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1月下旬 フラグ回避と次へのフラグ



 結果として1月下旬におこなわれた悠斗の手術は、無事成功した。


 手術当日は病院まで行くつもりだったのだが、悠斗の意思に従い遠慮した。

 終わったら必ず連絡するから待っていてくれと言われれば、それ以上私から何か言うわけにもいかず、おとなしく引き下がるしかなかった。


 手術時間は恐ろしく長かった。いつ連絡があるかとずっと携帯を握り締めていたのだが一向にその気配は見えず、次の日夜が明けたころ、ようやく一人病院で待つ事を許されたリザから連絡が入った。


『センパイ、手術成功した……』


 震える声でそういうリザに、思わずつられて貰い泣きをすれば、更に彼女は本格的に泣き出した。


『よかった……本当に良かった』

『うん……きっとこれで悠斗は大丈夫だよ……よかったね、リザ』


 電話を切った私は、すぐさま総ちゃんに連絡を入れる。

 彼もこの連絡を待ちわびているはずだ。

 案の定素直に喜びを表してくれた彼と、今度は二人で喜びを分かち合った。


「手術が成功したのなら、お見舞いに行ってもいいんじゃないかな?」


 総ちゃんの言葉に大きくうなずく。


「だよね。行っても大丈夫か確認してみる。ちょっと待ってて」


 折り返し連絡することを約束してから、リザに電話を掛けた。

 悠斗の具合と都合を教えてほしいと言えば、もう安定しているみたいだからいつでもいいと言われる。そうして総ちゃんと話し合った結果、次の週末に入院先を訪ねることに決まった。





