異世界の女神降臨
皆様、温かいお言葉の数々、本当に有難う御座いました!!
そろそろ感想のお返事再開させて頂きます
『ここは私に任せて!エレノアちゃんは「浄化」に専念しなさい!!』
「は、はいっ!!」
奥方様の言葉通り、再び『浄化』に集中する為に目を瞑る。……けれども、集中しようとすればする程、背筋に鋭く冷たい悪寒が走り上手くいかない。
目の前で繰り広げられている、オリヴァー兄様達の戦いがどうしても気になってしまうから……というのもあるけれど、クライヴ兄様やアシュル様達……。『互換』によって、強制的にこちらに転移させられた人達の安否が気掛かりでたまらないのだ。
シリル達がこちらに来た時点で、イーサンを使った作戦は既に破綻している。更にはシリルから暴露された『異世界人召喚』の真実により、『彼女達』への『浄化』も失敗してしまった。しかも最悪な事に、『彼女達』から発せられる『負』の感情も、先程と同様……いや、あの時以上になってしまっているのだ。
このまま『負』の感情が『邪神』へと流れ続けてしまえば、『邪神』の力は更に強大なものになってしまうだろう。
そうなってしまったら、私の『大地』の魔力による結界がいつまで保つのか……。いや、ひょっとしたらもう……!
「奥方様……!!お願いです!奥方様だけでも、あちらに戻ってください!!」
『エレノアちゃん!?』
「奥方様の精霊の力は、『光』の魔力と匹敵する聖なる力!どうか、その力でもって、貴女と私の大切な人達を守ってください!!」
思わずこちらを振り向いた奥方様の、サファイアのような瞳が大きく見開かれる。……が、垣間見えた心の揺らぎは一瞬で消え去ってしまった。
『そんな事、出来ないわ!!「彼女達」が再び荒ぶってしまった事で、折角浄化した大地がまた瘴気で汚染されてしまったのよ!?エレノアちゃん、貴女はそんな中で「浄化」を行ないながら結界を張れるとでも!?』
「――ッ!」
奥方様の指摘する通り、『彼女達』が発する瘴気によって、先程まで咲き誇っていたペンポポスミレの殆どは消滅してしまっていた。
その上、少なからず私自身の魔力も消耗してしまっているのだ。そんな状態では奥方様の言う通り、『浄化』をしながら結界を張る事など、とてもではないが出来ないだろう。
「――!?オリヴァー兄様!!」
そんな時だった。
シリルの剣に貫かれた兄様の身体から鮮血が噴き出す。その姿を目の当たりにし、頭の中が一瞬で真っ白になってしまった。
オリヴァー兄様は、襲いくるシリルの剣とレナーニャの尾を躱しながら、なんとか反撃に転じようとする。だが、脇腹の傷がその動きを鈍らせ、その身に幾つもの傷を負わされていく。
「――ッ!!やめてっ!!」
そんな状況を前にして、祈る事など出来る筈も無い。私は兄様を助けようとその場から立ち上がった。
『エレノアちゃん!駄目よ!!」
「――!……奥方様……ッ!!」
「……オリヴァー君と……他の皆の思いを……。彼らがどうして戦っているのか分かって!!』
奥方様の言葉に、私は奥歯を強く噛み締めた。
オリヴァー兄様達の思いなんて、分かっている。祖国の為、大切な人達の為、そしてなにより、私を生かす為に、命をかけて戦ってくれているのだ。
――でも、それじゃあ私の気持ちは?
私の本当の気持ちを、オリヴァー兄様は……皆は分かってくれているのだろうか?私だって、愛しくて大切な人達を守る為に戦いたいのだ。誰も……失わない為に……!!
『……それでも、「彼女達」を浄化する事が、私が皆を助けられる唯一の方法だから……』
そこで、私はハッと気が付いた。
――待って。本当に、『浄化』するしか手はないの?
脳裏に、まるで啓示のように『ある方法』が閃いた。
荒唐無稽かもしれない。けれども試す価値はあると、私の本能が告げている。
『でも、もし失敗したら……?』
きっと、この場にいる人達全員の命だけでなく、あちら側にいる全ての人達の命も絶望的な状況になるだろう。……でも、やるしかない!!
