【閑話】成人前の準備期間③
本日、『この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』9巻の予約販売が開始されました!今回も、それぞれの書き下ろしSS気合を入れて書いておりますv
詳細は活動報告に詳しく書いてありますので、興味のある方は是非!
「……まあ、とは言っても各家庭の伝統的なやり方から、個人の趣向に至るまで千差万別ですので、『これ』という決まったものは御座いませんのよ?」
「そうですわよね。お伝え出来るのも、あくまでわたくし達の場合は……という事しか……」
そう言いながらティーカップをソーサーに置くシャーロット様方に、私は真剣な表情を浮かべながら全力で頷いた。
「そっ、それでも構いません!だから、是非ともご教授ください!」
視界の端に、固唾をのんでこちらを見つめているクライヴ兄様の姿が……。というより、この場に居るほぼ全ての人達の視線を感じるのですが!?ちょっと皆さん!見世物ではないんですけど!?というかある意味、今この場で貴方がたの閨事情が暴露されそうなんですけど!?それでいいんですか貴方がた!!?
って、あれっ!?クライヴ兄様の肩に白いカメが!!兄様はこっちに集中していて気が付いていないようだけど、なにやってんですか奥方様!!しかもなにげにワクテカ顔してるし!!
……奥方様。私は今まさに、大人の階段を上る為の予備知識を得ようとしている時なのです。ですのでどうか、奥方様は噴水にお帰りくださいませ!……え?あれは別宅?いや、というかそもそも、公共の場を私的空間にしないでくださいよ!
【姫騎士同好会side】
「わたくしの場合……そうですわね。まず、入浴や就寝前のお手入れなど、侍従がしていた事を婚約者の方々がしてくださるようになりましたわね」
「ああ、それはわたくしもですわ」
「わたくしもです」
「ええ、基本中の基本ですわよね。まあ、少し前までは共に入浴している傍に侍従達がおりましたけど、一年前を皮切りに全員侍らなくなりましたもの。因みにですが、成人した後は逆に色々補佐を……――ッ!?」
準備期間について、テンポよく語っていたシャーロット、エラ、クロエ、そしてララだったが、ふとエレノアを見てハッと会話を止める。
何故ならそこには心細そうに、そして不安に満ちた眼差しで自分達を見つめているエレノアの姿があったからだった。
『そうでしたわ!エレノア様は……』
『ええ、婚約者の方々との口付け一つで頬を赤らめるほど、奥ゆかしいお方でしたわ!!』
『ヴァンドーム教授の半裸を見ただけで卒倒しておりましたのよ!?』
『いえ、あれはわたくしも不覚を取るほどの、凄まじい威力でしたわ!……ともかく、そんな方にもし、準備期間中や成人後のあれやこれやを正直に教えて差し上げたとしたら……』
彼女達は瞬時に目と目で会話をし合うと、再びエレノアの方へと視線を向けた。
赤裸々に語られる『準備期間』への恐怖からか。それとも想像して羞恥しているからか。「私、恐がってなんていません!」とでも言いたげに、精一杯キリッとした表情を浮かべているものの、その顔色は赤くなったり青くなったりと忙しない。しかもプルプルと震える様が、まるで子犬のようだ。
そんなエレノアの姿に激しく萌えながらも、彼女達は姫騎士同好会会員として、会長(某元担任)に叩き込まれた自らの使命を思い起こしていた。
――自分達が姫騎士同好会会員となったのはなんの為なのか!?
――全ては、姫騎士たるエレノア・バッシュ公爵令嬢の笑顔と幸せを守る為。
――なのに今現在、我らが『姫騎士』を支配しているのは『恐怖』。きっと先程のやり取りだけで、彼女が羞恥し怯えるには十分過ぎたのだろう。
――こんな状態の彼女に、婚約者達とのあれやこれや……どころか、あんな事やこんな事を赤裸々かつ正直に話して良いものか?……否!下手をすれば血の惨劇を招いてしまうかもしれない!!というより確実にそうなる。
――なにより、この無垢な瞳を曇らせる……なんて、姫騎士同好会会員としてダメ絶対!!
