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プレイした覚えもないゲーム的な世界に迷い込んだら  作者: なるのるな
‐5‐

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92/124

第2話 眷属化(パーティ登録)

:-:-:-:-:-:-:-:



『……若様はイノ殿の〝提案〟を受け入れるのですか?』


 沈黙を破るのは妙齢のジーニア。


 船倉の中に設けられた、急造の客室的な一画で、ラー・グライン帝国に出自を持つ者たちが身を寄せ合っている。


『……いちいち聞くなよジーニア。ノア様に……俺たちに連中の提案を断る選択肢なんて残ってるわけないだろうが。あのイノってガキも暗にそう言ってただろ?』

『グレン殿……! イノ殿は〝決断は委ねる〟と言っていたではありませんか……ッ!』


 いっそ投げやりな物言いをするのは壮年の男。名をグレン。


 そんな彼の態度に、抑え気味ながらも、どうしても語気が荒くなるジーニアという構図。


『グレンもジーニアも止せ。ここで熱くなっても無駄に体力を消耗するだけだ。……どのような状況になっても体力は温存しておくに越したことはない……捕虜生活において、身を以て得た教訓だろう?』


 なにかと意見のぶつかり合うグレンとジーニア。


 今となっては見慣れてしまった光景だと、内心で苦笑しながら二人を諫めるのはノア。


 決して短くはない虜囚生活の中で、いつの間にか対立しがちな二人の間に入るのは、元上司である彼の役回りとなっていた。


 ノア・ラー・グライン。傍流とはいえ、ラー・グライン帝国の皇帝の血縁という確かな出自を持つ者。


 もっとも、三人ともどもにアークシュベル王国の〝非正規の捕虜〟という立場に堕ちた身であり、ノアの出自を知られるのは、彼らからすれば百害あって一利なし。


 自ら出自を明かすような真似は決してしなかった。たとえ、他の捕虜から情報が漏れていたとしても、拷問に掛けられようとも、自分たちからは口を割らないと誓っていた。


 ただ、そんなノアたちの後ろ向きな決心は杞憂に終わる。


 アークシュベル側はノアの出自を見越した上だったのかもしれないが、特別な扱いはおろか、正規の捕虜として扱われることもなく、単なる刑罰奴隷という扱いであちこちに連れ回されただけ。今となってはアークシュベル側にいかなる思惑があったのかも不明なまま。


 流されて、流されて、辿り着いたのはゴブリンの支配する地。リ=ズルガ王国。


 そこでノアたちは出会う。不可思議な〝異能〟を操るイノたち(異邦人)に。


 そして、彼らは異邦人たちに〝奴隷〟として身柄を買い取られ、虜囚の身から解放された上で、異邦人の庇護の下で思いがけず故郷への帰還を目指すことに。


『……も、申し訳ございません。若様』

『ふん。まぁジーニアのお嬢ちゃんが心配するのも分からんでもないけどな。ノア様よ、そりゃ俺たちは連中に従うより道はないのは確かだが……どうにもあのイノというガキは薄気味悪いぜ。異界の門から使命を授かっただの、ノア様を〝眷属〟にするだの……そんなホラ話を俺たちに聞かせるために、わざわざアークシュベルと事を構えるなんて正気の沙汰じゃねぇ。一体、連中の狙いは何なんだか……』


 ノアたちは、当然に自分たちの現状を『これで助かった!』と手放しに喜んでいるわけでもない。


 状況は明らかにおかしい。


 何の接点もなかった異邦人が突如として現れ、強大な勢力を誇る国と敵対してまで、虜囚の身となった自分たちを解放してくれるなど……子供に読み聞かせる英雄譚の類であっても、陳腐な設定だと言われるはずだ。


 異邦人たちの行動には、何らかの目的なり理由があるとノアたちは見ている。当たり前の話だ。


 しかし、イノと名乗った人族たる異邦の少年は語る。


 自分は異界の門からの使命で動いている。だけど、別に信心のためだけじゃない。使命を果たさない限り故郷に戻れないからだと。


 僕らはある意味ではノアさんたちと同じ。故郷に戻るために使命を果たそうと奔走しているだけなんですよ。もちろん、異界の門の真意を知りたいという好奇心もありますけどね。


