戦い終わって……その後
『この世界の顔面偏差値が高くて目が痛い』8巻予約発売中です。
特典SSは以下のとおりとなっております。本編では語られない裏エピソードとなっておりますので、興味のある方は是非!
◆書籍書き下ろしSS:『●●の精爆誕!』
◆電子書籍書き下ろしSS:『紅の宝玉は最愛の胸に抱かれ眠る』
◆TOブックスオンラインストア特典SS:『白ウサギは優しい世界でまどろむ』
◆シーモア特典SS:『ダンジョン妖精は過去に思いを馳せる』
【帝国side??視点】
薄暗い室内にて。青年が一人、ソファーに身を沈めている。
室内の唯一の光源は、職人が技術の粋を尽くして作ったであろう、重厚な机の上に置かれた魔導ランプのみ。
だが、その僅かな光に照らされた室内は、貴人が住むに相応しい格調高い調度品に溢れていた。……ほんの数分前には。
今現在。青年の周囲はまるで、嵐が通り過ぎたのかと思う程に荒れ果てていた。
書棚が倒れ、本は全て床に散乱し、家具もベッドも、まるで大鎌で切り裂かれたかのように、ズタズタになっている。
辛うじて青年の座っているソファーや傍らの机だけが無傷であるのは、青年がなんらかの結界を己を中心にかけたからであろう。
――だが、それでも防ぎ切れなかった災いによるものなのか。彼の右腕は服がズタズタに裂け、露出した肌には無数の裂傷を受けていた。そして、そこから滴り落ちる血が、重厚で毛足の長い絨毯の上に赤い染みを作っていく。
「……怪我を負ったか」
薄暗い室内の片隅から、無機質な声が響く。
突如として湧いて出たかのように立つ黒い人影に対し、青年は驚く事もなく、腕から血を滴らせたまま薄く笑みを浮かべた。
「……妖精も死んだか。お前にしては、無様な結果だったな」
そう指摘され、青年は床に転がっている黒い鳥籠に目をやる。
言われた通り、鳥籠の中の妖精が絶命しているのを確認した後、青年はゆっくりと人影の方へと顔を向けた。
「ええ。まさかあそこで、私の魔力を『妖精の輪』から押し戻すとは思ってもいませんでしたからね。その余波で、この有様ですよ」
本当なら、自分の魔力で作った茨を浄化されそうになった時点で「潮時」とばかりに、『妖精の輪』を閉じようと思っていた。
なのにまさか、その『妖精の輪』を使い、逆にこちらに攻撃を加えてくるとは思ってもみなかったのだ。
自分の魔力を押し戻した金色の蔓は、まるで「意趣返しだ」とばかりに、この部屋を滅茶苦茶に荒していった。
結果、『妖精の輪』を作るのに利用していた闇の妖精は、相反する光属性の魔力を受け絶命した。自分も結界を張るのがあと一歩遅れていたら、腕一本だけでは済まなかったかもしれない。
「……ふ……ふふ……。……まったく……。本当に、あのご令嬢は面白い」
自身を傷付けられた事など全く意に介す様子もなく、言葉の通り実に楽しそうに笑い続ける青年を、黒い人影は無言で見つめる。その視線には、戸惑いや苛立ちといった負の感情は欠片も含まれていなかった。
「……楽しそうだな」
ぽつりと放たれた呟き。それを聞いた青年の顔から表情が削ぎ落とされる。……が、その一瞬後。青年はまるで夢見るような恍惚とした表情を浮かべた。
「ふふ……。ええ、そりゃあ楽しいですよ。だって、ようやっと顕われたのですから。……この永きに渡る呪わしき因縁。それに終止符を打つ為の最上の駒がね!」
そう言い放ち、再び嗤い出した青年の瞳には、愉悦、嘲笑、怒り……そして憎しみといった感情が複雑に混ざり合いながら浮かんでいた。
「………」
青年の言葉に声を返す事無く、人影の輪郭が足元から消えていく。それに気が付いた青年は嗤うのを止め、わざとらしいぐらいに大きく溜息をついた。
「やれやれ、久し振りに顔を合わせたというのに、もうお帰りですか。まあ、知っておりましたが、貴方も大概つれないお方ですね」
だが、そんな青年の言葉に、やはり黒い人影は、なにも応えようとはしない。
「まあ、見ていてください。貴方の悲願はこの私の悲願。我らの本懐、この私が見事に果たしてご覧にいれましょう。……その為には、あの『こぼれ種』を餌に、あいつらに楽しく踊ってもらうとしましょうか」
