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5月下旬 結果発表

こんばんは。宜しくお願いします。

今日は日常編ですね。

 自分に何が起こったって、結局世界が崩壊しない限り明日はやってくるのだ。


◇◇◇


 悠斗と話した翌日の日曜日。私は何事もなかったの如く朝から勉強を始めた。

 確かに色々と考えたいことはある。だがしかし、そのせいで目の前の中間考査をおろそかにするわけにはいかない。それで失敗してしまっては、今までの努力が水の泡だ。本末転倒とはまさにこのことなのだ。

 今こそ、全ての煩悩を捨て去り、勉学に励むべき!

 自らを奮い立たせるようにその言葉を胸に刻み、私は最後のスパートをかけていた。

 ――――ノック音が響いた。

 せっかくいい感じで集中できていたのに、と思いつつも返事をする。おそらく兄だろう。昼になっても昼食に降りていかなかったから心配してくれたのだろうと推測する。

 丁度いいから、あの問題聞いてみようかな。先ほど詰まってしまったものを思い浮かべる。だが一昨日の事を思い出し、即座に思いつきを却下した。

 一昨日、私の部屋に来た兄が学年1位であることを聞きつけた私は、ここぞとばかりにわからなかった問題をみせた。こんなところに最優秀家庭教師が! そう思ったからなのだが、それはあえなく失敗に終わった。

 問題をみせられた兄は、あっさりと「ああこれはね」といいながら、さらさらと答えを書いてくれた。そして、あっという間に解き終わると「はい」といってノートを返してくれたのだが……残念ながらそれは私には理解不能の代物だった。

 一応説明を求めてみるものの、兄の説明はさっぱりわからなかった。どうしてこれがこうなるのか。兄にとっては当然の事実が、私には果てしなく意味の分からないものと化していた。

 兄さんに聞いても駄目だ。私は深く心に刻んだ。1を聞いて100を知るような(10では足りないと思う)天才に教えを乞うこと自体、そもそも間違いだったのだ。

 凡人には理解できない世界だった。

 あの日の事を思い出し、兄に聞くことを諦めた私は問題集を閉じた。それと同時にドアが開く。振り返るとそこには予想通り兄と、何故か誠司くんがいた。

 

「やあ、お邪魔するよ」

「久しぶりだな、伊織」

「あれ、兄さんと……誠司くん?」


 そろってやってきた二人に戸惑う。

 兄は、何故だかおかしそうに笑っている。


「誠司がどうしても、私と勉強したいっていうからね。親友の頼みを断るなんて無粋なマネできないから、了承したんだ」

「へえ。兄さんと」

  

 疑わしげに誠司くんを見る。兄と勉強という言葉がどんなにおかしなものか、私は身をもって知っている。きっと誠司くんもそうだと思う。

 案の定誠司くんは気まずげに視線を逸らした。


「お前だって昨日、今里と勉強していたんだろう。別におかしなことじゃない」


 なるほど、悠斗との勉強会の件を兄から聞いたのか。諸悪の根源が分かったので、兄に視線をやる。


「兄さん。余計な事言ったね」


 責める口調でいうと、いけしゃあしゃあと答える。


「いや。一昨日誠司がね、『伊織の返事はどうだった』ってうるさいから、今里くんと勉強するから誠司はいらないんだって、とそう言っただけだよ」

「十分言ってるじゃない!」


 そんな言い方したら、誠司くんが気にならないはずがない。兄さん、相変わらず誠司くんで遊んでるな。


「……確かに俺は里織よりも順位は下だが、教えることに関しては、こいつよりよっぽどうまいと思うぞ」

「……」


 上手いこと誤魔化しつつ、誠司くんが一理あることを主張してくる。

 誠司くんをじっと見つめる。不思議そうな顔をしてこちらを見返してくる彼に、一つ頷いた。そっか……うん、ま、いいか。


「わかった。じゃ、兄さんたちはまずは自分の部屋に行ってくれる? 建前として出してきたからには、自分のたちの勉強もきちんとしてね。私、できるからといって本当に何もしない人って好きじゃない」


 にっこり笑って言ってやれば、兄は「だから、伊織の邪魔はしない方がいいって忠告してあげたのにね」なんて言いながらしぶる誠司くんを連れて引き下がった。本当兄は誠司くんで遊ぶの好きだ。

 あの難しい誠司くんに、兄みたいな友達ができたことを本当に嬉しく思う。原作ルートでは友達なんていなさそうだったし。

 結局は、誠司くんを簡単に転がせる兄がすごいねって話になるんだけどね。

 さすが私の兄だ。

 とりあえず邪魔な二人を追い払ったので、ついでに昼を食べ、勉強を再開した。

 集中して問題を解く。気が付くと昼の3時を回っていた。そろそろいいかなと席を立ち、お茶の用意をして兄の部屋を訪ねる。別のことをしていたら、Uターンしてやろうと思っていたが、二人とも黙々と勉強していた。


