表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/109

幕間2 ループする世界

こんばんは。今日は、ネタバレ回ですね。と言っても最低限のネタバレですが。

当然まだ、隠し要素は残っています。それではどうぞ。



 真っ黒な闇の中、私は何かに追い立てられる夢をみていた。何が追いかけてくるのかは分からない。だけど、それを私は怖いと思った。


「こんばんは、伊織」


 声と同時に唐突に表れるもやのような影。認識した途端、今まで見えていた周りの景色が急激に変化した。黒は白へと反転する。


「何の用?」


 息を吐きながらちらりと周りを確認する。追ってくるものはいないようだ。少しほっとした。以前コレと出会った時と同じで、昔住んでいた部屋が模してある場所。相変わらずの再現ぶりに嫌になる。ダイニングテーブルの上は見ないようにした。


「あれ? 私、歓迎されていない? せっかく苦労して忍び込んできたのに」

「人の夢に勝手に入ってこないで」

「でも、悪夢だったでしょう? 払ってあげたんだから、感謝してほしいくらいだけど」


 ちっと舌打ちする。追いかけられていたのを見られていたようだ。人の夢にまで干渉してほしくない。


「別に頼んでないし」

「うーん。どうしたの? 伊織。なんだか今日はえらく強気だね」

「あなたに好きなように振り回されるのに疲れただけ」


 そういうと、影はまた人型を取った。にやりと笑うように歪む。今日の影は真っ白で妙に気持ち悪い。


「今日は、忠告にきた」

「忠告?」


 聞き返す。気持ち体感温度が下がった気がした。


「そう。言葉通りだよ。あなたは一体何をしているのかな。私は、あなたに自分の役割をきっちりこなしてもらいたいのだけれど」


 威圧感に思わず一歩下がってしまった。理由は分からないけれど、この影、マスターは随分と怒っているようだ。


「今日はね、物わかりの悪いあなたに、ある程度説明をしてあげようと思ってきたんだ。……このままじゃ、あなたはきっと間違えるから」

「間違い……」


 人型を取った影は、ぶわっと一瞬広がった。周りの景色がまた変わる。辺り一面が元のように黒くなる。だが、その中にはいくつもきらきらと光るものがあった。


「ただ、あなたを混乱させたことは謝るよ。ちょっとしたいたずらのつもりだったんだ。それであんなに落ち込まれるとは思わなかったから」

「何の話?」

「世界は何周目?」

「っ!」


 目を見張った私に、影は揺らめく。


「悪かったね。脅すつもりはなかったといえば嘘になるけど大丈夫、今は1周目だよ。あなたが間違えなければ、このまま世界はループを迎えることなく順調に先に進むはずだ」

「1周目……」


 自分でもよく分からない安堵に、へたりとその場に座り込む。

 そこに容赦なく突き刺さる言葉。


「でもあなたが、選択を間違えるたびに世界はループする」


 顔を上げると、すぐ目の前まで影は来ていた。


「ループの数は、あなたが彼を選ばなかった数。あなたが彼にたどり着くまでの数だ」

「……私にディアスを選べって?」

「最初からその選択肢しか、あなたにはないよ。それがあなたをこの世界に呼んだ理由の全てだもの」


 驚愕に表情が固まる。目を見開いたまま、影を見つめる。


「あなたが彼を選ぶのは必然なんだ。彼の為だけに用意された花嫁、それがあなた」


 だからよそ見されると困るんだよね、と影は言う。


「あるルートでは、あなたが彼に辿り着くまでに10周を要した。あるルートでは7周。ひどいときは、15周というときもあった。最短が5周だ。最後には彼にたどりつくとはいえ、これだけ彼を傷つけ続けるのは正直どうかと思うよ」

「何の話……」


 影のいう言葉の意味が分からない。


「どれもすべて、未来で彼と結ばれるまでの世界のループ数だよ。色々なルートを経て辿り着くのはどれも同じだけれど、ループする数が全然違うだろう?」

「なんで何通りもあるの……」


 息苦しい。何を言っているのかさっぱりだ。嫌な予感しかしない。どくんどくんと鼓動が早まる。


「あなたたちの世界でも同じ概念はあるでしょう? 選択によって未来は枝分かれする。その枝葉の数だけ道は存在するんだ。あなたは彼と結ばれる。そこに運命は集約される。だけどそこに至るまでのルートが違うんだ」

