イベント 芸術鑑賞
こんばんは。ぎりぎり投稿の生活が続いております。行けるところまでは行ってみたいと思います。今日も宜しくお願いします。
はてさて、紆余曲折があったが、本日ようやくの芸術鑑賞である。
芸術鑑賞は、ゲームの中でイベントとして存在する。
ディアスルートでも、その他の共通パートでもそれぞれ好感度上昇イベントとしてシナリオが用意されている。
ディアスルートの場合、「オペラ鑑賞」だ。
世界的有名オペラ歌手を主人公の為にディアスが呼ぶのだ。
勿論そのころはまだ彼が理事長だなんて知るはずもないから、ディアスが一枚噛んでいることを主人公は気付かない。
だが好きな女性の為に、鑑賞内容を変えてしまおうというのだから驚きだ。
さすがヤンデレ。基本的には尽くすタイプ。
話の続きだが、確か偶然主人公の歌をそのオペラ歌手が聞いて、彼女を気に入り滞在の間個人指導を受けることになる……といったものだったはず。
結果、歌のランクUP。
ついでにその間ずっと一緒にいたディアスとの好感度もぐーんとUP。そういう流れだった。
偶然と言ってはいるが、どうせ主人公の歌を聞くよう、ディアスが仕組んだのだろう。まめな男だ。
共通ルートの方は、もっと単純だ。内容は「歌舞伎鑑賞」となる。
本来は、こちらが正規の流れなのだろう。
鑑賞前に、誰を誘うのか選択肢がでる。
選んだキャラと鑑賞するというわけだ。ちなみに「誘う」必要があるので一定以上の好感度が必要。
選んだキャラとのお誘いイベントの発生は、放課後。
一人で歌っている所に選択したキャラと偶然遭遇。お誘いをしてオーケーをもらうという話。
ちなみに誘うキャラごとに、うたう歌が違う。歌につられてやってくるって、主人公はセイレーンか何かだろうか。とてもではないが、私にはまねできない。
鑑賞当日はそのキャラと一日過ごす。さらに追加のイベントが各キャラにある。……確かスチルも1枚づつあったと思う。
と、まあ以上がイベントの全容なわけだが、今回は「ピアノリサイタル」だ。
ご覧のとおり、一つもかぶっていない。
いい加減原作がどうとか、比較する意味を見いだせなくなってきた気がする。
おかげでどれがイベントかも、成功したか失敗したかもわからない。
これも私がピアノを選んだせい……なんだろうな。
ドイツ留学しなければ、ヴィンスと出会うこともなかったのだから。
本当ゲーム始まる前に、いろんなフラグ叩き折るし、はたまた拾うしで、我ながらいやになる。
ヴィンスの事だが、あれから彼は本当に毎日毎日私に付きまとってきた。
元々師匠の担当だから、世話係の私と接点が多いのは仕方ないことなのだが、それにしたって異常な頻度でヴィンスと出会う。そして口説いてくる。
……鬱陶しい。
あまりのしつこさに閉口した。せめてもの救いは他人がいるときは、理事長としての顔を保ってくれることだ。というか、そうしないと嫌いになると言った。
他の生徒たちに見られたら、恥ずかしくてもう学園になんて通えない。今すぐドイツにUターンする。
そう言ったら、なら僕も一緒にドイツに行きますよと軽く返された。
駄目だこいつ。なんでこんなに自由なんだ。
その辺り聞いてみたい気もしたのだが、そうなると、なぜ私が結界の存在を知っているのかという話になりかねない。自分から地雷を踏むのは御免こうむる。
少しでもヴィンスを遠ざけようと、私が考えたのが師匠のおやつ係作戦。
師匠が菓子でコンディションが変わることは説明済み。だから、この店の和菓子を用意してほしいと、それこそ全国津々浦々の有名店ばかりを次々にあげてみた。
……おかげで、師匠の機嫌もコンディションも今までにないくらいよい。
それはいいのだが、あまり時間稼ぎにはならなかった。考えてみればヴィンスには例の瞬間移動があるのだ。私の前で、もはや全く遠慮をしなくなった彼は、無造作に力を使う。おかげでちょっとコンビニへという気軽さでお使いに行ってくれるのだ。いや、コンビニに行くよりも早いかもしれない。
……作戦は失敗だ。仕方なく今度は行列店を集中的に選ぶことにした。並ぶ時間くらいは、時間稼ぎになるだろうと考えたからだが、これは案外うまくいった。
味を占めた私は、この作戦を使い続け、結果師匠の機嫌が天井知らずのうなぎのぼりになった、というわけだ。
『ふふ。ディアスの奴、いい仕事するじゃない。こんなに気分よく仕事できるの初めてだわー』
『……それはよかったです』