◇◇◇◇





「悠斗、お見舞いにきたよ」


 お見舞い品の定番、果物かごをもって訪ねれば、悠斗は顔色もよくベッドから起き上がっていた。ちなみにリザは外出中だ。

 総ちゃんがいるので会話は全て日本語になる。

 リザの日本語力は上がっているが、まだまだ怪しいところもある。

 お互い気にするのも嫌だから、しばらく外すと先に連絡があった。


「……はあ。すごいね。……ホテルみたい」


 扉を開けて、まず呆れた。

 病院の個室というのは、こんなにすごいものだっただろうか。

 一流ホテルのスイートと比べても全く遜色のない病室に、思わず目をむいた。

 隣にいる総ちゃんも、口を大きく開けたまま固まっている。


 悠斗はそんな私たちをみて苦笑した。


「まあ、うちの系列病院だからな」


 どうしてもこうなるよというセリフに、そう言えば彼もセレブだったことを思い出す。

 確かに自分のところの御曹司が入院するとなれば、一番いい部屋をあけるのが妥当というものだろう。


「VIP用の部屋なんだよ。防犯も兼ねてるからな。でもそういう伊織だって入院することになったら多分この部屋を宛がわれると思うぞ?」

「防犯と言われるとそうかもしれない……」


 悠斗に言われ、苦い顔になった。

 表沙汰になっていないだけで、誘拐未遂などいくらでも経験がある。

 何の対策も取られていない部屋で過ごせば、十中八九誰かに狙われるだろう。

 納得しつつ頷けば、総ちゃんがお金持ちって大変なんだねと呟いた。


「……他人事みたいに。総太朗のじいさんも結構な金持ちじゃなかったか?」


 悠斗の言葉に、総ちゃんは眉を顰めた。


「まあそうだけど。でも正直あまり俺は興味なくてさ。向こうは俺に自分の後を継がせたいみたいなんだけど」

「総ちゃんのおじいさんて飲食系の会社の経営者だったよね……」


 思い出すように言えば、悠斗もそうなんだよなと続けた。


「俺も初めて聞いたときは驚いた。あの有名なところだろ?総太朗のじいさんが経営しているとは思いもしなかった」

「俺も数年前まで知らなかったんだってば」


 そう言って渋い顔をする総ちゃんは、こんな話はいいからと無理やり話題を変えてきた。よほど触れられたくないらしい。


「そんなことより悠斗のことでしょ!!……悠斗、手術成功おめでとう!」


 確かにこんな話をしに来たわけではなかった。

 私も総ちゃんに続いて笑みを浮かべる。


「そうだね。ごめん。悠斗、おめでとう。これでもう大丈夫だね?」


 2人して祝いの言葉を告げれば、悠斗は曇りのない顔で笑った。


「ありがとう、2人とも。……もう大丈夫だ。退院すれば、手術を受ける必要はなくなる。後はしばらく通院があるだけだから」


 悠斗と目線を合わせ、しっかりと頷く。

 彼の死亡フラグが回避された様を目の当たりにし、胸が熱くなった。

 こんなに思うとおりに運ぶとは思わなかった。

 嬉しさのあまり感動に浸っていた私だが、悠斗が声を掛けてきたことでそれは中断させられた。


「伊織……悪いんだけどさ、神鳥先輩にもお礼を言っておいてくれないか」

「え?」


 急に蓮の話を持ち出され、ぎくりと固まった。

 今、彼の名を聞きたくない。絶賛すれ違い中なのだ。


「俺、神鳥先輩の連絡先知らないからさ。今回の事は全面的に先輩のお蔭だし……でも3年は自由登校で、殆ど登校していないんだろう?勿論最後の卒業式で直接礼を言うつもりではあるけど、その前に伊織からも伝えてもらえないか?」


 真剣な顔でそう言われれば、頷くしかない。

 彼と連絡を取っていないなんて言えなかった。大体、悠斗は今回の私と蓮の話を知らないのだ。

 ぎこちなく頷いた私をみた総ちゃんが、ため息をついて助け船を出してくれた。


「……あー、あのさ、悠斗。神鳥先輩って今、かなり忙しいみたいでさ。伊織ちゃんも碌に連絡できていない状態らしいよ?」

「……そうなのか?」


 やみ上がってもいない悠斗をこちらのごたごたに巻き込むわけにはいかない。

 そう思っていれば、総ちゃんはさらりとフォローしてくれた。

 視線だけで礼を言って、有難く乗せてもらうことにする。


「……実はそうなんだ。色々と忙しいみたいで会えていなくて……。だから、ごめん……」

「別に謝らなくていいだろ?それなら最初からそう言ってくれればいいよ。……なら会えたらでいいからさ、伝言頼めるか?」


 申し訳なくてうつむけば、悠斗はそう言ってくれた。

 そんな彼の申し出を拒否することはいくら私でもできない。


「勿論、会ったら伝えておく」

「それで十分だ。後は自分で直接伝えるよ。サンキューな」


 悠斗の言葉にここにきて総ちゃんが首を傾げた。

 ストレートに疑問を述べる。


「ねえ?悠斗は神鳥先輩に何でお世話になったの?」


 当たり前と言えば当たり前の疑問に、二人して固まった。

 しまった。総ちゃんはこの話を知らないのだ。


「いや、そのまあ、色々だよ。……な、伊織」


 答えにもならない答えを悠斗が言えば、私も同調するしかなかった。


「う、うん。い、色々……です」


 同じように微妙な答えを返した私に、総ちゃんはいいけどねと遠い目になった。


「……聞かないでおくよ。……なんか俺、最近あの人なら何をやっても不思議じゃない気がしてきたから」


 総ちゃん、大正解!!とは言えないが、2人で誤魔化すように笑う。

 そうやって、次に生徒会などの近況を話し始めればいつの間にか時間は過ぎていて。

 悠斗の体を心配したリザに、総ちゃんと共に追い出されてしまったのだった。

 



◇◇◇◇




「悠斗、元気そうでよかったね」


 帰り道、隣を歩いていた総ちゃんが立ち止まり、私を見て笑った。

 立ち止まった彼に続き、私も歩みを止める。彼の目を見て頷いた。


「うん……早く戻ってくるといいね」

「そうだね……ねえ、伊織ちゃん。まだ神鳥先輩と仲直りできていないの?」

「え……」


 急に話を振られ、言葉に詰まった。

 総ちゃんに慰めてもらってから、すでに2週間以上が経過していた。

 

「え……と、その」

「さっきの態度で分かるよ……また、逃げているんだね」


 曖昧に誤魔化そうとした言葉がのどの奥に消えた。

 目を瞬かせ呆然と総ちゃんを見ると、彼は皮肉な笑みを浮かべていた。


「俺はさ、伊織ちゃんの事が好きだけど、そうやって逃げている伊織ちゃんは嫌いだよ。……ねえ、俺を振った時に逃げるのは止めてくれたんじゃなかったの?はっきり神鳥先輩が好きだって言ったよね?あれは嘘だったわけ?」

