第十七話:爺さんとお酒作り
いやまあ紙作りもやるんですよ?
家庭における魔法の便利さをしみじみと感じつつ、乾燥してできた紙を何枚も束ねる。それを領主殿の所へ持って行くのじゃ。メリッサ嬢に頼もうかの。おお、すまんが飴をやるから届けてくれんか?
「ゲン殿、さすがに作った本人が来て説明をしていただかないと」
「やはりダメか。仕方ないのう」
屋敷に行くとすごい勢いで迫ってきた。さすがに親子じゃのう。え? 酒? ああ、それなら報告が終わってゆっくり……さすがに酒好きでも優先順位は守るらしい。
「これが出来上がった紙ですじゃ」
「どれどれ……むっ、軽いな?」
「書類がかさばらんで済むのう」
「厚さも半分くらいか」
「どうじゃな、商売になりそうかの?」
「その為にはこの領で使ってみる必要がありますな」
なるほど。まず、官から始めるという訳じゃな。有益さが証明されれば量産体制も整うというものじゃろう。
「それならば作り方を教えよう。ところでここでは塩はどうしておるのかの?」
「塩ですか? 岩塩の鉱山がありますな」
「な?ほど。ならばそのそばにナーコ石というしょっぱくはない塩の塊があるはずなんじゃ」
「ああ、塩を取ってきた時に時々混じってるな」
「そいつを水に溶かしてな……」
それから実演をまじえて紙作りを行った。ナーコ石も問題なかった、あとは消毒用アルコールかのう。ふむ、酒造りの工房がある? まあ飲むんじゃないから蒸留すれば大丈夫かの。何? 蒸留を知らんじゃと? ぐぬぬ、さすがに蒸留機など作ったこともないのう。とはいえ、原理は分かっとるからなんとかなるじゃろ。ほれ、この温度を七十八度ぐらいに……む? 温度がわからん? 確か温度計が……ふむ、置いてあったのう。これを使えば良い。
決まった温度にするのにどうすればいいか。答えは魔法石というものにあった。魔力が結晶化したものなんじゃが、条件を付与して魔法を発動させ続けることが出来るそうな。もっとも、そこまで強い魔法は出来んみたいじゃが。
この魔法石への魔法の刻み方は鑑定で何とかなった。やってみたら出来たしのう。そんなこんなで工房の職人と協力して作り上げたのが蒸留機じゃ。お酒を使って実験。ワインから蒸留で取り出すと勿体ないからワインに使ったぶどうの絞りカスから作ればええ。別に飲む訳ではないしの。ん? 飲んでみたいじゃと? まあええが。え? これでも十分特産品になる?
……いやまあ紙作りもやっといた方がええと思うんじゃよ。確かに蒸留酒が普及しとらんなら酒だけでも十分じゃろうが。どっちもやる? そうかそうか。これでいい産業が生まれたようじゃわい。
「それで、紙作りでも蒸留酒でも人手が必要になると思うんじゃ。職に溢れとるご婦人方や子どもらを使ってはみぬか?」
「なるほど。雇用対策ということですかな。しかし、そこまで困窮しているなら救済措置もあることですし」
「救済措置じゃと?」
「ええ、特に父親を亡くした寡婦の方なんかは支度金が出ているのです」
それは随分と手厚い事じゃのう。しかし、とてもじゃないがそんなものが存在しとるとは思えんかったが。
「それを管理しとったのは誰かのう?」
「確かアクダーマに……あっ!」
どうやら民衆にはまわらずに貴族の懐に入っていたようじゃな。
「グレッグ、調べろ」
「かしこまりました」
伯爵殿の執事はグレッグさんというのか。ふむ、まああまり関係は無いが。
「やつはどこまで市民に迷惑を掛ければ……」
「まあ気付けて良かったではありませぬか」
「その通りですが……また借りができてしまいましたな」
「ワシのことはええんじゃよ。子どもらや母親たちを救ってくれんか」
「もちろんです!」
この領主に任せておけば大丈夫じゃろう。ん? どうしたね、フィリップ殿?
「ソノ、ゲン殿。良ければ私の領地の方でもその知恵をお貸し願えないでしょうか?」
「フィリップ殿の領地のう?」
「はい、岩塩の鉱山などはありませんがなにか収入の道を探したいのです」
さすがにワシでもこの場で何とかできると言い切れるわけでは……
「おじーちゃん、エミリーのところにくるの? やったー!」
ぴょんぴょん飛び跳ねとるエミリー嬢を蔑ろにする訳にもいかんの。こりゃあなんか考えとかんといかんか。
「ゲン殿には大変世話になった。つきましてはその、甘味をですね」
「おお、そういえば例のお酒が凄かったですなあ」
娘が飴で父親がウイスキーか。なんともまたわかりやすい。さて、それでは出発の前に宴会といこうか。やはりウイスキーにはせんべいじゃのう。しかし、米がない。市場を見て回ったが見当たらんかった。
それなら仕方ないとじゃがいもを使って作ることにしよう。まあこっちではポタトとかいう名前になっとったが。と言ってもおろし金ですりおろして水分無くなるまで焼くだけじゃよ。たまにホットプレートで焼いとったからのう。