 そういう事情もあり、個人的には貴方たちのことをまったく知らないんです。あくまで、使命に基づいて助けただけ……。


 なぜなら、貴方たちを故郷へ連れ帰るというのが、そのまま異界の門からの使命だったから。


 グレンさんとジーニアさんには申し訳ない気もするんですが、僕が受けた使命は、特にノアさんをラー・グライン帝国の首都へ無事に連れ帰ることを強調しています。


 ようするにノアさんを死なせるなってことですね。


 その使命を果たすためには、僕らはアークシュベル王国と敵対することも辞さない。現に、貴方たちの身柄を引き取るに際して揉めました。


 とはいっても、改めてになりますが、アークシュベルとの敵対については、僕の勘違いからのミスという……自業自得でしかないんですけどね。


 まぁそれはそれとして、異界の門は使命を果たすために、ノア・ラー・グライン=バルズに……ええと……〝使徒〟というか〝眷属〟というか……とにかく、僕が異界の門から授かった権能の一部を使用できる、そんな資格みたいなのを与えろと言ってきています。


 ただ、コレについては本当に悪魔の契約と同じでしょう。


 別にすぐさまにノアさんの寿命が縮まるとかはないと思いますが……後々に何が起こるかは僕にも分かりません。後で〝やっぱり止めた!〟というのも、たぶん通用しないでしょう。


 ただ、彼女……タカオ・メイも僕の〝眷属〟のようなモノですが、現状では権能の一部を共有する以外の()()はない……というのは一応伝えておきます。


 ようするに僕は、異界の門から現在進行形で、ノアさんを〝使徒〟なり〝眷属〟にしろと催促されてるということです。


 こんな荒唐無稽な話を聞かされて〝さぁ今すぐに返答を!〟……と言う気は流石にありませんが……申し訳ないんですけど、僕もノアさんも、選べる選択肢が少ないというのは間違いありません。


 最終的な決断についてはノアさんに委ねますし、もちろん、皆さんで話し合った上で構いません。


 話し合いの結果として、諸々の〝覚悟〟が決まったら教えて下さい。


 僕はこの件について、こちらから答えを催促したりはしませんから。


 ……と、そんな諸々を伝えられ、ノアたちは三人だけで過ごす時間を与えられた。


 ここが船の上という閉鎖空間というのもあるだろうが、通常の〝刑罰奴隷〟への扱いとしては有り得ない待遇を受けている。


 現にノアたちの処遇はアークシュベルに囚われていた頃に比べれば雲泥の差だ。


 通常、刑罰奴隷には着けっぱなしが基本となるマナ封じの枷も外され、衣類も生活用品も食事も……すべて主である異邦人が用意し、特に何らかの命令や仕事を与えらえるわけでもない。


 だが、どうしてもノアたちは、そんな行動の裏にあるだろう〝異邦人たちの目的〟が気になってしまう。気にならないはずもない。


『……恩人であることに違いはない故、彼らのことを悪く言いたくない。だが、グレンの懸念は私とて考えている。そもそも、イノ殿は私の()()を知っていた。ラー・グラインの家名はともかくとして、〝バルズ〟というのは母方の姓であり、公的に使用することのない、いわば皇族内のみで使用される閉じた家名なのだが……帝都から遠く離れたこのような地で、まさか〝バルズ〟を含めた名を呼ばれるとは思いもしなかった。少なくとも、異邦の徒であるイノ殿が知りようのない名だ』


 秘された事情を知る者。何らかの目的を持つ者。


 ノアたちの立場からすれば、そのような異邦人に対して、警戒するなというのが無理な話だ。


 しかし、そんな怪しい異邦人の庇護に縋らないと、故郷へ戻るどころか、日々の生活すらままならないというのも、今のノアたちの実情。


『ジーニア、グレン。色々と思うところはあるが、私はイノ殿の提案に乗り〝眷属〟とやらを受け入れるつもりだ。……もし、私が正気を失ったり、イノ殿にいいように操られているのが明らかであれば……私を殺してくれ。むろん、二人の安全が確保された状況を確認した上でな』


