第二十三話:爺さんと善良な行商人
ここからビッグマネーを掴んで成り上がる商人。
「おい、そりゃあなんだ?」
「見た事ねえな」
「売りもんなんだろ? いくらなんだ?」
こうしてなんというかなし崩し的に販売を開始した。物珍しさから客が集まり、転売防止の為に販売個数を制限する程じゃったわい。まあ元手かけずにいくらでも取り出せるからのう。ちとチートが過ぎたようじゃが。
結局、市場が終わるまで販売を手伝っておったわ。しかし、片付けとる最中に商人はすこし憂い顔。なんかあったんじゃろうか?
「いくらだ?」
「何がじゃ?」
「仕入れ値だよ。こっちの取り分なんて良いとこ一割だろ?」
「おお、なんじゃ、そんなことか。それなら全部お前さんの取り分でええぞ?」
「アホか! そんなことしたら商人の道に外れるだろうがよ。こっちは場所貸しただけだぞ? それに一割でも場所代が賄えるだけ御の字だ」
どうやら先程のブラック商会とは違うようじゃな。この男にするか。
「フィリップ殿、この男でどうじゃな?」
「ふむ、確かに商人としてはどうか分からんが人としてはキチンとしている様だ」
「あんたら一体何者なんだ?」
「ワシはゲン。旅をしとる田舎ジジイじゃよ。こっちはフィリップ」
「フィリップ・ルドミラールだ」
ワシらの自己紹介を聞いて少し考え込んだ様子だったが、何かに思い当たった様に弾けるように平伏した。
「ルドミラール子爵様!?」
「ほう、知っておったのなら話が早い。ちと付き合ってくれんかね?」
「は、はい、私などで良ければ」
こうして少年を連れて帰宅する事に。少年は宿を取ってなくてそのまま王都を仕入れで引き払うつもりだったらしく、都合が良かった。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「おじーちゃん、おかえりー!」
「おお、エミリーちゃんただいま」
「パパもおかえり」
「ただいま。それだけかい、寂しいなあ」
「ねーねー、このこだあれ?」
無遠慮に聞いてくるエミリー嬢。そういえば名前を聞いとらんかったなあ。
「ハンスだ。行商人をやってる。やってます。一応ルドミラール領にも行ったことはある……あります」
「そうか、なら話は早いな」
「何の話……ですか?」
「キミには我が領で商売をして欲しいのだ。日常品や娯楽品などを仕入れて売って欲しい」
「つまり、行商のルートに加えて欲しいと?」
「出来れば店を構えてくれるとありがたい」
少し考え込むハンス。顔色からするとあまり芳しく無いようだ。
「前に行った時の事なんだが……なんもないんだよ。仕入れたいと思うものがさ。海産物があるかと思って行ったら全然無くて。あっこはもうおしまいだって商人の間でも……あ」
そこまで話して本人の目の前だった事に気付いたらしい。
「そうじゃのう。それは問題じゃが……そうさの、しばらくならワシの商品を卸してやってもいいぞ」
「え? 本当か!? あの商品を!?」
おっ、目の色を変えて食いついて来たぞ。そりゃあそうかもなあ。今日の売れ行きを見ればもっともじゃ。それで少しの間でもしのげれば後は海魔を何とか出来れば海産物も手に入ろう。なにより、ワシが魚が食いたいわい。
「あの商品が手に入るなら……ああ、構わんぜ。暫くはルドミラール領で商売させて貰います」
深々と頭を下げられた。まあこんなもんじゃろう。
「ゲン殿……よろしいのですか?」
「ん? ああ、乗りかかった船じゃしなあ。エミリー嬢を悲しませる訳にもいかんて」
「ありがとう……ございます」
こちらも深々と頭を下げられた。いやいや、お世話になっとるのはこっちじゃからな。ともかく後は領に戻るだけ……いや、なんかまだあったような……
「これでエミリーの輿入れに専念できます!」
そうじゃったな。そっちがあったのう。しかし、この様な小さいうちから輿入れの話などと貴族は大変なんじゃなあ。いや、もしかしたら領の不景気でエミリーに苦労かけたくなくて外に出そうとしとるんかもしれんのう。
「明日はエミリー嬢の準備か。フィリップ殿はやる事があるのかの?」
「ええ。社交界への手配がありまして……エミリーにはドレスの採寸などをしてもらえればと思っております」
「そうか。なら、明日はワシは邪魔でなければエミリーちゃんとお出かけしようかのう」
「それは助かります!」
「あのう、私は早速日常品を仕入れてルドミラール領へ向かいたいと思います」
ハンスがおずおずと申し出た。どの道、行商には行くらしかったし、その為の資金もある。そして使い捨てカイロと湿布で儲けた分も。しばらくは王都で稼がなくても大丈夫なくらいらしい。
「エミリーの件が終われば領に帰るから、その時はまた連絡して欲しい」
「わかりました。ご期待にそえるように頑張ります」
そのままハンスはこの屋敷に泊めて、ついでなので一緒に入浴した。何と石鹸とシャンプーにも食いついて来たのでルドミラール領に帰ったら売ってやると約束したらますますやる気を出しおった。




