生ものとのご対面
『この世界の顔面偏差値が高くて目が痛い』8巻予約発売中です。
特典SSは以下のとおりとなっております。本編では語られない裏エピソードとなっておりますので、興味のある方は是非!
◆書籍書き下ろしSS:『●●の精爆誕!』
◆電子書籍書き下ろしSS:『紅の宝玉は最愛の胸に抱かれ眠る』
◆TOブックスオンラインストア特典SS:『白ウサギは優しい世界でまどろむ』
◆シーモア特典SS:『ダンジョン妖精は過去に思いを馳せる』
国王陛下の無言の一喝(?)により場が鎮まったところで、本日の昼食会のメニューが次々と食卓に置かれていく。
そして、目の前に置かれた『あるモノ』を見た瞬間、私はカッと目を見開いた。
「こ……これは……!!?」
そこには、寿司下駄の上に綺麗に盛られた……生寿司が置かれていたのだった。
――おにぎり同様、大好物だった寿司が目の前に!!
私の脳内に百連続花火が打ち上がった。
ピカピカの銀シャリ。その上に乗っかっているのは、どう見てもマグロの赤身、中トロ、大トロ!!
しかも、軍艦巻きの上に乗っかったプリっとしたオレンジ色……。これは……ウニ!?
そしてキャビアと違う、まん丸なルビーのごとき輝きを放つプチプチ。大好物のイクラだ!!
他にも、ホタテ、イカ、甘エビ、ヒラメ、厚焼き玉子……ああっ!!こ、これはカリフォル●アロール!?変則技まで仕掛けてくるとは……できる!!
バッ!と、お誕生日席に座っているアリアさんに視線を向けると、微笑みを浮かべながら頷いている。しかも、もの凄くドヤ顔だ。
アリアさん……!貴女は神ですか!?いや、女神様の代理人だった!!
「……え?なにこれ?」
「どう見ても……生……だよな?」
「ひょっとしてこれ、エレノアの知っている(前世の)料理?」
兄様方とセドリックが戸惑いながら、初めて見る生寿司を凝視している。というか、ロイヤルファミリー以外の誰もが、寿司を前にして目を丸くしているようだ。
うん、分かります。
前世において、今でこそ全世界にその名を轟かせ、あらゆるところで食べられる超有名料理である『寿司』も、初見では『ゲテモノ』扱いされていたんだもん。
まあ確かに、衛生観念が世界一と謳われる日本以外の国で生魚を食すなんて、自殺行為以外のなにものでもなかっただろうね。
……あれ?奥方様だけは目をキラキラさせて寿司を凝視している。ひょっとしてウラシマに憑依している間に、食性がカメ寄りになってしまったんだろうか。
「……国王陛下。夜会の前に、新鮮な魚介を山のように持ってこいと命じられましたが……。もしやこの目の前の生もの……いや、料理は……」
ヴァンドーム公爵様が、戸惑いがちに口を開く。なるほど、この魚の出所はヴァンドーム公爵領でしたか。
でも公爵様の反応を見るに、寿司の存在は王家が秘匿していたようだ。……まあ、さもありなん。カルパッチョのようなものが普及するのはギリセーフとしても、寿司が出回ったりしたら、嫌でも『うち、転生者(転移者)います』って宣伝しているようなものだろうからね。
「ああ、そなたの進呈してくれた食材を使用している。流石は大精霊が守護する清浄なる海から捕れた海産物。どれも極上の品質だと、料理人達が喜んでいたぞ」
「は、はあ……。ですが、その……。これ、魚介を切って盛りつけただけですよね?しかも、この切り身を乗せている白いものは……?」
あ、そういえば米ってこの国と言わず、殆どの国で流通されていないものだった!……にしても、海運業を一手に担っているヴァンドーム公爵領の領主が米を知らないという事は、やっぱりこの世界に米は存在しないものなのかもしれない。
でもだとしたら、王家はどこから米を調達してきたんだろうか?う~ん、謎!
「まあ待てアルロ。この料理は見て分かるように鮮度が命なのだ。ゆえに、詳しい説明は食してからにするとしよう」
流石は国王陛下!そうです、寿司は鮮度が命なのです!!
「そ、そうですか。しかし、これはどのように食べればよいのか……」
ヴァンドーム公爵様が寿司とカトラリー(当然お箸も置いてある)を交互に見ている。うん、そりゃあ戸惑いますよね。
アストリアル公爵様や父様方、兄様方やセドリックも、困惑した様子で互いに目を合わせている。
その間にも私達の目の前には、おしぼり、お吸い物、醤油差し、小皿が並べられていく。しかもなんと、寿司屋には欠かせない、なみなみと緑茶が注がれた分厚くてでっかい湯呑みまでもが……!!