「……」


 何も言い返せず、ただ否定を表すように首を振った。

 

「だよね。だから俺も辛かったけど、前を向こうと思った。なのに伊織ちゃんはまた逃げてる。怖いのかもしれないけど何の努力もしないで、向こうからコンタクトを取ってくるのをただ待っているだけなんだ」

「ち……ちが……」


 ……正直違うとは言い切れなかった。

 だってクリスマスのあの日、文字通り私は逃げた。

 その後だって蓮が連絡を取ってこない事を理由にして、決して自分から近づこうとはしなかった。……総ちゃんの言うとおり、待っていただけだ。


「いい加減、やめなよ。そういう事。結論を出さないのは楽かもしれないけど、それって結局周り皆を傷つけていることになるんだよ?」


 総ちゃんは容赦ない。

 でも、総ちゃんにはそうやって私を糾弾する権利がある。

 だって彼ではなく、蓮を選ぶとはっきり告げたのは他でもない私なのだ。

 自分から動かない曖昧な態度を責められても仕方ないのだ。


「……たまには、伊織ちゃんから動いたら?……俺じゃなく神鳥先輩を選んだっていうなら、ちゃんと幸せになって、そして笑っていてよ。……でないと、いつまでたっても俺が救われない!!」

「総ちゃん……」


 自分の目を両手で覆い、総ちゃんは叫んだ。


「前にも言ったでしょう?笑っていてって。それって逃げろって言ったんじゃない!!大丈夫だから向き合ってって、そう伝えたつもりだったのに!!伊織ちゃんには何一つ伝わっていなかったの!!?」


 悲痛なその声に、胸が痛む。

 そこまで言わせてしまった自分のふがいなさに泣きたくなった。



 ……痛いほどの沈黙が流れる。



 総ちゃんは、私の答えを待っている。

 分かっていても、簡単に言葉にすることができなかった。

 それでも言わせてしまった彼の為に、私は答えなくてはいけない。

 どうしようもなくなり、私は恐る恐る口を開いた。


「……もう少しだけ」


 目を瞑り、唇をかみしめながら言った。

 情けないくらい声が震えていた。


「……ごめん。総ちゃん。私は本当に意気地がない。人に何かを言えるような人間じゃない。……でも、誠司くんの卒業式までにはちゃんとすると約束するから……今はこれで許してくれないかな……」

「伊織ちゃん……」


 今すぐなんてとても無理。理由もなく蓮の前に出ることができない。

 蓮がどうでるか分からない。

 もしかしたら今度こそ監禁されるかもしれない。

 過去の経験則から何事もなく終われるなんて思っていない。


 彼が本気で怒った時の怖さを、身をもって知っている。

 少しでも時間が欲しかった。


 それでも、私なりに真剣に伝えれば、総ちゃんは仕方ないと感情を押さえるように息を吐いた。


「……それで今すぐって言わない辺りが伊織ちゃんだよなあ。……いいよ、分かった。卒業式までだね?それまでにはきちんと結果を見せてくれるって約束してくれる?」

「……うん」


 ぎこちなく頷けば総ちゃんは、じゃあ待ってあげると目を閉じて頷いた。


「……ちゃんとハッピーエンドを見せてね。そしたら俺も次に進める気がするから」

「……頑張る」


 約束はできないけど、それが私の精いっぱい。

 総ちゃんの目を見て、私はしっかり首を縦に振った。



 そして、心の中で決意を固める。

 ――――『バレンタイン』にしよう、と。


 蓮にチョコレートをもっていって、その時に話そう。

 今の私に、理由なく蓮と会うなんて事はハードルが高すぎる。

 それでも会わなければいけないというのなら、理由を作るしかない。


 そう考え、自分に言い聞かせるように頷いた。 


 あと2週間程で、折しも世間はバレンタインデー。

 好きな異性にチョコレートを渡す日だ。

 その日までに蓮と会えなかったら……その時はチョコレートを渡しに、私の方から蓮に会いに行こう。自分から、会いに行くのだ。




 ――――そうしてようやく密かに決心すれば、私の想いを見透かすように総ちゃんが、ふわりと笑った。






ありがとうございました。

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