『『『『守りたい、キラキラとしたあの笑顔!!』』』』
エレノアの友人として。そして姫騎士同好会の同志として。四人の心は一つになった。
「エレノア様、先程は誤解を招く言い方をしてしまいましたわね」
「え?ご、誤解……ですか?」
キョトンと目を丸くするエレノアを見つめながら、エラは慈愛のこもった微笑みを浮かべる。
「ええ、そうなんですの。準備期間……とは言っても、必ずしもいかがわ……いえ、身体的なアレコレをするという意味ではありませんのよ?」
「ええ。基本的に、肌と肌を触れ合わせるなどといった直接的なものよりも、口付けや抱き締め合いにより、互いの心と心を寄り添わせ、愛を高めあう事の方が多いんですの!」
「は!?おいこら、ちょっと待て!」「さっきまでの話の流れはどこ行ったんだ!?」と、総ツッコミが入りそうな彼女らの言葉の数々。流石のエレノアも、彼女達の言い分に対し「あれ?ちょっと変かも?」と内心首を傾げた。
だが、「性に対し奔放な彼女らがそう言っているのだから間違いないだろう」と、エレノアは心にちょびっと芽生えた疑念に即、蓋をした。
……そう。ある意味エレノアのアルバ女性への信頼は鉄壁だったのである。
「あ……。そ、それなら、私もしっかり(?)やっています!」
またしても、「おいこら、ちょっと待て!」とツッコミが入りそうな台詞を述べ、ホッとしたように肩の力を抜いたエレノアに対し、クロエが満面の笑みを浮かべながら頷いた。
「それはよろしゅうございました。ええ、まずは心を成熟させなければ、お話になりませんもの!大丈夫、お話を聞く限り皆様ヘタ……いえ、お優しい方々ばかりですもの。きっとエレノア様を真綿で包むように、ゆっくり優しく導いてくださいますわ!」
「ええ、その通りですわ!……そうですわ!お風呂あがりに使用人にではなく、婚約者の方々にマッサージをして頂くなどいかがでしょうか?心身共に癒されますわよ。わたくしのお勧めはバラのオイル……」
「え?……あの、ララ先輩。オイルを使うって……ひょっとして、裸で……」
「――ッ!あ、も、勿論!しっかり着衣ありですわ!!オイルはあくまで緊張をほぐし、ゆったりとした気持ちになる為の小道具として使いますのよ!ほほほ……わたくしとしたことが!」
「あ、そ、そう……なんですか?……えっと、その……。て、てっきり、着衣無しでするのかと……」
自分の言葉に恥ずかしくなってしまったのだろう。真っ赤になってモジモジとするエレノアを見て、『くっ!』『ぐはっ!』『あああ……!と、尊い……!!』『我が人生、一片の悔いなし!!』と四人が心の中で悶えながら、エレノアから見えないよう、机の下で力一杯サムズアップする。
因みに、固唾を呑んで見守っていた男子生徒達はというと、エレノアの初心な反応に撃ち抜かれ、再び机に突っ伏し悶絶していた。
……だが。この予想外の展開に焦り動揺する者が、たった一人だけ存在した。
『ちょっと待てー!!なに言ってんだよ、あのご令嬢方!!言っている事とやっている事がまったく違うじゃねぇか!!』
そう、誰あろうクライヴである。
同性であり、肉食女子の端くれでもあるシャーロット達ならば、自分達が直に言えない『準備期間』中に行われるべき赤裸々なアレコレを、しっかりエレノアに伝えてくれるものと彼は信じていた。
なんせアルバ女子といえば、羞恥心や恥じらいを母親の胎内に置き忘れて誕生すると言われている猛者達だ。実例で言えば、まず真っ先に母マリアの名が上がる。……まあ、流石にあそこまであからさまではないにせよ、この手の話題は割と躊躇せず口にするのが普通なのだ。姉のパトリックもそう思い、彼女達に詳細を聞くようにエレノアを促したほどなのだから。
だが、蓋を開けてみれば『精神的な結びつきによる愛』を推奨する発言の数々。まさか彼女らが総出で日和るだなんて思ってもみなかった。
心と心を寄り添わせて愛を高めあう?心の熟成?……嘘言うな!!あんたら絶対、成人の一年前どころか、学院入学時には既に俺達よりも先進んでいるだろ!?
そしてエレノア、お前もだ!なーにが「私もしっかりやってます」だ!!堂々と嘘ついてんじゃねぇよ!全然しっかりやれてねえだろうが!!
「エレノ……」
クライヴの動きを察したシャーロット達はすかさず、ギラリと威圧を込めた凄まじい視線をクライヴへと向けた。
「――ッ!?」
――な、なんだ!?こいつらの、このただならぬ覇気は!?
しかもこの、暗部もかくやの殺気!あの目は間違いなく、『余計な事を仰ったら……ぶっ殺しますわよ!?』と言っている!!なんなんだこいつら!本当に貴族令嬢なのか!?
