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本気のお願い


◇◇◇


 今里くんが転生者だと知った私だったが、特に行動を変えたりはしなかった。日常を当たり前に過ごす。

 そう、気付いた時は確かにショックをうけたのだが、他に転生者がいたっておかしくないだろうと思い直したのだ。

 ――――だって転生者が彼だけとも限らないのだから。

 たとえば……お約束展開としては、ライバルキャラだ。

 一応この話にもいわゆるライバルキャラが存在するが、でも彼女は違うと断定できる。

 だってまずライバルではなくなっているのだから。

 原作では、誠司くんの婚約者だった彼女。

 だが、幼いころ先に私が彼の婚約者になってしまったため、そのフラグはすでに折れてしまっているのだ。

 今の彼女には大学生の婚約者が別におり、日々幸せそうに過ごしている。

 名前は、峯村奏みねむらかなで

 誠司くんの従妹でうちの高等部の2年生だ。

 彼女は、テンプレ的なお嬢様キャラで、「おーっほっほっほ」という笑いを素でする人だ。初めて聞いた時には耳を疑った。

 語尾は当然「ですわ」、髪型は「縦ロール」

 泣きたくなるくらいお約束を地で行く。

 だが本人はといえばとても優しい人で、誠司くんと婚約した私に対しては特に細やかな気配りと思いやりをみせてくれる。

 ――――きっと人身御供だと思われているからだ。

 たまに、かわいそうなものをみるような目で見られているから多分間違いない。私は誠司くんはいい子だと思うのだけど、どうにも彼女は彼のことが苦手らしい。

 ゲームルートでは「彼をわかってあげられるのは私だけ!」的な勘違いお嬢様として登場していた彼女だが、彼女のためにもフラグを折っておいてよかったと思う。

 そういうわけだから彼女はライバルキャラではないと思う。

 後は可能性があるとしたら……よくあるモブ転生だろうか。

 うーん。それならそれで、ま、いいか。

 だれか落としたいキャラがいるなら落としてくれたらいいし、ディアス込みで逆ハー目指すなら是非どうぞ。とはいってもこのゲームに逆ハールートはないし、ディアスルートへはいったら最後、他に寄り道なんてできないからそのあたりは自己責任だ。

 誠司くんでも、兄さんでも、総ちゃんでも、今里くんでも、代わりに主人公をやってくれるというのなら、全力で譲りたい。

 攻略したいキャラが分かった時点で、強力に協力すると約束する。

 邪魔なんてしない。

 だって私は公務員なフツメンと結婚したいから。

 それに皆に対して恋愛感情をもっているわけでもないから気にならない。

 誠司くんとの婚約だって、喜んで解消に応じよう。

 でも、一つだけ。

 その子がいい子だったらいいなあとは思う。

 皆を不幸せにするような子だったら、精神年齢50歳の私が遠慮なく潰させていただく所存である。


「ふふふ。それも楽しそうだなあ」


 小さく呟く。

 色々考えているうちになんだか楽しくなってきた。

 モブさん、本当に転生していないかな。

 主人公交代イベント、本気でお願いしたいんだけどな。


 転生者の今里くんのことに関しては偶然知ってしまったけれど、別にこちらからつつくつもりもないし、知らなかった事にしてそっとしておくつもり。「よっ、君転生者? 実は私もなんだよね。一緒にディアスルートぶっ壊さない?」なんていうつもりはみじんもない。

 だって面倒くさい。さらなるしがらみとか全力で拒否したい。


◇◇◇


 そして放課後。

 授業初日なので、今日は午前中だけ。

 明日から一日通しての授業になる。初の授業の感想は、やっぱりレベル高いなーであった。これはうかうかしてられないかも。気合入れて勉強しないと、主席の座からあっという間に転落しそうだ。

 私の輝かしい未来のためにも、しっかり予習復習しなくてはならない。

 気分的には急いで帰ってさっそく勉強にはげみたいところだが、残念ながら生徒会室に行くという用事がある。

 兄さんの話を思い出し、暗い気分が戻ってきてしまった。

 一緒に帰りたそうにしていた総ちゃんは、うまく言って先に帰らせるよう仕向けた。

 今日は誤魔化せたが、こんな日々が続くのかと思うとかなり憂鬱である。

 今里くんは、相変わらずこちらの方をちらちら気にしていた。原作と違う私たちのことが気になるんだろうと推察できるが、私だって言わせてもらえるのなら、『あなたもキャラ違いますよ』って言ってやりたいところだ。

 そんな私の席は窓際一番後ろ。一番人から見られない、いいポジションだと思う。窓から景色もみることができるし、とても気に入っている。授業が終わったため、外では部活動が始まったらしい。ちらりとそちらを見ることもなしに眺めてみた。

 すると、とても見たくなかった光景が目の前に飛び込んできた。


「っ! なんで……」

 

