8月下旬 定期連絡会
こんばんは。
報告ですが、これからしばらく1週間に2~3回の更新に変更します。曜日は特に決めていないです。毎日ではなくなりますが、更新は続けますので変わらずのご愛顧をよろしくお願いします。
「は? エンド分岐?」
「そう。びっくりした」
「びっくりしたじゃねえよ。はあああ。俺の知らない間に何やってんだ、あんたは」
テーブルの上に突っ伏す悠斗を眺めながら、私はゆっくりとアップルティーをすすった。
◇◇◇
『紅茶専門店 アフィリア』についた私たちは、いつもの席を陣取った。平日の昼間ともあって、他の客は少ない。手早く注文をすませる。
「私は、スコーンと今日はアップルティーを」
「俺は、今日はアッサムをミルクで。スコーンもお願いします」
「はいはーい。伊織ちゃんはストレートでいいのよね? 付け合せは何にする?」
注文を聞いた理玖さんは、手際よくオーダー用紙に記入していく。今日もとっても綺麗。理玖さんが手元でくるくる回すボールペンを眺めながら、今の気分を考えてみた。
「今日は、ブルーベリーのジャムがいいです」
「俺は、アプリコットで」
悠斗もこの店をかなり気に入ってくれているみたいで嬉しい。アプリコットジャムも美味しいのだ。後で少し分けてもらおう。
「了解。運がいいわねえ。スコーンは丁度焼きたてよ」
「やった。持ち帰りに少し包んでもらえますか?」
色々心配もかけたし、兄にもお土産に持って帰ろう。食後に一緒に食べるのだ。
「ええ、いいわよ。帰るまでに用意しておくわね」
「ありがとうございます」
キッチンへ下がっていく理玖さんを目で追いかけてから、悠斗の方をむいた。
「で?」
「あ? で? ってなんだよ」
「そっちこそ、なんだよじゃないよ。総ちゃん。どうしてああいうことになったの?」
朝からずっと聞きたかった事を尋ねれば、いきなりかよと頭の後ろに手をやって、そのままがりがりかきむしる。この仕草、良く見るけれど悠斗の癖なのだろうか。
「別に。ダチになっただけ」
「だけって……。あんなに嫌がっていたのに……」
そう言えば、こちらを剣呑な目で睨んできた。
「もとはと言えば、誰のせいだと……」
「う。ごめん」
しゅんと小さくなる。この件に関しては、本当に悠斗には頭が上がらない。
「あら、女の子をいじめちゃ駄目よ」
頭の上で声が聞こえて顔を上げる。理玖さんが、注文の品をもってにっこり笑っていた。
「いえ、いじめているわけでは」
「すみません、理玖さん。私が悪いので、気にしないで下さい」
完全に誤解だ。理玖さんはそれならいいけど、と目の前に紅茶を置いた。
「なんだか痴話げんかみたいにみえたわ」
ごゆっくりと去っていく理玖さんに二人して絶句する。
ありえねえ、という悠斗にそれは私のセリフだとすぐさま返した。
「なんだか、毒気抜かれちまったな」
「理玖さんって、そういう雰囲気もっている人だからね」
「ま、いいか。あー、話の続きなんだがそうだな。なんていうか、あいつ苦しそうにみえたからさ」
「苦しそう?」
聞き返せば、悠斗は頷いた。
「あんたも、気が付いていたんだろう? あいつ、止めてほしがってた。自分では止められないから、誰か止めてくれってずっと叫んでいるように俺には聞こえたよ」
「……うん。でも私じゃ、駄目だから」
悠斗の言葉に思い当たる節があったので肯定する。私では、多分総ちゃんをもっと暴走させるだけだっただろう。
「ああ、それもあいつはちゃんと分かっていたよ。……それにさ、俺、知ってたから」
「悠斗?」
「俺、総太朗のルートはクリアしてるから。本当はあいつがどういう奴なのか知ってる。……だから、歪んでしまったあいつを、正直見ていられなかった」
「……ゲームの総太朗は幼馴染キャラ。面倒見のいいお兄ちゃん、って感じだったよね」
「影も形もないけどな」
二人目を合わせて軽く笑う。そうか、悠斗も『総太朗ルート』クリアしたって言っていたものね。
「本当はこんな奴じゃないのにって思ったら、放っておけなくてな。つい、色々言っちまって……後はなんていうか、ノリだな」
「ノリ、ね。分かる気がする」
勢いで突っ走ってしまったのだろう。経験があるからわかる。
「こういっちゃなんだけど、あいつほっとしてたぞ。これ以上、あんたに迷惑かけずにすんでよかったって言ってた」
「総ちゃんが……」
「あいつ、付き合ってみればやっぱりいいやつなんだよ」
「うん……さっき総ちゃんが、ゲームの総太朗に被って見えたよ」
そう言えば、ああと悠斗も続ける。
「俺も、最近そう見えることが増えた。あれが本来のあいつの姿なんだろうな」
「うん」
黙ってカップを傾けた。一つ呼吸をし、悠斗に向きあう。
「ありがとう」
「ん?」
「私では、総ちゃんを助けてあげられなかった。……本来歪む必要のなかった彼が歪んでしまったのは、私がフラグを折ってしまったせいだから。本当にありがとう。感謝しています」
