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魔導書製造者  作者: 樹
獣人族の攻防
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帰途

 帰りの車。ぐったりしている姫を気遣いながら車は進んでいく。姫はさらわれた時の服装と変わっておらず、未だ目を覚ましていない。谷川に異常状態回復魔法をかけてもらったが、起きないことから異常状態ではなく魔法以外でのなんらかで眠らせているらしい。ついでに土屋もぐったりしているが気にしないでおこう。

 生きてはいるしそのうち目を覚ますだろう。


「今回、助けてくれたことは本当に感謝している」

「こっちにも利益があったからな」


 利益がなかったら絶対動かなかっただろうけど。

 それにしてもあの黒い影のようなあいつ…創造主なんだろうか。そして本当に倒せるのだろうか。この世界を創ったのならば、絶大なる力を持つ神すらも存在する世界を創ったやつに勝てるのか?

 なにより、あいつは地球の人間なのだろうか。


「うぅ…」

「姫様!?」


 寝ていた姫様がうっすらと目を開けた。周りの状況を確認し、疑問符を浮かべている。ギアトが姫様に状況を説明するとさらに混乱したようだがすぐに落ち着いた。

 そして体を起こし、僕たちのほうを見る。


「助けていただいて、ありがとうございました」

「いえいえ~」

「お、お礼なんて…」


 谷川と土屋が返事を返す。姫様は微笑を浮かべる。


「ヒュガスの第一皇女、ニュース=べリアです」

「アサガミ=トーギ」

「ツチヤ=ミツキです…うぅ…」

「タニカワ=ユウコです」

「フェルと言います」


 それぞれ自己紹介を済ませたので僕は本題に入ることにした。


「で、べリアは何を抱えてるんだ?」

「へ?」

「へ?じゃない。何を抱えてるんだ?ここまで来たのなら教えろ―」


 気が付くと僕の首筋にギアトの剣が当ててあり、フェルはべリアに剣を向けている。土屋と谷川は突然の行動に驚いているがこの反応を予測してウィンドコントロールで剣をできる限り止めてみるが、これは結構難しい。ギアトはやはり強い。


「対策を立てるのは情報が必要なんだ。事実、ギアトはべリアを守れなかった」

「…分かっているさ。感情的な行動だ。許してほしい」


 ギアトは僕の首から剣を離し、フェル剣をしまう。ギアトは自分の席に着いたものの微妙な空気が車の中を支配した。

 その沈黙を破ったのはべリアだった。


「私は聖剣の鞘なのです」

「聖剣?」

「はい。私は聖剣デュランダルの鞘なのです」


 デュランダル。切れ味においてはほかの武器と並ぶものはないと言われている神話の武器だ。そんな武器が眠っているのか。この少女の体に。


「それはお前が使うのか?それとも」

「私はただの鞘。使い手はデュランダルが選びます」


 そう言ってべリアは再び微笑を浮かべた。強がっている。

 デュランダルか…使えればヒュガスが滅びることもなかっただろうから責任を感じているのだろう。自分が使えるのなら命すら投げ出したのにそれができなかった自分を悔やんでいるのだろう。


「早く、使い手が見つかるといいのですけど」


 無理して笑うべリアを乗せて車は進む。

 ふと思った。聖剣と言うのは勇者が抜くものではないかと。



 ルグルスに着き、僕たちは自分の部屋に戻る。しかし部屋で眠る気分になれなかった僕は外を歩いていた。

 いい月だ。そういえばこの世界の月も日本人にはウサギに見えるものだな。


「ん?」


 ふと、墓のあたりを通りかかったとき十字架が目に入った。そこに誰かが縛り付けられる。

 無視しようか…いや、確かめてみる価値はあるか。

 僕は墓場に入ってそれを確かめる。そして絶句。


「凪川?」


 縛り付けられているのは凪川勇也だった。光海はいない。凪川だけが十字架に縛り付けられている。


「…見なかったことには、できそうにないな」


 僕は凪川を縛り付けている縄を切って下ろす。

 本物…だよな。確かに本物だ。起きていないけれど。


「連れて帰るか」


 僕は凪川を抱えて城に連れて帰った。

 当然のことながら大騒ぎになったが、翌日になっても凪川は起きなかった。



 翌日の昼。僕は城にある書庫にこもっている。ここは大図書館ほどではないものの武器に関する資料は山ほどある。もちろん、神話に関する資料も大量にあった。

 その中の一つ、勇者という項目を僕は読んでいた。

 勇者って武器なんだな…


「前に勇者が現れたのは人間からか…異世界からの召喚ではないんだな」


 異世界から召喚された例はどうやら今回が初めてらしい。その人間は悪神と戦争し、勝利をおさめて、武器を残して行方不明になったらしい。


「最終戦争…」


 アルマゲドン、ラグナロクと呼ばれるのがその戦争らしい。神々の最後の戦い。この星を破滅にまで追い込んだ終末戦争。

 そして、勇者と言う機関を創りだした原因…


「最終戦争なんてことには、ならないよな」


 一抹の不安を覚えつつ僕は本読み続ける。

 勇者と言うものを考えながら。

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