第二十話:爺さんと子爵邸での生活
ハゲでもシャンプー使っていいじゃないか!
それからクラリッサさんに質問攻めにされた。いや、飴の作り方なんぞ知らんて。まだあるかと聞かれたのでそれなりに、と答えておいた。
「まああまり飴を食べ過ぎても虫歯になるでの」
「虫歯……歯痛ですか? 確かに甘いものを食べると歯痛になる傾向が高いと聞きますが」
「そう、だからしゃかしゃかするの!」
エミリー嬢が得意げにいう。歯磨きをクラリッサさんに教えるのだろう。いつも教えてくれる人が知らない事を教えてあげるって気持ちいいんじゃろうなあ。
「おじーちゃん、しゃかしゃかするやつだして」
「仕方ないのう、ほれ」
歯ブラシを取り出して渡してやる。クラリッサさんを引っ張って水があるところに行くんじゃろう。マリアンさんもついて行った様じゃ。さて、それではワシは夕食時までゆっくりするかのう。
いつの間にか眠ってしもうておったらしい。起きたのは夕食の準備が出来たとマリアンさんが呼びに来てくれとった。道道聞いたが歯磨きは口の中が爽快だったらしい。
「もっと爽快な気分になるぞい」
と、歯磨き粉を渡した。エミリー嬢にはちと辛いかもしれんから渡さんかったが。うちには子どもがおらんと言うか結婚すらしとらんかったから子ども用の歯磨き粉なんぞ買うとらんじゃったからのう。
ダイニングルームに行くと既に皆席に着いておった。と言っても席に着いておるのはフィリップ殿とエミリー嬢だけなのじゃが。広々としておるからギャリソン殿たちも座ればいいのではないかと思ったが、そこは貴族としてのケジメなんだとか。ワシなんかどう見ても平民なのじゃが「客人」という括りで一緒になってしもうたわい。
今日の料理も肉。まあ内陸部じゃと思うんじゃが魚は無いのかのう。聞いてみたらフィリップ殿の領にはあるらしい。楽しみが一つ増えたのう。
ともあれ、晩飯の肉なんじゃが、少々硬い気がするんじゃが。何せ入れ歯じゃからあまり硬いものはのう。見ればエミリー嬢も硬くて噛みづらくしておるなあ。
「ちょっと台所を借りても構わんかね?」
「は? ええ、まあ。何をなさるんですか?」
「ちょっと肉を柔らかくしようかとの。年寄りには硬くて辛くてのう」
「やわらかくなるの? エミリーのもやって!」
「それじゃあお肉をちょっと貸してくれるか?」
「うん、どうぞ!」
ワシは受け取った肉をジッパー付きのビニール袋に入れた。薬局で薬を貰った際に取っておいたものじゃな。それを台所でお湯に浸ける。だいたい五分くらいじゃろうか。それを取り出して皿の上に出してやり、ついでに焼肉のタレを掛けてやる。
「さあ、どうぞ」
「いただきます! うわぁ、やわらかい! それにこのソースおいしい!」
「エミリー、パバにもくれないか?」
「えー、やだー」
可哀想になったのでせめてと焼肉のタレを掛けてやるか。
「ソースくらいなら掛けてやらんでもないが」
「お願いします!」
タレは甘口なんじゃがまあ大丈夫じゃろう。掛けてやったものを一口食べると……
「な、なんだこれは!?」
「焼いた肉につける調味料じゃよ」
様様なものが混ざっとるからうまく説明出来んがの。こっちの世界でも似たような物は作れん事はないじゃろう。瓶に原材料も書いておるしの。さて、ワシも……ふむ、よく合うわい。
さて、食後にワインを……まあ悪くないが。やはりお茶がええわい。麦茶のパックがあるのう。水出しじゃと二時間くらい置かねばならんのう。予め作っておくか。今日のところはパックの麦茶でええじゃろう。
「おじーちゃん、それは?」
「これはの、お茶じゃよ。エミリー嬢も飲むかね?」
「うん!」
そして注いでやったらごくごくと喉をならして飲んでいた。
「これ、あまくないねー」
どうやらワシが出すものはだいたい甘いものだと思われていた様じゃ。確かに今まで出した食べ物は甘かったの。
フィリップ殿にも分けてやった。どうやらお酒よりこちらの方が好みらしい。だが、貴族のパーティではお酒を飲まねばならず家にいる時も鍛えているという。なかなか涙ぐましい努力じゃなあ。
なんと浴場があるという。お言葉に甘えて風呂をいただこう。ん? マリアンさんはなんでついてきておるんじゃ?
「お背中お流しします」
要らんわ! というか枯れてはおるが一応男なんじゃよ、ワシ。今更異性との入浴に胸をときめかせたりはせんが。
「親孝行というか祖父孝行みたいなものですから」
「まあそういう事なら」
風呂場は広かった。使用人も入るんじゃろうのう。先にフィリップ殿が入っておった。
「どうです。風呂はすごいでしょう」
「そうじゃな風呂は好きじゃから助かるのう」
そういうと洗い場の方へ。異空間収納から風呂道具を取り出す。銭湯に持っていっとったやつじゃ。石鹸、シャンプー、ナイロンタオル、普通のタオル、髭剃り。頭の毛が無いからシャンプーは要らんだろうって? ほっとけ!