 悲鳴を飲み込む。見間違いだと信じたかった。

 グラウンドの奥の方、ここからではかなり距離がある。

 そんな場所から何故か、何故かディアスがこちらに向かって手を振っていたのだ。


「ひぃっ!」


 全力で目を逸らした私は絶対に悪くないと思う。

 ――――何。何。何。意味が分からない。

 なぜ手をふった。なぜ今このタイミングで目が合った。なぜ……笑った。

 だいたい、あの距離から2階にいる私を見分けるとかいきなり人外モード出しすぎだ。奴が何を考えているのか分からない。

 怖い怖い怖い―――――――。

 目を背け、必死で自らに言い聞かせる。

 ……大丈夫だ、落ち着こう。気のせいだよ、きっと。

 私を見ているなんて自意識過剰にも程がある。

 あんなに距離があるのだ。向こうだってきっとこちらを認識していなかったに違いない。……ものすごく、無理があるような気もするが気のせいだ。

 ああ、そういえば生徒会室によばれていたな。そろそろいかなければ。

 はっはっは……。


「……」


 私は無言で座席から立ち上がった。

 ……今の光景は見なかったことに決めた。


◇◇◇


 生徒会室の場所は、兄に聞いていたので迷うことはなかった。ノックをして室内に入る。


「伊織、来たか」


 やってきた私を待っていたのは、生徒会長と書かれたプレートの前に座る誠司くんだけ。てっきり兄と二人がかりで攻めてくると思っていたので正直拍子抜けだ。二人きりかと思うと力も抜けてしまい、いつもどおり話しかけてしまった。


「来たよ、誠司くん。何? 話って」


 誠司くんは、いつもの様子で話しかけた私にちょっと笑って、対面の席を示してきた。おとなしく座る。


「呼び出して悪かったな。里織に任せてもよかったんだが、俺もお前と久しぶりに話したかったしな」

「話なら、どこでもできるでしょうに」


 誠司くんとは幼馴染みだ。わざわざ呼び出さずともどこでも会える。

 そう思ったのだが、誠司くんは呆れたように言った。


「本気で言っているのか? あの鉄壁の里織の防御をくぐりぬけられるつわものがいるとは思えない。俺ですらなかなか近づかせてもらえないのに」

「……兄さん、嬉々としてやっていそうだものね」


 おどけたようにいう誠司くんに少し笑う。彼もいつもどおり接してくれるみたいでそれが嬉しい。だけど済ませる話はさっさと済ませてしまいたい。

 

「で、本題は? 別に雑談するために呼んだのではないでしょう?」


 単刀直入に聞くと、誠司くんは姿勢を整えなおして一言。


「伊織、生徒会役員になってくれ」


 同じように、直球で返してくれた。

 だが、素直に頷くと思ったら大間違いだ。私はにっこり笑って言った。


「だが断る」

「里織も是非にと言っていたぞ。兄の期待を裏切るのか?」

「兄さんは関係ない。私は面倒くさいことは嫌い。知っているでしょ」


 兄の存在をちらつかされたが、私は断固として頷かなかった。 

 だって変なフラグはこれ以上いらない。役員になんてなるものか。

 私と誠司くんによる「やれ」「やらない」の不毛な問答はそれから一時間にも及んだ。

 話は平行線でいっこうにまとまらない。しかし私は決して引かなかった。

 意地でも断って帰ろうと決意すれば、誠司くんはその雰囲気を敏感に察したみたいで、大きく溜息をついた。


「伊織、どうしてもか」

「うん。ごめん」


 わかってくれたかと謝ると誠司くんは首をふった。


「違う。謝るのは、俺だな」


 そして、最終手段とばかりにがらりとその雰囲気をかえてきた。

 少し目をふせて、困ったような顔を作る。憂いをおびた表情に危機感を覚えた。

 ……やばい。

 思わず舌打ちしたくなった。

 これは、誠司くんの本気モードだ。


「……ずるいよ、誠司くん」


 恨めしげに彼を見上げる。

 誠司くんは「わかっている」と言った。


「本気、だからな」

「はあ……」


 誠司くんの言葉を聞いて、がっくりとうなだれた。負けたと確信したからだ。

 それも当然。

 私は、彼の本気の頼みだけは何があっても断らないと決めているから。

 彼がまだ小さかった頃、初めて友人として私や兄を頼ってくれた時からずっと。

 両親の育児放棄により心を閉ざしていた誠司くん。

 その彼が苦労の甲斐もあり、ようやく人を頼るようになってくれた。

 それなのにせっかく信じた人に裏切られでもしたら?

 今度こそ彼は二度と人間を信じられなくなってしまうだろう。

 だから私は決めたのだ。絶対に彼の本気のお願いだけは断らないと。絶対に助けてあげようと。

 彼が初めて私たちを頼ってくれた時にみせてくれた表情。

 それが今、誠司くんが浮かべているもの。彼があれから、本気のお願いをするときにだけみせる表情だ。

 それをわざと使うということは、彼は今、間違いなく本気も本気。

 そういうことだ。 

  

「伊織、俺を助けてくれ」

「……わかった」


 私は誠司くんに撃沈した。

 勝てるはずのない戦いだった。さっきまでのやりとりはなんだったのか。

 これがあることを知っているから、兄は誠司くん一人に説得工作を任せたのだろう。

 しおしおと萎れながら私は嘆息した。

 あーあ、負けちゃった。結局生徒会役員か。


 ――――存外私は、誠司くんに弱かったりする。

 


ありがとうございました。

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