……もしかして今里か?」

「だから、なんで悠斗をもってくるかな。違うってば」


 頓珍漢な質問をする誠司くんに、否定を返す。


「もったいぶってないで、教えてくれ、伊織。……俺を振ったんだ。それを聞く権利が俺にはあるだろう?」

「気になるって話だよ。……好きだと決まったわけじゃないよ? それでもいいの?」

「ああ」

「……そう」


 きっとそういうと思っていた。私は誠司くんをもう一度見つめ、そして頷いた。

 覚悟はもう決めた。伝えるのは、私の役目だ。


「この学園の生徒か?」

「……うん。そうだよ」

「何年だ?」

「高等部の3年」

「クラスは?」

「……特進科」


 矢継ぎ早に誠司くんが質問を投げかけてくる。それに一つ一つ正しい答えを返していく。さて、彼はどこで気づくだろう。


「特進科? 誰かいたか?」


 考える仕草をみせる誠司くん。まだ、わからないかな。


「質問は終わり?」


 ならばヒントを。そう思ったら、誠司くんが続けざまに聞いてきた。


「いや、ちょっと待て。……でも……誰だ? お前と接点があるやつなんて特進科にいたか?」


 そんなやつ、とっくに抹消しているはずだがとさらっという彼に、相変わらず過ぎて笑ってしまう。

 ああ、もうじらすのはやめにしよう。


「いるでしょ。一人だけ。他の誰よりも関わってきた人が」


 目を見つめ訴える。ここまで言った。後はどう返してくれるかだ。

 誠司くんは私をじっと観察していた。私がどこまで理解しているのかを計るかのように。


「……ああ、そうだな」


 しばらく無言のやりとりがあった後、彼は軽く笑って、そう返事をした。

 その瞬間、がらりと空気が変わる。

 声音までもが変わった。そしてそれだけでわかってしまう。彼が、私が誰の事を指して話しているのかを、正しく理解したのだという事を。


 ……そして私が正解をいうのを待っている。


 この瞬間を5月のあの日からずっと考えてきた。まずなんて言おう。何を話せばいいんんだろう。……私が忘れていた間も、ずっとそばにいてくれた彼に。

 あれだけ考えていたにも関わらず、第一声はとても当たり前の言葉になってしまった。

 考えすぎて、一周まわってしまったのかもしれない。


「……久しぶり、蓮」


 笑うつもりだったのに、涙声になった。

 彼は呆れたような顔になって、つかつかと私との距離を詰めた。ぐっと腕を取られ、あっという間に私は彼の腕の中。


「……相変わらず泣き虫だな。依緒里いおり





ありがとうございました。

次回投稿は2~3日以内で考えております。

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