アリアさん……貴女という方は!なんというこだわりっぷりなのですか!?完敗です!!あああ……!にしても、早く……早く目の前の寿司を、我が口腔内にお招きしたい!!
「そうだな、初見でこれを食すのは難しかろう。では、良い手本を見せてやろう。……エレノア嬢?」
名を呼ばれ、完全に意識を寿司に持っていかれたままの状態で、「はい?」と反射的に振り向く。すると国王陛下はニッコリ微笑み、声なき声で『さあ、お食べ』と告げた。
「――ッ!!」
それはまさに、天上から降り注いだ福音。……というより、ご馳走を目の前に「待て」をされていた犬へのGOサインだった。いやっほい!待ってましたー!!
私は早速、ホカホカしているおしぼりで手を拭くと、パンッと掌を合わせた。
「いただきまーす♡♡」
うっかり声が弾んでしまったが、このような御馳走を目の前にして理性が飛ばない人間が、果たしてこの世にいるだろうか。……いや、(多分)いない。
早速、大トロを手で掴んだ。と同時に、「――ッ!!」と、両隣から声が聞こえてきた気がした。ついでに、あちらこちらから息を呑むような音が聞こえてきた気がするが、多分気のせいであろう。
私はシャリではなく、大トロに小皿に注がれた醤油をちょいと付ける。そうしてそのまま、パクリと口の中に……。
「……!!」
あああっ!トロが……トロが文字通りとろける!!
酢飯と大トロの甘みが混じり合い、まるで女神様の祝福を受けたかのように、口の中いっぱいに幸せが満ち溢れていく。これぞまさに口福!!
そして、中に入っているワサビの量がまた、後頭部をガツンと刺激する一歩手前という、なんとも絶妙な匙加減をキメている。なんという職人技!!
……あ、でも初めて食べる人にはちょっと多いかもしれないけど、そこはアルバの職人。初心者には適量、もしくはそれ以下に抑えるに違いない。
さて、次は中トロ……うん!大トロと違い、適度な弾力のある柔らかさとコクがたまらない!サッパリとした赤身も流石の王道!ウニもトロリとした卵のような濃厚な甘みが口いっぱいに広がる!イクラは……なんと!醤油漬けですか!?あああっ!このプチプチと弾ける食感と旨味!何個でもいけそう!!イカもヒラメも卵焼きも全部美味しいーー!!
……はっ!?後はカリフォル●アロールだけ……!?くっ……!幸せな時間というのは、何故こうも短く儚いのか……!?……はて?どこかで「ぶはっ!」と吹き出すような声がしたような?……はぁ……。食べ終わってしまった。あっ!ガリは残せない。うん、お口サッパリ!さて、緑茶で箸休めを……。
「ふぅ……。え?あ、あれっ!?」
寿司を食べ終わり、満ち足りた心で周囲を見回してみると、何故かオリヴァー兄様とクライヴ兄様、そしてセドリックが肩を震わせ、机に突っ伏している姿が目に入った。
慌てて国王陛下方の方に目を向ける。すると、アリアさんと奥方様が「美味しいわねー♡」なんて言いながら、上品に寿司を摘まんでいるのに対し、ロイヤルズを筆頭に、ヴァンドーム公爵様やアストリアル公爵様、更にはワイアット宰相様や父様方までもが、兄様達同様机に突っ伏して肩を震わせていた。見れば、侍従や近衛騎士様方も、地面に撃沈している。……ひ、ひょっとして私、またやらかしちゃった……?
「……エレノア嬢……。いや、実に……素晴らしい手本であった……!この場に居る者達にも、スシがどれ程素晴らしく美味であるのか、十二分に伝わったであろう」
唯一机に突っ伏していなかった国王陛下が、口元を手で覆い、明らかに笑いを耐えているような震える口調で「食レポサンキュー!」的なお褒めの言葉をくれた。
……うん。これは完璧にやらかしてしまったようだ。淑女としてあるまじき失態。……だが悔いはない!
あ、侍従の皆さんがチラホラ復活してきた。あの~、クライヴ兄様が復活する前に、出来れば緑茶のお代わりを……。
「エレノア……!お前という奴は……!!」
ああっ!そう思った矢先に、クライヴ兄様の手が私の頭に!兄様ってば笑い上戸のくせに、こんなにも早く復活するなんてズルい!!
「うきゃー!!」
頭部鷲摑みの刑キター!!
「クライヴ・オルセン。先程も言ったが、『スシ』は鮮度が命だ。まずは食事をしてからにしなさい」
国王陛下のお言葉を受け、力を籠めようとしていたクライヴ兄様の手が離れる。あ……危なかった……!という訳で、お茶のお代わりを……あっ!クライヴ兄様とオリヴァー兄様が、それぞれ左右から私の頬を引っ張った!
