ヴィンス固定イベント 祭 上
こんばんは。今回の話ですが、かなり長くなってしまったので2話に分けます。
区切りがいいところがないので、一話目は短めです。2話目ですが、あまりあけない方がいい話なので、明日は22時ではなく、でき次第UPします。すでにほとんどできているので、早ければ今夜中にも……よろしくお願いします。
非常に不本意ではあったが、師匠に話は通した。
明日、ヴィンスが迎えに来ることを伝えれば、にやにやしながら『帰ってこなくてもいいわよー』なんていってくる始末。『馬鹿なこと言わないでください』とはっきり言って自分の部屋に戻ってきた。
「明日、どうしよう」
ホテルの部屋に戻って、ベッドに転がる。ヴィンスとのデート。どんな顔していけばいいのか。
「どうせなら……」
ぼそっと独り言をつぶやいて、はっと我に返った。 今、私何を考えた?
いや、違うでしょう。だって、よりによって。
馬鹿な事を考えるなと自分に言い聞かせる。
考えを打ち払うように、一つ呼吸をした。そんなことよりも今はとりあえず、明日何を着ていくかだ。
部屋に届けられたトランクケースを引っ張りだし、中を探る。浴衣は……さすがに持ってきていない。ないものは仕方ないので、普段着でいいかと思った。それにわざわざ浴衣で行ったりしたら、意識していますと宣伝しているみたいでいやだ。
気にしなくていいか、と息を吐いた。
結局考えすぎなのだ。どうみられるかとか、いちいち考えると何もできない。
「いいや、別にいつもどおりで」
そう結論付けて、もう一回ベッドに転がった。タイミングよくホテルの電話がなる。
慌てて、起き上がり受話器を取った。
「はい」
「お休みのところ申し訳ございません。ただ今、ディアス様という方がお見えになられて……」
「……はあ」
数分後、私の部屋には大きな箱が届けられていた。
ヴィンスからの贈り物らしい。中身は予想がついている。乾いた笑いが先ほどから止まらない。半分あきらめながら、箱を開けた。綺麗におさめられていたのは、予想通りの浴衣が一式。
「……これ、着てこいってか」
頭痛がする。
仕方なく取り出して、浴衣のメーカーを見てまた痛みがひどくなった。
これ、うちや誠司くんの家御用達の、某高級メーカーの浴衣だよね。一着いくらかかるとかあまり真面目に考えたくないところの。嫌な予感がして、浴衣をあちこちチェックした。ほぼ予想通りの結果にがっくりする。
……こんなもの、黙ってぽんと送りつけてくるとか何の嫌がらせだ。値段や色々な情報をもっているだけにいたたまれない。「ありがとう」の一言で受け取れるような品では、絶対にない。
「さすがに、きれいだけどね……」
気に入らないわけではない。だが、素直には受け取り難い。
仕方なく、スマホを取り出した。無言でヴィンスの番号を選ぶ。
「はい」
「こんばんは、ヴィンス。……浴衣、届いたわ」
ヴィンスが出てすぐ、私は要件に入った。彼の都合は無視する。最初に仕掛けてきたのはそっちだ。案の定気にした様子もなく、会話に応じてきた。
「無事受け取ってもらえましたか。良かったです。きっと伊織さんに似合うと思ったので、明日楽しみにしていますね」
「ヴィンス……」
嬉しそうな声で話すヴィンスに対して私の声は低い。いつもなら悶える彼の声も、今は気にならないくらいだ。
「どうしました? 伊織さん。ご機嫌斜めのようですが。僕の贈り物は気に入りませんでしたか?」
「……そうじゃないんだけどね。浴衣はとても素敵なデザインだったし、メーカーもお気に入りのところで文句のつけようなんてないよ」
「そうですか。それはよかった」
「……でも問題が一つあってね……この浴衣、オーダーメイドだよね。ここのメーカーは確かに既製品も作っているけど、これについているタグは、オーダーメイド品にしかつかないもの。……発注して、数日でできるものではないよね」
そう、私が気になったのはそこだ。浴衣を眺めてこのタグを発見した時には、戦慄を覚えた。サイズを知られていた事にも疑問を感じたが、この浴衣をいつ発注したのか。
「そうですね。春先には発注しましたから。……それがどうかしましたか?」
あっさり、吐いた。しかも、春……だと。それって、ヴィンスと再会してすぐのことじゃないか。そんなに前から用意していたというのか。あまりの用意周到ぶりに背筋が震える。
「……祭りの話をしたのは昨日の事なのに、ずいぶん用意がいいなあと思ったから確認したくなったの」
「そうですか。夏は是非あなたと祭りに行きたいと思っていましてね。気が早いと思いつつも用意してしまいました。無駄にならなくてよかった」
早すぎる。
「……ヴィンスの事を思い出さなかったら、行かなかったと思うけど」
「あなたは思い出してくれた。それが全てですよ」
「……」
なんか、背筋がぞわっと冷えた。思わずスマホをもっていない方の手で、背中をさすってしまった。
「とにかく、それを着た伊織さんを明日、僕に見せてください。そのために用意したのですから。異論は受け付けません。いいですね?」
「……こんな高価なもの、受け取る理由がない」
「そんなこと気にしないで下さい。僕が勝手にしたことです」
「あのね、私もよく使うメーカーなの。値段が分かってしまうの。黙って受け取れるような品じゃない事は、知ってるんだって!」
思わず怒鳴りつけるように言ってしまう。
「ですから、気にしなくていいと言っているのに。僕は、この学園の理事長ですよ。大した負担ではありません。それはあなたの為に作らせたものです。あなたに着てもらえなければその浴衣もかわいそうだと……そう思ってはもらえませんか」
「それは! ……ならせめて、代金を払わせて」
「駄目ですよ。男に恥をかかせないで下さい。あなたに自分の贈ったものを着てもらいたい。あなたの為ではなく自分の欲の為にしたことなんですから。あなたに支払わせるようなまねは、させられません」
話は平行線で一向に縮まらない。ヴィンスは引かない。でも私も引きたくない。
「……伊織さん、あまりわがままばかり言っていると、直接僕がそちらに行って着替えさせてしまいますよ?」
「は?」
焦れたように急に声のトーンを変えるヴィンスに、一瞬何を言われたのか分からなくなる。
「大丈夫です。僕着物の着付けもできますから。抵抗するようなら……お仕置きも必要ですね?」
ぞくっとするような甘い声でささやかれて、頭の中の警報装置が、ものすごい勢いで警戒音を鳴らし始めた。
「え、ちょっと、ヴィンス?」
考えてみれば、すでにヴィンスには何故かホテルの部屋までおさえられているのだ。彼がその気になれば、こちらに跳んでくることなど容易にできることで……。
そこまで考え、私は顔面蒼白になった。
「わ……わかった! 着ていく。着ていくから! こっちに来ないで!」
「……そこまで拒否されると、どうしても行ってみたくなるのですが」
「来たら、デートなんてしないから!」
必死にそう言えば、ヴィンスはくすりと笑った。
「わかりました。それは困りますからね。では、明日、楽しみにしていますよ」
おやすみなさい。という声を最後に電話は切れた。
……結局ヴィンスの思うようにもっていかれた気がする。全然太刀打ちできない。
スマホを放り投げて、もう一度浴衣を見る。
どうあがいても、これを着ていく他ないらしい。
はあと嘆息して、憂鬱な気分で浴衣を箱の中にもどした。
ありがとうございました。
では、できるだけ早めにあげます。




