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総太朗視点 下

こんばんは。予告通りです。

 

 結局、俺は彼女との時間を得ることに失敗した。

 試験結果は3位だ。

 伊織ちゃんは1位だが、そこはどうでもよかった。

 問題は2位。今里悠斗。

 あれだけ勉強したのに何故届かなかったのか。

 賢いという事は聞いていたから、伊織ちゃんに話しかけることすら我慢して、必死で勉強したのに。

 それこそ、こいつを抜くことだけを目標に。

 結果だけ見れば数点差。だが、今の俺にはその数点差が憎くて仕方がない。

 敵を睨みつけ、つかつかと詰め寄る。

 伊織ちゃんが話しかけてきたが、頭に血が上っていて応じることができなかった。ぎりっと奥歯を噛みしめる。思いのままに、勝負を次回に持ち越す事をつげ、その場を去った。

 ……もっと勉強しなくてはならない。あいつを打ち負かすまではやめられない。

 それでも。勉強しても、勉強しても勝てる気がしない。

 数点差だと思えた差が、もっと大きなもののような気がして仕方がない。

 目に見えて縮まっていく生徒会長と伊織ちゃんの距離。それを分かっていながら今、自分にちらつくのは今里の影。

 いらいらしながら図書室へ通う。家で勉強するより効率がいいことに気が付いてからは、放課後はいつもここで過ごしている。

 分からない問題に手間取り、髪の毛をかきむしる。

 ああ、何もかもが気に入らない。


「あんた、ここ間違ってる」

「あ?」


 ノートの一点を指されて、顔を上げる。そこには、俺の仇敵の姿があった。


「なんだ、今里か」

「ずいぶんな挨拶だな。由良。親切に教えてやってんのに。ここ、この公式使った方が早いぜ」


 とんとんとノートをたたかれ、ますますいらっとする。だが、示された公式に目がいくと、思わずああと納得してしまった。不本意ではあるが、その通りに解いてみる。あれだけ悩んでいたのがうそみたいに、答えにたどり着いてしまった。


「……」

「……おい、なんか言ったらどうだ」

「うるさい」

「それが教えてもらったやつの態度かよ」

「頼んだ覚えはない」


 そうかよという今里を苦々しい気持ちで見る。伊織ちゃんの隣にいて、平気な顔で笑っているこいつが憎い。そのポジションは本当だったら俺のものだったかもしれないのに。


「まあ、いいけど、じゃ、俺はいくわ」

「……これも教えていけ」


 立ち去ろうとする今里を咄嗟に引き留めた。なぜかは分からないが何となくやってしまい、仕方なくわからなかったもう一つの問題を提示する。今里は、此方を見てため息をついた後、どさっと隣の空席に座った。

 ……結局かなりの時間、無理やりつきあわせた。自分がしでかした事とは言え、まさかこの男とこんなに長い時間、共にいることになるとは思いもしなかった。何となく、帰りが一緒になり並んで歩く。今更別に帰るというのも大人げない感じがした。


「……由良、あんたさ」


 帰り道、今里がぽつりとつぶやくように話しかけてきた。


「何?」

「いや、いつまでこんなこと続ける気だ?」


 どきっとした。足が止まり今里を見つめる。


「……どういう意味?」

「深い意味はねえよ。たださ、あんたも分かってんだろ? こんなことしていても伊織はあんたのこと、見てはくれない」

「……お前に言われなくても」


 そんなことは分かっている。ぎりっと睨みつける。


「伊織ちゃんが俺を見てない事なんて、とうの昔に理解してる! でも、俺が駄目なんだ。俺の方が、伊織ちゃんがいないとたっていられない!」

「んなことねえだろ。それは気のせいだ。今更、10年以上離れていた幼馴染を頼るなよ。あんたはもっと強いはずだろ」

「お前に俺の何が分かる?」


 言われたセリフに逆上する。好き放題言われて我慢できなかった。


「周りには何もなくなった。残されたものは、伊織ちゃんとの思い出だけ。それだけを抱えて今まで生きてきた、俺の何が分かるっていうんだ!」


 大音声に叫ぶと、ひどく冷静な声が降り注いだ。


「……何一人で不幸に酔ってんだ」

「なんだと?」


 俺とは真逆に、静かな様子で語る今里に眉をひそめる。


「何もないっていうなら、俺だって大概だ。……俺は生まれた時から、成人まで生き延びることは難しいって言われててな。結構な難病にかかっているんだよ。ここに転入してくるまで、世界各国ひたすら手術巡り。一回でも失敗すれば命はない。今だって、手術待ちでここに来てんだ。……そんな人生15年間ずっと、送ってるんだぜ」