「そんな……まるで先が決まっているかのような……」

「決まっているよ。私の未来視でみる結末は絶対だ。必ずあなたは最後には彼の元へ行く。その後、契約者になるか世界を崩壊させるかはあなた次第だけど、それ以外の終着点はない」


 影が両手を上げると周りのキラキラしたものは輝きを放ち始めた。そしてぐるぐると私たちの周りを回りはじめる。


「だからね、余計な事をしないでほしい。私は彼が悲しむのを見たくない。彼がこの先苦しむのが分かっていたからこそ私は動いた。……どうせ結ばれるのなら、1周目で結ばれた方が皆、幸せだと思わない?」


 1周で辿り着くのは正直無理だと思っていたんだけどねと影は笑う。


「彼と出会うためには色々な前提条件がいるからね。だから私としては2周で結ばれてもらう予定だったんだよ。一度くらいはループするのも仕方ないかなと……私の見た未来視では、どうやっても5周以上かかっていたしね。それを変える為に、外的要因を盛り込んだというわけ。結果は今のところ大成功。ずいぶんと好き勝手やってくれたから色々と大変だったけど、そのおかげで1周目にして、すでに彼の気持ちはあなたのものだ」

「外的要因……」

「そう。最初から彼の事を好きな子を伊織として連れてくれば、条件が変わるから、少ない周回で結ばれるルートもできるんじゃないかと思ったんだ。だから、あなたの世界に行くことにした。私はこの世界では制約があって現実に直接干渉できない。別の世界に行く必要があった」

 

 そう言って、影は一つの光を指さした。


「これが、あなたの世界。この世界と非常に似ているという点で選択した。細部は違うけどいわゆる平行世界に近いと思う」


 影の指さす光を凝視する。きらきら光るそれが自分のいた世界だなんてとても信じられない。


「……ならやはりここは、ゲームの世界じゃないのね?」


 震えるようにいうと、影は大きくうなずいた。


「勿論。あなたも言っていたじゃないか。『現実』だと。あなたの前にいた世界と同じように時が流れる、別個に存在する世界だよ」

「じゃあ、じゃあなんで私たちの世界にあのゲームが……」

「求める魂を集める為、私が広めた。彼の事をみせるのは正直言って不本意ではあったけれど、ああいう形が一番手っ取り早いと思ったからね。私が見た、未来視の内容を簡略化してゲームとして売り出した。求める魂の条件は2つ。数あるキャラクターの中で彼が一番好きなこと。全てのルートをクリアしていること」


 女性であることは勿論だよ。という影をひたすら見つめる事しかできない。


「一定期間をおいて、イベントという形であのゲームに惹かれたファンを集める。その中から選ぼうと思っていた。でも、何の因果かあなたがあそこで死んだ」


 否が応でも思い出す。私の最後の舞台。


「求める条件には合致している。本当は事情を話してこちらへきてもらうつもりだったんだけど、あなたはもう死んでしまっていて、魂は体を離れようとしていた。時間もなかったし、そのまま小鳥遊伊織として転生させた方が早いと思った」


 記憶が戻ったタイミングは操作していないからと付け足した。


「偶然は必然だ。結果としてあなたは選ばれた。選ばれたからには、全力をもって彼を幸せにしてもらわなくては困る。……分かってくれた?」

「……あなたは、何者?」


 目の前の影は、私を転生させたと言った。ゲームを広めたと言った。


「そんな問答はいらないよ。私の事はどうでもいい。もし知りたいというのなら、彼の契約者になった後、ご褒美に答えてあげる」


 その時には、彼が教えてくれるかもね。と影はいった。


「ディアスと知り合いなの?」

「古い、ね」

「あなたも悪魔?」


 そう言った途端、影は怒ったようにふくれあがった。いきなりの膨張に驚き固まる。


「誰が悪魔だって? 一体誰をさして言ったのか、私に教えてほしいよ。彼を悪魔だと言ったのは、過去の人間たちだ。彼が一度でも自分をそうだと認めた? 彼が悪魔なら、一体人間はなんだっていうのだろうね?」

