これからお世話になります
※アシュル様は既に、膝抱っこで給餌を既にしていた事が読者様からのご指摘で判明しました。申し訳ありませんでした!そしてご指摘、有難う御座いました!(既に訂正済です)
『この世界の顔面偏差値が高くて目が痛い』8巻予約発売中です。
特典SSは以下のとおりとなっております。本編では語られない裏エピソードとなっておりますので、興味のある方は是非!
◆書籍書き下ろしSS:『●●の精爆誕!』
◆電子書籍書き下ろしSS:『紅の宝玉は最愛の胸に抱かれ眠る』
◆TOブックスオンラインストア特典SS:『白ウサギは優しい世界でまどろむ』
◆シーモア特典SS:『ダンジョン妖精は過去に思いを馳せる』
色々と濃厚な夜食会が終わった後、私達はミアさんやウィル達と共にマリア母様が滞在している離宮へと向かった。
兄様方やセドリックには疲れているだろうと気を使われ、「抱いていこうか?」と申し出られたのだが、それらを丁寧に固辞し、テクテクと広い王宮内の回廊を歩いていく。
すると、何故か馬の嘶きが聞こえてきた気がして首を傾げる。そんな私を見たオリヴァー兄様が、サラッと物凄い事を口にした。
「多分だけど、夜会の会場に王宮が所有する馬達が集まっているんだと思うよ?」
「へ?」
――何故に会場に馬が!?
「簡単な事だよ。バッシュ公爵家直轄の牧場で起こったアレが、王宮内でも起こったって事さ」
「……えっ?アレって……あ!」
ひょっとして、『大地』の魔力の修行で、牧草を野花だらけにした時、家畜達の襲撃で食い散らかされ、草一本も残らずハゲ地になったアレでしょうか!?
「その通り。君が咲かせる雑そ……野花は、『大地』の魔力に満ち溢れている。動物たちにとってはこれ以上は無い程のご馳走なんだろうね。以前、王宮の中庭が雑……野花だらけになった時も、刈り取った雑……野花目当てに多数の馬……というか、主に八本脚馬達が厩から脱走して貪り食ったと聞いているから」
「そ、そう……なんですか」
成程。それで味を占めた馬達が、ペンポポスミレ達の気配を察し、突撃したって訳ですか。でも、(今はボロボロだけど)あの豪華な大広間に動物を入れてしまって、大丈夫なんでしょうかね?
「うん。まあ、あの量のざ……野花を引き抜くのは大変だから、敢えて馬達の好きにさせるって、アシュル殿下が言っていたよ。飛んで逃げようとした綿毛は、どこからか飛んできた白鳥が飛び回りながら食べているって言っていたしね」
……はーちゃん……。
というか兄様、私に気を使って、わざわざ野花って言い直さなくてもいいですからね。
◇◇◇◇
「エレノア、オリヴァー、クライヴ、そしてセドリック。いらっしゃい」
離宮に到着すると、横になるタイプの長椅子に腰掛けたマリア母様とパト姉様が、私達を出迎えてくれた。
「エレノア、話は聞いているよ。無事で本当に良かった」
そう言いながら、パト姉様は私を優しく抱き締める。私も姉様の胸に顔を埋め、頬を摺り寄せた。
「有難う御座います、パト姉様。マリア母様、このような時間にお邪魔してしまい、大変申し訳ありませんでした」
「いーのよ!私もあんたの無事な姿を見るまで、気になって横になる気になれなかったし」
そう言うと、マリア母様は私に向かって優しく微笑みながら、両手を広げた。私は誘われるように、マリア母様の胸にポフリと収まる。……勿論、お腹を慎重に避けながら。
マリア母様のお腹、今ではゆったりとしたドレスを着ていても膨らみがわかるぐらいに大きくなっている。最近では怠さと眠さが定期的に襲ってくるらしく、よくうたた寝している姿を見るようになっていたっけ。
「オリヴァー、クライヴ、そしてセドリック。あんた達はパトリックに自分の部屋を案内してもらいなさい。ああ、ミア達はノラに案内させるから」
「え?いや、しかし……」
「あの……奥方様。私達、エレノアお嬢様のお側を離れるわけには……」
「大丈夫よ!どーせどっかに、あのいけ好かない陰険腹黒眼鏡が潜んでいるんだから!いざとなったら、たとえ何があろうと、あいつがエレノアを守るからね。って訳で、いいからさっさと行きなさい!」
マリア母様は、戸惑う兄様達やミアさん達をシッシと追い払うように手を振る。……ってか陰険腹黒眼鏡って、イーサンの事だよね!?
