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5月中旬 朝比奈 蓮は誰?

こんばんは。本日もよろしくおねがいします。




 ぐすぐすと泣きじゃくる私を、悠斗はわけがわからないなりに慰めてくれた。ぽんぽんと背中を軽く叩かれ、深呼吸をすると少し落ち着くような気がする。

 何度も繰り返して、ようやく涙が止まった。


「ごめん。話聞くとか言っておきながら、結局私の方が迷惑かけた」

「いや、いいけど。やっぱ俺の話ショックだったか?」


 心配そうに聞いてくれる悠斗に、違うと答える。

 どこまで話すべきか迷ったが、とりあえず思いつくまま話してしまおう。悠斗だって、きっと話したくなかったのに話してくれたのだから。


「……悠斗の話聞いていたら、自分の死んだ時の事思い出した」

「え?」


 正直に告げると、悠斗は目を丸くさせた。


「私はね、悠斗が見たっていう、刺されて死んだ女だよ」

「な!」


 驚きのあまり声がでない様子の悠斗に苦笑で返す。そりゃ驚くか。私もびっくりだ。


「で、隣にいたっていう男は私の旦那。朝比奈蓮あさひなれんっていうの。同い年」

「旦那……あんた結婚してたのか」

「そりゃ、35歳だもの。結婚してたっておかしくないでしょ。結婚は20歳のとき」


 はあーと、ただ聞くだけしかできない悠斗に、自分がどうだったのかを説明する。


「あの時、何が起こったのか全然わからなかった。気が付いたら目の前に男がいて、あっという間に刺されて。意識が遠くなっていく中、蓮は先に死んでしまうし」


 悠斗の話を聞いて、やっと理解できた、そういうと悠斗は苦い顔をした。


「俺は何もできなかった。逃げていく犯人が、あんた達の方に行くのも止められなかった。刺されたあんたを助けることも、あんたの後追いをした旦那を止めることもできなかった」

「それは悠斗のせいじゃないよ」


 話を聞いてみれば、悠斗もかなり酷い目にあっている。彼が責任を感じる必要なんて全くない。


「あんた、旦那が何したか分かってたか?」


 悠斗が恐る恐るといった風に小声で聞いてきた。やっぱり聞きたいか。


「どっちの話? 復讐? それとも後追い? 復讐は何となく、側にいた彼の様子で感づいてた。後追いは……死んだ彼の表情みちゃったから、知ってるよ」

「……死んでいなかったのか? てっきり即死だと思っていたけど」

「死んでいたのかもしれないけど、意識はまだ残ってた。周りで何が起こっていたのかくらいは何となく把握できてたよ。それもなくなったのは、旦那が死んでからすぐかな。悠斗の事は、ごめん。全然知らなかった」


 そう言うと悠斗は息を吐きだした。


「それはお互い様だろ。大体伊織は何が起こったのかも、知らなかったんだろう?」

「まあね。いきなり血まみれの包丁持った男が現れてびっくりしたよ」


 疲れたように言うと、悠斗は気の毒そうな目を向けてきた。いや、悠斗もでしょう?


「……旦那、あんたが死んだ後、狂ったみたいに高笑いして、犯人に何度も包丁突き刺してたよ」

「だろうね。それくらいすると思うよ。あの人なら」


 彼の目の前で私を殺しておいて、犯人が無事でいられるはずがない。どんなことをしても復讐するだろう。納得したように頷く私に悠斗は奇異の目を向けてきた。


「……納得されるってどんな旦那なんだ」

「監禁系ヤンデレ」

「っ!」


 一言でいってのけると、悠斗は声を詰まらせた。

 おお、驚いたか。


「そ、それって前に言ってた身内の?」

「そう」


 悠斗は言葉もないようだった。まあ、悠斗はお姉さんのストーカー被害とかで悩んでいた側だから、私みたいなのは想像もできないか。


「……大変だったんだな」

 

