強制イベント発生
本日更新分ですー。
今日もよろしくお願いします。
「オリエンテーション?」
放課後、生徒会室へ集まるなり説明された行事に首をかしげる。
誠司くんは行事を全くしらない私と悠斗に向かって言った。
「名称だけはそうだが。どちらかというと新しいクラスに慣れたころに行う、お互いの親睦をより深めるもの、という認識だ。全学年合同で、毎年近くの山にハイキングへでかける」
「ハイキング……」
その響きに、ゲームのイベントを思い出した。真相ルートではなく、通常ルートの最初のイベント。確かハイキング中にまだ出会っていない攻略キャラと、無条件で会うことができるイベントとして設定されていたはず。
全員と出会っている場合は一番好感度の低いキャラとのイベントに変更される。
もしかしたら、変則的にでも真相ルートの話そのまま進むのか、と思っていたが、考えてみればここは現実。真相ルートでは全く語られない学園生活や、このハイキングだって当然あるわけだ。
「親睦を深める。ですか」
隣にいた、悠斗も尋ねる。彼も思い出したのだろう。そういえば、悠斗は性格はこんなだが、事実ゲームと同じで体が弱い。山になんて登れるのだろうか。
誠司くんが名前を挙げた近所の山というのは、結構初心者にはきつい起伏があったはず。悠斗のみならず、うちの学園の生徒にクリアできるものなのかと、少し疑問に思った。
そういえば、確かゲームでは悠斗に会っていなくても、このイベントに悠斗が現れることはなかった。ということはやはりゲームでも欠席していたということか。
疑問を込めて悠斗を見つめると、視線に気が付いた彼は小さく笑った。
「すみません。俺は病気のこともありますから、当日は不参加になると思います」
「今里の病気のことは担任からも聞いている。勿論不参加で構わない。だが、準備だけは手伝ってもらいたい。構わないか?」
「はい。それは勿論です」
悠斗が首肯すると、誠司くんはそのまま話を続けた。
そういえば、誠司くんだが、何を思ったかあの悠斗加入の次の日以来、悠斗にも素の性格をみせるようになった。
あの日、生徒会室に戻ってしばらくして、誠司くんは私にもう帰るようにといい、逆に悠斗には話があるから残るようにと指示を出した。
……その次の日から、だったと思う。
何らかのやりとりがあったのだろう。気になったので、あの後何か言われたのかと聞いてみたが、悠斗はなんでもないと教えてくれなかった。
ただ誠司くんについて尋ねたとき、妙な反応をみせた。
おかげでますます気になってしまった私は、誠司くん本人に直接尋ねてみたのだが、「このままでは不利だったからな」とよくわからない答えを返されてしまったのだ。
一体二人に何があった。
だが、役員内で取り繕わなくてよくなった分、誠司くんにはよかったのかもしれない。
「オリエンテーションは来週。ほとんど準備は終わっているが、担当してもらいたいのは諸々の買い出しだ。ここにリストがあるから週末にでも行ってきてもらいたい」
「わかりました」
話はいつのまにか進んでおり、仕事の分担の話になっていた。
慌てて私は口をはさんだ。
「あ、じゃあ、それ私も行く。私会計だし。お金が絡むなら行っておきたい」
「伊織もか?」
途端に誠司くんが渋い顔になる。
「え? なんか不都合?」
「いや、そういうわけではないが、伊織には俺の仕事の補佐をしてもらおうと思っていたからな」
「それこそ、兄さんの仕事じゃない。ね、兄さん」
そう問いかけると、机にもたれかかって黙って話を聞いていた兄さんは、誠司くんに含みのある笑いを向けた。
「伊織の言うとおりだねえ。……残念だったね、誠司」
「余計なことをいうな、里織。……そうだな、わかった。今里と伊織は買い出しだ」
ちっと舌打ちをした誠司くんはそれ以上は言わずに、買い物リストを渡してきた。
リストを受け取りさっと目を通す。……かなりの量が書かれていた。
「了解。それじゃ悠斗、荷物持ちお願いね。それとも身体が弱いならきついかな」
「それくらいなら大丈夫だ」
「ならいいけど。私も手伝うからね」
「ああ、助かる」
瞬間、びりっとした殺気に似た気配がとんだ気がしたが、それは次の瞬間には綺麗に消えていた。
「ん?」
首をかしげていると、何故か悠斗がひきつった笑いを浮かべていた。
◇◇◇
悠斗と約束したのは、次の日曜の午後だった。
頼まれた買い物は、近くにあるショッピングモールですることになった。このモールは、駅直結、今年の春にリニューアルオープンしたばかりで、ここ一帯では最大級の規模を誇る。アウトレットも併設した巨大商業施設だ。
ここなら誠司くんからもらったリストの品も全部そろうだろうとの選択だった。
待ち合わせ場所は、駅の中央改札口前。
お金持ちの家に生まれたおかげで今世では電車に乗ることはあまりない。だが、お互い前世では乗りなれていることを確認済みだ。
問題なく約束の時間10分前についた私だったが、そこで突然スマホが鳴った。
相手は待ち合わせの相手、悠斗。
「もしもし、悠斗?」
「悪い、伊織。あのさ――――」
「ええ?」
――――一時間ほど前。家をでようとした悠斗は、玄関先で突然気を失い倒れたらしい。運ばれていた自分の部屋で意識を取り戻したのがつい先ほどで、時間をみて慌てて電話をかけてきてくれたのだ。
スマホ越しに行けなくなったことを謝る悠斗に、こちらのことは気にしなくていいからゆっくりやすんでくれと伝えた。
