膝抱っこであーん
『この世界の顔面偏差値が高くて目が痛い』8巻予約発売中です。
特典SSは以下のとおりとなっております。本編では語られない裏エピソードとなっておりますので、興味のある方は是非!
◆書籍書き下ろしSS:『●●の精爆誕!』
◆電子書籍書き下ろしSS:『紅の宝玉は最愛の胸に抱かれ眠る』
◆TOブックスオンラインストア特典SS:『白ウサギは優しい世界でまどろむ』
◆シーモア特典SS:『ダンジョン妖精は過去に思いを馳せる』
「うわぁ……!!」
軟体動物から人間に戻った私が改めて見たのは、テーブルの上に盛られたご馳走の山だった。
様々な魚の切り身や変わり種が乗っけられた手毬寿司(この世界に来てから初!)、魚介や肉、彩野菜をふんだんに使ったプチオードブルの数々、フワフワなパンと豊富な具材を使って作った様々なサンドイッチ、そしてフルーツと生クリームで美しくデコレートされたパンケーキと、たっぷりと盛られたスコーンとクロテットクリーム、更には目にも鮮やかな各種スイーツ。
これらはどうやら、夜会用に作られた料理だったようだ(手毬寿司は違うだろうけど)。
実は諸々の騒動で少しも手を付けられずに終わりそうだったのを、国王陛下が「勿体ないから、城中の使用人達で食べるように」と言ってくれたらしく、当然というか私達にもと、こうして用意されたんだそうな。
「ううう……!お、美味しい……!!」
ズラリと並べられたご馳走を前に、理性が見事に弾け飛んだ私は、それらを一心不乱に貪り……いやいや、しっかり淑女としての嗜みをもって、もっきゅもっきゅと豪快に頬張った。
……はい、認めます。今の自分が、貴族令嬢としてギリアウトどころか確実にアウトであるという事を。そして、私の給仕に付いてくれているイーサン以外の人達が、物凄く生温かい眼差しで私を見つめている事も。
でもでも!言い訳ぐらいはさせください!!
私、朝から頑張って磨き上げられていたのと、魔力を目いっぱい使ったおかげで、ぶっちゃけ胃が空っぽだったんです!!
勿論、お腹が鳴らず、尚且つ腹が膨れない程度の軽食は摘まみましたよ?一口大にカットされたサンドイッチとか、薄くジャムが塗られているだけのカナッペとか。
それに加えて、あまりトイレに行きたくならないよう、水分補給は小さなコップ一杯のジュースだけ。……飢えるの当たり前でしょ、こんなの!!
夜会の会場で見境なくがっついていたのならば、正座地獄も頭部鷲掴みの刑も甘んじて受けましょう。
でもここは、身内限定のサロンの中ではありませんか!ですからここはひとつ、慈愛と広い心で見逃して頂けないでしょうか!?
「……うん。分かっているよ。分かっているから、子リスのように頬をパンパンに膨らませながら、目で訴えるのは止めようか?」
流石はオリヴァー兄様!私の声なき訴えを、寸分違わず理解されましたか!!
「お前という奴は……。普段は『他人の心の中を読まないでください!』とか言っときながら、こういう時だけちゃっかり利用しやがって!」
クライヴ兄様、それは違います!時と場合によってはウエルカム。つまりはこれぞ、臨機応変……「やかましい!」……兄様。人の言葉を遮るのはどうかとおも……「そもそも、喋ってねぇだろお前!!」
「エレノア、落ち着いて。僕達は君のマナーについてとやかく言うつもりは毛頭ないんだよ。……ただ、なんで君に給餌しているのが僕達ではなく、そこの家令なのかな?って、不満に思っているだけで」
「えっ!?」
アシュル様のお言葉に、その場の全員が力強く頷く。……あ、私のマナー云々ではなく、そこでしたか。
確かにイーサン、私がパンケーキ食べてる合い間に、絶妙な合いの手でお寿司やらローストビーフを口直し的に口に入れてくれてたわ。甘い、しょっぱい、また甘いの無限ループ最高です!
「それは当然です。発情中の獣……いえ。お嬢様を溺愛されている皆様方に介助されながらですと、お嬢様が落ち着いてお料理を堪能出来ないではありませんか」
すかさずイーサンが、眼鏡のフレームを指クイしながらズバッと直球で返す。ちょっ!イーサン、不敬!不敬だから!!あっ!皆のこめかみにビキッと青筋が!!(ひぇぇっ!)