実父ばりの凄まじい気迫に気圧されるクライヴだったが、実はこれこそが、エレノアが言うところの『沼を得たオタクによる推し活パワー』であったりするのだ。
――『推し』の幸せを守る。
この煮えたぎるマグマのような純粋な思いは、時に『ドラゴン殺し』の英雄をも凌駕するほどの凄まじい力を発揮するのである。
「シャーロット様、エラ様、クロエ様、そしてララ先輩!貴重な参考意見を有難う御座いました!私、これからも頑張ります!!マッサージも……その、積極性を養う為に、私の方からマッサージを学び、婚約者達を癒していきたいと思います!!」
「その意気ですわ!エレノア様!!」
「きっと皆様、大喜びですわね!!」
「応援しておりますので、頑張ってくださいませ!!」
「今後も何かお困りになる事が御座いましたら、是非お声がけくださいませ!」
「…………」
目の前で繰り広げられる和気あいあいとした光景を、クライヴは光を無くした虚ろな瞳で見つめる。
そんなクライヴに対し「どんまい!」とでも言うように、ヒレで肩ポムした白いカメだが、「あんた、いつの間に!?」とブチ切れたクライヴにより、紐でグルグル巻きにされた挙句、イーサン便でヴァンドーム公爵領にポイ捨てされる事となったのであった。
◇◇◇◇
その後、事の顛末を知った婚約者達は、「なんてこった……!」と、その場で全員頭を抱える事となった。
エレノアガチ勢、真面目に恐い。というより、恥じらいや遠慮といった概念がすっ飛んでいる(筈の)肉食女子の脳内思考までをもあれほどまでに変えてしまうとは……。なんて恐ろしく、そしてどうしようもないんだ、エレノア菌!!
「オリヴァー兄様、今日は眼精疲労に良いツボをマッサージしますね!立ちっぱなしのクライヴ兄様には、オイルを使ったリンパマッサージをしますから!」
「……うん。嬉しいよエレノア……」
「……ああ……。楽しみだ……」
「セドリックとリアムには、手のひらマッサージね!これ、脳の活性化にとてもいいんだよ!?」
「あ、有難う……」
「お、おぅ……」
「アシュル様は椅子に座っている時間が長いから、腰痛マッサージ。ディーさんは刀をよく使っているから腕のマッサージで、フィン様は頭皮マッサージをしますね!」
「「「「「「「…………」」」」」」」
なんだかんだ言って、この場にいるのは全員、最もエレノア菌に汚染されているヘタレ集団である。テレテレしながらそう話す(何故照れる!?)エレノアに対し、「いや、そうじゃない!触れ合いの意味がそもそも違うから!!」と、誰もが心の中で叫ぶものの、それを口に出来る者は誰一人としていなかった。
「……まさか彼女らがあんな行動に出るとは……!」
そしてユリウスを寝かしつける為、エレノアが退室したサロンでは。婚約者達全員が、その後の対策を語り合う為に集まっていた。
「……他人に頼ったのが間違いの元だった。仕方がない。かくなるうえは言葉ではなく、実践で伝えていくとしよう。準備期間なんだから、別に構わないよね?まずは強制的に着衣もタオルも無しに入浴を……」
「待て!止めろ!落ち着けオリヴァー!!」
「兄上!!お気を確かに!!」
据わった目に決意を滾らせながら立ち上がったオリヴァーを、クライヴとセドリックが必死に止める。ブチ切れた番狂いと兄弟達との攻防を汗を流して見つめながら、アシュルは深く溜息をついた。
「最終的に、ぶっつけ本番になるかもしれないね……。まあ、なんだかんだ言って、エレノアにマッサージしてもらえるの嬉しいしね」
「俺はエルにやってもらえるなら、なんでも大歓迎だ!」
「あ、それ僕も同感!なんだかんだ言って、エレノアから歩み寄ってくれているって事だもんね!それに普通に気持ちいいし!」
「「それな!」」
「……まあ、気持ちいいのは否定しませんが……」
なんだかんだと、エレノアからのマッサージについてワイワイ花が咲き出した兄達やオリヴァー達に、リアムが何気なく爆弾発言を投下した。
「……あのさぁ。マッサージって基本、ベッドに横になってやってもらうんだよな?んじゃ、『お返し』って言って、逆にそのままマッサージ返しする流れに持っていくって手もアリなんじゃないかな?」
「「「「「「……あ!!」」」」」」
――その後。
「先ずはマッサージで心身共に蕩かせよう!」「目指せ!着衣マッサージからのオイルマッサージ!」を合言葉に、婚約者達は全員、競うようにマッサージの勉強に勤しむ事になったのであった。
クリ:「……なんか、母上がめっちゃ縛られて届けられたんだけど」
シー:「……随分、変わった縛り方ですね」
ディ:「この複雑さ。運搬する荷物の荷崩れ防止によさそうだな」
リュ:「ちょっと、貴方達!さっさとほどきなさいよ!!」
ディ:「母上、ちょっと待って!縛り方研究するから!」
クライヴがカメ(奥方様)を逃がさないよう、スキルを遺憾なく発揮して編み出した複雑な縛り方は、後に『亀●縛り』と命名され、ヴァンドーム公爵領で船乗りたちに大人気の縛り方になったのだそうな。
観覧、ブクマ、良いねボタン、感想、そして誤字報告有難う御座いました!
次回更新も頑張ります!