黒い人影が完全に消える直前。青年はそう呟いた後、見る者を凍り付かせそうな冷笑を浮かべた。
◇◇◇◇
「はぁ~……」
豪華な浴場に設置された大きなバスタブに全身浸かりながら、私は気の抜けた声を上げた。
断罪が主な目的だった夜会。それが紆余曲折した結果、何故か私の華々しい聖女デビュー会場へと代ってしまったあの後。
国王陛下による夜会(?)の終了宣言を受け、貴族達はゾロゾロと会場から退室していき、諸々あって疲労困憊だった私は、オリヴァー兄様に抱きかかえられながら、もはや私専用となっている離れの客間へと連れていかれたのである。
そうして、オリヴァー兄様から私を託されたミアさんと王宮の獣人メイドさん達により、浴室へと運び込まれた私は、彼女らによって全身くまなく磨き上げられた後、疲労回復効果の高いハーブ湯がたっぷりと張られた湯の中に入れられた……という訳なのである。
因みにその間、ミアさん達は、「エレノアお嬢様というだけで尊いのに、まさかの聖女様だったなんて!」「ああ、なんという栄誉!ありがたや!」と、滂沱の涙を流しながら、甲斐甲斐しくお世話をしてくれました。
実際今現在も、湯船に浸かっている私を恍惚の表情で見つめながら、涙を流し続けております。……い、いたたまれない……!!
――……それはともかく。
「うう~……。お風呂から上がりたくないなぁ……」
なんせ今回……いや、今回も、自分の信念というか我儘というかを突き通し、沢山の人達に心配と迷惑をかけてしまったのだ。
特に兄様方やセドリック、そしてアシュル様方には物凄く心配をかけてしまったのである。クライヴ兄様は「後でお仕置き」と言っていたし、フィン様もリアムも滅茶苦茶怒っていた。絶対この後、お説教か……下手すれば婚約者特権的な、甘くも恐ろしいお仕置きが待っているに違いない。
だが無情にも、「これ以上は湯あたりしてしまいますから」と、意外と力持ちなミアさん達に湯から引き上げられ、これまたテキパキと身繕いされた私の身柄は、待機していたイーサン(何故!?)に引き渡されたのである。……というかイーサン、目が真っ赤!
「……あのね、イーサン。心配かけて御免なさい」
おずおずとそう言ったら、「――ッ!エレノアお嬢様!!」と言った後、イーサンの目からミアさん達ばりに滂沱の涙が!!いや本当、いつも心配ばかりかけて御免なさい!
そして、イーサンの後方では、自分のお株を奪われ、血の涙を流しているウィルと、そんなウィルに肩ポムしているシャノンの姿が。……えっと、二重の意味で御免ね?
「そういえばお嬢様。お嬢様がご退場された後の話なのですが……」
イーサンに抱えられ、サロンに向かう間に聞いた話によれば、今回断罪をされる予定だった貴族達は、揃って別の広間に誘導されたのだそうだ。でも彼らは一切抵抗する事はなかったのだという。
「『新たなる聖女の誕生』という奇跡を目の当たりにし、「自分達がいかに愚かだったのかを実感した」「かくなるうえは、女神様の御許にて己が罪を贖いたい」と、ほぼ全ての者達が王家に対し、恭順の姿勢を見せたのだそうです」
あっ!イーサンがドヤ顔に!
国王陛下方もそんな彼らを見て「逃亡や抵抗の恐れなし」と判断し、更にその真摯に悔いる態度を評価した結果、積極的に罪を犯してない一族や家門は、連座での断罪を免除する事を決定したんだそうだ。
そう。これって『聖女の慈悲』として、バッシュ公爵領で犯罪加害者の親族になってしまった人達へと行われた措置。所謂『連座の罰の免除』である。
今迄、売国行為をした貴族は一族郎党共々死罪であったから、この措置は異例中の異例と言える。当事者達は皆、「女神様と王家の慈悲に、心からの感謝を」と涙を流していたんだって。
なし崩し的に聖女のお披露目をしちゃって、今後の事を考えると頭痛いけれども、それによって良い方向に向かった事例があって本当に良かった。
「……まあ、エレノアお嬢様を悪し様に罵ったご令嬢やご婦人方の処分はまた別の話ですが……」
あっ!イーサンの顔がスンてなった!