 

 自分が世界で一番不幸だなんて思うなよ。

 そう言われ絶句する。今里の目は強い光を宿していた。まっすぐに自分を見つめてくる。そこに映った自分の姿にショックを受ける。ひどく情けない顔をしてこちらを見ていた。

 反して、今里は強い。どうしてそう在れるのかわからなかった。


「逃げんなよ。体よく、逃げ口見つけて停滞すんな。そういうのが見ていて一番腹がたつんだ。自分で持てないものを、全部伊織に押し付けて甘えて、あんた、ホントむかつく」


 全く言い返せなかった。

 日頃自分が心の奥底で考えていることを、さらされたと思った。

 ばれているのか。こんなあさましい自分を。

 よりによってこの男に。


「男だったら、好きな女に負担掛けんな。あんただって、伊織が何か抱えていることくらいわかるだろう。そんな女にさらに重荷になるようなもん、のっけるんじゃねえ」

「……俺……は」


 彼女の都合なんて考えた事あっただろうか。

 彼女がたまに悲しそうに笑うことに気が付いていたのに、無視して自分を押し付けてばかりではなかったか。自分を見てもらう事に必死で、彼女の事を思いやったことなど果たしてあったか。


「これ以上、あいつに負担かけるようなら、俺があんたを潰すからな」


 今里の目は本気だった。射抜くような視線を受け止めきれない。

 だが、心のどこかでほっとしたのも事実だった。

 ああ、やっと指摘してもらえた。

 自分が駄目だという事を、正しく指摘してくれるものがいてくれたのだと安堵していた。

 そして、きっとそれは当事者の彼女では駄目だった。完全な第3者である他人にしかできないことだった。

 ぐっと、こぶしを握り締める。自分が間違っていると認めてしまうことは、わかっていてもかなり辛い。

 だが、きっかけをもらえたのなら、後はそう難しいことではなかった。

 ……もうこんな不毛なことをしなくてもいいのだ。


「……そんなこと言って、今里、お前伊織ちゃんの事好きなの?」

「は?」

「今までの話を総括するとそうなるよね。お前、俺の恋敵なわけ?」

「んなわけないだろ! あいつは友達だ! んな感情もってねえよ!」


 そんなことは分かっている。

 今里が伊織ちゃんに抱く感情は間違いなく恋情とは程遠い。そこまで言ってもらえる伊織ちゃんがうらやましいと、そう思っただけなのだ。

 変な話だ。伊織ちゃんを羨ましいと感じるなんて。


「別に、心配してないし。気にするなら、お前じゃなく生徒会長でしょ。最近ますます調子にのってむかつく。……伊織ちゃんが嫌がっているなら絶対につぶしてやるのに」

「あんた……」


 俺の言い方が変わったことに目を見張る今里。

 そんなに驚くようなことでもないだろ? こういう自分も、確かに自分の中にいたのだから。


「お前に言われたからじゃない。……本当は俺だって分かっていたんだ。伊織ちゃんの迷惑になっていること。でも、止められなかった」

「……」

「ま、もういいさ。俺だって、伊織ちゃんを困らせたいわけじゃない。好きな女の子を困らせるなんて、小学生以下だ」

「……ああ、そうだな」


 何とも言えない顔をして、今里はうなずく。その顔がなんとも腹がたったので宣言することにした。


「……だけどお前はやっぱりむかつくから、次の期末で叩きのめしてやるよ」


 にやりと笑えば、今里は破顔した。


「上等だ」


 ――――久しぶりに楽しいと思えた。


◇◇◇


 伊織ちゃんは姿を見せなくなった。

 あれからぽつぽつ話すようになった今里に聞けば、彼女はピアノの師とともに行動しているらしく、芸術鑑賞が終わるまでこちらには来ないらしい。

 以前は、焦燥感に身を焦がしたものだが、今はそう気にならなくなった。元気でやっているのならそれでいい。


「ごほっごほっ」

「……お前、大丈夫なの?」


 それよりは、数日前からひどく咳き込むようになった今里が気になる。


「あまり大丈夫じゃない。今日から検査入院するから、しばらく来ないと思う」

「……ふーん。……保健室行ったら?」


 尋常ではない様子にそう言えば、今里は目をぱちくりさせ、笑った。


「あんた、俺の事心配してくれてんだ」

「な! ……別にそういうわけじゃ。ただ、テストの時にいなかったら、俺の不戦勝になるから嫌だと思っただけだよ」