「……まあ、そろそろお嬢様も落ち着かれたでしょうし。デザートなどは皆様でお嬢様に食べさせて差し上げるのがよろしいかと」
途端、皆の背後から噴き上がった暗黒オーラがシュンと引っ込んだ。……凄いなイーサン。この絶妙な飴と鞭加減。あのオリヴァー兄様やアシュル様までをも手玉に取っている。これが年の功というものか。
「いいえ、これはお嬢様への愛ゆえで御座います」
そ、そうですか……。有難い事ですが、兄様方が「彼の場合、天性の腹黒だからだよね」「というかあいつの『エレノア愛』って、ドロドロした底なし沼だからな。恐ろしい」ってヒソヒソしているんですが……。あっ!イーサンの眉間の皺が二本増えた!
という訳で、まずは「お邪魔します」と、オリヴァー兄様のお膝に乗っかる。すると途端に、オリヴァー兄様の相好が崩れた。
「はい、エレノア。君の好きなガトーショコラだよ。はい、あーん」
ううっ!この蕩けるような笑顔!ある意味チョコレートよりも甘そうです!
パクリ、モグモグ……うん、美味しい!
「お味はどうかな?エレノア」
「はいっ!凄く美味しいです!」
上品で濃厚なチョコレートの甘さにヤムヤムしていると、満足げに頷いたオリヴァー兄様が私を抱き上げ、クライヴ兄様のお膝へと移動させた。
「エレノア、ほれ!チーズケーキ」
「わぁっ、スフレタイプだー!やったぁ!!」
この国はベイクドが主流だから、セドリックに作ってもらう以外では、王宮でしか食べられないんだよね!……うん、シュワッと溶けて美味しい!!あ!クライヴ兄様のクールビューティーなご尊顔が雪解けのように蕩けている!
「ほれ、セドリック」
「クライヴ兄上、有難う御座います!エレノア、はいどうぞ」
セドリックの膝の上へと移動した私の口元に、砕いたナッツぎっしりのアーモンドケーキが……。うん!ローストしてあるナッツが香ばしくて、しっとりとしたバターケーキに凄くよく合う!
「どうかな?エレノア」
「うん!いつもセドリックが作ってくれるのと同じぐらい美味しい!」
そう。これって実は、セドリックがお土産で王宮に持ってきたものが料理長のお眼鏡に叶い、定番化したケーキなんだよね。
流石は料理の申し子たるセドリック!婚約者として鼻が高いです!
そしていよいよ、アシュル様方の番がやってきた。
おおっ!全員目が物凄いキラッキラ!……さもありなん。彼らは全員……いや、アシュル様はデビュー済ですが、今日が『膝抱っこであーん』デビューなのである。
今迄、「こういう事を常習化していると、いざという時にうっかりやってしまいかねませんから!」と、オリヴァー兄様達によって散々邪魔されてきた『膝抱っこであーん』。
今回私が聖女デビューを果たした事により、婚約を大っぴらに出来るからと、晴れて解禁されたんだそうだ。
チラリと兄様方やセドリックの方を見てみると、顔が能面のようになっている。……うん。きっと物凄く解禁するのをごねた後、渋々同意したんだろうな……。
「エレノア。はい、僕はこれ」
私を受け取り、膝の上に乗せたアシュル様が口元に持ってきたのは、苺のプチケーキだった。……あ!これって、リアムの誕生日会の時の……。
パクリと食べると、苺の甘酸っぱさと濃厚な生クリームの風味が口いっぱいに広がる。美味しい!
「ふふ……。美味しい?」
「はいっ!」
ヤムヤムとケーキを頬張る私の幸せそうな顔を見て、アシュル様はとびきり甘やかな笑顔を浮かべ、ついでに壮絶な色気を放った(何故!?)
「よしっ、次は俺だな!」
「わっ!」
思わずボフンと顔が真っ赤になった絶妙なタイミングで、ディーさんがアシュル様の膝から自分の膝へと私を移動させた。……あっ!アシュル様の顔半分に黒い影が!!