思い切り深々と頭を下げる。
……ずっと気にしていた。私が幼い頃フラグを無意識に折ったことにより、良くなった人もいれば、悪くなった人もいる。総ちゃんはその負の部分を請け負ってしまったみたいに思えて、自分勝手かもしれないが正直心苦しかった。
「伊織?」
「総ちゃんは私のせいで歪んでしまったから、どうしても助けてあげたかった。私ではできない事をしてくれて本当にありがとう」
「おい、そういうのいいから、顔をあげろよ」
もう一度頭を下げる私に悠斗は焦ったように言う。顔を上げれば、羞恥の為かすこし顔を赤く染める悠斗がいた。
「別に、あんたのせいとかじゃないだろ。そりゃあんたはヒロインかもしれないけど、全部が全部あんたのせいだってわけじゃない。わざとやったというならまだしも、結果が分かっていたわけでもないんだから、あんたが責任を感じる必要はどこにもない」
「悠斗」
「総太朗の事は、俺がしたくてやっただけのことだ。うじうじして、いい加減腹が立ったからな。……あんたは関係ない」
だから、気に病むな。そう言われて、黙って頷く。涙腺が緩み、慌ててこらえた。最近本当に涙もろくて嫌になる。なんとかせりあがってきた涙を押さえようと下を向いたまま、必死で目を見開いた。
「ああ、もう。あんたは。ほら、スコーンでも食えよ。紅茶もさめちまう」
「……うん。そうする」
涙をこらえているのがばれてしまったらしい。彼のやさしさに少し笑い、勧められるままにお茶を飲み、スコーンを頬張った。
「おいしい……」
「だな」
お茶とお菓子をじっくり味わえば、少しずつ落ち着いてくる。なんだか、自分が情けなくておかしくなった。
「伊織?」
「なんでもない。……情けないところ見せてごめん。最近こんなのばっかりだよ」
笑って言えば、悠斗は身をのりだしてきた。顔は真剣そのもの。
「……伊織。俺の話はどうでもいい。そんなことよりも、あんたの方の進捗を教えてくれ」
何かあったんだろうという悠斗に、今度は乾いた笑いがこぼれる。さて、どこまで話したらいいのやら。
「ディアスのエンド分岐……」
そして話は冒頭に戻る。かいつまんでこの数か月の事を説明した。ディアスと3年前あっていた事。エンド分岐の選択肢を提示された事。マスターの事も。
「終わってるでしょ。いきなり例のセリフが来た時にはどうしようかと思った。……あ、悠斗ディアスルートクリアしてないんだっけ。セリフとかいってもわからないか」
そう言えば悠斗は首を振った。
「いや、わかる。あれだろ。『僕と永遠に……』みたいなセリフじゃなかったか」
「あ、知ってたんだ」
「確かにそこまでやってないけど、有名なセリフだろ。確か、プロモにも出てたじゃないか」
「そうそう。あのセリフにくらっときてつい購入ボタンを……じゃない。まあ、とにかくこんな時期に出るセリフじゃないから本気で冷や汗でたよ」
私の一目ぼれしたプロモで出てくる彼のセリフが、そのままラスト分岐の言葉だった。何考えているのか、制作メーカー。
「本当だったら3月か?」
「うんそう。早すぎるよね」
そう言えば、悠斗は少し考えるそぶりを見せた。
「あんた、3年前にすでにディアスにあっていたんだよな?」
「うん。可愛かったよ。別人過ぎてわからなかったの」
「で、そこで大々的にフラグをたててきたわけだ」
「……知らなかったんだから仕方ないと思うの」
「話を聞いた限り、どう考えてもエンドに求められる好感度はすでに達成してそうだよな。時期の話ではなく、好感度が上がり切った時点で選択肢発動か……」
「でも、世界崩壊しないように頑張ったんだよ、私」
必死で訴えると、微妙な顔をされた。
「頑張ったとは思うけど、あんた悪女街道まっしぐらだな」
「やっぱりそう見えるよね……」
頭を抱えてテーブルに突っ伏す。
「だって、3月までに私を落としてごらんなさいってことだろ?」
「はっきりと言葉にしないでー」
「しかも、そのレースに生徒会長さまも参戦とか。まあ、元々婚約者らしいけど、女子どもが聞いたら大変なことになるぞ」
「……ドイツに逃げ帰る」
「結界消滅したんだろ? 追っかけてくるぞ」
「詰んだー!」
うわああと嘆く私をどうどうと宥める悠斗。私の扱い最近こんなのばっかりだ。
「落ち着けって。まあ、エンドの先延ばしができただけでも良しとしよう。それより気になるのが、そのマスターってやつだな」
「うん」
べたっとテーブルに張り付いたまま頷く。
「世界は何周目……か」
「その話知ってる?」
しばらく考え込んだ後、姉ちゃんから聞いたことがあると話し出した。