私は覚悟を決めると、奥方様をそっと抱き上げた。
「奥方様。やっぱり、ベネディクト君達の元に戻ってください」
『――ッ!エレノアちゃん!だから、それは……』
「私に考えがあります。……成功するかどうか……いいえ、絶対成功させます!その時の為に、あちらの皆を奥方様に守っていてほしいんです!!」
『エレノアちゃん……?』
何か言おうとしていた奥方様の口が閉じた。私が何をしようとしているのか分からなくても、覚悟は伝わったのだろう。
「奥方様。私は今から『祈り』に入ります。そして、合図と同時に結界を外して本体に戻ってください!」
言い放った後、奥方様の返事を待たずに祈り始める。
私は今まで、『この世界』の女神様にだけ『彼女達』を救ってほしいと祈っていた。だが、今祈りを捧げている相手は、『この世界』の女神様だけではない。
『「彼女達」は、この世界の理に縛られていない存在。……つまり、「元居た世界」となんらかの形で繋がっている可能性がある』
ならば『彼女達』を通じて、『元居た世界』に祈りを届ける事が出来るかもしれない。応えてくれる神々がいるかもしれない。
そんな可能性にかけ、『彼女達』に向かい、『元居た世界』に繋がるように祈りを捧げる。そして、この世界の『女神様』には、この世界の理に縛られない『彼女達』を還す為に力を貸してくださいと願ったのだ。
脂汗が全身から噴き出す。真っ暗い闇の中を歩くような感覚。そんな中、細い……けれども強い輝きを放つ一筋の光が私の身体と真っすぐ繋がった。
『――きた!!』
「奥方様!!行って!!」
『――……ッ!!エレノアちゃん!』
青白い結界が霧散し、奥方様の姿がその場から消える。
「オリヴァー兄様!!」
私は胸元に手を当てると、ブローチに収納していた自身の刀を取り出す。そして、再びシリルの剣に貫かれそうになっているオリヴァー兄様の元へと駆け出した。
◇◇◇◇
一つ、二つと合わせ手を打ち鳴らすごとに、周囲の空気がキンとした緊張感に満ちる。
深々と一礼をした後、私は静かに瞼を閉じた。
「天地を照らし給う高天原の御神」
両手を合わせ、口にするのは、私の祈りに応えてくれた大神へと捧げる言葉。
兄様達を癒し、シリルの注意を私へと引きつけながら、繋がった光の先へと『降臨』を願い、『許し』を請う祈りを捧げた結果、授けられた祝詞だった。
「……や、や……めろっ!!なにを、する気だっ!?」
不穏な空気を感じ取ったシリルが、焦りを滲ませながら慌てて私の方へと手を伸ばす。だが、その手は私に届く前に、何かに阻まれるように弾かれてしまった。
「この地、この身を清め給え。日々の恵みに感謝し奉り、繁栄と平和の道を照らしたまえ。我が願い、清らかなる光と共に成就せしめ給え。畏み畏み白す」
最後の言葉と共に、地に額づいたその時だった。眩い光が周囲に広がり、巨大な力を持つ『何か』がこの地に降り立ったのを肌で感じ取る。
「――ッ!?……な……っ!!?」
「エレノア!?……ッ、これ……はっ!?」
シリルとオリヴァー兄様が驚愕の声を発する。だがその一瞬後、「ぐっ!?うあぁぁっ!!」とシリルの口から悲鳴が上がり、慌てて顔を上げる。
すると眩い光の中。五色の布を使った神御衣を身に纏った美しい女性が、領巾をたなびかせながら宙に佇んでいたのだった。
「あれが……『天照大御神』!」
そう。私の『祈り』に応えてくれたのは、なんと神道における最高神であり、『太陽』すなわち『光』を司る女神様だったのだ。
ぬばたまの髪。黒曜石のような切れ長の瞳。熟れた果実のごとき赤く艶やかな唇。まさに、神話において『太陽神』と謳われるに相応しい、目が眩む程の美しさだ。
『それにしても……。確かに、どの神様でもいいから力をお貸しください!ってお願いはしたけど、まさかこんな大物が応えてくれるとは……』
そう心の中で呟きながら、天照大御神が見下ろす先に視線を向ける。するとそこには、無数の光の矢で地面に縫い留められているシリルの姿があった。
『……見目はそれなりだが、魂が穢れておるな。なんとも醜悪なものよ』
光の矢に貫かれ、痛みに呻くシリルに対し、大御神の口から凍えるような冷たい視線と声がかけられる。また同時に、その身から溢れる神力を浴びせかけられたシリルは、先程までの傲岸不遜っぷりはどこに行ったのかとばかりに、顔面蒼白になってブルブルと震えている。
「……あ……!」
見れば、怨霊と化していた『彼女達』の姿が消え、代わりに淡く光る無数の玉が浮かんでいた。それらはフワリ、フワリと、まるで引き寄せられるかのように、大御神の元へと集まっていく。
大御神もシリルに向けていた凍えるような冷たい表情から一転、自分の許へと集まった光の玉を、まるで聖母のごとき慈愛に満ちた表情で見つめる。
『我が世に連なりし迷い子達よ。辛かったな?苦しかったな?もう大丈夫じゃ。さあ、我と共に帰ろうぞ。……ああ、分かっておる。この不浄なる地を肥やす為、贄として縛られていた他の迷い子達の魂も一緒じゃ』
そう言い終わると、大御神が神御衣の袖を翻す。すると、四方八方から、同じような光の玉が彼女の元へと集まっていく。
神秘的なその光景に、私もオリヴァー兄様も言葉を失い、食い入るように見つめ続ける。
『さて。そこなる巫よ』
「――ッ!!」
不意に視線を向けられ、慌てて平伏する。すると、笑いを含んだ柔らかい言葉が落ちてきた。
『そう畏まるな「女神の愛し子」よ。我が世からの迷い子達の元に「道」を繋げ、我を導いた事。まことに大儀であった』
「お……畏れ多い事で御座います」
『……が、本来であれば、神を降ろすには相応の「対価」を必要とする。しかも、迷い子達への此度の不始末。この世界の大神の不手際が原因の一端であればなおのこと』
口調はあくまで穏やかで優しいものだったが、その身から漏れ出る神気に当てられ、畏怖に近い感情が湧き上がってくる。
天照大御神は、『光』を司る女神だけれども、決して『慈愛の神』ではない。ましてや彼女が言う『迷い子達』が受けた非道を思えば、『対価』を要求するのも尤もな事だろう。
「……何を、望まれるのでしょうか?」
震えそうになる声を抑えながらの問い掛けに、大御神の唇が弧を描く。
『そうだのう……。この世界の大神への仕置きも兼ね、そなたを我が「愛し子」としようかの。そも、そちも元は迷い子の一人。この子らと共に、我が世に戻るがよい』
衝撃的な言葉を受け、私の目は限界まで見開かれた。
エレノア砲が、思いがけない超絶大物を召喚です!
前書きでも書きましたが、温かいお言葉の数々、本当に有難う御座いました!!
おかげさまで、更新は元より書籍作業もかなり進みましたので、そろそろ感想のお返事再開できそうです。
これからも頑張りますので、よろしくお願い致します!