 しみじみという悠斗にそんなことないよという。


「別にそうでもない。好きな人の言うことを聞いてあげたいのは普通でしょ? だから何でもなかった。ただ、今になるとね、自ら好んでその檻に入りたいとは思わないだけ」

「はあー。俺も大概不幸だと思っていたけど、あんたも大概だな」

「言わないでよ……思い出して今かなりショック受けているんだから」


 ため息をつけば悠斗はまた、ぽんぽんと背中をかるく叩いてくれた。


「ありがと。でも、不思議なものだよね。全然関係ないと思っていたのに、こんなところで悠斗とのつながりが見つかるなんて」

「だよな。まさか、同じ場所で死んでるとか思わなかったよ」

「しかも、『ドラプリ』のイベント会場でとか」

「だよなああああ」


 思わず顔を見合わせて笑ってしまう。ちなみに『ドラプリ』は『パンドラプリンス』の略称だ。普通に考えれば『パンプリ』だが、流石にないという話になったらしい。


「悠斗、サークル活動とかやってたんだ。サークル名は?」

「俺じゃないって。俺はただの手伝い。姉ちゃんのサークルは『ナイツオブラウンド』中二全開で恥ずかしい名前だろ?」

「うわああ。持ってる。私その日、そこの新刊のディアス×誠司本買ったよ!」

 「まじで! そりゃ、お買い上げありがとうございますだな!」


 多分二人とも、予想外の事態にかなり混乱していたのだろう。今する必要のない話題で無駄に30分ほど盛り上がってしまった。何気に前世の自分の好みを暴露してしまったような気がするが、うん忘れよう。本人を知った今となってはあまりにも……ねえ? いや、それともアリか?

 しばらく異常なテンションで盛り上がった後、どちらともなく黙りこくってしまった。ようやく冷静になってきたらしい。

 のどの調子もおかしくないのに、ごほごほとわざとらしく咳払いをして、私はようやく話を戻した。


「……でさ。本題なんだけど、もしかして転生者って、あそこの会場で死んだ人間ってことないかな?」


 悠斗も頷いた。


「俺も少し思った。同じ場所で死んだ俺とあんたが、ここで転生者同士として会うって、どう考えても偶然とは思えない。しかも、おあつらえ向きに『ドラプリ』の世界だぜ」

「だよね。そうなると、後二人はここにいる可能性があるんだけど」

「分かってる。あんたの旦那と犯人の野郎だろ?」

「うん」

 

 真剣な顔をして頷いた。以前冗談でここにいるかも、なんて思っていたけど、ここにきて冗談とは言い難い様相を呈してきた。

 胸が騒ぐ。予感がする……多分、蓮はいる。そしておそらく、私が見つけるのを待っている。あの蓮が何もアクションを起こしてこないということは、そういうことなのだ。

 どうなるかは、わからない。でも、私は彼と話さなくてはいけない。そう強く思った。


「……気を付けなね。蓮は総ちゃんの比じゃないから」


 身を案じて悠斗に真面目に告げると、彼は複雑そうな顔をした。


「……それをなんで俺にいう」

「うん。だから前にも言ったけど、一番一緒にいるの悠斗だから。無駄に嫉妬とかされてそうだなって思って」

「あああーーーー。なんか俺あんたのせいで貧乏くじばっかひいてる気がするんだけど」

「気のせいじゃない?」


 頭をかきながら、絶対気のせいじゃないと思うとぶつぶつ言いながらも真剣なまなざしで私を見る。


「旦那、いると思うか?」

「……うん。犯人は分からないけど、多分蓮はいると思う」

「あんたおっかけて、躊躇なく自殺する奴だもんな。……正直怖かった。あの男、一瞬もためらわなかった」

「やめてほしいって思ってたんだけどね」


 届かなかった。


「……なあ、誰に転生してると思う?」


 ぎくりとした。目を逸らしていた問題だ。でも、私は蓮を見つけないといけない。ちゃんと考えないと。


「私が主人公。悠斗が攻略対象者の一人……そう考えたら、モブって可能性薄くない?」

「……思うに、案外ディアスだったりしてな」

「……可能性は、ある。か」


 あまりにも、原作ルートと違うことを考えればありうるかもしれない。何よりディアスは私に正体を知られたがっている。昔に会ったことがあると言っている。でも。


「ディアスだとしたら、私がディアスの正体知っている事、すでにばれてるという事になると思うんだけど」


 蓮は私のやっているゲームは全て目を通していた。

 分かって知らないふりをしている可能性は……蓮ならあるか。


「そういやそうだな。でもディアスって、言動がいちいち怪しいしな。妙にあんたに固執しているみたいに見えるから」

「……否定はしない。蓮は私をあきらめたりしないと思うし。でも、あの蓮がやるにしてはわざとらしすぎる気も……。確証が持てるまではその説は封印だね。今まで通りのスタンスで行くよ」