控室でご機嫌に過ごす師匠にため息をつく。確かに、おかげで仕事がやりやすくなったのは事実だ。
『ねえ。イオリはディアスの何が嫌なの? あいつあなたに首ったけじゃない。顔も頭もよくて地位のある男よー。誰かにかっさらわれる前にくっついちゃいなさいよ』
『師匠。いい加減にしてください』
すっかり師匠はヴィンス押しだ。
あの食事会から後、何かと理由をつけてディアスと二人きりにさせようとするのには本当に参った。リザに助けを求めても黙って首を振るだけだし……。
師匠がじーっとこちらを見てくるので諦めて口を開いた。
『顔も頭も地位もどうでもいいですよ。私の理想は世間一般で言うところの「普通の男」です。誰かが掻っ攫うというのならお好きにどうぞ。のしつけて差し上げます』
『本当に脈ナシなのー?』
『師匠、本当に恋愛話好きですね。ありませんよ。私はピアノだけでいっぱいいっぱいです。他にまわす余裕なんてないですから』
むしろそんな余裕があるなら、さらにピアノに使う。
師匠は、じゃあしょうがないかーと一人納得したように頷いた。
『イオリに気がないならこの話は終わりね。……残念だったわね、ディアス』
『はあ?』
思わず叫ぶと師匠の後ろからヴィンスがそろりと顔を出した。明らかに私を責める表情だ。何故。
「ひどいです。伊織さん。僕が他の誰かにさらわれてもいいだなんて。僕はあなた以外には興味がないと、何度言えば分かってくれるんですか」
日本語で責めてくるヴィンスに聞いていたのかと思う。
「それに、『普通の男』が好きだなんて。……僕に対するあてつけですか」
ああ、そういう見方もできるか。考えた事もなかった。
「……普通の意味を取り違えないように。私がいう普通は、平均点程度の容姿と頭脳。職業は公務員。性格はおだやかで優しく、一途な人、だよ」
言っておきながら、これも世間一般的には随分とハイスペックだな、と気が付いた。そんな難しい条件じゃないと言っておいて結構な難問突きつけてる? もしかして。
でも、周りにいる男連中が皆、チート的なスペックの持ち主だから、高望みだと思わなかったのだ。
案の定ヴィンスは複雑そうな顔をしていた。
「僕も人の事はいえませんが、あなたも大概ずれていますね。まあ、僕個人をさしたわけではないという事がわかっただけでも良しとしましょう」
『イオリ。日本語で話さないで。何言っているのかさっぱりわからないわ』
『すみません。師匠』
日本語がわからない師匠がいらいらしたように言った。あわてて謝る。
『ディアス先生に、私の好みのタイプを伝えていたのです』
『あら? それは私もぜひ聞きたいわ』
途端不機嫌になったことも忘れて、身を乗り出してくる師匠。
この手の話、本当に好きだな。
だが、さっきヴィンスに言ったことをそのまま伝えれば、師匠まで頭を抱えだした。
『本当にこの子は、どこまでずれた思考回路をしているのかしら』
『ディアス先生にも言われましたが、そんなにおかしいですか?』
『おかしいとは言わないわよ。でも、ディアスを振った理由がソレだと、あまりにも彼が気の毒というか』
『ショウコ。撤回してください。僕はまだ振られていませんし、振られる気もありません』
妙なところでヴィンスが絡んできた。どっちでもいいじゃないか。
すっかり二人は言い争いを始めてしまった。この数週間でため息の数が本当に増えたと思う。隣にいたリザが申し訳なさそうに謝ってきた。
『母さんが暴走してすまないな』
『いや、師匠だから仕方ない。もうあと少しのことだしいいよ』
言えば、リザは目を丸くした。
『なんだ。母さんから聞いていないのか?』
『何を? ……あの人、また私に隠し事してるの?』
『みたいだな。まあ、どうせもうすぐわかることだしいいか。母さん、そろそろ時間だ』
声を掛ければ、師匠の顔つきが鋭いものへと変わった。ゆっくり立ち上がり、振り返ったときにはあでやかな笑みを浮かべて、私たちを見ていた。
『ふふふ。……今日の私はすごいわよ。あなたたち、よーく見ていなさい』
『はい、楽しみにしています』
微笑みながら頷く。
師匠と途中までは一緒に行き、舞台裾に移動する。今日は関係者として来ているので観客席にはいかない。ここから師匠のピアノを聴かせてもらうのだ。
そっと舞台の様子をうかがっていれば、とんとんと肩をたたかれた。
「伊織」
『なに……あ、誠司くん』
