第四十三話:爺さんと食事の準備
肉はとってくるところから。
子どもたちに案内されて辿り着いたのは廃教会じゃった。信仰する神もなく、それでも子どもたちが雨風を防げるように建っておるその姿は大変に尊いものじゃった。思わず手を合わせてしまうわい。
「誰だよ、そいつ」
その子どもたちの中心に居た人物。歳の頃は十八くらいの男の子かのう。若者の歳はようわからん。
「昨日私たちに食べ物をくれた人!」
それを聞いて若者はビックリした様に目を見開いた。
「そいつは奇特なやつだな。だがありがたい。礼は言っておく」
「お主がここの責任者か?」
「責任者っつーか取りまとめはやらされてんな。テリーだ」
「そうか。ワシはゲンじゃよ」
そういえば自己紹介しとらんかったなあ。向こうから名乗ってくれたし問題ないかの。
「それで? 代金を巻き上げに来たって訳でも無さそうだな」
「そうじゃのう。食いもんをやろうかと思っての」
「はっ! 貴族様か大商人かは分からんがお優しいことで」
「いやいやワシはどっちでもない。ただ、見ておれんだけのジジイじゃよ」
「そこのメイド連れてんのにか?」
テリーの目がすうっと細くなってベッキーを睨んだ。ベッキーは小さく「ひいっ」と悲鳴をあげた。
「あんまりいじめんでくれ。ワシのメイドではなく世話になっとる屋敷のメイドじゃよ」
「どの道お貴族様かなんかだろ? で食いもんってどんなのだ?」
御託はいいとテリーが要求してくる。さて、それじゃあこれを食わせるかの。
「なんだそりゃ、爺さん?」
「これか? これはせんべいじゃよ。パリパリして美味いぞ」
ワシは袋から出すとその三角形のおむすび型のせんべいをボリボリとかじった。えびせんべいもええんじゃがやはりこの歯応えがええのう。
ワシが食べた事で先に動きだしたのは周りの子どもたちじゃった。昨日のハゼの天ぷらが頭に残っとったのか、迷うことなく口に放り込みよった。子どもたちの口からせんべいを噛み砕く軽快な音が響いてくる。
「どうじゃな?」
「美味しい!」
「すごい!」
「そうじゃろうそうじゃろう。たあんとお食べ」
その間にベッキーに……ん? ベッキーちゃんもせんべいを頬張っとるところじゃったか。市場への道案内を頼むわい。
市場に来て真っ先に思ったのは昨日と活気が違うという事じゃ。魚を売っとる店や野菜などを売っとるのもおる。ワシは適当に野菜を買って……ふむ、そこまで数はないのか。そりゃ困ったのう。ワシの冷蔵庫に白菜とかぼちゃ……ふむ、玉子はあったからこれで大丈夫じゃろう。芋をいくつか買うて……変色しとるのもあるのう。こっちのは芽が出とる。
あとは肉が欲しいところじゃが……外に行くしかないのかの? 幸いにも森が近くじゃしすぐに獲物も獲れるじゃろ。
森に着いたらさすがに獣はあまりおらんようじゃなあ。少し進むぞい。ベッキー嬢も落ち着いて進んでおるのう。
「オラ、うちにおった時は狩りの手伝いやっとったんよ……です」
「二人の時は砕けた言葉でええと思うんじゃが。まあ子爵家のメイドとしてはそういう訳にもいかんか」
ということでけもの道を見つけて探索していくとデカいイノシシを見つけた。ふむ、悪くない。大きければそれだけ肉にありつける子どもが多くなるからの。
「それではゲン様はこちらで隠れててください。出来るか分かりませんが仕留めて来ます」
「いやいや、そんな無理せんでええんじゃよ。ちょっと待っとれ。バリア」
イノシシの四方をバリアで囲んだ。イノシシは異変に気付いて移動しようとするが一向にバリアは破れんからのう。
そこでワシが姿を現す。イノシシはワシの姿を見ると興奮して全力で前に進み……そしてバリアに頭を強打して気絶した。ふむ、死んではおらんようじゃな、
とりあえずトドメはさしとくかの。首を風の刃で落とした。うむ、普通に血は出るのう。どの道血抜きもせんといかんからな。そういえば異空間収納に入れたら血は出続けるのかの? どれどれ試しに……血も一緒に収納してしもうたか。血は抜けそうに無いから木にでも吊るすかの。しかし重そうじゃな。力は強くなっておらんから持ち上げるのは難儀じゃて。
そうじゃ、バリアで持ち上げてみるかの。ふむ、宙に浮く感じじゃが持ち上げることは出来そうじゃ。吊るすのは難しいが。
「オラがやるだ。ロープくれ」
ベッキーが自分がやるとロープを催促した。取り出したロープをイノシシの足に縛り付けると、軽快に木に登ってそれから勢いよく飛び降りた。そうするとイノシシの足に縛ったロープが木の枝にてこの原理で持ち上げられた。
「これくらいならオラの体重でも出来るだよ」
ドヤ顔のベッキーはええもんじゃのう。ただ、子爵家のメイドとしてはどうかと思うんじゃが。血抜きが終わったら異空間収納にしまって街に戻るかの。




