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女嫌いの公爵様に嫁いだら前妻の幼子と家族になりました  作者: 青空一夏


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54-2 完璧な家族になりました!

 それにしても全部買う? 大金持ちって無謀……でも、侍女やメイドたちにも幸せのお裾分けだと思えば、けっして無駄遣いではないわね。


 焼きたてのミートパイや、串に刺されたチーズソーセージも香ばしい匂いを漂わせ、空腹を誘う。


「おなか、すいたーー!」

 アベラールが元気よく叫び、旦那様が苦笑する。


「では、何から食べようか?」

「ぼく、あれたべたい! おおきなチーズのやつ!」

「チーズソーセージだな。よし、二本もらおう」

「二本……って、ジャネのぶんは?」

「ジャネットは俺と分け合えばいいさ。女性はすぐにお腹がいっぱいになるだろう? 一本全部食べたら、他の物が食べられなくなる」

 

 差し出された一本を受け取ると、熱々の湯気が立ちのぼり、肉の旨みと濃厚なチーズの香りがふわりと広がる。


「んーっ、おいしいっ!」

 アベラールが満面の笑みを浮かべた。


「……たしかに、とっても美味しいわ」

 私も大きくうなずいて、半分ほどかじったところで、旦那様にそっと差し出す。

 こうして分け合えるのが、なんだかとてもうれしい。いろんな味を少しずつ楽しみたい私にとっては、最高の優しさだと思った。


 次に手に取ったのは、焼きたてのミートパイ。薄く焼き上げられたパイ生地はカリッと香ばしく、中からとろける肉汁と濃厚なグレイビーソースがあふれ出す。


「こんどは、ぼくがジャネと半分こする! あーん!」


 アベラールがにこにこしながら差し出してくれる。


「まぁ、アベラール様ったら……。じゃあ、いただきますね。あーん」


 愛情たっぷりにお互いのやり取りを楽しんでいると、少し離れたところから戻ってきた旦那様が、手に何かを持っていた。


「君は甘いものも好きだったね。リンゴとはちみつの焼き包みパイだよ」


 パイの中から立ちのぼる甘くて濃厚な香りに、思わずうっとりする。


「旦那様、甘いものまで……ありがとうございます」


「いろんな味を楽しみたいだろう? 遠慮せず、ひと口ずつでいい。残りは俺が全部もらうからな」


 そう言って、得意気におっしゃる旦那様に、胸がいっぱいになった。


 もう、ほんとに甘やかしすぎですわ。でも、うれしい!


 そのあいだにも、買い込んだお菓子は、どんどん増えていった。


「旦那様、もう持ちきれないでしょう?……買いすぎなのですわ」

「心配ない。あちらで控えているフットマンに預けてくる」


 旦那様が視線を向けると、少し離れた木陰で数人のフットマンが控えていた。必要なときだけ呼び出せるよう、さりげなく距離を保ちながら、付いてきてくれたようだ。


 大量のお菓子を手渡しながら、旦那様はちらりと私に目をやる。


「愛おしい妻が楽しんでくれるなら、屋台ごと買おう」

「もぉ……屋台ごと買って、どうなさるおつもりですか?」

「君の誕生日に、俺が屋台のオヤジになるんだよ。公爵家の中庭に屋台を並べて……君とアベラールに、好きなだけ食べさせてやる」

「……旦那様……お気持ちだけで、じゅうぶんですわ」


 このままじゃ、旦那様が本当にすべて買い占めてしまいそう。愛が重すぎて、ちょっぴり危険ですわね。


 私はくすくすと笑いながら、そっと旦那様とアベラールの手を取り、帰宅をうながした。

 並んで歩きながら、待たせてあった魔導高速馬車へと向かっていく。


 愛する夫に溺愛されながら、かわいいアベラールの笑顔に包まれて、私の世界はこんなにも満たされている。

 この幸せが、ずっと続いていきますように――私はそう願いながら、旦那様とアベラールの手をぎゅっと握りしめた。


 馬車に乗り込んだところで、アベラールが私の耳にそっと唇を近づけて、ささやいた。

「ジャネ。ぼく、これから、おかあさまってよぶね」

 突然のアベラールの宣言に、私はあんまりうれしくて、思わず涙がこみあげた。



 完





 

 

おもしろかったと思っていただけたら、評価のほうをよろしくお願いします。

最後までお読みくださりありがとうございました。


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