 悲愴な決意を秘め、ノアは異邦人の要望を受け入れる。その覚悟を決める。


『わ、若様!? そのようなことはッ!』

『……ふん。俺は承知したぜ。どうしてもの時はノア様を()ってやるさ』 

『グレン殿ッ!?』


 付き従う二人の意見は割れるが……ノアからすれば、その決意はあくまでも最悪を想定してのこと。


『ふっ。ジーニア。あくまでもどうしようもない、もしもの時の備えだ。流石に心配するなとまでは言えないが……彼らが怪しいのを承知の上で、私はどこかでイノ殿のことを信じている。何故かは分からないが、彼らが女神の遣いなのではないかと感じているほどだ。彼の言う異界の門というのは、まさに我らが信奉する女神の所業なのではないのか……とな』

『わ、若様……?』


 ノアは思っていた。


 異邦人であるイノから詳しい説明を受ける前から。


 リ=ズルガの王都ルガーリアの広場にて、檻の中で彼の呼び掛けを聞いた時から。


〝もしかすると、今の状況は女神様の思し召しなのではないか?〟……と。


 決して信心深い方ではなかった自分が、何故急にそのようなことを思うようになったのかは定かではない。自らの心境の変化に疑問を抱きながらも、ノアはイノ(異邦人)から説明やその提案を天啓のように聞いていた。


 もし、仮にそのことをイノが知ったのであれば……


『それは女神の思し召しというより、恐らくダンジョンシステムによる何らかの干渉でしょうね』

 

 真偽はともかく、彼はそう判断しただろう。


 ノア・ラー・グライン=バルズはクエストに生存を望まれている。


 つまり、この狂ったダンジョンシステムが何らかの理由で彼を求めているのだからと。



:-:-:-:-:-:-:-:




『ノア・ラー・グライン=バルズをパーティ登録しますか?』

▶はい

▷いいえ



 ここに悪魔の契約は成立した。してしまった。


 僕らからすれば『クエストクリアのためなんだから仕方ない』……と、自分を誤魔化すことはできるけど、ノアさんからすれば意味不明なことだと思う。


 ダンジョンだの、パーティ登録だの、ステータスだの……そんなゲーム的なシステムを、予備知識のない相手に過不足なく説明するなんて芸当は、僕には土台無理な話だった。


 だから、〝異界の門という神様的なナニかに使命を授けられた〟という設定のままにここまで来てるんだけど……()()()()()()()()()()()()ノアさんには、色々と具体的な説明をする必要がある。


 そして、かつての仲間の()()()()()()姿()を目撃する羽目になったグレンさんとジーニアさんにも。


「……ねぇイノ。私の〝同盟〟の時はさ。罰ゲーム的な痛みがビリっとあったくらいなんだけど……〝パーティ登録〟ってこんな感じなの? メ、メイ様は大丈夫だったの?」

「いや、メイちゃんの時は、むしろ僕の方に〝選択するまで絶対に逃がさない〟という感じで、繰り返しのアナウンスと共にのたうち回るような激痛が続いてたんだ。確か、メイちゃん側には何もなかったはず……そうですよね?」

「……うん。私は別に何もなかったと思う。あの時は、いきなりイノ君が叫びながら暴れ出したから、そのショックで驚いたくらい。少なくとも、()()()()()はなかった」


 まったくの誤算だった。


 選択肢がないとはいえ、仲間内で話し合いの末、ノアさんからの〝覚悟が決まった〟という申し出により、僕は彼をパーティ登録した。ダンジョンシステムの求めるがままに『はい』を選択したんだ。


 どういう原理かは不明ながらも、パーティ登録の際には、激痛が生じるかもしれないというのは事前にノアさんたちにも説明していた。


 僕とメイちゃんの〝パーティ登録〟の際には、〝超越者(プレイヤー)〟である僕に激痛と連続の選択肢が発生した。最後まで設定しないと激痛が延々と続くという……昨今のバラエティー番組でも自重するようなクソ仕様だった。


 レオと僕との、〝超越者(プレイヤー)〟同士の〝同盟〟というシステムの際には、僕とレオの双方に痛みが走った。僕は備えてたから割と平気な感じで、不意を突かれたレオは涙目になる程度の痛み。一瞬のことであり、持続するタイプじゃない痛み。


 ヨウちゃんを〝超越者(プレイヤー)〟として覚醒をさせた際には、僕は無痛だったけど、ヨウちゃんの方はのたうち回るほどの痛みが一分くらい続いていた。その場に居合わせた獅子堂くんが、思わずドン引きするくらいの惨状だったため、ヨウちゃんからは、後々にも散々文句を言われる羽目になったもんだ。


