絶望の意味を知る【セレスティアside】
『この世界の顔面偏差値が高くて目が痛い』8巻予約発売中です。
特典SSは以下のとおりとなっております。本編では語られない裏エピソードとなっておりますので、興味のある方は是非!
◆書籍書き下ろしSS:『●●の精爆誕!』
◆電子書籍書き下ろしSS:『紅の宝玉は最愛の胸に抱かれ眠る』
◆TOブックスオンラインストア特典SS:『白ウサギは優しい世界でまどろむ』
◆シーモア特典SS:『ダンジョン妖精は過去に思いを馳せる』
地下牢のような部屋から乱暴に連れ出され、光る魔石が埋め込まれていてなお薄暗い通路を歩いていく。
「貴方がた、今すぐ拘束具を取り去りなさい!!私は聖女であり、一国の王女なのですよ!?ましてや、女性であるこの身に対し、かような非道……。大国であるアルバ王国であっても、許されるものではありません!!」
これから自分はどうなるのかという不安を必死に押し殺し、私を誘導し歩く男達に対し、王女として相応しい毅然とした態度を取る。……が、男達は私の言葉など聞こえていないのかと思う程、なんの反応もみせなかった。
「――ッ!」
祖国では有り得ない男達の態度に怯み、押し込めていた恐怖が湧き上がってくる。それでも己の矜持を奮い立たせ、再び口を開いた。
「……お、お兄様は……。セラフィヌお兄様はご無事なのでしょうね!?お兄様は王太子となるべきお方なのです!もしその身になにかがあれば……ッッ!?」
けれども言い終わる前に、突如として開けた場所へと辿り着いた。
薄暗い通路に比べ、格段に明るい広間のような場所。
そこは窓もなく、また吹き抜けのように天井も見えず、ぐるりと壁に囲まれた円形状の造りとなっていた。そして更に、中央の床に複雑な術式の魔法陣が刻まれているのが見える。……そして……。
「……え!?」
魔法陣の前には、私をここに連れて来た男達と同じ、黒いローブを身に纏った男が一人、静かに佇んでいた。
「あ、貴方……は……!」
光を含んだ少し長めの黒髪。縁のない眼鏡の奥にあるエメラルドのような切れ長の瞳。まるで暗闇の中、冴え冴えと輝く月の化身のような、恐ろしい程に冷たく整った絶世の美貌。よく見てみれば、身に纏っている黒いローブは艶やかな光沢を放ち、複雑で豪奢な銀糸の紋様と魔石が施されている。
間違いない。この目の前にいる男は、夜会の会場で目にした王家直系の一人。第三王子であるフィンレー殿下だ。
私は男達によって魔法陣の中央へと連れていかれ、その場に膝を突かされた。
「きゃぁ!!」
男達はそのまま、フィンレー殿下の後方へと音もなく移動する。
「フ、フィンレー殿下!?ここは一体……!何故こんな所に私を!?」
急いで立ち上がり、冷ややかな眼差しで私を見つめているフィンレー殿下の元へと向かおうとした。けれども……。
「――ッ!……な、なんで……!?」
何故か、両足がまるで地面に縫い取られたかのように動かない。そんな私を見つめながら、フィンレー殿下が口を開いた。
「ようこそ、アルバ王国の『暗部』へ。まさかここに、女性が連れてこられる日が来るとは思わなかったよ。今迄だったら、たとえ死刑囚であったとしても、苦痛を与えないような処置が取られていたからね」
表情と同様の冷たい口調。だが、それよりも彼の口から発せられる恐ろしい言葉の数々に、身体が震え出す。
死刑囚?処置?……そして、そんな罪人達ですら、連れてこられなかったというこの場所は……一体!?
「ああ、あまり動かない方がいいよ?そこ、もがけばもがく程束縛が強くなる術式が施されているから。そのまま暴れていると、いずれ声も出せなくなるからね」
「は!?」
フィンレー殿下の言葉のとおり、足から腰、下半身全体……と、動かせなくなる箇所が増えていく。こ、このままでは……!