やはり、病気のせいなのだろうか。大丈夫なのかと聞く私に、いつものことだからと静かに告げる悠斗。
改めて、彼の置かれている状況を考えてしまった。
とにかく気にしなくていいということをもう一度伝え、電話を切った。
「うーん、どうしよう」
……仕方ないこととはいえ、一人での買い出しになってしまった。リストを取り出して眺める。私だけでは、到底持って帰れる気がしなかった。
しかし、オリエンテーションは今週。買い出しに行ける機会はもうない。
少し考えた私は、家に電話して嵯峨山さんに迎えにきてもらうことにした。車で運んでしまえば多量の荷物も問題ない。
再度スマホを取り出す。2時間後くらいにきてもらえばいいだろうか。スマホを操作して自らの家の番号を表示させる。通話ボタンを押そうとしたところで、声がかかった。
「伊織さん?」
「え?」
反射的に振り返るとそこには、赤い髪、赤い瞳の美声の悪魔が立っていた。
◇◇◇
「え? ディアス……先生?」
突然現れたディアスを見て私は冷静さを失っていた。
思わず呼び捨てそうになってしまう。誤魔化すように先生とつけたが……危なかった。
休日だからか、細身のパンツとシャツというラフな格好をしたディアスは、私が一人でいることを疑問に思ったようだった。
「伊織さん、どうしました? こんなところに一人きりで。お兄さんと待ち合わせですか?」
あんたこそなんでここに! と叫びたいのを我慢して、ディアスに仕方なく事情を伝える。相変わらずの美声に、つい聞き惚れそうになる自分を必死で叱り飛ばした。
「生徒会の買い出しです。今里くんと来る予定でしたが、彼が家を出る直前、倒れてしまいまして。急きょ私一人で買い物をすることになりました」
「そう、でしたか」
説明すれば、ディアスは渋い顔をした。そんな表情も美形がすると様になる。
またもや見惚れそうになっていたことに気付き、視線をそらして下を向いた。兄さんや誠司くんで美形は散々見慣れているはずなのに、こいつの顔はどうしても慣れない。好みだからだろうか。それとも悪魔のテンプテーションか何かか。
そうだとしたら、本当に怖い。
ディアスは私を見つめ、ゆっくりと言った。
「今里くんのことも気になりますが、それより……あなた一人で買い物ですか? 生徒会ということは、オリエンテーションの買い出しですよね。かなりの量があったように思いますが、大丈夫ですか?」
その辺りも、顧問として目は通してあるらしい。
「大丈夫です。今家から車を呼ぼうと思っていましたから。問題ありません」
ディアスとの会話は必要最小限に。事実だけを述べていく。
早く別れて1人になりたいと、気ばかり急くがここは我慢だ。
……全く。なんでこんなところでディアスに会うのだ。こんなイベント、真相ルートでもなかった。私がフラグ折りまっくたせいだとしたって、こんな偶然あるものか。
そう思ったところで気が付いた。
そうだ。本当に何故、ディアスとここで会うのだろう。
だってディアスとのイベントはすべて校内で発生する。……当然だ。
ディアスは結界のせいで学園外へでることができない設定だからだ。
それならなぜ今、こいつはここにいる?
「……伊織さん。考えたのですが、女性一人でこの量の買い出しは、やはり無謀だと言わざるを得ません。人出も多いですし、何が起こるかも分かりません。……ですから、僕でよければお手伝いしますよ」
「……え?」
考え事をしている間に、ディアスがとんでもないことを提案してきた。
予想外すぎて反応が遅れる。ディアスは再度告げた。
「ですからお手伝いすると言っています。荷物持ちでもなんでも使ってください。あなたのお役にたてるのなら、僕も嬉しいです」
丁度良いところでお会いできましたね、とやさしく微笑まれ、焦る。
しかしどうしてこうもディアスは私に好意的なのだろう。
初めて会った時から、妙にディアスは私に対して好意的で気になっていたのだ。
少し考えてみる。
ゲームではなぜディアスは主人公に好意的だったか。それは、――――だったから。
……でも、それは私には当てはまらないはず。なぜなら――――。
急に、頭がずきずき痛み出してきた。
――――さっきまで考えていたことが靄でかすんでいく。
「いえ、大丈夫です。あの……兄を呼ぶこともできますし、先生もご用事がおありでしょうから、私に時間を割いていただくわけにもまいりませんし……」
酷い頭痛のなか、なんとか断ろうと言葉を紡ぐ。
「気にしなくていいですよ。女性を、一人で行かせることの方が問題ですから。それに、お兄さんを待つにしても時間がかかるでしょう。その時間も勿体ないですから、ね?」
「や、あの、でも」
何か言わなくてはと思うが、それ以上言葉にならない。ディアスは引く気が全くないようで、私から肯定の言葉を引き出そうとしてくる。
「困ったときはお互い様です。遠慮なんてしないでください」
なかなか返事をしない私に少し苛立った様子を見せたディアスは、結局私の返答を待つ事をやめたようだ。
行きましょうと少し強めに背中を押され、強引に歩き出すよう促された。
驚いて見上げる私に、口答えを許さない笑みを浮かべてくる。
――――まさかの強制イベントか。
当然のようにエスコートしてくるディアスに、私はこめかみを押さえながら、このイベントが逃れられないものであることを知った。
いつもありがとうございます。




