【閑話】成人前の準備期間①
今回から数話、閑話が続きます。
『この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』ジュニア文庫1巻が発売となりました。
書籍版とは違った可愛らしいエレノア達とお目見え出来ますので、興味のある方は是非どうぞv
学院から帰ってきた私は、そのままユリウスの様子を見にパト姉様のお部屋へとお邪魔しました。
マリア母様からお腹一杯ミルクをいただいたユリウスを、げっぷさせる為に抱っこしていたパト姉様が、そのまま背中をポンポンしながらあやしている。
ウトウトしているユリウスを見て優しく微笑むその姿は、パト姉様の麗しいご尊顔と相まって、まさに聖母と呼ぶべき尊さだ!
そうそう、母といえばマリア母様。なんでもユリウスの食欲が日に日に凄くなるので、「このままだと私の胸、吸いつくされてシワシワになっちゃうんじゃないかしら……?」と、恐怖に慄いているんだとか。
ユリウス、実の母であるマリア母様には遠慮しないけど、ノラさんの乳は乳姉弟に遠慮(?)して、吸いつくしたりしていないらしい(「普通逆よね!?」とはマリア母様のお言葉です)。
ユリウス……。ゼロ歳児だというのに、乳姉弟を気遣うとは……。私の弟、真面目に心優しい天才!!
「う~ん……」
確かにユリウスの食欲凄いから、母様の懸念も「まっさか~!」って一笑出来ないところがあるな。そうだ!乳の出を良くするには餅って聞いた事があるから、セドリックに頼んで毎日大福作ってもらおう!
……待てよ?そういえば前世で、近所のお嫁さんの乳の出が悪いって話を聞いた地域のお婆ちゃん達が、毎日ありとあらゆる餅料理をお嫁さんに食べさせ、結果乳の出が良くなり過ぎて乳腺炎になってしまったと聞いた事があったな。
マリア母様、ただでさえ乳の出が良いのに、果たしてあれ以上出を良くしていいのだろうか。ううむ……悩ましい。
「……エレノア。まだ結婚前の淑女が、『乳』だの『出を良くする』だの、口にしない方が良いよ?」
はっ!パト姉様!私ってば今、口に出していましたか!?あ、頷いている。うわぁぁぁ!しまったー!!私とした事がっ!!……まあでも、身内だけしかいないプライベートな空間だったからセーフですね!
「いいや、アウトだ!!」
そう声がした直後、クライヴ兄様が私の頭部を鷲掴みにした。
し、しまった!!クライヴ兄様もいたんだった!!い~や~!!止めてっ!!
私が悲鳴を上げてユリウスを起こさないよう、あんまり力を入れていないのは良いんだけど、宙に浮かされ左右に勢いよく振られているんですけどー!!?うきゃーっ!!人力振り子状態ー!!
「さて、そろそろお茶にしようか。クライヴ、手伝ってくれる?」
「……分かりました。パトリック姉上」
完璧に眠ってしまったユリウスをベビーベッドに寝かせたパト姉様が、自然な流れで助け舟を出してくれる。クライヴ兄様もパト姉様には弱いから、渋々頭部鷲掴みを解除してくれた。……ふう。やれやれ助かった!
「……なに『助かった!』って顔してやがるんだ。この事は後で、オリヴァーに報告するからな!?」
「そんな!クライヴ兄様の鬼!冷血漢!!いくら『氷』の魔力属性だからって酷い!!」
「属性関係ねーだろ!!バカなのかお前は!?」
「ほらほら、二人共止めなさい。ユリウスが起きちゃうでしょう?」
パト姉様のご指摘に、私達は慌てて口を噤んだ。
「それにしても、エレノアは凄いよね。よくもまぁ、こんなにも画期的なものを思いつくものだ。しかもしっかり、商品にしちゃっているし」
そう言いながら、パト姉様は私がユリウスの為に考案した、天井に設置する寝かせつけ魔道具。その名も『赤ちゃんくるくる』を起動させた。
これは、小さな動物のぬいぐるみやキラキラした玉などを傘のように放射線状に吊るし、くるくる回転させる玩具で、同じくユリウスの為に考案したおんぶ紐や抱っこ紐と同様、試験的に販売した王都で空前絶後の大ヒットを叩き出した商品です。
オルゴール機能付きのプレミアム商品に至っては、主に貴族の方々から熱い支持を受けております(リアムからは「お前の名付けセンス、相変わらずだな!」と罵られましたが、そのまま押し通しました)。
特に抱っこ紐は、「これは……革命だ!!」って、現役世代の若い貴族男性達から絶大な支持を受けております。仕事しながら子供と一緒にいられるのが良いんだって。……そういえばアイザック父様の働いている宰相室に差し入れを持っていった時、おんぶ紐でお子さん背負っている部下の方がいたな。可愛い猫耳のケモっ子!私も抱っこさせてもらったんだけど、可愛かったなぁ……!
