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共通イベント ハイキングA

こんばんは。ぎりぎりの投稿が続いています。

そろそろ息切れしそうだ・・・・・・。


「え? ディアスにあった?」

「うん。強制的に一緒に買い物なんていう恐ろしいイベントに参加させられた」

「はあ? 強制? そんなイベントあったか? 俺、最後までプレイしてないからわからないんだけど」

「ないよ。あるわけない。だって、ディアスは学園外には出られない設定だよ。目を疑ったよ、私は」


 次の日の放課後、見舞いと称して私は悠斗のうちにきていた。

 昨晩電話をして様子を聞いたところ、大事をとって明日は休むが、体調は特に問題ないと言われたからだ。お邪魔じゃなければ行ってもいい? と聞くと、話をききたいから構わないとの返事をくれた。

 ……確かに結構場所を選ぶ話題だと思う。

 そうやって、手土産をもった私は悠斗の部屋へと案内され、今に至っているというわけなのだが。


「そうだよなあ。確か10キロ圏内だっけ」

「そう。昨日あれから帰って調べたけど、余裕で10キロこえてた。何が起こっていると思う?」

「わっかんねえなあ」


 さっぱり話は進まなかった。

 私と悠斗。転生者が二人。一応知識もあるいわゆる知識チートな筈。

 なのにどうしてこうも話が進まないのか。

 それはあまりにもゲームと違いすぎるからに他ならなかった。

 ディアスとの会話を思い出し、悠斗に告げる。


「なんかね、私どこかでディアスに会っているらしいの。でもさ、いくら考えても、まったく心当たりないんだけど」

「は? またあんた無意識にいらないフラグたててきたんじゃないのか。どこかで歌ったときにでも、ディアスが聞き惚れたとか?」


 至極当たり前のように歌の存在をにおわせる悠斗にこれ以上は無理かと思い、さらりと告げた。


「それはないよ。……第一私歌えないもの」

「え?」

「残念ながら、歌えないの」


 悠斗は驚きのあまり固まっていた。

 おお、まるで昨日の私のようだ。

 うまく呼吸できないのか、空気を求め口がぱくぱくと開いている。そんなに驚いたか……驚いたんだろうな。


「あんた……今なんて」

「だから、歌えないんだって。……言ったでしょ。私はピアノ一筋で生きてきたんだって。歌う暇なんかどこにあるっていうのよ」

「え、え? でも、ディアスとのイベント起こしてたよな? あれ、歌がキーだよな?」


 そこを突っ込まれると辛い。だから私は悠斗から目を逸らしながらぼそぼそと言った。


「あ、あれは確かに歌った」

「は? 歌えないのに? なんでそんなことを……」


 信じられないと絶句する悠斗。

 私はうむと頷いた。


「だから、『ピアノがなかったから』って前にも説明したでしょうに」

「まさか……! っ! あれは、そういう意味だったのか!!」

「わはははは」

「笑うな!」


 やけになって思い切り笑う。

 そうして、結構真剣に怒ってくる悠斗の前に指を一本立てた。


「さて、ここで悠斗くんに質問です。このゲームは歌で好感度操作ができます。歌えない私はどうすればいいのでしょうか?」

「……詰んだ……」


 途端項垂れる悠斗を冷静に眺める。

 うーん。やっぱりそう思うよね。


「だよねえ。私も気付いた直後はそれで撃沈したもの」

「……なんでそんなあっけらかんとしてるんだ。自分のことだろう?」


 疑わしげに聞いてくる悠斗にもう一度笑った。


「嘆いたら歌えるようになるっていうならそうするけど、そんな都合のいいことあるわけないし、それよりは楽にしていた方が、いざというとき何とかなるかなって」

「……なあ……いっそのこと、代わりにピアノ弾くとかってどうよ?」


 重苦しい雰囲気をまとったまま悠斗が提案してくる。一応、対策を考えてくれたらしい。だが私はどや顔で反論した。


「私が考えないとでも思った? 残念。ピアノは歌と違って楽器がいるでしょ。どうするの。私、常にピアノ積んだトラックと移動するの? 現実味なさすぎ」


 なんでドヤ顔なんだよと嘆息する悠斗は、視線を空にさまよわせながら言った。


「えーと、えーとじゃあ……代わりにピアニカとか」

「まさかのピアニカ……」


 苦肉の策過ぎて泣ける。

 私はじとっと悠斗を睨んだ。

 