「ほい、エル!俺のはこっち!」
「んぐっ!」
膝抱っこした私を、超嬉しそうな笑顔でギューーッと抱き締めた後、口の中にポイッと放り込まれたのは……。ディーさんと出逢った時に食べた、思い出の焼きマシュマロだった。
「やーっぱこれ、美味いよな!」
「はいっ!」
外側はこんがり、中はトロリと蕩けるふんわりとした甘さに、同じくマシュマロを口にしたディーさんと顔を見合わせ、互いに笑い合う。
「じゃ、次は僕ね」
「わっ!!」
次の瞬間。闇の触手により、ディーさんの膝の上からフィン様の膝の上へと移動させられていた。当然と言うか、ディーさんの顔が一瞬で不機嫌になる。
「おい、フィン!まだ三十秒も経ってねぇぞ!!」
「だってエレノア、マシュマロもう食べ終わったでしょ?時間切れだよ」
「は!?……ひょっとして、食べ終わったら終了ってルールだったのか!?くそっ!知っていたら、もっとデカいやつ用意したのに!!」
……いやいや、ディーさん。そういうルールではなかったと思いますよ。というか、オリヴァー兄様の暗黒オーラが真面目に気になるんですが……。
「さて……。はい、エレノア!」
「こっ……これは……!」
ソレを見た私の口元が、思わず引き攣る。
何故なら、いつもの無表情を年相応な笑顔に変えたフィン様が差し出したもの……それは、生クリームとフルーツを「これでもか!」とばかりにてんこ盛りにしたクレープだったのである(しかも、前世のクレープのように、食べ歩きが出来る形状!)。
「取り敢えず、エレノアの好きだろうものを全部入れてあるから。心ゆくまで味わってよ」
つ、つまり、フルーツと生クリーム以外にも、隠れた部分に色々入っているという事ですね!?ひょっとして、さっき言っていた自分ルールの為に、こんな巨大なクレープを!?というか、どこから食べればいいのこれ!?
取り敢えず、クリームと苺の部分をクレープ生地ごと齧ってみる。……うん!卵の味がふんわり香るしっとりモチモチのクレープ生地に、ミルキーな生クリームと甘酸っぱい苺が合わさって、暴力的に美味しい!!……でも、流石にこれ全部食べたら、お腹がはち切れそうなんですけど!?
「はい、フィン兄上お終い!次は俺!!」
「あっ!リアム!!」
「だって、そんなん全部食べさせたらエレノアがお腹いっぱいになって、俺に番が回って来ないだろ!?」
「…………」
ぷんすか怒っているリアムを前に、流石のフィン様も二の句が継げられずにいる。なんだかんだ言ってフィン様、アシュル様やディーさん同様、リアムの事溺愛しているからね。
「ほい、エレノア!」
「わ!これって……!」
リアムが差し出してきたのは、リアムの十八番(というより、唯一作れるお菓子)である、ザクザククッキーだった。齧ってみると、いつもより塩味が効いていて凄く美味しい!しかもこの、ほのかに香るチーズが良いアクセントになっている!
「絶対俺が最後だと思ったから、甘味控えめにして塩味強くしてみたんだ!」
夢中でサクサク食べている私を見ながら、リアムが嬉しそうにドヤ顔をする。うーん、そうきたか!流石はDNAの頂点の一角であり、要領の良い末っ子。オリヴァー兄様も「……やるな……」って、感心してるっぽい。
そうして婚約者達の間を一巡し、計七個の甘味をいただき、お腹一杯になった私です。どうもご馳走さまでした。
「……そういえばエレノア」
ちゃっかりオリヴァー兄様の傍に座らされ、口直しの紅茶を飲んでいた私にアシュル様が話しかけてきた。
「今回の騒動についての対応なんだけど、明日の昼食会の席で父上から話がある筈だから」
「昼食会……ですか?」
「うん。本当は朝食にしようって話だったんだけど、エレノアは今夜、色々あって疲れているだろう?だから明日は午前中はのんびり過ごしてもらう為に、昼食会になったんだよ」
「成程……」
国王陛下、お心遣い感謝致します。
「それと君達の滞在先は、バッシュ公爵夫人のいる離宮になったからね」
「マリア母様の?」
「うん、そう。あそこは王宮で一番強力な結界が張られているし、一箇所にまとまっていた方が警護がし易い。それに、君の兄……いや、姉のパトリックがいるしね」
そういえば、パト姉様の魔力は『時』属性。ある意味最強とも言える力を持っているんだった。
「まあ、帝国とのゴタゴタが落ちつくまでの間、エレノアは王宮で保護する事になるだろうからね。オリヴァー達もその間はここに滞在するといい。あ、勿論邸宅が心配なら、帰っても全然構わないけど……」
「いいえ!エレノア共々、これからお世話になります!」
「俺はエレノアの専従執事だからな!当然傍を離れねぇ!」
「宜しくお願い致します!」
「……ふふ……。よろしく頼むよ」
な、なんか……。アシュル様と兄様達の間に、青い稲妻が走ったような気が……?
「ってかさぁ、当主代行なんだから、オリヴァー・クロスだけはバッシュ公爵邸に帰んなよ」
ああっ!室内なのに落雷がっ!!フィン様ー!!余計な事を言わないでくださいー!!
「そもそも、そんなルールは存在しない!(byアシュル)」
「いつまでも、そのままの兄上でいてほしい(byフィン)」
いつもフィン様にしてやられる、可哀想なディーさんです(笑)
観覧、ブクマ、良いねボタン、感想、そして誤字報告有難う御座いました!
次回更新も頑張ります!




