53-1 仲良くなる子供たち
皇帝夫妻のご滞在も三日目。
この日は皇后陛下のご希望で、子供たち同士の小さな交流の場が設けられることになった。
「ぜひアベラール卿に、皇女たちと遊んでいただけたら嬉しいですわ。子供の心は素直ですもの。こうした機会こそ、大切にしたいと思っておりますの」
そんな皇后のお言葉に、公爵も快く応じた。
アベラールに説明すると、彼は目を輝かせてうなずいた。
「うん、ミュウもいっしょにいていい?」
「もちろんよ、ミュウも一緒に遊んであげましょうね」
用意されたのは、公爵邸の広い室内遊戯室。
柔らかな絨毯が敷かれ、低めの机と小さな椅子が並べられ、木製のおもちゃや絵本も揃えた。
そこへはアリシアも招く。皇后の意向で、アベラールの親しい友人もぜひとのことだったから。
「アリシア、今日はよろしくね」
「はい、わたし、おひめさまたちとあそぶのをたのしみにしてきました」
アリシアはにっこりと笑い、頼もしいお姉さんの顔をしていた。
やがて皇后が皇女たちを連れて現れた。
三歳の第一皇女ステファニーは、ふわふわの淡いピンクのドレス姿で、少し緊張した面持ち。
六ヶ月の第二皇女グレイスは乳母に抱かれ、ふにふにと手を動かしている。
「さあ、ステファニー。こちらがアベラール様とミュウ様、それからアリシア様ですわ」
皇后陛下が優しく声をかけると、ステファニーはアベラールとミュウ、アリシアをじっと見つめ、やがて小さく『こんにちは』とお辞儀した。
「こんにちは! ぼくはアベラール。このこはりゅうのこどもで、ミュウ。そして、そのとなりがアリシアだよ。さぁ、ミュウもあいさつして」
「ミュウ、ミュウ!」
「はじめまして、こうじょさま。わたしはアリシアです。なかよくしていただけたらうれしいです」
アベラールとアリシアの優しくも明るい声に、ステファニーの顔がぱっとほころんだ。最初はおずおずとしていた彼女だったが、アベラールがそっと絵本を手渡し、膝をついて優しく話しかけると、すぐに懐いた様子を見せ始めた。その絵本は挿絵が鮮やかで、三才でも楽しめるような内容だった。アベラールがとても気を遣ったのがわかり、ほっこりする。
「このおはなし、とてもおもしろいんだ。 ぼくがもっとちいさいときにね、なんどもみたほんだよ。たのしいえがたくさんあるから、よんであげるね」
「……うん」
アベラールの柔らかな声と仕草は、まさに小さな子供の心を安心させるものだった。
アリシアも一緒にその本を読んであげ、女の子の声などを担当した。やがてステファニーがキャッキャッと楽しげに笑いだす。
一方、グレイス皇女はミュウに夢中だった。
小さな手を一生懸命に伸ばして、ミュウの尻尾を掴もうとする。
「ミュウ、やさしくしてね? こちらの皇女様はまだお小さいから」
「……ミュウ」
ミュウはゆるやかに尻尾を揺らし、ちょうど赤ちゃんの指先がそっと触れられる位置で静かに止めた。途中、ムギュッと尻尾を掴まれたり、ハイハイで追いかけられていたけれど、ミュウは怒ることもなく嬉しそうに相手をしていた。
「白銀竜様は子守の才能がおありなのですね? 」
その様子に皇后陛下も、うれしそうに目を細めていた。しばらく穏やかな時間が流れた頃、皇后陛下が私の方へそっと声をかけられた。
「……こうして皆が仲良くしているのを見ると、将来が楽しみになりますわね」
「はい。おとなになっても仲良しでいてほしいですわ。助け合える仲間がいるのは素敵なことですもの」
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※53話少し長かったので、2話にしました。