「……なに。そういう場面になったら、あんたが陰からさっと現れでて、ピアニカ渡してくれるっていうの……それなら考えないでもないけど」


 嘘だ。考えない。

 大体ピアニカって何の嫌がらせだ。

 さすがに悠斗もそれはないと思ったらしい。さっくりと謝罪してきた。


「……俺が悪かった、許してくれ」

「いいけど……頼むからもう少し考えて発言して。私の人生が掛かっているの」

「すまん」


 悠斗につられてなんとなく暗い雰囲気になってしまった。

 この話題は考えても結論がでないのだから、結局出たとこ勝負でいくしかないのに。

 悠斗が考え込むように言った。


「……でもそうなるとこれから発生するイベントとか、どうするつもりだ? 明後日のハイキング。あれも確か歌うシーンなかったか?」

「……あったね。忘れていたよ」


 そういえばあった。確かにあったよ。

 どこでもかしこでも歌ってくれちゃう、主人公。

 ハイキングの途中でものんきに歌っているシーンあった。


「最悪。……とりあえず、明後日どうしたらいいと思う?」


 簡単に回避する方法として、欠席するという手段があるが。

 悠斗は苦虫をかみつぶしたような顔で言った。


「フラグクラッシャーが何を言うか。……もうこうなったらイベント自体を壊してしまえよ」

「おう、そうする! っていえたらいいんだけどね。今まで意識的にイベント壊したことなんてないんだよ。……でも実際問題、それしかないかー。……でもさ、一瞬だけだけど、本気でピアニカを考慮に入れてしまった自分が怖い」

「うわ、追い詰められてるな……」


 お気の毒ーと手を合わせる悠斗に恐る恐る提案した。


「悠斗、あのさ、考えたんだけど私も当日欠席を……」

「あんたの兄さんや生徒会長様に、後で何言われてもいいならそうすれば」

「ですよねー……」


 至極もっともな言葉に私はうなだれた。

 そうだよね。兄と誠司君になんて言い訳すれば良いんだ。

 あの二人に仮病が通じるとは思えない。

 遠い目になる私に、悠斗は同情的な目を向けた。少し考えるそぶりを見せた後おもむろに口を開く。


「真面目な話なんだけどな。多分欠席はやめた方がいいと思うぞ」

「どうして?」


 冗談だけで本当に休む気などなかったが、悠斗の口調が気になり話を促す。


「なんというかさ、今回のディアスの件もそうなんだけど、なんか作為的なものを感じないか? 俺はあの直前まで体調に何の変化もなかった。どう考えてもあの倒れ方はおかしいんだ。ディアスのイベントのおぜん立てに使われた、そんな気がしてならない」

「……偶然にしてはできすぎてるって?」

「おかしいとは思わなかったか? あまりにも都合がよすぎるって」

「……」


 それは確かに思っていた。あまりにもタイミングが良すぎると。


「今回欠席した場合、どこにしわ寄せがくるかわからない、そんな気がする」

「なるほど」


 悠斗の言い分はすごく納得できた。

 私ははあっと息を吐き、仕方ないと頷いた。


「わかった。……とりあえず、ハイキング頑張ってくる」

「気をつけろよ」

「うん」


 私は悠斗をみて、しっかりと頷いた。


◇◇◇


 ハイキング当日は、見事な晴天だった。

 絶好のハイキング日和。

 私は幼いころから、空手をたしなんでいるお蔭で体力にはかなりの自信がある。だから別に平地に毛が生えたような山はどうってことはないのだが、思った通り体力マイナスなお嬢様方の歩みは亀のように遅々として、なかなか頂上にたどり着かなかった。