「ガセだと思っていたから忘れていたんだけどな、あれだろ? ディアスルート以外の場合、3月中旬~下旬に何かが起こってループするって話だろ? ……まあ、よくよく考えれば、物語の終わる3月以降の話を描いてあるのって、ディアスルートだけだもんなあ。何度も繰り返して最後の最後に用意された、真の意味での攻略キャラへ辿り着くってか。そういえば、ディアスルートに入った時のオープニングこそが真のオープニングだって言ってたな。……あの話、まじかよ」
「……はっきり言われたわけじゃないけど、明らかに暗示されてると思った。ねえ、今何周目だと思う? 私全然記憶にないんだけど」
恐る恐る聞けば悠斗も困った顔をした。
「俺だってねえよ。あんたこそ既視感とかないのか? ……そうだ、ゲームではディアスルートのあちらこちらに、ループを匂わせるような記述があったみたいじゃねえか」
これも姉情報か。最後までクリアしてないくせに悠斗は詳しい。
「ない。ゲームとしての既視感はあるけど、これ体験した、みたいなのはないから。どれもこれも、あ、ゲームで見たってゲーム画面を思い出すだけ」
「ふうん。じゃあ、まだループしてないのかもな」
「ディアス出てきているのに?」
そう言えば、嫌そうな顔をした。
「それはあんたが歌ったからだろ」
「そうだけど……」
「ま、実際はすでにフラグ立ててたわけだし、関係なくでてきたような気もするけど」
「ゆうとー」
じとっと睨めば悪かったよと謝られた。
「考えても仕方ないんじゃね? 実際何周目だろうとやることは変わらないし」
「まあ、私もそう思ったけど。なんか、こっちを混乱させようとしているみたいに見える」
「マスターは、ディアスの味方なんだよな」
「うん。それ以外ありえないみたいな感じだった」
「ヒロインは、おとなしく攻略キャラとくっつけってか」
「……マスターって、やっぱりゲームマスターって意味なのかな」
憂鬱な気分になる。
「また来るかもって言ってたんだろ? その時聞けばいいじゃん。あ、そういや旦那探しの方はどうなってるんだ?」
「……それはいいや。蓮の性格考えたら、どうせどっかで首突っ込んできそうだし」
「そうなのか? ヤンデレだっていってたし、結構悲壮な覚悟を決めていたみたいにみえたけど……」
「思い出した直後はね。でも、蓮なら対応の仕方わかってるから大丈夫。もう少し放置することにした」
「あんたがそれでいいっていうならいいけど。キれて監禁される前に逃げてこいよ」
「……蓮に? それとも紅い悪魔に?」
捕まったら、どちらからも逃げられそうにないが。どうせ捕まるなら、自分でそれを選択したい。
「紅い悪魔、ね。姉ちゃんは、紅玉の君って言ってたぜ」
「昔は私もそう言ってた。2次元と3次元は違うんだよ」
「あんたが言うと説得力あるな」
「2次元で萌えられるからといって、3次元で惚れるかと言えばそうじゃないんだよね」
ため息をつきながら答えた。そうなれば、ある意味一番楽だったのだけど。なにせヴィンスのルートだけは、綺麗に舗装されて目の前に広がっている。さあどうぞと言わんばかりだ。
「でも、違うんだよ……」
「伊織?」
悠斗が不思議そうに見つめてくる。私は視線を落として静かにつぶやいた。
「手に入れたい好きではなかったという事、かな」
恋愛には至らない好き。それが今ヴィンスに向ける感情。ヴィンスの事は嫌いではないけれど、いくら彼が心を尽くしてくれても、私はそれに応える事ができない。
「それ、すでに答えがでてるってことじゃ……」
悠斗がうかがうように尋ねる。
「……どうだろう。正直私にもわからない。もう決まっているのか、それとも違うのか。でも、心は揺れ動いているよ」
素直な気持ちを伝える。
悠斗はそうかと言ってから付け加えた。
「せっかく頑張って望む未来を繋いでも、ループしてしまうなら意味がないよな。……思ったんだけどさ。なんとかループする要因を探ってみないか?」
もしかしたら、ループしないようにできるかもしれないだろうと言われて一瞬ぽかんとする。思いもよらなかったことを提示され、思わず悠斗を見つめた。
……そうか、ループする原因か。考えもしなかった。
「そう、そうだね。ありがとう悠斗。私、全然気が付かなかったよ」
思わず悠斗の手を握り締めて言えば、苦笑された。
「だから、思いつめるなっていってんだろ。思い浮かぶものも浮かばねえよ」
「うん、そうだね」
「俺は、姉ちゃんから聞いた事とかゲームの内容をもう一回洗いなおしてみるから、あんたは関係ありそうな奴から情報集めとけ」
言われて思い浮かぶのは一人だけ。
「ディアスとか?」
「しかねえだろ。あとは、マスターだな」
「もし会えたら聞いとく」
ふんふんと頷いた。どん詰まりと思っていた道が少し開けたような気がする。
「できる事からやっていこうぜ。……とりあえず、この話はこれで終わりだ。ここ、あんたのおごりなんだろ? 紅茶、もう一杯頼んでもいいか?」
今度はゆっくりお茶を楽しもう、そういう悠斗に勿論私は頷いた。
ありがとうございました。