「フ、フィンレー殿下!聞いてください!!この国の方々は皆、醜悪な魔力にかけられております!!それには多分、貴方様のお力が利用されているのです!!」
私は必死になって声を張り上げた。……そう。私がハイエッタ侯爵家でフルビア様から教えて頂いたのは、王家直系の殿下方がどのような魔力属性をお持ちなのかという事。
王太子のアシュル殿下は『全属性』。第二王子のディラン殿下は『火』属性。第四王子のリアム殿下は『風』属性。……そして、目の前にいるこの方。第三王子のフィンレー殿下の属性は……『闇』。
光属性と対極にある希少属性である『闇』の魔力は謎が多い。知られている能力は、『精神感応』と『魔力無効』。
『光』の魔力の能力で最も知られる『癒し』の力さえも無効化してしまうその力を忌避する者は多いと聞く。フルビア様もあからさまにではないものの、僅かに嫌悪感を表情に浮かべていた。
かくいう私も、アルバの王族がいくら美しくあっても、『公妃』となれば『闇』の魔力保持者であるフィンレー殿下とも添わねばならず、私の心の中ではその事に対し、拭いきれない忌避感があった。……尤も、あの会場で初めて目にしたフィンレー殿下の、息を呑む程に美しいお姿を拝し、抱いていた忌避感は薄れたけれども。
とにかく、いくら『魅了』の力を持っていたとしても、王族のみならず、あの強大な力を持つ大精霊や大聖女すらも操るなど、ただの公爵令嬢ごときに出来る筈がない。必ず、その力を増幅する為になにかした筈。
……だとすれば、まずあの女は目の前のこのフィンレー殿下を篭絡し、『精神感応』を使って己の力を増幅したのではないだろうか?
残念だけど、私の力では洗脳を受けたアシュル殿下方を救う事は出来なかった。けれども、あの女に惑わされているだけのフィンレー殿下ならば、きっと私の言葉が届く筈……!!
「フィンレー殿下!このような事は間違っております!どうか目を覚まし、邪悪なる力でもって洗脳された者達を、その身に宿る偉大なるお力をもってお救いくだ……」
「あ、そういうのどうでもいいから」
「え?」
私の言葉を遮ったフィンレー殿下は言葉のとおり、本当にどうでもいいと言わんばかりな態度で私を見下ろしていた。
「君みたいな手合いは、相手をするだけ疲れるし無駄だからね。……というか、そういう知識はしっかり持っていたんだね君。思い込みが激しい、自己中心的なただの馬鹿かと思っていたから正直驚きだよ」
表情一つ変える事無く、嘲るような言葉を次々と口にする彼だったが、変わらぬ無表情と淡々とした口ぶりから、本気でそう思っているのだという事が分かる。
「そう。君が知っているとおり、『闇』の魔力の最大の特徴は、『魔力無効』だ。つまりは精神感応系の呪いを受け付けない……というより、相殺する。だからこそあの時……。君がエレノアを、魔道具を使って殺そうとした時、なぜこの僕までもが動く事が出来なかったのか。それを知る糸口をなんとしてでも掴みたかったんだよね……」
そう言いながら、こちらにゆっくりと近付いて来たフィンレー殿下の口角がニィッと上がる。エメラルドグリーンの瞳も、まるで刃物のような鋭い光を宿していた。
――……え?ちょっと待って?フィンレー殿下、『君が知っている通り』って言って……。まるで私が考えている事が分かっているような……。
「あのバカ女達から、僕の事を色々聞いていたみたいだね。だけど、それが全てではない。他にも『鎮静』や『空間転移』っていうのもあるんだよ。……そしてね、これは一番知られてはいけない事なんだけれども、特別に教えてあげるよ。僕ら『闇』の魔力保持者は、相手の考えている事や記憶を探る事が出来るんだ。……ほら、こうして……ね」
「え!?……き、きゃ……」
フィンレー殿下の身体から、真っ黒いひも状の魔力が、まるで生き物のようにうねりながら噴き上がり、私の頭部に絡み付く。口元にも巻き付いたソレにより、上げかかっていた悲鳴が封じられる。
「ここに君が来た時から、気が付かれないように君の頭の中を覗かせてもらっていたんだ。……にしても、君の思考も性根も腐りきっているね。僕の大切なエレノアが、君の為にあれ程頑張ってくれたってのに、なに一つ反省していないだなんて。女神様はよくぞ、こんなのに『聖女の芽』を与えたものだ」
暗闇の中、凍てつく大地を更に凍り付かせるような、冬の月。決して温もりを与えぬ残酷な輝き。この青年は、まさにそんな月の化身そのもの。
『ば……化け物……!!』
唐突に冷笑を消し、凍えるような表情になった目の前の青年は、まるでゴミを見るような眼差しを私に向ける。……そうだ、私の思考は読まれている!!
