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ディアス固定イベント ショッピング

こんばんは。何とか更新は間に合いました。

昨日感想くれた方々申し訳ありません。

今日は本当に時間がなくて、返答は明日以降になると思います。いつもありがとうございます。


『……逃げようったってそうはいかないから。……イベントそのいち』


◇◇◇


 売られていく子牛というのはこういう気分なのであろうか。

 まさに今、あの名曲が頭の中をエンドレスリピートしている。

 隣に立つ男は、すこぶるつきの男前。

 道行く人が男女問わず次々と振り返っていく。ディアスは慣れたもので、気にした様子もなく機嫌よさそうに歩いている。

 ……今気づいたけど、ディアスはちゃんと私の歩幅に合わせてくれている。

 ……なんだろう。すごく悔しい。

 先ほどの急な頭痛は歩いているうちにすっかり収まっていた。今私が考えなければいけないことは、如何にしてこの強制買い物イベントを終了させるか。これに尽きる。

 こうなってしまった以上、ディアスは今更私を一人にはしてくれないだろう。

 そうなれば後は、早急に目的を果たしてしまう他ないのだ。


 ――――よし。


 目標を心の中で立てた。

 買い物をさっさとすませてしまおう。

 そしてこうなればついでだ。ディアスにはこの機会に私に幻滅してもらおうではないか。

 禍転じて福となすのだ。

 ディアスには、せいぜい鬱陶しい女とでも思ってもらおう。

 もしくは面倒くさいとでも思ってもらえれば、第一段階としては大成功だ。

 にやりとほくそ笑み、私は早速作戦を実行することにした。

 ディアスに向かって言う。


「先生。まずは、ホームセンターです。ミドリ館1階へお願いします」

「おや、ようやくあきらめてくれましたか。ミドリ館ですね。分かりました。こちらから行きましょう」


 わざとここから一番行きにくい目的地を言ってみた。困らせてやろうと思ったのだ。

 だがディアスはあっさりと頷き、慣れた風に私を案内した。結果今までで一番効率的に目的地に着いた気がするが、私はかなりの方向音痴なのでどうやってここまで来たのかまるで理解不能だった。私が一人で辿り着く3倍は早かったとだけいっておこう。なんだ、魔法でも使ったのか。


「……先生、すごいですね。こんなに早く目的地に着いたのは初めてです」


 ディアスのことは好きではないが、賞賛に値することをしたのだから(私にとって)素直に告げることは必要だろう。少なくとも私にはほとんど感動ものだった。


「こんなことで喜んでもらえるとは思いませんでしたね。伊織さんは方向音痴ですか」

「残念ながらそうみたいです。今もどうやってここまでたどり着いたのか、さっぱりわかっていませんから」

「それは、また」


 困ったように微笑まれるが、どうでもいい。この話はここまでだ。

 伊織さん呼びもやめさせたいが、いちいち文句をいうのも何だし……。

 ……あの子を思い出すから、いやなのだけど。

 私は慌てて首をふった。

 まあ、いい。今は急いで備品を買い揃えるだけだ。

 そしてさっさとディアスと別れる! 頑張れ私!


「では、先生はカートを持ってください。私が必要なものを入れていきますから」

「わかりました。これですね」


 レジの横に並べてあるカートを一台とってディアスは戻ってきた。

 そのまま、私の隣に並ぶ。


「先生、隣に並んではいけません。他の人の邪魔になります。私の後ろにお願いします」


 さっと注意すれば、ディアスは素直に従った。カートを押して横並びとか迷惑以外の何物でもない。前世で散々イライラさせられてきたのだ。同行者にその行為を許すはずもない。

 後は無言でひたすら商品をカートの中に突っ込んでいった。

 無心、無心、無心になるんだ。私。

 購入すべきすべての商品をカートに放り込んだ私は、そのままディアスにレジに並ぶよう指示した。ディアスは何も言わずおとなしく従う。

 そういえば買い物中、奴は何も言わなかったけどどうしたのだろう。


 そうか、あれか! 女性の買い物の勢いに気圧されたとか、そんなやつだな!


