第五十六話:爺さんと再びの王都
ちょっと早足。
商人に魚を仕入れさせて運ばせたら王都までもったそうな。なんでも魚一匹と引き換えに魔法使いに氷魔法かけて貰ったんじゃとか。王都での魚は売れに売れて貴族が全部買い占めたんじゃとか。
それ以上にシャンプーと石鹸がものすごい売れようじゃったんじゃと。それ故にトンボ帰りで戻ってきてワシらが話を聞いておるんじゃ。
「という訳でシャンプーと石鹸をもっともっと仕入れたいんだけど」
「そうじゃなあ。その辺はリンスに任せるとするか」
「ハンスだってーの!」
おお、いかんいかん。シャンプーだの石鹸だのと言うから釣られてしまったわい。ワシのこれで豊かになるのは違うんじゃないかのう。いやいやこれは飽くまで応急処置。魚やそれに付随するもので復興してもらわんとな。
それからもワシらは復興に力を入れた。魚を色んな形で運搬出来るように馬車に水槽を括りつけたりしたもんじゃ。揺れが酷かったという事でサスペンションの作り方を教えてやった。と言っても柔らかいバネの様なものを入れるとええっちゅうただけなんじゃが。それもまたこの領の特産物となっておる。
そんなじゃから領都には人が流れ込んでくるようになった。なんでもカゼーイ子爵領に攫われてきた人たちだったらしい。家族のあるものはそちらの元へ。また、家族のないものはこの場に留まりなどした。中には家族を呼び寄せてまで定住してくれる人も増えた。
一年、二年はあっという間に過ぎて今日はエミリー嬢よ十歳の誕生日。来年には王都にある学院で学ぶことになっておる。
「ゲンおじーちゃん! 私のパーティーなんだからちゃんと出席してよね!」
「おうおう、エミリーちゃんももう十歳か。早いもんじゃなあ」
「そうよ、大人なんだから。だから、その、あの……」
「飴玉じゃな。ほれ」
「あひがほー!」
ニコニコしながら飴玉を舐めるエミリー嬢。相変わらず飴玉に目がないようじゃ。まあまだ十歳じゃしのう。この五年でだいぶ歳をとったような気もせんでもないんじゃが、持病も老衰もなく元気に暮らせておる。まあ病気は無病息災が働いとるでなっとらんのじゃろうが。
王都にはフィリップは行かんでワシとクラリッサさんが行く事になった。あとはベッキーもじゃな。ベッキーはなんだかんだでワシの身の回りの世話をしてくれとる。そろそろ年頃なんじゃし落ち着いても来たから結婚してもええと思うんじゃが。
エミリー嬢の誕生日パーティーは盛大に行われた。これから三年間は何があっても帰ってこないんだそうだ。王都の屋敷にはおるから王都に帰ってくれば会えるんじゃろうが。フィリップ殿が涙まみれになっておって宥めるのが大変じゃったわい。
翌春、ワシはエミリー嬢の護衛として王都の屋敷について行くことになった。フィリップ殿が隠れてついて行こうとしてシャーロットさんに捕まったのはいいアクセントじゃったのかもしれん。
王都に着いたらまずハンスのところに行って学園に必要なものを受け取るんじゃとか。予め揃えるようにフィリップ殿から指令を受け取ったんじゃと。その後、王都の御屋敷で色々。エミリー嬢は寂しくないんじゃろうか?
「パパとママが居ないのは慣れちゃったし、ゲンおじーちゃんが居るから良いのよ」
「なかなか嬉しいことを言ってくれるのう」
「でしょ? だから口の中に直接入れてくれてもいいのよ」
ワシがおるからじゃのうてワシの飴玉があるからの間違いなんじゃろうなあ。
「そんなことないよ? ほら、カレーだってオムライスだって美味しかったし」
全部食べ物じゃのう。
「そんな事より、久々の王都だもの。満喫しなくちゃ。いや、学園に入学したらいやってほど見て回れるんだろうけど」
王都に来て一週間も経たんうちに学園生活が始まった。ワシの、じゃのうてエミリー嬢のな。ワシは御屋敷でお留守番じゃよ。どの道エミリー嬢が帰ってくるのはここじゃしなあ。
入学式はワシも出席したというかフィリップ殿の名代で出たんじゃが、そこでラフェル王子を見かけたわい。とても凛々しくなっておった。ワシに気付くと手を振ろうとして抑えてくれたのがわかった。いいんじゃよ、その気持ちが嬉しいんじゃ。
王都の屋敷におったところで何がある訳でもなくて日がな一日ぼーっとしたりして過ごしておった。まあ病院に入院しとったころはやること無くてぼーっとしとった時間も多かったからちょうどそんな風になったんじゃろう。
その内に、念仏を唱えるようになった。ワシが覚えとるのかっちゅうのも兼ねて般若心経なんかを暗唱しとった。なんだかんだでこの世界に来たのも御仏のお導きじゃからのう。昔は無理矢理やらされとった感のあるものじゃが身についたものはそうそう剥がれとらんかったわい。
なお、エミリー嬢には不気味だからやめてって言われたんじゃよ……とほほ。