「兄さん」


 ノックして、ドアを開けてもらう。


「そろそろ休憩したら? お茶もってきたから」

「そうだね。そうしようか。誠司、机の上片づけてくれる?」

「ああ」


 手早く片付いた机に、今日のおやつのガトーショコラと紅茶を並べた。紅茶は、アールグレイ。くせになる感じが妙に最近はまっている。


「一緒にお茶していっていい?」


 尋ねると勿論と言ってくれた。

 しばらく談笑しながら過ごす。昔から一緒にいるせいかこの3人でいるのが一番落ち着く。話が途切れたところで誠司くんに、わからなかった問題を見せてみる。

 丁寧な解説付きで教えてもらうことができ、ちょっと感動した。


「すごい、誠司くん。兄さんよりわかりやすい」


 驚いたようにいうと誠司くんはあれと比べるなと兄を指した。


「里織の説明は誰にもわからない。教えるには不向きだ」

「それ、私も思い知ったよ」

「そうかい? 分かりやすいと思うけど」

「そう思っているのはお前だけだ」


 何故そういわれるのかわからないという顔をする兄にくすっと笑う。


「兄さんに教師はできないね」

 

 日曜の午後はこうやって過ぎて行った。


◇◇◇

 

 週明けから、テストは4日間行われる。『ドラプリ』には学力メーターがないためか、通常のテスト関係のイベントはなかった。つまり、イベントとは全く無関係でやれる少ない機会。100%自分の実力だけで勝負できるのだ。

 時間をかけてしっかり予習復習を行ったせいか、テストはかなりの手応えだった。

 自信はあるが確信はないため、どきどきしながら更に次の週明け、職員室前に張り出された順位表を確認しにいく。

 結果は、1位をキープ。よしと小さくガッツポーズをする隣で悠斗が安堵のため息をついていた。結果は2位。私と5点差だった。


「あぶねー。後一問間違えていたら、由良に抜かれていたのかよ」


 ぎりぎりだったと呟く彼の視線は順位表の3位。由良総太朗。悠斗と2点差。


「勝利!」


 悠斗に向かって思わずそういうと「ハイハイ、ヨカッタデスネー」と乱暴に頭を撫でられた。


「あんたに勝てるとは思ってなかったし」

「でも、5点差とか危なかった。私、あれだけ勉強しているのに。……やっぱり悠斗すごいね」


 あんまり勉強しているようには見えなかったのに。尊敬のまなざしで見つめる私に悠斗は呆れた目をする。


「……なんで自分を負かした奴から、そんな目で見られないといけないんだ」


 由良に勝ったのは、ほっとしたけどな。という意見には確かにと頷く。おかげで私も助かった。

 ちら、と横を見ると総ちゃんが下を向いたままわなわなと震えていた。握り締めたこぶしも、力の入れすぎで白くなっている。


「そ、総ちゃん。惜しかったね」


 思わず声を掛けると、ゆらりと顔を上げる。だが、その視線は私の方を見ていなかった。

 悠斗を睨みつけ呟いた。

 

「……からな」

「え?」


 何を言っているのか聞こえない。


「……今回の結果は、偶然だ。2点なんてほんのケアレスミスの差じゃないか! 今度は期末だ! 次は負けないからな! 今里!」


 悠斗の方を見据えて、総ちゃんは宣言した。

 一方的に再勝負を吹っかけ、悠斗の返事を聞かず、一足先に教室へもどっていった。

 ……その間、一度も私の方をみなかった。


「……だそうですよ。悠斗さん。ご指名いただいちゃいましたね」

 

 驚きのまま悠斗に語りかける。思わず敬語になってしまった。


「ヲイ。これもお前の計画通りとか言わないよな」

「こーんな感じで事が運べばいいな、と軽い気持ちで思ってはおりましたが、ここまでうまくいくとは思いませんでした」


 総ちゃんが勝てば、それで終わりな話だったし。そう素直に白状すれば睨まれた。


「今、俺完全にターゲットにされていなかったか? 大体勝負って、今回だけの話だったよな? なんでこんなことになった?」

 

 なんでだよ! と言いながら両手で私の肩を揺さぶってくる。やめて、酔う。


「……思いつきでやった。今は反省している」

「うまいこと言ってんじゃねえ!!」


 私も、ここまでまるっと無視されるとは思わなかった。てっきり、ぐずぐず言ってくるかと思って覚悟していたのだけど。……目標を提示された総ちゃんは、真剣にやってきたのだろう。

 賭けを持ち出した日から今まで、一度も声を掛けられることがなかった事実がそれを示していた。元々、すごく真面目で一生懸命な子だから、負けて悔しかったんだろうな。


「……勝ったらこうなる可能性が高いのは分かっていた。けど、負けるのは癪だったし……だから仕方ない仕方ない」


 ぶつぶつと自分に言い聞かせだした悠斗の背中を、つんつんと押す。


「ねえ、悠斗」

「あ?」


 不機嫌そうに振り返る悠斗に、私は今日の目的を告げた。


「放課後暇? よかったらどこかでお茶して帰らない?」

「お茶? ……学園内じゃ駄目なのかよ」

「そんなに大した話じゃないけど。ただ、ここでは話しにくいかな」


 いぶかしげに言う悠斗に、思い出したんだ、と自分の人差し指を唇につけて、にっと笑った。

 元々ヒントをくれたのは悠斗だから、彼には教えないといけないと思っていたのだ。


「テーマは、公式見解について」





ありがとうございました。

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