そういえば、私達がこの離宮に向かおうとした時から、イーサンの姿を見ていなかったけど、離宮では『影』として潜むって事か。イーサン、ひょっとしなくても、マリア母様と仲が悪かったんだね。
「さあ、三人とも行くよ」
ニッコリ笑顔のパト姉様に連れられ、兄様達が部屋から出ていく。そしてミアさんやウィル達も退室していき、部屋の中は私とマリア母様だけになった。あ、厳密には、マリア母様のお腹の子も合わせて三人だけど。
「さて、エレノア。よく顔を見せなさい。……ん、傷も無いし隈も無い。今回はどこも悪く無さそうね。まったく……『姫騎士』の次は『聖女』で、しかも今日ド派手にお披露目したんですって!?はぁ……。あんたって子は本当に、次から次へと厄介事抱え込むんだから!こっちは心臓が幾つあっても足りないわよ!」
責めるような口ぶりとは裏腹に、母様は苦笑しながら私の頬を優しく撫で続ける。その手から、母様の娘である私を思う気持ちが伝わってきて、私の瞳からポロリと涙が零れ落ちた。
「……マリア母様……!」
そんな私を母様はフワリと抱き締める。
「……あんたは実際に、伝説の聖女が使ったとされる『大地』の魔力を使い、人を助けた。つまり、自分自身で『聖女』である事を証明して見せたのよ。……もう王家の力をもってしても、あんたが『聖女』だって事を、誤魔化す事も隠し通す事も出来ない」
母様の言葉に、コクリと小さく頷く。
セレスティア殿下を助けた事に後悔はないけど……。自分が『特別な』存在となる覚悟は、まだ固まっていたとは言えなかったので、正直気持ちが追い付いていない。
「『聖女』は女神様の使徒であり、王族と同等の尊い存在。誰もがあんたに膝を折るでしょう。それと同時に、帝国や様々な思惑を持つ者達から標的にされ、狙われる立場になってしまった。……そりゃあ不安よね」
「…………」
「でもね、あんたの立場がどんだけ変わっても、私にとってのあんたは、大切な可愛い一人娘であって、それ以上でも以下でもないのよ。アイザックにとってもね」
思わず顔を上げる。すると、いつもと違う雰囲気の……紛れもなく『母親』の顔をした母様と目が合った。
「それに勿論、あんたを愛しているオリヴァー達や殿下方、メルヴィルやグラント、ミアやウィルやジョゼフ達もそれは同じ。あんたは『エレノア』であって、『聖女』なのはあくまでもオマケ。あんたがあんたのままでいる限り、あんたの周囲はこれからもなにも変わらないわ」
「母様……!」
再び、ジワリと目頭が熱くなる。
「辛かったり不安を感じたりしたら、どんどん誰かに頼んなさい。皆、喜んであんたを助けてくれるから。というか、男ってのはそういう風に顎で使いまくるもんよ!あんたもこの国の女なら、もうちょっとしたたかになんなさい!折角、容姿も権力も魔力も申し分ない男達が婚約者なのに、なにやってんの!?」
「……え、えっと……」
思わず零れそうだった涙が引っ込んだ。物凄く良い話をしていたってのに、やはり話がそこに行きつきますか……。流石はマリア母様だね。
「ああ、やっぱりあんたは泣き顔よりも笑顔の方が似合うわね。……オリヴァー達も、あんたには泣くんじゃなくて、笑ってほしいって思っているんだからね?」
「……はい!母様」
私は絨毯の上にペタリと座り込むと、マリア母様のお腹に頬を当てる。すると、トクン……トクンと、優しい命の音が伝わってきて、思わず口元が綻んだ。
「母様……有難う御座います」
知らず緊張していた心が解れていく。母様が私と二人きりになったのは、これを私に伝えたかったからなのだろう。そして、私が他の人に遠慮せずに涙を流す事が出来るようにしてくれたのだ。