 だとしたら、少しは作戦成功? 多少なりと、うっとうしいと感じたのかもしれない。

 私は早速うきうきとディアスに尋ねることにした。


「先生。さきほどから黙ったままですが大丈夫ですか? 女性の買い物に付き合うのも楽ではないでしょう」


 声をかければ、はっとしたようにこっちを見て、謝罪してきた。


「ああ、すみません。伊織さんと一緒にいながら、ほかのことを考えてしまうなんて。不愉快な思いをさせましたか?」

「え? いえ、別に」


 むしろ黙っていてくれてありがたかったが。

 不機嫌になってくれたら嬉しいと思っていたが。

 そう思ってから気が付いた。

 ……しまった。不愉快だから帰るとでも言ってやればよかった。

 もう一回言ってくれないかな。今度は間違えない。

 よしこい、とばかりにディアスを見つめると、彼は優しく目を細めた。


「……あなたはいつもやさしいですね。……いえ、周りから見たら僕たちはどういう風に見えているのだろうか、なんて考えてしまいました」

「……!!」


 突っ込みどころしかない件について!!

 今すぐ掲示板にスレ立てしてもよろしいか!


「教師と生徒です! それ以外ありません!」


 びしりと告げる。だがディアスはにこにこしながら言った。


「まさか、見えないでしょう。恋人か、こんな買い物をしているのですから若い夫婦にでも見えているのかもしれません。そう思えば、つい心が浮き立ってしまって」


 いけませんね、ふふ、と口元をゆるませるディアスに本気で引く。

 いや、確かにディアスの見た目は、完全に詐欺だ。下手すれば同じ年くらいに見える。

 でも!

 恋人とか夫婦とか、……ないない! せめて選択肢に友人を入れてくれ!

 あんたとなんて絶対に嫌だ!


「ははは。ご冗談を。醸し出す雰囲気もありますから、絶対にみえてないと思います」


 乾いた笑いを発しながら、真顔で『絶対に』の部分を強く強調した。


「おや。だとしたら残念ですね」

「いえ、私にとって先生は雲の上にいらっしゃるお方。そのような誤解を生むなど、とんでもないことです」


 固い声で、いかに全く関係ない他人であるかを強調してやれば、ディアスは言葉通り残念そうな顔をみせた。知るか。

 そのまま会話を強制終了させ、私は無言で会計を終えた。

 次はどちらですか? というディアスに目的地を告げる。

 もう、本当にさっさと終わらせたい。

 なんなの、この苦痛。


「次は文房具店です」

「わかりました。こちらです」


 簡単なものなら、先ほどのホームセンターで揃うが専門店でなければ手に入らないものもある。頼まれたリストの中にはそういったものも混じっていて、別に立ち寄る必要があった。

