4月下旬 本命?登場
こんばんは。いつもの更新時間です。少し短めですが、お楽しみいただければ嬉しいです。
誤解がないよう最初に言っておこう。私は旦那様を愛していた。
彼と会ったのは、大学に入ってからすぐ。
大学図書館の裏の壁にぺたりと張り付いている彼を見かけたのが始まり。
思わず「何してるの」ときけば、「女の子たちから逃げている」との情けない答えが返ってきた。よくよく見れば非常に端正な顔立ち。目は切れ長で、そういえばうつむいた表情がたまらないと周りの女子たちが騒いでいたのを思い出した。まるで芸能人のようだ。
1回生にしてすでに大学の有名人。
そんな面倒くさい人物とかかわりあいたくないなと思った私は、そのまま「そっか。がんばって」と声をかけて立ち去った。それで終わったつもりだった。
それがなぜか、次の日大学にきてみれば、必須授業の教室前に彼がにこにこと立っており、「同じ1回生だったのか」と話しかけられ、あれよあれよという間に友達付き合いをすることを約束させられ、不思議なことに同じサークルに所属することになった。
更に数週間が過ぎたころには、周りから付き合っているという評価を下され、いくら否定しても逆に怒られる始末。
調べてみれば、どうも彼自身が噂元らしい。あまりに腹が立ったので、何を考えているんだと文句をいいにいけばそのまま彼から告白され、断る間もなく、なし崩し的に付き合うことになってしまった。
……なぜこうなった。解せぬ。
そして付き合いだしてから、彼は少しずつおかしな言動と行動を見せ始めた。私に話しかける男を牽制し、追い払い、そばに誰も近づけようとしなくなった。
私を独占するためには手段を選ばなくなった。
私は、そんな彼をみて一つの結論に至った。
これは、あれだ。ヤンデレというやつだ。
そのころ私はヤンデレ系の乙女ゲーばかりやっていて、彼の行動の一つ一つが妙に重なることに気が付いたのだ。2次元と3次元では、破壊力が違いすぎて初めの方は正直気が付かず、振り回されるばかりだった。
気が付いた私は自問自答した。そんな彼を愛せるかと。自分でも恐ろしいことに答えはYESだった。
そうか、知らないうちに私は彼を愛していたのか。
それならば、話は簡単だ。ヤンデレの対応など惚れてさえいれば容易にできる。
ようは言うことを聞いてやればいいのだ。うん。問題ない。
私の側にいたがる彼の意を受けて、私は同棲を了承した。そのまますぐにでも結婚をと、すでに私の名前以外が埋められた書類を差し出されて、おとなしく署名した。断る理由はなかった。ただし引き換え条件として、大学はなんとか卒業させてもらった。
自分の知らないところで外に出てほしくないという彼にうなずき、引きこもった。
幸いもともと引きこもりの気はあったので、そこは全く苦ではなかった。ネットをしたり、ゲームをしたりして過ごしていた。勿論主婦業もがんばった。
好きに使っていいとクレジットカードを渡されたので、通販サイトで欲しいものは手に入れることができた。どうしてもとお願いして、乙女ゲームだけはやめずにすんだ。無駄に嫉妬する彼に、これは二次元だからと何度もいい、拝み倒して許可してもらった。
――――彼は何も言わなかったが、私は知っていた。
玄関に、盗撮器と盗聴器が仕掛けられていたこと。
彼の部屋に新品の鎖が置いてあって、もし私が彼との約束を破って外に出れば、即座にその鎖でつながれるだろうこと。そうしたら、多分二度と外へは出してもらえないこと。
わかっていたから、私は絶対に玄関には近づかなかった。彼を少しでも不安にさせるような不用意な行動は決してしなかった。幸い、約束さえ守れば彼は私の望みをかなえてくれた。
外に出たいときは、彼と一緒という条件つきでなら快く許可してくれた。
外にでても油断は禁物だ。彼以外の男と目を合わさないように、レジが男性の場合は彼に会計をお願いした。いらぬ嫉妬はごめんだからだ。
彼以外の男に、つり銭の受け渡しだけでも触れられたくないのだと言えば、全くだと頷かれ、喜んで代わってくれた。
例を挙げればきりがない。
人に話せばドン引きだろうこの状態だが、私はそんなに苦痛でもなかった。対応さえ間違えなければ、彼はぎりぎりのところで踏みとどまってくれることを知っていたからだ。
結局、彼を愛していた私は彼のすることを当然と、受け入れていたのだ。
……ただ、そのハードすぎる経験のせいもあって、今の私はひどく『普通』というものに憧れる傾向がある。
◇◇◇
「関わる気がないって、あんた前世でストーカー被害にでもあっていたのか?」
彼の事を思い出していると、悠斗が聞いてきた。
どうしよう、あまり深くは話したくない。異常だと自分でもわかっている。
「いや、身内だったから」
仕方なく事実だけを告げる。
「身内って……なあ、あんたまさかそいつに殺されたとか……」
「それはない」
まさかという顔をする悠斗に否定する。
あの人が、私を殺す?