「ご、ごめんなさい。ゲームで言っていたものだから」


 あまりの剣幕に震える声で謝る。確かに、ディアス自身が悪魔だと言った記述はどこにもなかった。


「……あなたに怒っているわけじゃない。だけどあれには本当に腹が煮えくり返るかと思ったよ。改編してやろうと何度思ったか。でも、変にいじって妙な先入観を植え付けても困るから、我慢していたというのに」

「ディアスは、何者?」

「それこそ彼に聞けばいい。あなたになら教えてくれるだろう。……ただし、後悔しないようにね」


 悪魔より聞いて後悔するものって何だ。やはり聞かないスタンスを貫いた方が自分の為になりそうだ。


「私が言いたかったのは、運命なのだからさっさと彼とくっついてほしいって事だけだよ。折角のプロポーズも保留するし……あなたは彼が好きだろう?」


 何を逆らっていると言われ、かちんときた。ふつふつと怒りがこみ上げる。


「……じゃあ、なんで私だけにしなかったの」

「なに?」

「なんで、他にも連れてきたの! 悠斗や蓮を、どうして!」


 怒りのあまり、涙がにじむ。ぎりっと影を睨みつけた。


「蓮がいるから! 蓮の事を覚えているから、私はどうしたってディアスを選べない! それくらい連れてきたあなたなら分かった筈でしょう!」


 叩きつけるように叫んだ。影を睨みつけたまま視線は逸らさない。影は少しひるんだ様子をみせた。


「……不可抗力だ」

「え?」

「あれは不可抗力なんだよ。私は最初からあなたしか連れてくる気がなかった。不確定要素は多すぎると思わぬ事態を招くから。……だから驚いたよ、今年あなたを観察していたら、次から次へと転生者がでてくるのだから。多分あなたを転生させたときに、近くにいた魂も一緒にこの世界へ引きずり込んだんだと思う」

「偶然?」

「そう。おかげで、不測の事態はやたらと起こるし、修正に走るのに大変だ。現実には直接干渉できないから特にね」


 そう言って影は指を鳴らした。ぱっと周りの風景が元の私と蓮の部屋に戻る。


「……もっと困ったことも起こった。これは私の自業自得なのだけれど、そのせいで一度世界を崩壊させかけた。想定しない要因が増えすぎたせいで、あの時見た未来視のルート分岐はすでに当てにならない」


 考え込むように影はうなった。腕を組む仕草をし、自分の腕をとんとんと叩く。


「条件が変化したのだから、本当はもう一度未来視をし直す必要がある。でも今は不可能だ。未来視をする条件が満たせない。……だけど他の何が変わっても、収束する未来はかわらないはず。だから、下手なことをして世界を不必要にループさせないで」

「そんなこといわれても……」


とまどう私に、影は容赦なく言葉を被せる。


「……そういえば朝比奈蓮、彼はあなたの旦那さんだったね。――――誰?」

「知らない」


 反射的に返したが、影は笑った。


「嘘はいけない。あなたはもう知っているよね? 彼の動向は特に気を配る必要がある。教えてくれないかな?」


 確信をもって話す影に唇をかみしめる。


「嫌だ。……どうせもうすぐ私は蓮と会う。そうしたら嫌でも知ることになるでしょう?」

「ふうん。あなたはもう一度旦那さんを選ぶの?」

「あなたに教える必要はない」

「無意味だよ。どうせ繰り返す。最後に行きつく先は一つしかないのに」

「……ループの原因はなに」


 悠斗と話し合った事を思い出す。ループの原因を探らなくては。


「言ったじゃないか。あなたが彼を選ばないからだよ。それ以上は教えない。必要がないからね。……ループさせたくなかったら、きちんとあなたの仕事をするんだね」

「仕事って……」

「彼と結ばれる事。簡単なことだろう? 条件に合致したんだ。あなたは彼が好きだった筈だ」

「私は2次元の好きを3次元と混同したりはしない」


 いくら訴えても、影は聞き入れてくれない。無駄に疲れる問答だった。


「忠告はしたからね。本当に彼にはあなたしかいないんだ。……余所見しないであげて」

「ちょっと! 自分の言いたいことだけ言って消えようとしないで! こっちの質問にも答えてよ」


 消えようとする影を捕まえる。感触は煙をつかんだような頼りないものだったが、引き留めには何とか成功した。だが、自分の行動を止められた影は不機嫌な様子を隠そうともしない。


