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女嫌いの公爵様に嫁いだら前妻の幼子と家族になりました  作者: 青空一夏


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53-2 最高の幸せ

 アベラールは、さっきまでステファニーと遊んでいたが、今度はグレイスの相手もしてあげていた。火属性の幻影魔法を上手に操れるようになっていたので、赤いリスやウサギをだしたり、水魔法で面白い椅子を作り出していた。これは薄い膜で覆われて、水に濡れることもない。座ると弾力があり、身体の形のまま沈み込む。アベラールは日々進化していて、新しい魔法を次々考え出す天才だった。しばらくそれで遊んでいたグレイスは疲れて、ミュウを抱きしめたまま眠ってしまう。


 成竜になったら固い鱗で覆われる身体も、まだ子竜のうちは柔らかく、鱗は羽のようにふかふかしている。ミュウは動くことができず困っているはずなのに、この状況をしっかり理解しているようだ。乳母が慌てて駆け寄り抱きかかえるまで、我慢してジッとしていた。もちろん、皇帝も皇后もミュウの賢さと優しさに感動していたし、アベラールがつくった水魔法の椅子を興味深く見ていた。


「これはスライムチェアと称して商品化できそうだな? アベラール卿はなんというか……希有な存在だな。いやはや、先が楽しみな公子……こんな物を簡単に作るとは……末恐ろしい」

 皇帝からあまりほめられるので、アベラールは恥ずかしそうにしている。

「ぼく、とくになにもしてないんだけど? ただ、あそんでいただけで――」

 子供らしい反応で、困ったようにほほえんでいた。そうしてなごやかに時間が過ぎていく。


 夕食後も、子育てのことなど皇后と話がはずみ、私はアベラールを将来帝国に留学させては、という提案も受けた。帝国には各国の王族や高位貴族達も通いたがる帝都学園があるのだ。すっかり私と皇后は意気投合してしまい、時間も忘れて語り合った。


 ***


 翌朝、皇帝夫妻の出発の刻が近づいていた。見送りの準備も整い、玄関前には、帝国の馬車が既に待機している。私たちもそろって見送りに出ていた。公爵様の隣に並び、アベラールは少しきりっとした顔つきで立っている。ミュウは彼の腕に大人しく抱かれていた。


 見送りの挨拶も一通り済んだ後。皇后陛下がふと、私たちを見て、優しくほほえまれる。

「ふふ……やっと、お二人が本当のご夫婦になられたのだから、三人くらいはお子が生まれそうですわね。未来が楽しみですわ。おふたりの赤ちゃん、さぞ可愛いでしょうね」


 場にやわらかな笑いが広がった。するとアベラールがぱっと顔を輝かせた。


「あかちゃんがうまれるの? ほんと? だったらぼくとミュウがめんどうをみてあげる! もしいじわるするひとがいたら、ぼくとミュウでやっつけてあげるんだ! ね? ミュウとぼくでまもろうね!」