「私……。『聖女』なんて言っても、全然未熟で、皆に迷惑いっぱいかけちゃってるんです。きっとこれからも、迷惑いっぱいかけちゃうんだろうけど……。私なりに頑張ります!」
「いいんじゃない?あんたみたいに、ドジでおっちょこちょいな『聖女』が一人ぐらいいたって。それに、あんたにはどんな時でも味方でいてくれる連中が沢山いるんだから。胸を張って迷惑かけまくっちゃいなさい!」
実にマリア母様らしい激励を受け、頭を撫でられながら、私はゆっくりと目を閉じた。
「……母上……」
「あら、オリヴァー。パトリックや他の子達は?」
「クライヴとセドリックは、パトリック姉上に頼まれて、今夜の出来事を詳しく説明しています。……あの……。エレノアは……」
「眠っちゃったわよ。……そりゃあそうよね、どんだけ無茶したのやら」
母親のお腹に凭れるように寝ているエレノア。その髪を優しく撫でているマリアの、常にない穏やかな表情に驚きながら、オリヴァーはエレノアを起こさないよう、慎重に抱き上げた。
「ん……」
全く目を覚ます気配のないあどけない寝顔に、自然と口元に笑みが浮かぶ。
「……エレノア……」
思わず、その滑らかな頬に唇を落とす。そんなオリヴァーを見ながら、マリアが口を開いた。
「オリヴァー。クライヴとセドリックもだけど、あんたらこれから大変よ?元々エレノアは人気者だけど、『聖女』になったからには、今以上に男が群がってくるから」
ピクリ……と、オリヴァーの肩が揺れる。
「今迄と違って、上は王族から下は平民まで、どれだけ男をモノにしても誰も文句を言わないし、寧ろ『聖女』の血統を取り込む意味でも歓迎されるでしょうね。まあ、エレノア自身はそういうの嫌がるでしょうけど」
「…………」
「でも、いくら嫌がっていても、我が子ながらこの子、チョロいからねぇ……。あんたもこの国の男なら分かるだろうけど、アルバの男の手練手管に掛かったら、エレノアなんてひとたまりもないわね」
的確な未来予想を滔々と語るマリアに対し、オリヴァーの顔に険が増していく。
「……なにが言いたいんですか?」
「そろそろ、この子が『女』として自覚するよう、本気出せって事よ。あんたってば強引なのに、肝心なところではヘタレだからね」
「余計なお世話です!!」
エレノアを起こさないよう小声で応酬しているオリヴァーを見ながら、マリアは口角を上げた。
「あ、そうそう。エレノアをベッドに寝かせたら直ぐに戻ってきなさいよ?私も今夜の出来事をちゃんと詳しく聞きたいからね?」
「…………」
煽るだけ煽っておきながら、「手を出すな」と釘を刺す母親に恨みがましい眼差しを向けた後、エレノアを横抱きにしながら部屋を出ていく息子を見送ったマリアは苦笑を漏らした。
「ほーんと!『万年番狂い』なんて二つ名持っているくせに、変なところで弱気なのよね、あの子。……まあ、それだけエレノアに本気なんだろうけど」
なんだかんだ言っても、オリヴァーもクライヴもエレノア同様、お腹を痛めて産んだ可愛い子供達だし、セドリックに関しても、もう自分の子供のようなものだ。同じ婚約者として王族達とも仲良くしていってほしいが、出来ればエレノアの最上位は自分の息子達であってほしい。
「折角これから、ひとつ屋根の下で暮らすんだから。まあ、援護射撃ぐらいはしてあげようかしらね?」
そう独り言ちると、マリアは大きくなった自分の腹を優しく撫でた。
どの世界でも、母は強し!(いや、マリアさんは強すぎ?)
観覧、ブクマ、良いねボタン、感想、そして誤字報告有難う御座いました!
次回更新も頑張ります!