「どうして私があなたの疑問に答える必要があるのか、私に分かるように説明してくれるかな。あなたと私は対等な関係ではないのだということを理解している? 彼の契約者ではないあなたなんて、私にとっては塵芥ほどの価値もないんだよ」


 だからあなたには名乗らない。

 そう影は呟く。


「彼の為に、あなたに近付いているだけ。彼と違って、私は人間に興味がない。そんな私が親切心であなたの望みをかなえるとでも思う?」

「でも、前は……」

「あれはお礼だっていったでしょう。もう忘れちゃった? 今日は忠告、いや叱りにきたんだよ。何をやっているんだってね。だから、あなたの知りたいことは何も教えない」


 知りたいなら、相応の対価を支払ってね。淡々と続ける影に本能的な恐怖を覚えた。


「わかったね。こちらもリスクを負っているんだ……さあ、もうすぐ朝になる。起きなさい」


 冷たい声とは裏腹に、やさしく影は背中を押した。ぽんと押されよろめく。一歩踏み出したところで、床が消えていることに気が付いた。


「え? ……うわああああああああ」

「次に会うときには、あなたが彼の契約者になっていることを望むよ」


 上から声が降ってくる。でもこちらはそれどころではなかった。

 落ちる、落ちる、落ちる。遊園地のフリーフォールだってこんなに怖くなかった。命綱なしのバンジージャンプをさせられている気分だ。気持ち悪い感覚がお腹からせり上がってくる。


「き……気持ち悪いー!」



 叫んだところで目が覚めた。まだ心臓がばっくんばっくんいっている。呼吸を整え起き上がった。時間を確認する。朝の6時半。


「……なんだったの、あれ」


 ベッドの端に腰かけて呆然と呟く。自分の言いたいことだけ言って、去って行った(いや、強引に帰された)自称マスター。悪魔ではないようだったが、人を転生させたり夢に現れたり一体何者なのだろう。


「……神様、とか」


 考えて、首を振る。マスターはこちらの世界に干渉できないと言っていた。自分の世界に干渉できない神様なんているものか。


「ああ、またわからないことが増えた……」


 分かったこともある。自分の立場を理解しろと色々説明してくれたからだ。

 分かった事は、どうしたってマスターが私とヴィンスをくっつけたがっている事。未来視という能力をもっていること。前世においてあのゲームを作ったのが彼で、この世界に連れてきたのも彼だという事。蓮たちの転生は、偶然だった事。

 どうやら、ヴィンスは悪魔ではなく、マスターとは古い知り合いらしいという事。


 逆に、わからないのは、ヴィンスとマスターの正体。関係性。マスターが過去にやらかした何か。未来視とは違う方向に変化したかもしれない未来。そして未来視ができない現状。ループする詳しい条件と発動方法。あ、ヴィンスの結界消滅の話もあったな。


「まだ他にもありそう」


 気が付いていないだけで、わかっていないことはたくさんあるはずだ。でなければ話がつながらない。でも、マスターは私の知りたいことを教えてくれるつもりはないようだった。


「悠斗に報告かな……」


 現状打破の情報が手に入ったわけではないが、報告する必要はあるだろう。

 ああ、それと――――。

 自分の出した結論にため息をつく。気は進まないが仕方ない。本当はもっと時間が欲しかった。でも、時間があればあるほど決められなくなるから、私にはこれくらいがちょうどいいのかもしれない。

 一つうなずく。

 私はこの時、あることを決意した。

 




次回は週明けを予定しています。さらっとあがれば、週末になるかも。

更新のお知らせは随時活動報告にて。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