あまりの恐怖に身体が激しく震え出す。そんな私に対し、フィンレー殿下は再び酷薄な笑みを浮かべた。
「ふふ……。それにしても、君が全く変わっていなくてホッとしたよ。いくら僕でも、反省したり後悔している女性に痛い思いをさせるのは気が引けたからね。おかげで思う存分、君から情報を引きずり出す事が出来る」
『じ、情報……!?ひ、引きずり出すって……!!』
「フィンレー殿下」
「あれ?君が来たのか、オリヴァー・クロス」
コツ、コツと靴音を立て現れたのは、あの女……エレノア・バッシュ公爵令嬢の筆頭婚約者だという黒髪黒目の青年、オリヴァー・クロス伯爵令息だった。
『……!!』
このような時であるにも係わらず、その想像を絶する美貌に息を呑んでしまう。
フルビア様が、『女性の趣味は悪いのですが、彼は「貴族の中の貴族」と称される程の男性なのですわ』と称賛するとおり、王族の傍に在って全く引けを取らぬ美しさだった。
「ええ。あちらは全て終わりましたので。そうそう!イーサンが「極上の練習台です!」と、たいへんに感謝しておりました」
「ああ、そういえば彼、今まで情報を吸い上げた相手の事、全部壊しちゃってたんだったっけね」
普段の、他愛無い出来事のように会話する彼ら。けれどもその内容の恐ろしさに戦慄してしまう。
「はい。どうやら殿下に触発され、匙加減を学びたかったようです。……二、三人駄目になりましたが、大神官と第二王子はなんとか上手くいきましたよ。尤も、軽い精神障害は残るかもしれませんけどね」
「よりによって、エレノアを帝国に売ろうとした奴らだ。それぐらいで済んで、寧ろ感謝しているんじゃないの?」
――セラフィヌお兄様が!?
『嘘……!なんでお兄様がそんな目に!?』
激しい怒りのまま、目の前の男達を罵倒しようとするが、『闇』の魔力に絡めとられ、僅かに視線を動かす事しか出来ない。
「さて、じゃあそろそろ、こっちも取り掛かるとしようか。全く、あの王太子も苦労性だよね。こんなのを助けようと、無駄な努力をしてさ。……辛くなるのは彼の方だってのにね」
「それが『兄』というものではないのでしょうか?貴方もご自身を顧みられれば理解出来ますでしょう?」
「それ、まんま君に返すよ」
フィンレー殿下とクロス伯爵令息が私を見下ろす。
「……僕らの最愛を殺そうとした大罪人。本来ならば、お前には地獄の苦しみを繰り返し味わわせてやるつもりだった。だがお前の兄に免じ、一回だけで終わらせてやろう」
会話を止め、再び氷のような冷たい眼差しを私に向けたフィンレー殿下から、更に黒い魔力が噴き出す。それらは紐状の生き物となり、うねりながら私の全身へと巻き付いた。
『あ……あぁぁぁっ!!?』
「オリヴァー・クロス。君は見届け人なんだから、くれぐれも僕の邪魔をしないようにね」
「御意。どうぞ、ご随意に」
臣下の礼を執ったクロス伯爵令息が私に向けた眼差し。それは、燃えるような深紅と殺意に染められていた。
苦労を掛ける側(弟ズ)から見ても、「不憫……」と、同情されてしまったホレイシオ殿下でした。
因みにですが、スワルチ以外の者達への罰は、昼食会で発表されると思われます。
観覧、ブクマ、良いねボタン、感想、そして誤字報告有難う御座いました!
次回更新も頑張ります!




