第十三話:爺さんと領主様
フィリップと領主様は同い年位のお友達です。
「どうじゃな? 金儲けが悪いとは言わん。だがやり方を考えた方が良いのではないか?」
「……金貸しをやめろと?」
「そうは言っておらん。金貸しも立派な商売じゃ。じゃがのう、物事にはやり方というものがあるじゃろう。人の道を踏み外してまで稼ぐ様なものかね」
何度も何度も「そうか、しかし」と繰り返していた。他に生き方を知らんのかのう。
「利息が普通ならば金貸しは人々の助けになる。勿論、わずかの利息も払うつもりがないという奴はおるじゃろう。そういう奴らに容赦する必要はない。じゃが、少しでも利息を払って返済しようとする者を搾り取ってどうするんじゃ」
「……借りて返そうとしないのはだいたいが貴族なんですよ」
「ふむ、ならばその貴族を取り締まって貰えれば無茶な利息などを掛ける事もないんじゃな?」
「じいさん、何をする気だ?」
そりゃ決まっとる。貴族に話をつけに行くんじゃよ。と、言葉にせずとも気付いておる様じゃな。じゃがのう、言葉にしてしまうと止めようとするじゃろう? 心配せんでもワシには先程の能力があるでのう。
「さて、それではお主が金を貸して返ってこない貴族というのは何処におる?」
「この街の貴族街にいる。この街の官僚だ。それも一人じゃない」
「それは骨が折れるのう。老骨にはちと厳しいわい。じゃがまあ乗りかかった船じゃしなあ」
一旦宿に戻るとエミリーが飛びついてきた。
「おじーちゃん、アメちょうだい!」
「エミリーはそればかりじゃのう。ほれ。ところでフィリップ殿は?」
「えーとね、メリッサおねーちゃんのいえにいったよ」
ならば直接行かせてもらおうか。多分この街で一番大きな屋敷じゃろう。分からねば途中で聞けばええしの。……と懸念しておったがその必要もなかった様じゃ。
「ゲン殿!」
「おお、メリッサ嬢。偶然ですなあ。お仕事ですかな?」
「いえ、今日は非番でして。エミリーの所に遊びに行こうかと」
「そうじゃったか。のう、メリッサ嬢、お主のお宅はどちらになりますかの?」
「うちに用事が?」
「まあそんなところじゃ」
「それならば私も同道しましょう」
「しかし……」
「良いのです。私と一緒ならば門番に止められることもありますまい」
なるほど。貴族の屋敷には門番がおるわな。止められたらどうするか考えておらんかったわい。
「それではお願いしようかの」
「はい! あ、その、お駄賃という訳ではないのですが、飴玉を……」
とうやら甘味に釣られていたらしい。もしかしたらエミリーに会いに行くのもその為じゃったかもしれん。
やがて目の前に立派な邸宅。と言っても凄まじく立派という訳でもなく、そこそこの大きさ。
「そこまで大きくないでしょう? 父があまり華美なのを好まないので」
「そうですか。まあ無駄遣いするよりは好感が持てますかのう」
「私としてはもっと小さくても構わないのですけど」
こういうのをミニマリストというのじゃったかな? まあメリッサ嬢はサイズ的にはミニマムではなくラージな感じなのじゃが。遺伝なのか身体を鍛えた結果なのか。
「お嬢様、おかえりなさいませ。そちらの方は?」
「私の客人だ」
「お嬢様、男性を連れ込むならばもっと若い方にして方がよろしいのでは?」
「そういうのでは無い。恩人の様な方だ。父上は?」
「ご主人様でしたら来客中でございます」
屋敷の中で出会った執事服の人間。ギャリソンさんほどではないがそこそこ立派な人物だ。
「それはフィリップ殿かの?」
「……ええ。フィリップ様のお知り合いですか?」
「ちょうどいい。フィリップ殿にも話をしときたいと思ったんじゃよ。案内して貰えんかの?」
執事はお伺いしてみますと去っていき、しばらくして戻ってきた。入っても構わないということだったのでお言葉に甘えさせて貰おう。
「失礼するぞい」
「おお、ゲン殿。何か緊急の用事ですかな?」
「あなたがフィリップの命の恩人ですね。私はチャールズ・ゲオルギオーネ。伯爵位をいただいて、この街の領主をしています」
「これはご丁寧に。ゲンと呼んでくだされ」
どうやら貴族と言っても悪くない御仁の様じゃな。まあ娘のメリッサ嬢を見れば分かるが。
「それでどのようなご用件で?」
「ふむ、実はの、スラムでシャイロックという金貸しと会っての」
とそれまでの経緯を話してやってこの街の貴族にそういう奴が居るのでそいつらから取り立てたいと言った。
「いや、それですと貴族を罪には問えませんな」
「何故ですかな?」
「その金貸しが貸したという証拠がないからです。虚偽の証言かもしれません」
やれやれ。まあその可能性も否定は出来んからのう。領主としては不確かな事で動く事も出来んか。シャイロックも証文などは無いと言うておったからのう。というか証文も無いのに金を貸すものでは無いと思うんじゃが。