 いそげ。いそげ。

 その後は一切余計な会話をすることなく、買い物を終わらせた。

 そうして、ようやく残すところ後一店舗となったところで、ディアスが不意にふふふとこらえきれないかのように笑い出した。なんだ、こいつ。気持ち悪い。


「楽しいですね」

「え?」


 何を言われたのかわからなくてディアスを見上げれば、彼は目を細めてとても幸せそうな顔で私を見ていた。

 さっと視線を逸らす。だから、その顔と声やめて。


「……楽しいのですよ、僕は。信じられないことに。こんな風に誰かと一緒に買い物なんて、経験したことも、しようと思ったことすらなかったというのに」

「は、はあ」


 ……コメントし辛い。奴の正体を知っている私は、その意味するところを分かってしまう。

 知らないのなら、なんと返すのが正解なのだろう。

 ディアスの突然の告白に私は完全に言葉をなくしていた。

 その場に立ち尽くしてしまった私に言葉をつなげてくる。


「不思議ですね。ほんのささいな経験なのに、それが突然色づいてひろがる。……それとも、あなたと一緒だから、なのでしょうか」


 ……今日は楽しいなんて思える事何もしていないはずだ。

 思い切り振りまわしてやったし、怒鳴りつけたし、かえって私の方がストレスたまるほど、やりたい放題やったはず。

 いくら思い返しても、楽しい要素なんてどこにもなかった。それでも、楽しかったと奴は言うのだろうか。

 すっかりわけのわからなくなってしまった私は、つい藪蛇になるだろうから言わないでおこうと思っていたことを言ってしまった。


「私、先生とはこの間お会いしたばかりで……そんなこと言ってもらうような存在では……」

「僕とあなたは、もっと前に会っていますよ……ふふ、これ以上は、今は秘密です」


 欲しくなかった返答をくれる。

 考えないようにしていたけれど、もしかしてそうなのかなとは思っていた。

 思っていたけど、想像で終わらせてほしかった。

 固まってしまった私に、ディアスはさらにそっと囁いた。


「どうか思い出して下さい。伊織さん。僕は――――それまで、ずっと待っていますから」


 思い出して。

 もう一度そういって、私の頬をさらりと撫でる。

 冷たい手の温度にびくりと反応すれば、ディアスの目がさらに楽しそうに笑った。


「申し訳ありませんが、記憶にありませんし、思い出せる気もしません」

「大丈夫です。僕はかなり気が長い方ですから」


 少しでも、何か言わなければと思って苦し紛れにでた返答は、簡単に潰されて。

 どうしたらいいのかわからず、思わず見上げた途端、


「やっと、目を合わせてくれましたね」


 きらめく紅玉が私を捉えていた。透明感のある赤はなんとも吸い込まれそうで恐怖さえ覚える。ディアスが、ネットユーザーたちから『紅玉の君』と呼ばれていたことをふいに思い出す。


「……綺麗な目」


 思わず呟いた私に今度はディアスが目を見張ったまま、固まった。

 間があいて、我に返る。

 今、私は何を言った? 

 ものすごく恥ずかしくなり、私は両手をばたばたと振った。


「いやいやいや、何でもありませんから。忘れてください! 行きましょう。後1店舗で終わりです」


 必死にディアスを引っ張りその場を離れる。


「……ありがとうございます」


 ……震えるようなディアスの声は、聞こえなかったことにした。


◇◇◇


 ……非常に疲れた。

 なんとか全ての行程を終了させた私は、ようやくディアスから離れられると息をついた。


「お疲れのようですね。良かったら、お茶でもどうです? ご馳走しますよ」

 

 ディアスの挙げた店舗の名前は、ケーキが自慢の人気カフェ。

 気が惹かれないわけでもなかったが、これ以上この男と過ごすことに耐えられそうもなかった私は、きっぱりと断りをいれた。


「申し訳ありません。そろそろ兄が迎えにくる頃合いですから」


 1時間ほど前、嵯峨山さんと兄に連絡を入れておいた。もう着くはずだ。


「そうですか。残念ですが仕方ありませんね。荷物は僕が引き受けましょう。学園に戻る予定がありますから」

「それではお願いいたします。先生、今日はお付き合いいただきありがとうございました」

「こちらこそ。……得難い時間でした」


 もう一度礼をして、ディアスから離れる。

 おそらくだが、私の作戦は完璧に失敗したような気がする。泣きたくなる気持ちをこらえ、兄との待ち合わせ場所に向かった。

 ……向かう先から兄の姿が見える。

 兄だと認識した途端、情けない話だがあまりにほっとして、こらえた涙がこぼれおちそうになってしまった。

 小走りに駆け寄り、兄に抱きつく。いつもは絶対にしない行動に兄は戸惑った様子をみせた。


「伊織? どうしたんだい?」

「なんでもない。……来てくれてありがとう、兄さん」

「……どう致しまして。帰ろうか、伊織」

「うん」


何も聞かないでくれる兄の優しさがしみる。頭を撫でられて、少し鼻をすすった。


 ――――こうして、私の知らなかったディアスイベントは、混乱の中に終了した。


◇◇◇


『ふふふ。おめでとうございますー。イベント2、にすすみます』




読んでくれてありがとうございました。

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