「ミュウ、ミュウ!」


 その姿に、皇后はやわらかく目を細められた。

「まあ、頼もしいお兄様ですこと。生まれてくる赤ちゃんは大安心ですわね。まさに理想的なお兄様になりそうですわ」

「……頼もしい息子で、俺も心強いよ」

「貴公の子供が虐められたら……もちろん朕も皇后も黙ってはいないだろうな。なにしろ、結婚式に立ち会い証人になった朕らだ、貴公の子供は他人の気がしないからな」

「まったくですわ。私に妹ができたようなものですからね。ジャネット様にお子ができたら、身内のような気がしますもの」


 皇后は去り際、私をもう一度しっかりと抱きしめると、こうおっしゃった。

「知り合ってからほんの数日しか経っていないけれど、友情って時間ではなくて密度なのですわ。だって、こんなにもここを去るのが悲しいのですもの」


 皇帝夫妻を乗せた馬車が遠ざかるのを、私たちはしばらく見守っていた。やがてその影も見えなくなると、公爵が静かに私の肩を抱いた。

「……なかなか賑やかな三日間だったな。疲れてないか? ソファで休んだ方がいい」

「大丈夫ですわ。本当に楽しかったですし、皇帝夫妻のもとで結婚式を挙げられて……まるで夢のようでした」

「いや、これは夢じゃない。これからは、君を世界一幸せな公爵夫人にしてみせる。まてよ、王妃にしたほうがいいかな? 国を一つ作るくらい、俺にとっては朝飯前だ」


 私は最強の騎士団長に抱かれながら、思わずクスクスと笑う。本当に国を作りそうで、少し怖いけれど、それだけ私を愛してくれていると思うと、心の底から幸せな吐息がこぼれた。


 アベラールはミュウを抱いたまま、じっと馬車の向かった方を見つめていた。


「……またあそべるかな? ぼく、ステファニーや、グレイスに、もっとまほうをみせてあげる、ってやくそくしたんだ」

「えぇ、きっとまた機会がありますわ」


 ほんの数日前まで、帝国の皇帝夫妻とこれほどまでに親しくなれる日が来るとは思っていなかった。

 皇帝夫妻の前で結婚式のやり直しをするなんてことも、想像すらしていなかった。


 今、私と公爵は本物の夫婦となり、アベラールとミュウが家族。

 昨夜は妻として思う存分愛されて、甘やかされて――そして、きっと近い未来に新しく増える、まだ見ぬ赤ちゃんのことを考えると、私は幸せすぎて胸がいっぱいになる。


「さぁさぁ、お坊ちゃんは家庭教師の先生とお勉強ですよ。お父様たちをふたりっきりにしてあげましょうね。よいお兄様になるには、お勉強も大事ですよ」

「うん! ぼく、おとうとやいもうとをまもるため、がんばるっ!」

 侍女長が深くうなずくと、私に小さくウィンクして、アベラールとミュウを屋敷の中に連れて行く。


 私たちは一瞬の間だけ、言葉を交わさずにただ見つめ合っていた。公爵の目は深い愛情に満ちており、私の胸が高鳴る。しばらくそのまま目を合わせていると、彼が静かに私の手を引き寄せ、優しく手の甲にキスを落とした。


「……愛してるよ。今日も君は最高に美しい」

 その言葉に私は思わず息をのみ、顔を赤らめながら答える。

「私も……愛してますわ。旦那様こそ、今日もとても素敵ですわよ」


 彼は私の頬に手を添え、静かに目を閉じた。そして、ゆっくりと私に近づく。

 その瞬間、空気が一変したような気がした。私の心は鼓動を速め、思わず目を閉じる。


 唇が重なる瞬間、すべての音が消えて、私の全身が彼に引き寄せられる感覚に包まれる。公爵の温かな手が私の背中を抱き寄せ、さらに深く彼の存在を感じさせてくれた。唇が優しく確実に私の心に触れ、二人の間に何もかもが溶け合う瞬間を迎えた。


 唇が離れた時、私はしばらくその余韻に浸りながら、彼の目を見つめる。私の心から愛する旦那様はどこから見ても完璧だ。

「君を妻に選んだことは、俺のどんな戦の功績より輝かしい。燦然と輝く勲章なんだ……なにか欲しいものはあるか? ジャネットのためならなんでも……」


 私はほほえんで、優しく彼を見つめ返した。


「今のままで充分幸せすぎますわ。旦那様がいて、アベラール様が元気にすくすくと育ち……やがて私たちの子供も生まれて……それでもう満点の幸せなのです」


 その言葉に、彼の表情が柔らかく、愛おしそうに私を見つめ返す。

「そういう君がたまらなく愛おしい。大好きだ……俺の最愛……」


 またもや、幸せが込み上げてきて、私は思わず涙がにじむのを感じた。


 あぁ、私は最高の幸せを手に入れたわ。このキーリー公爵家に嫁いできて……本当に良かった!





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