ま、まあそちらは、既に奥方様に潤いを奪われているっぽいので、反省していたら程々にしてあげてください。
「エレノア!」
「エレノア、大丈夫か!?」
「気分は!?疲れただろう?」
「ほら、エレノア!お腹空いているだろうと思って、色々用意させたから!」
イーサンに抱っこされてサロンへと運ばれた私を、心配顔をした兄様達や殿下方が、口々にそう言いながら取り囲む。
「あ、あの……。皆様、御免なさい。ご心配おかけして……」
平身低頭、平謝りしようとした私を、オリヴァー兄様がフワリと抱き締める。
「……良いんだ、エレノア。さっきも言ったけど、君が無事だった。それだけで十分なんだよ」
「オリヴァー兄様……!」
「そうだな。さっきは仕置きだなんだと言っちまったけど、まずは褒めてやらなけりゃいけなかった。……エレノア、偉かったな」
「クライヴ兄様……!」
「うん。エレノア、僕も兄上方と同じ気持ちだよ。……本当に、お疲れ様」
「セドリック……!」
「エレノア。僕の方こそ君の気持ちを尊重せず、あんな物言いをしてしまった事を謝罪する。……そして、君の事を心の底から誇りに思うよ」
「アシュル様……!」
「エル、お前が『妖精の輪』に対峙した時な、俺は……凄く恐ろしかった。だからこうして無事なお前を抱き締める事が出来て、物凄くホッとしている」
「ディーさん……!」
「エレノア、悪いけど、僕は今でも怒っているんだからね?……まあでも、君が物凄く頑張った事は認めているから……」
「フィン様……!」
「エレノア!お前ってさぁ……!!……少しは、大人しく守られていてくれよ……。真面目に心臓保たねぇよ……!!」
「リアム……!」
責められるでもなく、次々と優しく抱き締められ、湯上りでホコホコしていた身体と同様、心の中もポカポカと温かくなっていく。
「……有難う……。皆、大好き……!」
幸せな気持ちのまま、それぞれの胸に甘えるように頬ずりすると、「うぐっ!」「くっ!」と、何かを耐えるような呻き声が次々に上がった。ついでに、「そうか……。これが以前エレノアが言っていた、『押さば引け 引かば押せ』という事か……!」「まさか、エレノアから甘えてくれるとは……!紳士協定結んでおいて良かった!!」という、喜びの声が上がった。
どうやら皆さん、疲れ果てている私に負担をかけまいと、「過度な接触と抜け駆け禁止」を決めていたんだそうだ。そうしたら思いの外、私の反応がよろしかったから喜んでいると……成程。
『という事は、これからは節度をもった婚約者としての触れ合い生活になるのか!?』
……なんて喜んでいたのも束の間。私の予想外の反応に感激した皆様により、キスと抱擁の嵐が炸裂した結果、ぐんにゃりと軟体動物と化してしまった私です。
「ご、ごめんエレノア!つい...」「やべっ!」と必死に謝罪する兄様達や殿下方に返事すらできずにいる私の代わりに、イーサンが特大の青筋を立てながら、「あなた方……。次やったらエレノアお嬢様を強制退去させますからね!?」と、レッドカードを突き立てた。……うん。アルバ男における紳士協定って、愛する婚約者を前にしたら砂上の楼閣並みに脆いんだね。
そんなあなた方には、『過ぎたるは猶及ばざるが如し』という言葉を贈らせて頂きます。……というか、お願いだから加減を知ってくださいー!!
エレノア、実は知らない間に、しっかり反撃をしていたようです。
そして、エレノア廃に『自制』という言葉は存在しないのであります。
観覧、ブクマ、良いねボタン、感想、そして誤字報告有難う御座いました!
次回更新も頑張ります!