「お前……後で覚えてろ……!」って、クライヴ兄様!後でと言いながら、今お仕置きしているじゃないですか!ギブギブ!オリヴァー兄様も、笑顔で青筋立てないでください!私は国王陛下の命により、兄様達に正しい寿司の食べ方を……いたたたっ!止めて!力こめないでー!!
そんなこんなしている間に、次々と復活していったロイヤルズ達も、私のように手掴みで寿司を持って口に放り込んでいく。
生ものだマナーだと言う前に、国家における最高権力者達が私と同じように食べ始めた事で観念したのか、他の人達も恐る恐る寿司を手に取り口にしていく。
「――!?」
「ほぉ……!これは……!」
「なんだこりゃ!?美味いな!」
「なんの調理もしていないのに……。なんという深い味わいだ」
「う~む……。まさか生の魚介が、こんなにも美味であるとは……!」
おおっ!概ね好評……いや、絶賛の嵐!
オリヴァー兄様もクライヴ兄様も美味しそうに大トロ食べてる。あ、セドリックってば、物凄く吟味して味わっている。きっと自分でも再現しようとしているんだろう。全力で応援するので、是非頑張ってほしい!
ん!?グラント父様の寿司下駄の上、なんもない!メル父様は生もの苦手なのか、卵焼きやカリフォル●アロールを食べている。アイザック父様は……あっ!ウニお代わりしている!意外!というか、お代わり出来るんなら私も!……はい。オリヴァー兄様、申し訳ありません。もうお腹いっぱいですので、大人しくお吸い物すすっております。だから暗黒オーラ引っ込めてください!
「しかし……。驚きましたよ。まさか、生魚を用いた料理が昼食会に出されるとは。この白い穀物といい、これはどの国の料理なのでしょうか?」
アストリアル公爵様が、ヒラメの握りを手にしながらそう口にする。……というか今更だけど、このベルサイユ宮殿ばりにヨーロピアンな部屋や調度品に囲まれた中、絶世の美形集団がお寿司を食べているって、ミスマッチ感半端ないな。
そんな事を心の中で思っていると、お茶を啜っていた国王陛下が、おもむろに湯呑をテーブルに置いた。
「この白いものは穀物の一種で『コメ』というものだ。このように酸味のある調味料と和えて固めたものに、新鮮な魚介を乗せた料理を『スシ』と言う。因みに、『コメ』を使わず魚介の切り身をそのまま食べる料理は『サシミ』と言うのだそうだ。……どれも、アリアとエレノア嬢の好物であり、『異世界』における有名な料理だそうだよ」
「――ッ!?」
国王陛下のお言葉に、ヴァンドーム公爵様はハッとした表情を浮かべる。そしてアストリアル公爵様は、驚愕した様子で私とアリアさんを交互に見やった。
どうやらこの場で、アリアさんと私が『元異世界人』だという事を知らなかったのはアストリアル公爵様だけらしい。
「こ……国王陛下。……それは……。いや、何故それを私に……!?」
突然もたらされた衝撃的な情報を受け、アストリアル公爵様は動揺を隠しつつ、ジルベスタ様と同じ群青色の瞳を鋭く細める。
国王陛下は公爵様の視線を真剣な表情で受け止めながら、再び口を開いた。
「帝国が本気で我が国に牙を向け、『大地の聖女』と判明したエレノア嬢を狙っている今、国の防衛を担う一柱に隠し事をすべきではないと判断したからだ」
そう言うと、国王陛下はアストリアル公爵様に向け、帝国が何故私を狙うに至ったのかを説明していく。アストリアル公爵様は黙って国王陛下のお言葉を聞いていたが、話が『こぼれ種』の事になった途端、その背後から凄まじい魔力を噴き上げた。
「……なんという……!女性は我が国において、かけがえのない守るべき至宝。それを狙っただけでも許しがたいというのに、女神様の愛し子たる『異世界からの招き人』を『こぼれ種』などと称するとは……!帝国……。万死に値する!!」
おおう!アストリアル公爵様!遠目でも血管ビキバキに立って、今にもブチ切れそうになってる!!そ、そうか……。アストリアル公爵様ってああ見えて(失礼)、根っからの『女性至上主義者』だったんだね。
国王陛下方が真面目なやり取りしている横でのあるやり取り。
ディ:「うぐっ!!後頭部と鼻が!!」
フィン:「ワサビって、そうなるからやなんだよ。でも希少なスパイスみたいだし、勿体無いからディラン兄上のスシに追加しといた」
ディ:「ふざけんなよ、てめぇー!!」
観覧、ブクマ、良いねボタン、感想、そして誤字報告有難う御座いました!
次回更新も頑張ります!