前世で私がどうやって死んだのか覚えてはいないが、それは絶対にないと言える。
あの人は私がいないと成り立たない。方法は歪んでいたが、本当に大事にされていた。どちらかというと、後追いされていないかの方が気になるくらいだ。他の誰かと幸せになってほしいと強く思うのもそのせい。私が死んだ後、誰か彼を支えてくれただろうか。
「ごめん、悠斗。今はこれ以上話したくない」
下唇を噛みしめて言えば、悠斗は悪いと黙ってくれた。
……今まで考えた事なかったけど、もし、彼がここにいたらどうなるだろう。
背筋が凍るように寒くなる。悪寒で体中が震える。
今は彼の事を愛しているかと聞かれれば、勿論愛していない。もう終わった事、別の人生、過去の事だからだ。懐かしく思い出せるがそれはそれ。でも。
もしもの話だ、もしも。だけど。
彼も転生者だったとしてどこかにいるとしよう。
そうなれば。
……絶対に彼は私を見つけようとするだろう。彼の私に対する執着は異常だ。見逃すなんて、過去の思い出にするなんて、あの人に限ってありえない。
そして見つけられてしまえば、おそらく私は逃げられない。
自ら彼の作った鳥かごの中に捕えられ、多分ジ・エンド。
それで、きっと終わり――――。
想像してしまった恐ろしい未来に、私は思わず自らの体を抱きしめた。
◇◇◇
――――俺のモノのはずのお前が、他の男と一緒にいる様を、ただ眺めるだけという拷問はいつになったら終わるのだろうか。
触れた男を引き裂きたいというこの気持ちをどこへやればいいのだろうか。
……分かっている。ここは、お前が好きだったあの世界だ。
覚醒してすぐ、俺は絶望した。ようやくお前のいない世界から逃れられたと思ったのに、またお前がいない現実をつきつけられたのだから。
すぐさま、死のうと思った。お前のいない世界に未練などあるものか。
思いとどまったのは、偶然だ。俺に声をかけてきた男を見て、ここがお前の大好きなゲームの世界だと気付いたから。
俺とお前の死の時間に大差はないはず。
そして、俺だけがこの奇妙な世界に転生させられた、なんてことあるわけがない。もしかしたらお前も、ここに別の誰かになって存在するかもしれない。
そう思ったら、居ても立っても居られなくなった。
姿が変わったくらいで俺がお前を見失うわけもない。どんな姿になろうと絶対に見つける。
そうして決意したものの、案外簡単にお前は見つかった。すぐに分かった。
そして確信した。お前は前世を覚えていると。
でも今、もう一度お前を手に入れたとしても、きっとゲームは始まってしまうのだろう。お前はヒロインになってしまったみたいだから。
それが分かっていたから、俺は今まで待った。
そしてようやくゲームは始まった。何故か知っている形とは違ってしまっていたが、まあ色々な思惑が混じった結果なのだろう。それはどうでもいい。
お前は気づかない。記憶はあるくせに、俺がここにいることに気が付かないんだ。
――――だから、俺は決めた。
この一年の間でお前が俺に気が付いて、俺を見て、そして名前を呼ぶことができたのなら、今までの事は許してやる。
他の男と話したことも、触れたことも、触れられたことも、今まで俺に気が付かなかったことも含めて、全部許してやるよ。……俺じゃない男と婚約したこともな。
でも、そうならなかったら……。
綺麗な檻を用意したんだ。お前の為だけのとっておきの檻と鎖を。
入ってくれるよな。勿論。だってそれはそうさせたお前が悪いんだから。
お前はいつだって、正解を引き当ててきた。
俺が前世で、結局最後までマトモでいられたのだって、お前が常に正解を引き続けてきたおかげなんだから。
だから、今度だってわかるよな? 間違えないよな?
俺を選べばすべて許してやる。昔のように、やさしく愛してやる。
――――だから、間違えるなよ。
他の誰かなんて絶対に許さない。
俺以外の選択なんて、決して認めないからな。
真のヤンデレ降臨。ホンモノはあとからやってくる。
というわけで、すみません。色々感想いただきましたが、当初より登場予定でした。
どこでだすか迷ったのですが、そろそろ匂わせないとなと思って書いたら、がっつり登場でした。
あと、転生者ですが、たくさんいるように見えて、実はそんなにはいないのです。転生者じゃなかったり、実はかぶってたりと。誰がそうなのか、まだ判明するのは先ですが。推測しながらお楽しみください。ありがとうございました。