「ああ。もし本当に旦那=ディアスだったら、まさに魔王にでもなりそうな組み合わせじゃねえか。違うことを心から祈るわ」

「……私も。その場合逃げられる気がしない」

「だな」


 暗くなってしまった。

 でも、決まったわけじゃない。別の人の可能性もある。慎重に見極めなければ。


「犯人はどうだろう? ……本当に蓮は、殺しちゃった?」


 悠斗は頷いた。


「滅多刺しだったからな。動かなくなるまでやめなかったから、死んだと思うぜ」

「そっか」


 うつむく私に、悠斗は慌てて「言いすぎた」と言ってきた。


「そんな気を使ってもらわなくていいよ。本当の事だしね。蓮ならやると思っているし。むしろそれで済んで犯人助かったなって思っているくらいだよ。……そうじゃなくて……犯人もここに居るのかなって」


 私や悠斗にしてみれば、まさに殺された相手だ。できれば会いたくなんかない。

 そういうことか、と悠斗も言う。


「それこそ、トラウマ発生原因だもんな。俺もできれば会わずに済ませたい。あの男は『ドラプリ』を知ってるって感じでもなかったし、転生してない可能性もあるんじゃないかって思うけど」

「それが一番平和でいいねえ」

「転生者は三人か」

「多分。でも決めつけない方がいいよ。犯人の事も一応頭の片隅に留めておこう」


 お互いの目を見て頷きあう。


「旦那、探すのか?」

「うん」


 私が見つけないと。はっきり意思を伝えると、悠斗はもう一ついいかと聞いてきた。


「まだ、旦那のこと好きなのか?」

「……わからない。思い出すまでは完全に前世のことだと割り切ってたし、思い出になっていたから。正直今は混乱してるから、正しい判断が下せているのかも自信がない。でもこのままじゃ私、前にも後ろにも進めない気がする」


 探すしかないか。あきらめたように言う悠斗に困ったように笑った。巻き込んでごめんね。


「……最初はディアスルートを何とか回避しようってだけの話だったのにな」


 悠斗はぽそっとそう零した。それには私も同意するよ。


「だね。でも、『だけ』っていうのもどうかと思うよ。だって、世界崩壊するかもって話なわけだし。規模で言えば今でもそっちの方が大問題じゃない?」

「言われてみりゃそうか。でも、身近な分こっちの方がでかい問題にみえてしまうんだよなあ。大体旦那がディアスだった場合、さらに厄介な話になるんじゃねえの?」

「それはその時考える」

「行き当たりばったりだな」

「そうでもしなけりゃ、進めないよ」


 私は立ち上がった。大きく伸びをして体をほぐす。

 長々と悠斗の家にお邪魔してしまった。


「とりあえず、今日は帰るよ。ありがとう、悠斗。これからもよろしくね?」


 改めて、手を出すと悠斗も立ち上がり、私の手を握った。


「今更、関係ねえなんて言わねえよ。前世からの因縁なら俺も一緒だ。大体あんたは、なにやらかすかわからないから、ほっとけねえんだよ」

「……兄さんみたいなこと言わないで」


 むすっとして睨むと悠斗は破顔した。不機嫌な顔を維持できなくなり、ついには私も笑ってしまう。


「じゃ、迷惑かけるけどよろしく」

「ああ、任せとけ」


 ――――絶対に見つけるから。待ってて、蓮。


◇◇◇


「もう一人? これ以上、引っ掻き回されるのは困るんだけど……これは彼の為に用意した舞台なんだから」








読んでいただいてありがとうございました。

ちょっと重い話が続いたので、次は軽くいけたらいいなと思います。

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