振り返ると、誠司くんが立っていた。生徒会の仕事でこちらに回ってきたのだろう。関係者であることを示す腕章を腕に付けている。
「――――いきなりドイツ語か。まあ、俺は分かるからいいが、その癖早めに直しとけよ」
「あー。うん。ごめん。つい」
咄嗟にドイツ語で答えてしまった。
名前を呼ばれただけでは、何語で話しかけられたかまでわからない。だからつい、普段使っている言葉がでてしまう。
ここのところ、ずっと師匠たちといたし、ヴィンスもドイツ語を話すから、すっかり日常会話がドイツ語になっていたのだ。
「久しぶりだな」
「そうだね。3週間ぶり?」
「まさか全く連絡よこさないとは思わなかったぞ」
家にもいないし。という誠司くんに気まずい思いをする。
「師匠と一緒にいたからね。……ははは」
「何度かすれ違ったが、お前は全く気が付かなかったな」
「そ、それは申し訳ないことを……」
冷や汗をかきながらあやまると、誠司くんは息を吐いた。
「俺を完全スルーするような女なんてお前くらいだ」
「面目ない。自由行動でいいって言ってたし、きっと兄さんが事情を説明してくれるかなーと」
それに意外と忙しかったのだと付け足した。
「確かに、里織から話は聞いている」
さすが兄だ。後でよくお礼を言おう。
「ま、まあそういうことでして……ごめん。連絡しようとは思っていたんだけど、ついピアノにのめりこんじゃって」
素直に謝れば、呆れた顔をされた。
「そんなことだろうと思った。で、お前ずっとディアス理事と一緒だったんだろう。変な事はされなかったか?」
「サレテイマセンヨ」
無意識に声が裏返った。
「伊織?」
誠司くんの顔が一瞬にして怖くなる。……誤魔化しそこねた。
「そ、その話はまた後で。ほら、師匠のピアノが始まるから……ちゃんと聞いて」
「……わかった」
私の顔つきがかわったのが分かったのだろう。
渋々ながらも誠司くんは引き下がった。……しかしここにヴィンスがいなくて助かった。ヴィンスは、今日理事長席から鑑賞しているからここには来ていないのだ。
「逃げるなよ」
ぼそっと呟かれ、こくこくと何度も首を縦にふった。
……誠司くんもこわい。
◇◇◇
リサイタルは最高の出来で終了した。
和菓子を心行くまで堪能した後の師匠の演奏は本当にすごかった。
演奏が終わったとき、感極まって泣いてしまったくらいだ。改めて、この人の弟子でよかったと思った。
泣いていると、舞台袖に戻ってきた師匠が呆れた顔でこちらを見ていた。
『やあねえ。泣いちゃって。そんなに私の演奏はすごかったかしら?』
『はい。素晴らしかったです。私、師匠の弟子で本当に良かったなって……』
しゃくりあげながらもそう伝えると、それは光栄ねと笑った。
『あなたもこれくらいは弾けるようになりなさい。じゃあ、また後でね。先に控室に戻っているから』
『はい。用事がすんだらすぐ行きます』
まだやることがある。そのまま師匠と共にいくわけにはいかないのだ。
頷いた師匠は、あら? と私の隣に目を向けた。にやりと口角があがる。
『イオリ。格好いい彼氏じゃない。ディアスに靡かないと思ったらそういうことなの?』
『いえ、師匠、違います。この人は生徒会長で……』
『はじめまして。僕は神鳥誠司といいます。彼氏というか、彼女の婚約者ですよ』
誤魔化そうと必死になった私の言葉をさえぎる形で、誠司くんが自己紹介した。
『あら、あなたドイツ語できるの?』
『はい。問題ありません』
今日ほど、誠司くんのハイスペックさが恨めしかったことはない。自然にドイツ語の会話に混じってくる、このそつのなさが憎らしい。
『イオリ。あなた婚約者なんていたの?』
『……一応』
聞いていないわよと睨む師匠に項垂れた。だって言ったら、絶対面白がると思ったのだ。
『親同士の決めたものですし、私にその気はありません。言う必要性を感じませんでした』
『そうなの? そっちの彼はそんな風には思っていないみたいだけど?』
話をふられた誠司くんは、落ち着いた様子で肯定した。
『ええ、僕の方からも、個人的に彼女にプロポーズしていますから』
『誠司くん!』
咎めるように睨むと誠司くんはいけしゃあしゃあと言った。
『嘘は一つもない』
『そういう問題じゃないでしょ。なんで師匠にまでいうの』
『そういわれてもな。知られて困るようなことは、俺の方には何もない』
きっぱり答える誠司くんに、師匠は感心したように言った。
