第四十一話:爺さんと天ぷらカーニバル
食べ過ぎ注意!
屋敷に帰るとシャーロット嬢が迎えでてくれた。いや、夫人なんじゃから嬢は失礼かのう。天ぷら美味しかった!とエミリー嬢がはしゃぎながら言っとる。その双眸がワシを見とった。
「あの、ゲン殿? エミリーがお世話になったそうで」
「いやいや、エミリー嬢が沢山食べてくれるのはええ事じゃ」
「この分だと晩御飯を食べるかどうか」
あー、確かにのう。晩御飯がちゃんと用意されとるのを失念しとったわい。子どもなら無限に食べられると思っとったからのう。……ワシが子どもを食べるとかそういうことでは無いぞ?
「それはスマンことをしたのう」
「ですから、どの様なものを食べたのか、それを見極めてから叱るかどうかを判断します」
「ええと、つまり?」
「私の分も作ってください」
なんのかんのと作る事になった。まあサラダ油は無限に出せるから構わんがな。ちなみに廃棄油は異空間収納に入れておる。そこで処分すればエネルギーになるらしい。なんとも便利な事じゃ。
さて、台所で天ぷら作るかの。ん? 料理長殿が手伝ってくれるんかの? 料理の秘密を学びたい? なんも無いんじゃがなあ。それじゃあまずは油をじゃな……ん? そんなにドバドバ入れると油まみれで美味しくなくなる? いやまあ見ときんさい。
次に玉子を割って……ああ、焼くんじゃないんじゃ。ええと小麦粉と冷水を入れてじゃな……何? 冷水を入れたら玉子が勿体ない? そういう料理なんじゃから黙って見とれ。
ハゼの内臓を取り除いて……ん? 頭は落とさんでも大丈夫じゃよ。さて、衣につけて揚げるかの。じゅーっと良い音がするわい。油の温度は百八十度くらいじゃったかな。確か菜箸つけたら泡が出るくらいじゃったなあ。菜箸を取り出して……ん? ああ、これはワシの調理用具でな。慣れんと掴めんぞ?
よし、カラッと上がった。さあ、持って行って……ああ、そうじゃな。塩を振っておくか。しかし、これで足りるかのう……まあ、エミリー嬢はもう食べたんじゃし足りんちゅうことは……
「おじーちゃん、おかわり!」
エミリー嬢がニコニコしながら空になったお皿を差し出して来おった。さっき食べたじゃろうにまた食べたんかの?
「さすがにもう魚がないわい」
「ええー、パパがまだたべてないからたべたいって」
「大分揚げたと思ったんじゃが……」
「あのね、わたしがたべて、ママがたべて、ナニーもたべたの!」
「エミリーちゃんはさっき食べたじゃろうに」
「だっておいしそうだったんだもん!」
それはそれで料理人冥利に尽きるのう。いや、ワシ、料理人じゃないんじゃけどな。さて、どうするか……むっ、野菜でも揚げるかの。そしたらエミリー嬢はあんまり食べんじゃろ。
「料理長さんや、ここの野菜は使うてええんかの?」
「え? はい、元々夕食に使う予定でしたし」
「それじゃあこれをあげるかの」
「!? 野菜でもこの調理法が!?」
「とりあえず揚げればなんでも美味いんじゃよ」
「じゃあおじーちゃん、アメもあげて!」
さすがに飴玉揚げるのはちょっとのう。
それから野菜を切って薄くして片っ端から揚げた。薄く切るのはワシよりも料理長の方が早くて手際いいからやって貰ったわい。ワシは切ったのを衣に着けてひたすら揚げる、揚げる、揚げる!
天ぷらは揚げたてを食べるのが一番じゃからなあ。どんどん運ばれていっとるがまだやるんかのう? バタバタ走ってくる音が……フィリップ殿?
「ゲン殿、これは、これは、すごいですよ!」
「いやまあ落ち着きなされ。単なる天ぷらじゃよ。そんなに珍しくも」
「油を使ってこんなに歯応えの良い料理が作れるなんて素晴らしい!」
もしかしてこの世界には揚げ物自体がなかったんかのう。いやまあさっきの料理長の言葉を思い出しても納得はいくんじゃが。
「何よりエミリーが、エミリーが我先にと野菜を食べているんです!」
まあ、エミリー嬢はきっと野菜の苦味とかが苦手なんじゃろう。天ぷらならその辺は緩和されとるじゃろうしなあ。そうじゃな、ついでに肉も揚げたらとは思ったが別の機会にしとくかの。さて、ワシの分の晩メシが残っとるんかどうか……無けりゃ無いで漬物とご飯でも食べりゃええが。
幸いにも全てを食べ尽くされてはおらんかった様じゃ。子爵夫妻は動けんぐらい食っとった様じゃな。気が遠くなるぐらいまで揚げたのは良かったわい。
さてと、それじゃあ風呂にでも……ええんかのう? いやいや、さすがにフィリップ殿には言っとかんといかんじゃろう。
「フィリップ殿、お風呂、使わせてもらいますぞ」
「はい……私はもうダメなので御自由にお使いください」
風呂にも入れんほど食うもんじゃないが。まあええ。ゆっくり出来るでな。身体を洗って湯船に身を沈めて……ああ、やはり風呂はええのう。リリンが生み出した文化の極みじゃわい。




