第十九話:爺さんと王都の御屋敷
メイドも色々あるんですね。
「本当によろしいのですか?」
王都に続く道の途中、フィリップ殿と話をさせてもろうた。交渉の場に同席してもいいかということをな。乗り掛かった船じゃし、なにより、エミリー嬢の将来も掛かっとるからのう。
そのエミリー嬢はすやすや眠っておる。子どもはもうちょっとはしゃぐもんじゃと思うんじゃが。
「この辺は景色が代わり映えしませんから」
「なるほど、通り慣れとるというところかの」
「はい。その分、危険も少ないです」
どうやら頻繁に人々が通る道らしく、先程から何台もの馬車とすれ違う。時折徒歩で進む人も居るようだが……そんな人は疎らにしか居ない。
「ところで途中で娘がやりたいと言っていたハナフダとはなんなのでしょうか?」
「ま、まあ、暇つぶしの遊戯じゃよ」
などと言っているうちに王都へ到着する。王都の城門には検問の様なところがあり、門番が荷物のチェックなどをしている。しかしものすごい長い列じゃの。日が暮れても終わるとは思えんが。ワシらもこれに並ばんといかんとかどんな拷問じゃ。
「貴族の方はこちらへ……ルドミラール子爵でいらっしゃいますね。こちらはご息女のエミリー様と執事のギャリソン殿。こちらのご老人は?」
「我が家の顧問として招聘したゲン殿です」
「そうですか。一応審査をさせていただきますが」
「頼む」
はて、審査とな? 一体どういう事を?
「ではすいませんがゲン殿、こちらの水晶に触れてくださいませんか?」
「これは?」
「犯罪行為をしているかどうかを判別する水晶です。問題があれば赤く光ります」
ほほう、なかなかに便利なものがあるんじゃな。ええと、どれどれ?
「特に光りませんね。問題ありません」
どうやら青く光るとかはないらしい。魂に刻まれた悪事に反応するらしい。なんとも不思議な事よ。
こうして無事に王都に辿り着いたワシらはフィリップ殿の王都の屋敷に案内された。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「みんなただいま。客人が居るので部屋の準備を頼む」
「かしこまりました」
「ナニー、ただいま!」
「おかえりなさいませ、エミリーお嬢様」
どうやらこのメイドさんはナニーさんというらしい。
「ワシはゲンと呼んでくだされ。よろしくお願いしますの、ナニー殿」
「クラリッサと申します。ナニーは名前ではなくて役職なんですが」
なんでも子どもを育てて躾けるのが役割の使用人をナニーと呼ぶらしい。つまり、エミリー嬢を育てた方ということじゃろう。エミリー嬢が「ナニー」と呼んでいたのは両親が呼ぶのを真似したらしい。
「それはすまんかった。クラリッサさんじゃな。よろしく頼む」
「はっはっは。そりゃあまあ貴族や大商人でもない限りメイドなどの使用人を雇う事は無いからね。クラリッサはそろそろナニーと言うよりも家庭教師になるかなあ」
「いえ、まだまだエミリーお嬢様には躾が必要でございます」
どうやら頼もしい方のようだ。エミリー嬢を見たが忌避感などは無いようだ。むしろ懐いている。
部屋に案内されると私の専属でメイドがついた。いや、自分の事は自分でやるんじゃが。
「部屋係のマリアンです。部屋のお掃除などを担当させていただきます。よろしくお願いします」
「それはそれはご丁寧に。ゲンですじゃ」
「ゲン様は旦那様が連れて来た初めての貴族でないお客様ですので屋敷のみんな興味津々なんですよ」
「大したジジイでもないわい」
「いえ、なんというか優しそうというか……素敵です」
「お世辞とわかっとってもいいもんじゃな。飴でも食べるかの?」
褒められて嬉しいのは幾つになっても変わらんわい。ましてやそれが若くて可愛らしいお嬢さん……まだ三十はいっとらんじゃろう。ともなれば尚更じゃ。
「なんですか、これ?」
「包みを破いて……こうして口の中に放り込むのじゃ」
「えーと、破いてこう……あっまーい!」
屋敷中に響き渡るような大きな声をあげた。近くで聞くと凄まじいのう。
「あ、おじーちゃん、アメあげたんでしょ? ずるい! わたしもほしい!」
真っ先に駆けつけたのはエミリー嬢じゃった。ドアの前にでも待機しとったかの様な早さじゃったわい。まあ飴を上げる分には問題ないの。
「おいしー。ね、マリアンもおいしいでしょ?」
「お嬢様……こんなに甘くて美味しいものは食べたことありません。なんですか、なんなんですか、これ!」
「ふふーん。これがアメだもん」
「素敵ですね……ああ、口の中が幸せ……」
「何の騒ぎですか!」
そこに現れたのがクラリッサさんとギャリソンさん。どうやらエミリー嬢が急に消えたので探しに来た様子。
「ナニー、あーん」
「はあ? あーん……なんですかこれは!」
どうやらエミリー嬢はポケットの中に前にあげた飴を隠していたようでそれをクラリッサさんの口の中に放り込んだ様だ。また叫び声が響き渡ったのだった。