『へえ。イオリの周りの男ってこういう奴ばかりなのね。面白い。ディアスも大概だと思っていたけど、この子もね』
まあ、頑張りなさい。と誠司くんにウインクする師匠。ついでと言わんばかりに、『この子、意外と押しに弱いわよー』といらないアドバイスまでして去って行った。
誠司くんが、ぽろりと零す。
「……何というか、すごい人だな」
「そうでしょ。振り回されっぱなしだよ」
すっかり力が抜けてしまい、乾いた笑みを浮かべる私に誠司くんは微笑んだ。
あれ、なんだろう。笑っているはずなのに寒気がするぞ。
「伊織」
「な、なに?」
「……気のせいかな。やたらお前の先生から、理事の名前を聞いたんだが。……さっきの事も含めてきちんと説明してもらえるんだろうな」
「そ、それは……」
「してもらえるんだろうな?」
「ハイ」
念を押す誠司くん超コワイ。私はこくこくと頷くより他はなかった。
……師匠、あなたのせいで、しばらく帰れそうもありません。
◇◇◇
「……で、プロポーズされたと?」
「はい」
結局誠司くんに洗いざらい吐かされた私は大人しく頷いた。誠司くんは苦い顔をしている。
「えーと。ごめんなさい?」
「なんで疑問形なんだ。……まあいい。その場で妙な返事をしなかっただけ良しとしよう」
とりあえずは、怒られないですみそうだ。ほっとしてふんふんと首を縦に振ると誠司君ははあっと大きく溜息をついた。
「せっかくの牽制も意味がなかったか。ああ言っておけば、さすがにひくかと思ったんだがな」
これじゃ里織に叱られ損だなと呟く誠司くんに、首を傾げる。
「兄さんに怒られたの?」
「ああ、想い合っているといった台詞が、随分とお気に召さなかったらしくてな。さすがにあれは俺もやり過ぎたと思ったが」
……あれか。
「あれはね……先生にもずいぶん色々言われたよ。本当やめてよね」
「悪かった。ちょっと余裕がなかったんだ。もうしない」
「ならいいけど」
反省しているようなので、もういいと言えば、誠司くんは真顔になって聞いてきた。
「伊織。まさかとは思うが、先生の事を好きだとか言わないよな?」
「言わないよ。今の話のどこにそんな要素があったの」
「いや、以前先生に見惚れてたように見えたからな」
その言葉に視線を逸らした。
「……き、気のせいだよ」
私の好みをいう気はない。
……しかし、さきほどから話題がどんどん私の不利な方向にシフトしていっている気がする。誠司君が眉根を顰めた。
「伊織? もしかしてお前……」
「わ、私師匠の世話があるから! また後でね!」
「お、おい」
やばそうな空気を感じとった私は、師匠が待ってるからと理由をつけて、さっさと誠司くんから逃げ出した。
後ろで誠司君がなにか言っているようだったが無視だ。
行儀悪かったが、走って師匠の控え室へ飛び込む。
『た、ただいま戻りました』
『あら、イオリ。遅かったわね』
帰ってきた私を迎えてくれた師匠は、すでに着替えも終わりのんびり和菓子を食べていた。リザも一緒で、どうやら私待ちだったようだ。
戻りが遅れたことを詫び、今後の日程を聞く。師匠たちが帰国する際には、是非とも見送りに行きたいと思っているのだ。
『師匠、いつごろドイツにお帰りですか?』
真面目に尋ねたのだが、師匠はさらりと爆弾を落とした。
『帰らないわよ』
『え?』
何を言っているのと、にやにやする師匠。それで気付く。
……ああ、さっきリザが言っていたのはこれか。
師匠はうきうきしながらリザに視線を向けた。
『リザをこの学園の中等部に入れてみることにしたの。この子、私が連れまわすせいで、あまり集団の中で過ごしたこともないし、何よりあなたがいるから安心だしね』
一年はいるわ、という師匠の言葉を受けてリザの方を見る。彼女はこくんと頷いた。
『そういうことだ』
『先週打診を受けましてね。僕の権限で許可しました』
いつの間に戻ってきていたのか、ヴィンスまでが言う。
『師匠……そういうことは早く教えてください』
『いいじゃない。あなたのリアクションが面白いからつい、ね』
『ついじゃありませんよ』
くすくすと笑う師匠にがっくりとうなだれる。師匠にはいつもそうやって遊ばれている気がする。
『楽しい一年になりそうねえ』
『そうですね』
師匠がここに残るということは更に忙しくなるのだろう。
私も引き続き師匠の世話をしなくてはならない。
それでもやっぱり師匠がいてくれることが嬉しくて、私は小さく笑みを浮かべた。
ありがとうございました。