 生徒会役員は最後尾から、生徒が取り残されていないかチェックしながら登る。疲れて蹲っている生徒が居れば、声をかけて歩かせるのが仕事だが、そんな生徒はほとんど女生徒ばかり。

 つまり、私や奏さんが声をかけるより、兄や誠司くんに仕事をしてもらった方が効果覿面だということだ。うずくまる女生徒に声をかけていく二人をぼんやり眺めながら、奏さんとゆるゆる山を登っていく。


「全く、いらない行事ですわね」


 意外に奏さんは元気だ。いつもの縦ロールもきれいに決まっている。

 正直体力不足で、早々と戦線離脱かと思っていた。


「そうだね。私もこんな行事はいらないけど、奏さん、元気だね」


 そういうと、こちらを面白そうな顔で見つめてきた。


「あら、やはりさっさと倒れてしまうとでも思ってらして?」

「まあ、ね。特にスポーツやってるというわけでもないでしょう?」


 素直に告白すれば、奏さんは納得したように頷いた。


「それはそうですが、最低限トレーニングは欠かせませんわ。体力作りも美容には必須ですもの」

「程よく筋肉ついた方が体のラインもきれいだしね。うん。なんか納得した。奏さんらしい理由」


 自分の気にする美容の為なら、体を鍛えることも苦ではないという彼女に感心する。奏さんのそういうところ、結構好きだ。


「そういう伊織さんもなかなかのものですわ」

「ああ、私の場合は空手を続けているから」


 きちんと運動すればある程度のスタイルは保てる。空手はそれに一役買っていた。


「お前ら、暇そうだな。俺たちがこんなに苦労しているっていうのに」


 談笑しながら、登っていると上の方から誠司くんが戻ってきた。わざわざ戻ってこなくても、そのまま登っていればいいのに。


「お疲れー。お嬢様方は皆行ったの?」

「ああ、特にぐずっている奴らは里織が片づけている」


 それは、まあご愁傷様です。


「仕方ないね。私たちが声かけたって動こうとしてくれないんだもの。誠司くんや兄さんのような美形に励まされるのとはわけが違うよ」

「わたくしたちに出番はありませんわ。適材適所という言葉があるでしょう。この場では無駄にきらきらしいあなた方の顔が役に立つのです。存分に活用なさい」


 私が言えば、奏さんも続けて言葉を重ねてきた。きらきらしいってうまいこといったな。ちょっと吹き出してしまった。


「お前は本当に一言も二言も多いな。まあ、これで俺の仕事は終わりだ。後の事は里織に任せて、ゆっくり行かせてもらう」


 奏さんの言葉に、少しむっとした様子を見せた誠司くんだが、気を取り直したように私の隣に並んで歩き出した。そして、目が合った私に笑顔を見せた。

 あれ、この場面見たことあるぞ。

 ――――そうだ、思い出した。

 このゲームの主人公は、確か体力が全くなかった。だからクラスメイトたちについていけず、途中で動けなくなってしまう。

 攻略キャラのうち生徒会長がでてきた場合は、あまりにふらふらの主人公を心配して、一緒に登ってくれるというイベントが発生するのだ。その山登りスチル。

 ちょっと、状況は違うけどこれはイベント回収ということになるのだろうか。

 でも、私はしんどいのを紛らわす為に、歩きながら歌いだしたりとかはしないぞ。断じてしないからな!

 確かゲームでは、歌う主人公に向かって、誠司くんがほほ笑んでくれるスチルだったはずだから。


 ――――そしてふと、思った。


 ここで「へい、ピアニカ!」と私が手を出したら、何故か悠斗がでてきて「へい!」とピアニカを渡してくれたら、とても笑えるのにと。

 そうしたら、私ものりのりで何か弾いてやろう。さぞかし面白いイベントになるに違いない。

 今、ここにいない悠斗の事を思いだして、私は一人くすりと笑った。




いつもありがとうございます。

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