「ふーん。まあ、そういうことにしといてやるよ」


 動揺してそういえば、今里はさらに笑った。

 ツンデレ乙と訳の分からないことを言われ、いらっとする。

 ……ほんとこういうところがむかつくんだよ、こいつ。


「今里……お前さあ」

「悠斗」

「何。名前くらい知ってる」


 いきなり名前を告げる今里に首を傾げれば、違う違うと言われた。


「そうじゃなくて。名前で呼べよ。総太朗」

「っ!」


 にんまりと見上げる今里に、かっと顔が熱くなった。


「おおー、照れてる」

「お前!」

「残念。俺にその気はないぞ」

「俺だってない! 俺は伊織ちゃん一筋だ!」

「知ってる」


 くくくと笑うこいつが本当に腹立たしい。


「じゃ、総太朗も心配してくれていることだし、ご忠告通り保健室いってくるかな」


 よっこいせと立ち上がる悠斗。しっかりした声の割には、立ち上がる姿は頼りなく、よろめくのをみて思わず支える。


「おい」

「あー、さんきゅー。……これ本気でやばいみたい」


 支えた体の熱が高い。これは本当にまずいのではないだろうか。


「……帰った方がいいんじゃない?」

「そうだな……すまん、家に電話してくれないか」


 スマホをあっさり差し出されて、戸惑う。俺が、こいつの電話をかけるのか?


「頼む。くらくらして操作ミスしそうなんだ。友人の頼みくらいきいてくれ」

「っ!」


 何も言えず、黙ってスマホを操作した。コール音が数度鳴り、父親と名乗る人物がでた。

 悠斗の様子を伝えると迎えにいくとの答えがあった。保健室で待っていることを伝え、電話を切る。


「……ほら、家の人迎えに来るって。保健室にいるっていったから、早く移動しよう」

「さんきゅー。ん? 総太朗、連れてってくれんの?」

「……病人放っておくほど、鬼畜じゃない」


 さっきからわざとかのように名前を連呼される。

 正してやろうと思っていたが、どうでもよくなってしまった。むしろ心地よさすら覚え、そんな自分に驚く。スマホを返そうとすれば、止められた。


「総太朗が持っていてくれ。俺、出られるかわかんねえし。ついでに、俺の番号登録しとけよ。知っといた方が便利だろ」


 俺のスマホにあんたの番号も登録しといてくれ、と笑っていう男を信じられないものを見る目で見つめた。

 ……この男は。

 いったい何なのだろう。先ほどから。次から次へと、こちらが対処できない攻撃ばかりを仕掛けてくる。何がしたいのかさっぱりわからない。名前でよんだり、番号交換を要求したり、はたまた家へ代わりに電話をかけろとか。

 ……これではまるで、俺がこいつと友人みたいではないか。そう思ってから、こいつのセリフを思い出す。「友人の頼み」確かにそう言っていた。


 まじまじと悠斗を見つめる。

 つらそうな顔をして、目をあけた悠斗は「ん?」と眉を寄せながらこちらを見た。慌てて保健室へ移動する。一人では動けないようなので荷物を持ち、肩を貸した。


「……悪いな」


 迷惑かけて、と弱々しく呟く悠斗に、黙って首をふった。よくわからないものが、胸の中にくすぶっている。でも、これは不快なものではなく、むしろ。


「別に……悠斗は友達だろ。当たり前だよ」

「ああ。そうだな」


 自分で言っておきながら、貰った返答に涙がでそうになった。後は黙って、できるだけ負担を掛けないように、保健室まで連れて行く。

 結局家の人が迎えに来るまで、悠斗のそばについていた。


「落ち着いたら、連絡するわ」


 ありがとな。そう言って手を振る悠斗に頷いた。「友達」と短く俺を紹介された彼の両親が、こちらに向かって丁寧に礼をする。慌ててこちらも礼を返した。

 帰っていく悠斗を見送る。教室に1人戻り、自席に座りながらなんとなく思った。

 なんだか、嵐のような時間ではあったけれど。

 ――――俺に、ある意味初めての友人ができた。

 ……つまらるはそういうことでいいのかな。




今回は、悠斗の心情の方を書いてないのでどう思われるかはわかりませんが、彼なりに自分のトラウマと向き合い、色々考えながらやっています。総太朗とのやりとりは、やっぱり彼もゲーム攻略者で、前世の記憶もちだったということです。

ありがとうございました。また明日。

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