「……ん?」
視線を感じて振り返ると、ノラさんの背中におんぶ紐で背負わている娘のエヴァちゃんが、つぶらな瞳で私をじーーっと見つめていた。
エ、エヴァちゃん?いや、いや、赤ちゃんは全部尊いし可愛いじゃないですか。だから「浮気……しましたか?」って目で私を見ないで!後でエヴァちゃんのガラガラにお気に入りのペンペン付与してあげるから!……え?抱っこの方がいい?はい、喜んでー!!
◇◇◇◇
「そういえば、エレノアもそろそろ十四歳だね。クライヴ、やっぱりオリヴァーが主体でするのかな?まあ、あの子が王族相手に譲歩するとは思えないけどね」
クライヴ兄様の淹れたお茶を優雅に飲みながら、パト姉様がアフタヌーンティースタンド(らしきもの)からお茶菓子をサーブするクライヴ兄様に話しかける。
「はい。まあ、一応配慮はするとは思いますが、筆頭婚約者としての権利を譲る気はないようです」
「ふふ……あの子らしいね。まあ、成人するまでの大切な準備期間だ。エレノアの気持ちを最優先にしながら、しっかり導いてやっておくれ。クライヴはセドリックと連携して、オリヴァーの暴走を抑えるんだよ?」
「はい。肝に銘じます」
「??」
クライヴ兄様がサーブしてくれた、ふんわりバターと果実がゴロゴロ入ったベリージャムをたっぷり挟んだ温かいスコーンを食べていた私は首を傾げた。はて?準備期間?導く?
「ふふ……。エレノアにはよく分からないよね。それじゃあ、君と仲の良いご令嬢方に教えてもらうといいよ。ああ、その時はクライヴやセドリック達には同席を遠慮してもらうようにね?」
「???」
なんで、クライヴ兄様達には遠慮してもらうのだろうか?
『どういう事ですか?』と、クライヴ兄様に目線で問い掛けるが、クライヴ兄様は微妙に視線を私から逸らした。その時チラリと見えた耳元が赤かったのは、私の気の所為なのだろうか?
「あの……。パト姉さ……」
「ああ、ユリウスが起きたようだね。はいはい、エレノアならここにいるから」
タイミングよくぐずり始めたユリウスに、話はうやむやのまま終わりになってしまいました。
因みにクライヴ兄様ですが、「おい、ユリウスの奴、確か三十分前に寝たばかりだよな!?あいつのエレノア探知機能、どうなってやがんだ!?」と、慄いておりました。
その後、パト姉様から話がいったのか、離宮に帰ってきたオリヴァー兄様やセドリック、そして公務の合間を縫ってやって来たアシュル様と、それにくっついてきたリアムに『準備期間』なるものについて問い掛けてみるも、皆曖昧にはぐらかすばかりで、まともな説明をしてくれる人は一人もいなかった。
「アシュル殿下。ディラン殿下とフィンレー殿下は……」
「ああ、用事を言いつけてこっちに来られないようにしている。ディランはエレノアに強請られれば、深く考えずにベラベラ喋っちゃいそうだし、フィンレーに至っては、嬉々として余計な事まで喋りかねないからね」
「助かります。パトリック姉上の言う通り、我々が説明するより、同性で年の近い女性達から聞いた方が衝撃も少ないだろうし、前向きに頑張ろうって思ってくれるかもですからね」
オリヴァー兄様とアシュル様がなにやら小声で囁き合っている。……ん?リアム。なんか顔が赤いけど?
「し、知らないからな!!俺は全然、なんにも知らないから!!」
……そうですか。つまり知ってはいるけど、口止めされて喋られないと。同じく顔を赤くしているセドリックも同様みたいだ。
ううむ……。これは是非とも、シャーロット様方にご教授願わなければ!……というか、兄様達のこの態度。そしてアルバ女子に聞けって言う時点で、たいへん嫌な予感がするんですけど……。
早く大人になりたくて、頑張ってお乳を飲みまくっている(かもしれない)ユリウス君でした。
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次回更新も頑張ります!