 ……とまぁ、これまでの実例を振り返っても、その時々で状況はまるで違うんだけど、〝別の誰か〟とシステムを通じて〝繋がる〟場合には、何らかの作用が発生するようだと僕は認識していた。


 ただ、〝超越者(プレイヤー)〟として覚醒したヨウちゃんについては、その時にすでに獅子堂くんをパーティ登録した状態だったんだけど、当然にお互いにそんな自覚はなかった。のたうち回るような激痛も、罰ゲーム的な痛みも覚えはない。


 たぶん、相手や状況、または〝超越者(プレイヤー)〟によっても作用が違うんだろうけど……こんなところに遊び心とかいらないし。迷惑なシステムだ。


 百歩譲って、魔物との戦いやドロップアイテム、ダンジョンゲートを潜る際とかにゲーム的な仕込みや遊び心があるならまだしも、なんでシステムから要請された選択肢に罰ゲーム的なギャンブル要素を組み込むんだよ。おかしいだろ。意味不明過ぎる。


『イ、イノ殿ッ!! これは一体どういうことなのです!? 若様に何をしたのですかッ!? へ、返答如何によっては、たとえ恩人と言えども……ッ!!』

『……ふん。悪いが今回は俺もジーニアに賛成だ。貴様……ノア様に何をしやがったッ!』


 ノアさんの元部下……というか、今も従者のような立ち位置にいる二人が殺気立って詰め寄って来る。今にも手が出そうなほどにマナが荒ぶっている。でも、二人の立場を考えると当然の反応だとも思う。


 何しろ、捕虜生活という極限の苦労を共にしてきた仲間が……


「お、落ち着いてください! 僕はノアさんに危害を加えるつもりなんてなかったんです! そりゃ、確かに自分でもヤバい取引を申し出たという自覚はありますけど……誓って、()()()()になるなんて知らなかったんです! 思っても見なかったんだ!」

『だが! 現にノア様はおかしくなっちまっただろうがッ! 明らかにお前の仕掛けた〝眷属化〟のせいだ! そうじゃないとは言わせんッ!!』


 短い付き合いではあるけど、ぶっきらぼうで斜に構えており、どうにもジーニアさんと衝突することが多かったグレンさんだけど……仲間を思う熱いハートのある人のようだ。


 パーティ登録の影響と思われる()()が出たノアさんのことを、本気の本気で心配している。憤っている。また、自らが率先して僕へ突っ掛かることで、ジーニアさんを激発させないように牽制もしてるんだと思う。


『ふははははッ! 何を憤っているのかは知らんが……グレンよ! そこまでにしておけッ! いかにお前であっても、女神の使徒であるイノ殿に狼藉を振るうのならば、私が容赦せんぞッ!』


 微妙に耳障りな高笑いと共に、僕に掴み掛ろうとしていたグレンさんを諫めたのはノアさんだ。


 いや、グレンさんを止めてくれるのはありがたいんだけど……。


『ノ、ノア様よ! 一体どうしたってんだ!? あ、あんたは捕虜生活にあっても、理知的で冷静さを保っていただろう!?』

『ふはははッ! 理知的? 冷静? 違うなグレンよッ! 私は無知蒙昧(むちもうまい)だっただけなのだ! 暗闇で怯えながらも平気な振りをしていた愚か者だったのだ! 私は気付いた! 女神は我らを見守って下さっているのだと! 世界はこんなにも女神の愛に溢れていたのだと! まったく! なぜに私の目はこれほどの〝光〟に気付かなかったのか! なぜに私の耳は麗しき女神の唄を聞き逃していたのか! イノ殿よ! 感謝する! 貴方はまさに女神が遣わせた使徒だったのだな! 愚かな人々の目と耳を開くために遣わされたのだと……私は貴殿の使命を理解したぞォォォッ!』


 うーん……グレンさんじゃないけど……ノアさん、一体どうしちゃったわけ?


 いや、そりゃ〝パーティ登録〟の影響なのは間違いないんだろうけど……い、意味が分からない。



:-:-:-:-:-:-:-:

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― 新着の感想 ―
[気になる点] グレンさんに何が見えているのか…そして真実はアマゾンの奥地にあるのだろうか? [一言] 恐るべし、ダンジョンシステム…。
[気になる点] 遅すぎた厨二病………開眼してしまったか
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