第三十一話:爺さんと不動明王真言
やはり、ジジイにはお経が良く似合う。
国王の命令で王妃が捕らえられ……何か眼前で国王陛下が深深と頭を下げておるのじゃが。
「ありがとうございました。どうやらワシは悪い淫魔に操られとった様じゃ。本当に済まぬ」
「ふむ、それは御仏のお導きじゃったんじゃろう。せっかくの王子の誕生日、今はそれを祝われた方が良いのでは?」
「そうしたいのは山々じゃが、王妃の影響下にあった者も多かろうからのう。また後日改めてやり直しじゃろう。すまんなあ、ラフェル」
そういう国王陛下はラフェル王子の頭の上に手を置いて撫でました。
「父う……いえ、陛下。ありがとうございます」
「いいんじゃよいいんじゃよ。父上と呼んでも。公式の場でも無くなったからのう」
「父上!」
それからラフェル王子は国王陛下にしがみついてヒックヒックと泣き続けていました。余程辛かったんじゃろうのう。
「おじーちゃん、わるものいなくなった?」
「おう、そうじゃよ。安心せい。エミリーちゃんはワシが護ってやるからのう」
「わーい、おじーちゃんだいすき! あめくれたらもっとすき!」
結局エミリー嬢は飴玉の虜らしいのう。ほれ、飴玉じゃよ。そうじゃな、ついでに王子にもやるかの。
「ラフェル王子、あんたも食べなさるかのう?」
「うっ、ヒック……これは?」
「飴玉じゃよ」
「あまふておいひーよ!」
ほっぺたを片方膨らませてニコッとしとるエミリー嬢に少し見とれて王子はおずおずと「……食べる」と言ってきた。本来なら毒見とか必要なんじゃろうけど、ワシが淫魔退治の功労者じゃから大丈夫じゃったんじゃろう。
「甘い! すごい!」
ほっぺたが落ちないようにとでも思っているのか、手で抑えて顔をニコッとさせた。やはり子どもには笑顔が一番じゃて。
「そういえば弟がおったんでは無いのか?」
「! そうです。弟はルシフは?」
何人もの兵士が慌ててルシフの部屋に走ったようじゃが、その時に王宮の離れで爆発が起こった。
「なんじゃ?」
空を見ると赤ん坊が黒い影を纏っていた。
「クソ、マルガレーテめ。しくじりおって!」
「赤ん坊が喋った!?」
「お主何者じゃ?」
「ククク……まあバレてしまっては仕方ない。我が名はルシルフル。マルガレーテは我が手下よ」
手下と言うことはこやつも淫魔なのか? ちょっと鑑定を……
「我は淫魔などという卑小な存在ではないぞ? この世に降誕した悪魔、魔王にもなりうる存在よ!」
「ちゅーことはまだ魔王ではないのかの?」
「うむ、成長してこの国を乗っ取れば魔王になるのは早かったんだが。今は赤子ゆえそれほどの力もない」
「なるほど、つまり殺るなら今じゃということか」
そのワシの一言に周りが凍りついた。
「お、おい、まて、見ろ、この愛らしいぷにぷにのお手手を。あどけないほっぺたを。貴様はこのしがない赤ん坊の我を倒すと言うのか?」
「そりゃあそうじゃろう。害虫は見つけた時に駆除。これが基本じゃて」
「我の様な上級悪魔を害虫呼ばわりか!?」
「仇なすことがわかっとるならそりゃ排除もするじゃろう」
呆気に取られとった国王陛下とその手下の騎士たちはそこで我に帰ったらしい。
「も、者共、あの悪魔を捕らえよ! いや、滅しても構わん!」
「直ちに! ファイアボール!」
「アイスランス!」
「ブリットアロー!」
「エアスラッシュ!」
口々に騎士たちが魔法を唱える。ちとここにおると危ないのう。エミリー嬢、帰るぞい。
「おじーちゃん、あのこまだうかんでるね」
「ほほう?」
エミリー嬢の言葉に空を見上げると顔を真っ赤にしたルシルフルがそこに居た。赤子じゃから顔が真っ赤とかでは無いと思う。
「貴様ら……決めた。ここにいるヤツらは全員皆殺しだ!」
「いやあ、さすがにそれは困るのう。それに赤子なら力も大したことないじゃろう?」
「ククク、舐めるなよ。確かにこの身体では全盛期の十分の一も力は出んが……」
やはり今が倒し時のようじゃのう。しかし、本来なら倒すのは騎士団の役目じゃろうし、ワシが戦うのもなあ。
「まずはそこの小さくて弱そうな娘から食ろうてやるわ!」
「エミリーちゃんの事か? エミリーちゃんのことかぁ!」
凄まじい気が膨れ上がり、ワシを包み込んだ。ルシルフルとかいう愚か者は愕然としとる様じゃな。
曩麼三曼哆跋惹羅赧戰荼摩訶嚧沙拏沙叵吒野吽怛囉吒訶吽摩吽!
お不動さんにお参りしとったからこれは覚えとったんじゃ!
「なんだ、これは!? 身体が焼ける……!? 馬鹿な!」
「悪鬼羅刹を焼くという不動明王の火生三昧の火じゃ。これで燃え落ちよ!」
「ぐがああああああああ!」
ルシルフルは炎の中で手を伸ばしながらそのまま燃え尽きた様じゃ。よし、悪は滅びたわい。




