第二十一話:爺さんとお風呂道具
わくわくざぶーん!
「おじーちゃん、エミリーもはいる!」
バタンとドアが開かれてそこからすっぽんぽんのエミリー嬢が現れた。まあこのくらいの凹凸のなさならば遠慮も要らんじゃろう。
「はっはっは。エミリー、こっちにおいで」
「あーとーでー。さきにおじーちゃんあらってあげるの!」
にこにこ顔のフィリップが湯船に沈んでいく。いやまあここはエミリー嬢の来客をもてなす態度を褒めておくべきでは?
「おお、それじゃあ背中をお願いしようかのう」
そう言ってワシは石鹸をナイロンタオルで泡立ててエミリー嬢に渡した。
「わー、すごーい! このせっけん、こんなにあわだつんだ!」
この世界の石鹸は泡立たんのか? 泡が汚れを落とすとか聞いた事あるがもしや……
「エミリーちゃんや、いつも身体洗っとる石鹸はあるかのう?」
「んー? これ?」
エミリー嬢が持ってきたのは大して泡立たない石鹸じゃった。これは粗悪品じゃのう。
「こりゃあシャンプーも期待出来んじゃろう」
「しゃんぷーってなあに?」
「頭を洗う石鹸じゃよ」
「あたまもおなじせっけんだよ?」
こんなもので頭も洗っとるのか! それはちょっと可哀想じゃのう。どれ、ワシのシャンプーとリンスを貸してやろう。フローラルな香りじゃぞ。
「さて、じゃあ背中を洗うてくれたお礼にエミリーちゃんの頭を洗うてやろう」
「いたくしちゃだめよ?」
「目をつぶっとりゃ痛くもならんぞ」
その言葉にエミリー嬢はギュッと目をつぶる。ワシは頭にシャンプーを掛けて念入りに……なんか汚れとるのう。もう一度洗うかの。よし、リンスでもう一度……よし、ええじゃろ。あとは乾かせば問題ないわい。
「さて、エミリーちゃんはもうフィリップ殿のところに行っておあげ」
「はーい!」
にこにこしながらエミリー嬢は浴槽へ向かった。フィリップはその髪の毛を見るなり叫んだ。
「なんだと! 私の天使のエミリーがますます可愛くなってしまった!」
まあ洗う前とでは明らかに髪の毛のツヤが違うからのう。なお、椿油もあるぞ? ワシが頭に時々オシャレで塗っとったからのう。
「フィリップ殿、ワシの風呂道具を貸してやるから身体を洗い直さんか?」
「確かにあの泡立ちは凄かった……むむむ、でもエミリーが」
「あのせっけんであらったらパパもおそろいだね!」
「よし、パパも洗ってくるぞ!」
そう言うとフィリップは洗い場へ。まあワシともお揃いにはなるんじゃがそこは言わぬが花というものじゃろう。
「あつくなったからあがるね!」
「おお、ちょっと待つんじゃ」
「なあに、おじーちゃん?」
「これを塗ってやろう。乾かすと髪がサラサラになるぞい」
「ほんと? やったー!」
椿油を塗ってやってあがらせてやる。年寄りの長湯に付き合わす訳にはいかんからなあ。フィリップ殿もあがるのか? なら髪にこの椿油を塗るとええぞ。エミリー嬢とのお揃いじゃ。……そんなにベタベタに塗らんでもええんじゃが。
「お嬢様、今日は随分とお綺麗な御髪で……ってなんですか、このクシが引っかからない髪は!」
クラリッサさんの悲鳴のような雄叫びが聞こえたが気にしない事にするとしよう。
風呂からあがるとメイドたちが揃って待っておった。
「お嬢様の髪がすごいことになってましたが何をしたんですか!?」
一斉に責められたので椿油の事とシャンプー、リンスの話をして、風呂場にそのまま置いておるから好きに使ってええぞいと、みなまで言う前に我先にと風呂場に向かって行った。いやまあ女性は恐ろしいのう……ん? マリアンさんとクラリッサさんはええのか?
「私たちには直接いただけますよね?」
「お嬢様のお世話役として必要なものだとゲン様には理解していただいていると信じております」
この二人の方が図々しかった。だがまあええじゃろ。二人に一人前ずつ渡しておくか。椿油は有用じゃから二本ずつじゃ。
そして就寝。風呂であったまったし、よく眠れそうじゃ。布団も柔らかいのう。布団乾燥機でもあればええんじゃが、あれは電源ないと動かんからのう。そういえば生活魔法でそんなもんがないかのう?
……既存の魔法には無いようじゃ。ならば作ってみるかの。温風を布団の間に送り込んで……よし、上手くいったの。さすがにダニとかは居らんじゃろうが一応ホコリとかも掃除できるような魔法にしとくかの。ふむ、魔法の自作も出来るもんじゃなあ。
翌朝、今日はフィリップ殿と一緒に商人との会談に同行するんじゃったな。エミリー嬢はお留守番のようじゃ。ついてきたそうにしておるがそんな場合でもないのう。よし、クラリッサさん、この飴を渡しておくでそれでエミリー嬢をなんとか……えっ? 自分も食べていいかと? いやまあ、エミリー嬢にあげる時に無くなってなければ構わんよ。不安だからもうひと袋欲しい? 食べ尽くす気満々じゃな!




